『あの夜に・・・ 』作者:ヴェル / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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「オイ、兄ちゃん!オイッ!」
突然、耳をつんざく大声とともに、何者かがオレの体を揺すっていた。

「オイ、いい加減おきろよ!とっくに閉店時間すぎてんだぞ!!」

「う・・う〜ん・・」
まだ頭は、完全に起きてはいないが、大体状況は理解できた。
何のことはない、いつものように、いつものBarで、いつものように、安酒を飲みすぎて、酔いつぶれてしまっていたのだ。

カウンターで寝ていたオレを、ここのマスター(マスターといっても、高級なBarにいるようなバリッと決まった奴ではなく、薄汚れたシャツを着た太った男だ・・・)が、起こそうとしていた。要するに、さっさと金払って帰れということである。

「・・あぁ・・わりぃ、わりぃ・・また、やっちまった・・・」

頭がガンガンし、吐き気もするが、とりあえず侘びの言葉を搾り出した。

「全く!毎日、毎日、懲りねえ奴だぜ!」

この店に通い始めたのは、3週間くらい前からだ。まだまだマスターとは、それほど仲は良くないが、居心地は良かった。

オレは、ポケットからクシャクシャの札を一枚取り出し、カウンターに置いた。
「・・・釣りはいいから・・酔い覚ましに、ビールを一本くれないか?」

マスターは、ビール瓶を下から取り出し、荒っぽく栓を抜き、カウンターに、ホラよ、という感じで置いた。これもいつものことだ。

オレはそのまま店を後にした、フラフラした足取りで何度も転びそうになりながらも帰り道を急いだ。
こんな生活を2年も続けていた。アルコールに溺れたのはもっと前のことだが・・・よくまだ生きてるもんだと自分でも感心する。

しかし、さすがに今夜は飲みすぎたようだった。とうとう道端に倒れこんでしまった。汚い川が流れる通り沿いの道だ。

「相変わらず、キッタねえ川だなぁ・・」
鼻を異臭が突いた。内ポケットからタバコを取り出し、少し手間取りながら火をつけた。

小汚い屋台が道沿いに何軒も並んでいたが、そこの一軒の表の壁にもたれかかり、地面に腰を下ろした。
そして、2本目のタバコに火を付け、つぶやく・・・。

「・・・何、やってんだろ・・・・オレ・・・。」

ふと空を見上げたが、星も月もでていない。
言いようのない、虚しさと寂しさが、突然、オレを包み込んだ。

そのとき屋台から、音質の悪いラジオの音が聞こえた。
ラジオから流れている曲には、聞き覚えがあった。何の曲だ?
目を閉じて聞き入っていた・・・気がつくと口元がゆるみ、目から涙が溢れていた・・・。

「・・・・誰だよ・・こんな曲、リクエストしたのは・・・・。」

昔のオレの曲だった。たしか何枚目かのアルバムの曲だ。
1時間くらいで完成させた。ギターとストリングスのシンプルな楽曲だ。

あの頃は、未来は輝いていると信じて疑わなかった。昔のオレに今の姿を見せたら、なんて思うんだろう・・・。

―今は、叶わなくても
    今が、つらくても
       自分を信じて
          歩いてゆく
             それを、叶えるために―

何年かぶりに、自分の曲を聴いた・・・かすれた声で口ずさみ、空を見上げた・・・・。
雲間から月の明かりがかすかにこぼれた。

何故か笑顔で、その夜は一人で空を見つめていた・・・。
2004-10-14 00:39:18公開 / 作者:ヴェル
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