『マリモ(ショートショート)』作者:ささら / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約3.6枚
マリモ

 父さんが会社帰りに、駅前の露店で、僕に「マリモ」を買ってきた。
 マリモ。僕のイメージでは、緑色をして丸い柔らかそうな物体。そしてちょっと不気味。生き物なのか植物なのか微妙。ってとこ。
 僕はついつい父さんに、不覚にも、なんでマリモなの?と尋ねてしまった。
 父さんは、露店が出ているもんだから覗いてみたらそれが売っていたんだよ。と僕に説明した。全然説明になってない気もするけど、あえてそこには突っ込まない事にした。父さんは僕が喜んでいると思っているのか、いないのか、マリモの瓶を持った僕のほうを見て、にこにこと笑っている。
 父さんは続けて、知っているかい?マリモは藻類なんだよ。詳しくは緑藻類ってやつの仲間に分類されるんだ。などと、少し得意げにうんちくを語り始める。僕はそれを、わざと特に何の反応を示さずしばらく聞いていた。あまりに僕が反応しないので、少し間が持たなくて焦ってきた父さんが、マリモは実は球体ではなく、だけど全体として何故丸くなるのかを必死に説明しようとしたところで、僕は部屋に引き上げることにした。これ以上、父さんが自慢げに知識をひけらかすのに耐えられなかった。父さんのこういう所が嫌いだ。
 僕は一言、分かったから。と面倒くさそうにつぶやいた。父さんはああ、そうか。と頷く。
 何が、ああそうか、なんだか。
 父さんに背を向けたとき、父さんは僕に大切に育てるんだよ。と一言とても小さな声でつぶやいた。僕は、聞こえなかったふりをして、無言で父さんのいる部屋から出ようとする。ドアを開けながら、父さんは今、さびしそうな顔をしているだろうな、と思った。
 さっそく、この奇妙な緑色の物体が入ったビンを、部屋の窓際の棚の上に飾る。それだけで、何だか部屋の空気が綺麗になった気がした。そんなもんかな?と自分の単純な思想に少し呆れた。そのままマリモをしばらく眺める。
 しばらく観察していると、マリモは意外と流動的な動きをするし、案外飽きが来ないことに気づいた。人は案外こういうものに癒しを感じるのかな?などと勝手に悟ってみたりする。マリモはしゃべらないし、ほとんど動きもしない。少しゆらゆらしているだけ。だけど、その体の線は非常に細かくて、なんていうか、生命の神秘ってやつを感じるには十分な代物だった。
 意外に魅力的なマリモを眺めながら、父さんは何故マリモを買ってきたのかな?とあらためて考えてみた。父さんは、間接的にこうやって何かを訴えかけようとする。そんなことは、しばらく暮らしてみて、とっくに分かっていた。父さんがマリモに何かメッセージを込めたのかもしれないけど、あいにく僕にはそれがわからない。まさか、マリモのような人間になれといっているわけではあるまいし。マリモのような人間。どんな人間なのだろう。我ながら、すこしおかしくなる。たぶん、結構駄目人間なんだろうな。と想像する。

 お父さん。お義父さん。
 
 僕の機嫌をとろうとしているのは見え見えだけど、今回はなかなかセンスがあるじゃない。

 もうそろそろ一ヶ月か。と僕は誰ともなしにつぶやく。
 新しい父さんが来た日から。
 僕は、後一品、マリモに匹敵するぐらいの、僕を惹きつけるものを僕に買ってきてくれたら、そろそろちゃんと会話をしてあげようかな、と思った。僕は現金な人間だ。それなりの物を与えられさえすれば、僕だって素直になれるのさ。

2004-10-16 17:14:31公開 / 作者:ささら
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■作者からのメッセージ
ささらのショートショート第三弾です。
さらに文章が短くなってしまいました。昨日の今日なので文章構成能力はまったく向上しておらず、へたれのままですがご容赦を。
ご感想いただけたらとてもうれしいです。
この作品に対する感想 - 昇順
おこんばんはー・・・・・・!ぁぁぁあぁぁぁ・・・・・・(遠ざかって消えた)(ぇ はい、オバカやって済みません。感想はいらせていただきます。『しばらく暮らしてみて』ってところで「ん?」と思ったのですが最後で判りました。(ぉ 現金だと言いつつもお父さんのことが好きなのかな?なんて勝手に思ったりしてます。一点だけ言わせていただくとお父さんの『ああ、そうか』のところ。「」か、を付ければ判りやすいかな?とか思ったり。本当に細かいことまで煩くてすみません。でぁ、レッドカード!
2004-10-16 18:39:05【☆☆☆☆☆】如月 淘夜
読ませていただきました。ちょっと微妙でした。これも嗜好の問題か……? 短い感想で申し訳ありません。失礼いたします。
2004-10-16 22:49:37【☆☆☆☆☆】メイルマン
二弾に引き続き三弾を読ませて頂きました。さて、今回のは素直に理解でき、なるほどと納得していました。オチ、でもないのですが、この物語構成こそがささらさん独特なのかなぁ、と思いつつ、次回もお待ちしております。
2004-10-16 23:02:48【☆☆☆☆☆】神夜
小道具にマリモをチョイスしたところにセンスを感じました♪もしお父さんがマリモじゃなくてケーキを買ってきたとしたら……この作品ののんびりとした優しい雰囲気は出なかったように思います。オチも私は好きでした。うんちくを披露したり、息子に頑張ってしまう気持ちがわかる。それがなんだかに可愛くてにやけてしまう。そんな作品でした☆
2004-10-16 23:10:15【★★★★☆】律
たしかにマリモの存在ってみんな知っているけれど、その実態は謎ですよねえ。貰っても嬉しいような迷惑なような(笑 マリモという「存在」で、ある意味息子を惹きつけようとした父(義父)の気持ちと、主人公の心情の駆け引きがうかがえてなかなか面白いものがありました。オチ自体も個人的には好きなのですが、「キツネ」の読後感に比べるとちょっと薄かったかなという印象です。「キツネ」の余韻には気持ち良く浸れたので。あくまで個人的嗜好の問題だと思われるのですが(汗 ささらさんの文章は独特でとても好きなので、今後の作品にも多いに期待しております。
2004-10-16 23:34:34【☆☆☆☆☆】卍丸
みなさまご感想ありがとうございます。ささらです。皆様の感想を見て、やっぱり今回は少し投稿を早まったかも……と反省しております今日この頃。何分前作と投降間隔が一日も空いていないので。今までの三作は大体一時間位で書いていたのですが、次回作はもっと製作日数をかけて、大分長くするように努力したいと思います。ショートショートからショートへ。次回作も感想を寄せていただけたらうれしいです。皆様本当に感想ありがとうございました。
2004-10-17 01:29:15【☆☆☆☆☆】ささら
読ませて頂きましたぁ〜。なんていうんだろ・・・こういうショートもありか!と目からウロコ状態です。ド派手なインパクトのオチではないけど、読み終わった後の独特のスッキリ感がささらさんの持ち味だなぁと思いました。今回の作品、勉強させて頂きました!!
2004-10-19 16:20:43【★★★★☆】樂大和
計:8点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。