- 『コルリア少年奪還隊 序話&一話』作者:紅汰白 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
- 全角5942文字一応戦争の話なのでグロイシーンがあるかもしれません。
容量11884 bytes
原稿用紙約14.86枚
一話目には無いと思いますが……。
序話 『悲しみは、ここで終わる。』
銃声も、怒号も響かない、不思議な戦場。
その一画に、その戦場にそぐわないやや豪華なテントがあった。
その真中の細かい装飾が施された椅子に、バリッとした、おそらく新品であろう、ごてごてした礼式軍服を着た男性が腰掛けていた。年は四十代中ごろ。
「“シン”、お連れいたしました」
「通せ」
“シン”と呼ばれた男性は部下らしき男性に一言で返し、部下らしき男性は男性を招きいれた。
瞳を伏せた“シン”は、入ってきた男性に、厳かな声で聞いた。
「貴殿が、最近噂に聞く名医か?」
「名医かどうかは知りませんが……その噂でここに呼ばれたのは事実です、閣下」
医者が顔を伏せたまま伝える。“シン”は顔を柔らかくすると、
「皆の者、私は二人きりで話をしたい」
「しかし、閣下!」
側に立っていた男性が、必死に反論する。
「言うことを聞けぬ、とな?」
その言葉に男性は口を閉ざし、手振りで士官達を外に追いやった。そして、自分も。それを見た“シン”は目を開き、医者に頭を上げろ、と告げた。男性が、ゆっくりと頭を上げる。そして、“シン”が驚いたような表情になった。けして演技などの表情ではなく、心からの。
「……閣下?」
何も言わない“シン”を変に思ったのか、医者が恐る恐る聞く。
「貴殿の、名は?」
医者が答える。そして、名前を聞き、“シン”は納得したような表情になる。
「時間はあるか?」
「閣下が望むなら、幾らでも」
「では、聞いてもらいたい」
「何をです?」
「私が“シン”を志した理由と、貴殿にとってはとてもくだらない、しかし私にとっては一生の思い出をだ」
「ええ。是非とも。……ご病気の方は?」
「あんなものは建前だ。健康診断程度で良い。だから、聞いてもらいたい」
「それが望みならば」
「そうだな……。まず、私が“シン”を志した理由、それは軍を解体するためだ」
「!……それはどういうことで」
「私は幼い頃より軍にいた。そして、不毛だと気付いた。そして、……沢山の大切な者を失った。だからだ」
「それは……」
「昔のことは若干長くなるが――良いか」
「ええ、何なりと」
その答えを待って“シン”は、語りだした。
「まず……始まりの日から話すとするか……」
第一話 『でも、私達は、けして、不幸じゃ、なくて、』
ある日。
僕は会議室のようなところに連れてこられた。僕以外にも何人か人がいて、それぞれに聞いても、誰もつれてこられて理由を知らない。
しばらくして、部屋に軍服を着た人間が入ってきた。軍服の色は薄い緑…魔軍だ。そして肩の階級章は伍長を指している。
「始めまして。アーシス・ベルト魔軍伍長であります。今日は皆さんにここに集めた理由を説明するため来ました」
まるで軍について説明するために学校に招待された軍人のようだ、と思った。
「皆さんは、学校で受けた魔力判定試験の結果が通常よりずば抜けて高かったため、本来より何年か早く戦場行きが決定しました」
招待されたような軍人、さらりととんでもない事を抜かした。その場にいた殆どが固まり、そしてブーイングが起きた。
伍長は予想外だ、という表情になり、困ったような声で中尉、准尉、何とかしてくださいよーと言った。
僕はとんでもないおっさんコンビを想像した。こう……偉そうにふんぞり返っている、そんな感じ。僕のクラスメイトに物凄くいやな奴がいて、そいつの父親が陸軍の少佐かなんかで……その腰巾着の中尉とかが偉そうだったからだ。
「情けない声を出すな、ベルト伍長。子供のころは、徴兵がいやだったろう?」
予想以上に若い、いや、高い声。声変わり直前の、丁度僕と同じくらいのこの声だ――。
そして、中尉と准尉が入ってきた。
会議室が、ザワッとなった。
中尉と呼ばれたのは僕と大差ない男の子。短く刈ったがその後放っておいた感が漂う長さの漆黒の髪、きちんと着ている、ラレスミア軍正式礼服、その上に羽織った深緑のコート。そして、パッチリとした、人間には持ちえない恐ろしいまでに深い漆黒の瞳。
准尉の方は、中尉と同じくらいの年。
髪と瞳は眩いばかりの金で、背骨辺りまでの長さの髪は右はそのままたらしていて、左は耳の上で括っている。中尉と同じく正式礼服の上に深緑のコートを羽織っていて、唯一違うのは下がパンツではなくスカートであること。
「すみません、マルス中尉、ホール准尉」
「いや、伍長が悪いわけじゃない。……何の説明もなしに連れてきた兵が悪いんだ。……すまない」
中尉が頭を下げた。伍長は慌てたように、いえ、うろたえた自分も悪いんです、と言い、中尉は頭を上げた。
