『友情は見えない―読みきり―』作者:千夏 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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隣りで口笛吹いてるのは金澤麻衣子。
私は彼女がとても恰好良く見える。制服のブレザーはバッグに閉まって、自慢の白いカーディガンに赤い形の整ったリボンが際立ち、スカートは三回も折って、でも先生には怒られない程度の長さで。下校する時はピンク色をしたいかにも体に悪そうな飴玉を舐めて、まるで渋谷の女の子の様だった。
「麻衣子ちゃん、また先生に見つかったらどうするん?私今度はなにも言わないよ。麻衣子ちゃん、麻衣子ちゃん・・・」
うるさい、あたし満に助け求めてへんし、あんたが勝手に庇うんやろ、と私の方は見ずに言う。私はそれきり黙る。麻衣子ちゃんも黙る。この田舎町には不似合いな麻衣子ちゃん。この田舎町でしか暮らせないような私。
麻衣子ちゃんの口笛と鳥の鳴く声だけが私の耳に残った。

えー、明日、金澤麻衣子さんは東京にお引越しすることに決まりました、と先生が言った。クラスがざわめく。麻衣子ちゃんは一人、はしゃぐ。
イェーイ、やっとこのド田舎にもおさらば!嬉しくてしゃあないわ
女子たちはやったじゃんと、羨ましいと、麻衣子ちゃんに合わせる。男子たちはマジで!?金澤が唯一マシな女子やったのにとうな垂れる。私は麻衣子ちゃんに心の中で問う。
どうして行っちゃうの、と。

「麻衣子ちゃん、東京の娘になっちゃうんや」
なんとなく言ってみた言葉が、妙にリアルで私はむなしかった。めっちゃ嬉しいねん、と言う麻衣子ちゃん。きっと東京でも自然に居られるんだろうなと思う。むしろ、これで地味な方かもしれない。一度麻衣子ちゃんに東京の子たちが見るファッション雑誌を見せてもらったことがある。麻衣子ちゃんよりスカートが短くて、化粧が濃くて、おばはんみたいだったのを覚えてる。
「満、あたしの東京デビュー祝ってくれへんの。まーいいけど」
私に冷たい視線を送る。クラスの子ぉはみんな良かったねって言ってくれはるのに、満は薄情もんやな、と私に言う。

空港について、麻衣子ちゃんが機内に入る時、クラスのみんなは泣いていた。先生も泣いていた。麻衣子ちゃんだって泣いていた。けれど私は、泣かなかった。
麻衣子、手紙書いてね、と泣きながら言う女子はなんだか滑稽に見えた。金澤東京もんに負けんなよ、と涙を隠しながら言う男子も、滑稽に見えた。
空港はとてもすいていて、平日だったせいもあるのだろうけど、田舎だからなと思った。
とうとう麻衣子ちゃんが機内に入ろうとした。
「満!手紙、書くから満も書くんやで!絶対に、絶対に書くんやで!」
そう最後に私に言い残すと、麻衣子ちゃんは機内に入っていった。
私は、返事はしなかった。

次の日からクラスはとても静かになった。クラスで中心的存在だった麻衣子ちゃんがいないのだから当たり前だろう。小さな声で女子が麻衣子ちゃんどうしてるかなと言っているのが聞こえる。私は言った。
「みんな、麻衣子ちゃんがいなくなったくらいでこんなになってちゃダメやん!がんばろっ!」
クラスを明るくするはずのこの言葉は、とても残酷に思えた。私は今まで心の中で麻衣子ちゃんを好きだと信じていたけれど、むしろ逆だったのだ。
私は、こんなに自由になれるのかと心底感じた。
友情とは、なんて残酷なものなんだろう。
end
2004-10-21 16:24:02公開 / 作者:千夏
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■作者からのメッセージ
お久しぶりですーvvなんにも更新しないでこんなものを・・・;
話が進まないんです;;ゴメンナサイ!
この話はなんとなくふっと頭に浮かんだものです。殴り書きっぽくなってしまったので変なところもあるかもしれませんが、それはそれで;
たまにはこういう話も書きたいんです!
それではvv
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