中尉はつかつかと歩くと、会議室の一番前にあった机の傍に立ち、
「始めまして」
と、にこやかに挨拶をした。
その様子に、というよりも明らかに自分より年下の人間にほっとしたのか、会議室で二番目に年上のような男の子が茶化すように、
「ラレスミア魔軍も、堕ちたもんだな。子供が中尉だなん――」
その後何を言いたかったのかはわからない(まあ、予測できるけど。それでも確実ではないし)。ただ、パン、という軽い音がして、そいつのピンと立った髪の毛数本を吹っ飛ばした。そいつは口をあんぐりとあけたまま、自分に銃を向けている准尉を見た。准尉の持っている銃の銃口からは、薄く煙が立っていた。表情は、無いように見える。
「そこ」
しん、とした会議室に、准尉の凛とした声が響き始めた。
「私語は慎みなさい。戦場でその様子だと、真っ先に的にされるわよ?」
悪ガキを叱る、優しい女教師ような口調だったが、言っていることは、僕にとっては死刑宣告みたいな物だった。
――本当に、戦場に行くんだ。
人を、殺さなくちゃいけないんだ。
殺されるかもしれないんだ。
急に身震いがした。それは他の人たちも同様だったのか、机がかた、かた、と揺れた。
「ホール准尉」
中尉が『あーあ、やっちゃった』的な表情で准尉の肩に手を置いた。
「あまり、びびらすなよ」
そして一拍置いて、少し笑顔で、
「俺もびびった……」
本来ならば、笑うべきところなのだろう。実際、中尉は軍人にしてはあるまじきほどオーバーリアクションだった。
「ともかく」
中尉は軍人の顔に戻ると、厳格な声でこう告げた。
「三日後、コルリアに向かってもらう。その時に、君達の任務を告げようと思う」
会議室は、なんともいえない空気に包まれた。
* * * * *
僕達の住むラレスミア社会主義国は、社会主義とは名ばかりの軍事国家だった。軍人と一般人の間にはかなりの差が引かれ、一般の人間はこぞって軍部に入り込もうとした。
しかしその体制は三十年以上前に破られた。
ラレスミアは戦争を始めたのだ。
国民皆兵になったために軍人の権力は無きに等しくなった、訳ではない。むしろ軍人の権力はより一層強固なものへとなった。
ラレスミアは、南方と南東の諸島の連合、南東諸島連合と戦っている。最初は強大な軍事力のラレスミアが有利とされていたが、奴隷兵を駆使する南東諸島連合も負けてはいなかった。
そして、ラレスミアと南東諸島連合の戦争の理由はただ一つ。
惑星エンジェル唯一の大陸、コルリア大陸だ。
国を豊かにしたい南東諸島連合と、その昔大陸に存在する国すべてを監視、制御できる『大陸支配権』を持っていた元とはいえ世界の覇国ラレスミア。それぞれは当然引くことをしなかった(大昔に起きた大魔震時に大陸のほとんどは砕け、当時唯一の島国・クルテに委ねられていた『住島・孤島支配権』は発令、ラレスミアは覇国の名を失った)。
クルテは王が治めるラクト王国と女王が治めるウィーズ王国に別れた。
そして千年以上の時が流れ、四十年前、コルリア大陸は解禁となる。当時のラクト国王ダルと、ウィーズ王女フェンが、『コルリアはこれより開放する』との声明を流したからだ。
それから数年後にコルリア対戦が勃発。
今に至る。
僕はそれしか知らなかった。
それしか知らされていない。
* * * * *
ガタガタガタ、と定期的な音を立てながら、ボロ布を荷台に被せただけの幌つきのトラックは悪路を進んでいく。
荷台は小さく、二段式。端っこが競り上がっているようにも見える。一段低いところに荷物たくさん置かれている―というよりも乱雑に放り込まれている。上の方に五人以上の子ども達がぎゅうぎゅうづめにされ、か細い大人一人が、肩身狭そうに立っている。
子ども達は全員黙りこくって、ただボンヤリとした表情を浮かべている。
やがてトラックは止まり、幌が開いた。
そこは綺麗には程遠いが、かといって廃退した雰囲気もない、酒場町のような場所だった。そしてとても奇妙なことに、ラレスミア人と南東諸島連合の人間であろう人間達が仲良く肩を並べて話している。
「ここは……?」
一番小さい少女が、大人に聞いた。
「ここは、第五コルリア無戦街です。ここで戦うことは禁止されています。ちなみに、ここでは何を買っても無償で、犯罪さえ犯さなければ自由が確立されています。……まあ、骨休めをするためのところです」
大人は説明しながら歩き始めた。子ども達もそれに続く。
今までに見たことも無いような立派なテレビなどが、小さな電気の店頭に置かれていた。
南東諸島連合の奴隷兵が家に送ろうとしているのか、何かを書いていた。
「これは、誰がお金を出してくれているんですか?」
大人は渋面を作ると、
「ラクト王国とウィーズ王国です」
短く言った。
「ここは、ラクト王国とウィーズ王国が反戦を前面に押し出して作り上げた偽善まみれの街です。だから、皆思う存分遊ぶんです。……両国はお金にまみれていると見える」
最後は怒りを込めて、大人は言い切った。
しばらく“偽善まみれの街”の大通りを歩き続けると、大きなビルのようなものの前にたどり着いた。
「ここの五階です。ここで、ラレスミア軍は会議を開いています。…自分にできることはここまでです。どうぞ」
入り口に立つと、子ども達を誘導しながら大人は言った。
「すみません」
先程の少女がもう一度大人に聞いた。
「ここも両国のお金でできてるんですか?」
「そうです」
エレベーターに乗り込んだ後、完全に大人が見えなくなり、声も届かなくなってから少女がポツリと呟いた。
「どっちが“偽善”よ……」
答える者はいなかった。
五階につくと、チンという音を立ててエレベーターのドアが開いた。
「久しぶりです」
そこにはこの前の准尉が立っていた。だが着ている物はこの前の正式礼服ではなく、主に戦地の会議などに着て行く略式礼服だった。
「今日は」
むすっとした表情で、三日前に准尉に撃たれた少年が返した。
「返事はいりません。戦場では、返事をしている暇なんてないんですから」
冷たい目で、准尉が返した。少年が体を竦めた。まあ、もっとも挨拶もしませんけれども、と准尉が付け加えたが、聞こえている様子は無かった。
子ども達が准尉の後について行くと、一枚の扉の前についた。准尉は一回だけ扉をノックして、遠慮なく扉を開けた。ギギギ、と言う耳障りな音が立った。
「ああ、ありがとう」
たいして広くない部屋の中に、半円になるように椅子が置かれている。そして、半円の全てが見渡せる位置に椅子に、中尉はチョコン、と腰掛けていた。服は准尉同様略式礼服。
傍には、大人が一人立っている。着ている物は戦地で着る戦服。階級章は、生成りの布に、赤い線が右斜めに二本刺繍され、それの上から青い線が左斜めに一本刺繍されている。それは、少尉を表していた。
「……少尉、出てくれ」
その命令どおり少尉が部屋から出た。パタン、という扉が閉まる音がして、
「椅子に座ったら、話を始めよう」
中尉が全員に聞こえるように言った。『座れ』、ということだろう。
その場にいた子ども達全員が着席すると、中尉はゆっくりと口を開き始めた。
「さて、君達がコルリアに連れてこられた理由はこの前説明したよね」
しーん、という音が聞こえてしまいそうなほど部屋は静寂に包まれた。それはイエス、ととってか中尉は続ける。
「……人を殺すのは、嫌だよな」
いきなりの少年らしい口調に、部屋に居た全員が中尉を見た。
「だから、率先して人を殺せとは言わないし言えない!大人になれば皆兵でお前らの周りの人が来るから、その時に決めればいい!…それまでは俺が全部背負っておくから、後ろで見てるだけでもいい!だから、周りで人が何人死のうと、気にせず生きる心を持て!」
なぜかいきなり激昂したように中尉が叫んだ。“持て!”という台詞だけが、部屋に少し反射した。
「……あーくそ、上手く言えねえ」
わしゃわしゃと髪の毛をかき回しながら、中尉が言った。そのあまりの少年ぶりに、部屋の空気が和らいだ気がした。
「あーやっぱり同じくらいの年の人間に敬語使うのはめっちゃくちゃ疲れる……おっさん達に敬語使うよりはましだけどさ……」
「こらこら、将軍達のおっさん呼ばわりは止めなさいって」
「でもよお、実際おっさん達じゃねえか」
「聞かれたら降格もんよ、その台詞。今度言いつけてやろうかしら」
「言ってみろ、サラマぶっつけっぞ」
「あーら怖い怖い」
いきなり(言っていることはともかくとして)普通の会話を始めた中尉と准尉を本当に目を丸くして周りにいた子ども達が見た。
「あ、すまねえな、……さっき言ったとおりだ、お前らは人を殺さなくていい」
その言葉に安堵の声が漏れたが、
「『お前らは』?」
一番小さな少女が疑問を口にした。
「俺は、もう帰って来れねえから、守りたいだけだよ」
答えに聞こえないが、それが答えなんだろう。
多分。 - 2004-09-23 11:24:45公開 / 作者:紅汰白
■この作品の著作権は紅汰白さんにあります。無断転載は禁止です。 - ■作者からのメッセージ
今書いている長編です。
戦場物ですけど、グロイシーンはあまり無いと思います、多分。
これを友達に見せたら、ある人気漫画の軍人コンビのパクリ、といわれてしまいましたが、設定を考える際に似てしまっただけです。パクリではありません。
そのあたりを批判しないでください…。
何故そういうかというと、これに出てくる中尉が炎の魔法使うからです。
一話はもうちょっと続きます。
ちなみに最初一人称なのに一人称でなくなっているところ、三人称なのに一人称チックな部分はわざとです。
- この作品に対する感想 - 昇順
- 感想記事の投稿は現在ありません。
- お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。