『ストーン・ディスカバリー 0〜』作者:風魔 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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「第0の石碑」


 あなたが行くと言ったこの道を、
 僕も歩いて行こうと思います。

 あなたが悲しむことはありません、僕があなたを憐れまないことと同じように。
 これは終わりへの物語りではない。
 これは生の物語りです。僕はいま、それを痛感しています。

 かつて、あなたの通った地に道はなく、茨が群れた未踏の場所でした。
 だが今は道がある。
 あなたが作った道が。
 あなたが行った、あなたの生きた証が。

 僕がこの道を行くのは、
 あなたを愛していたからではなく、あなたの仇を取ろうというわけでもなく、
 実は、あなたと同じ運命に立たされたようだからなのです。
 だが僕はあなたのように失敗などしない。
 僕は人を信じない。僕はあなたほど甘くはない。

 僕は必ず、生き抜いてみせます。
 あなたの二の舞いになりはしない。
 僕は1人でこの道を行きます。
 あなたはその事について悲しむのでしょうが、余計なお世話です。
 黙って見ていてください。
 そうすれば、何もかも上手く行きます。
 なぜなら。

 あなたに見護ってもらえるのならば、僕はあなたに無様な姿を見せないよう、
 絶対に最期の瞬間まで諦めたりしないでしょうから。
 『諦めない』のは、
 『かっこいい』、んでしょう?

 僕はあなたの道を見た。
 これから僕も僕の道を造って行こうと思います。
 お返しに、見ていてください。

 あなたの視線を背中に受け、僕はこの膝を屈することなく、
 生き続けましょう。


 安らかに
 眠ってください。

 僕の愛した女よ。





By Sekihi

「第1の石碑」





 この前あなたに、1人で行くと言いましたが、
 実は道連れができました。
 あなたはきっと、自分のような者が現れたのだなと思うのでしょうが、
 僕自身不思議なのですが、その男は、僕のような人間なのです。
 
 名は無いそうです。これもあなたと違うところです。
 あなたは僕の事を厳つい名前だと言いましたが、彼は何も返事を返してくれませんでした。
 極度に無口なのです。
 僕以上、といえば少しは分かってもらえると思います。いくらあなたが馬鹿でも。

 あなたの生きた道を進み始め、大分経ちましたが、
 まだ、あなたが踏み違えた落とし穴に気付くことができません。
 気付くことができなければ、僕もまた繰り返してしまうかもしれないから、
 いま少し焦っています。
 そういう所に、彼は現れました。
 性格はあなたとは大分趣が違うのですが、お人好しなところは一緒なようです。
 いきなり、僕の心を見抜いたかのように、『繰り返すのは嫌か』と言われました。

 いきなり挨拶もしないで、無礼な人も僕は嫌いなのですが、
 まあ色々ありまして、結局肩を並べ同じ道を歩いています。
 実は、僕は結構彼が気に入っています。無論、信じてはいませんが。
 信じれば終わりなのだということは、あなたの背中を見て学んだことの1つです。
 それとこれも学びました。いつか旅は終わるのだということ。

 彼がなぜ僕と旅をしているのかも分かりません。
 僕も目的を話したことはありません。
 ただ、利害が一致するようなのですが、果たして僕の運命に彼が関わっているのか、
 それすらも不明です。

 あなた。
 あなたは僕を見守ってくれていますか。
 あなたが見ていてくれるのならば、僕はあなた以外何も信じる必要が無くなる。
 あなたは僕のすべてなのかもしれない。

 もういない貴方に対して、まだ想いが募るなんてね。
 女々しいと言ってもらって構いませんよ。
 
 だけどこれだけは言っておきます。
 あなたに馬鹿にされるのは我慢なりません。
 少なくとも、あなたほど馬鹿じゃないから。






by Sekihi

「第2の石碑」





 聞いてください。
 『お人好し』と言われました。この僕が。
 察しの良いあなたのことです、もう予想をつけているのでしょうが、そうです。
 僕の事を『お人好し』呼ばわりしたのは、この頃良く話すあの名無しの男なのです。

 不便なので、僕は彼をナナシと呼んでいます。
 だからあなたも、彼はナナシと呼ばれる者なのだ、と思っていてください。
 ナナシは遠距離型なのですが、いかんせん無口なので連係が取りにくいです。
 僕も同じくなので、相手に殴り込まれたら歯が立ちません。
 猪突猛進だったあなたとは反対に、僕はそれが弱点なのです。
 それで、仕方ないので僕はよく彼のサポートをするのですが、
 この前<お客>をあしらった時、突然『お前はお人好しだ』と言われました。
 理由を尋ねると、『俺のサポートをするから』だそうです。

 あなたはどう思いますか。
 僕よりも彼のほうが、よほど訳の分からない論理を話しますよね。いやもうあれは論理じゃない、持論でしょう。
 ある意味、あなたに匹敵すると思いますよ。
 しかし困った事になりました。
 僕は『お人好し』であるわけにはいかないのです。
 サポートをするのは当然だと思うのですが、それは『お人好し』なわけではありません。
 彼が倒してくれる分の相手まで、僕がカバーする余裕が無いからです。
 正直、彼のおかげで生き抜けた場面も多くあります。
 その経験を踏まえた上で、僕は僕の利潤に忠実に従い、判断を下しています。
 しかし、どうやらナナシ、彼はそれが分かっていないようなのです。
 まるで、あなたを見るようだ。
 妙なところで、考え無し。

 そういえば、あなたが覚えているかどうか分かりせんが、
 実は今日は僕の誕生日なんですよ。
 16才です。あなたがいなくなってから、もう半年も過ぎました。
 薄々、あなたが落ちた穴にも気付きはじめています。
 心配は無用です。
 あなたの二の舞いになりはしません。
 ちゃんと、適当なところで、彼とは別れるつもりですよ。
 いまはまだ、その時でないだけ。
 彼と一緒にいる理由なんて、そんなものですよ。


 ねえ、あなた。
 こんな僕を『冷たい男』と言わなかったあなた。
 僕はあなたを、本当に愛してた。
 こればかりは、裏切りようがないぐらい、真直ぐな僕自身なんです、よ。

 僕を信じてくれて。
 ありがとう。
 そして、すみません。
 僕はまだ、誰も信じることができない。できるのは、あなただけ。
 あなただけだ。





by Sekihi

「第3の石碑」





 最近、頭が痛いのです。
 別に病気ではありません。確かに僕は体が弱いですが、いまは、体調がとても良いのです。
 旅をしていて無理をするほど、馬鹿ではありませんからね。
 ではなぜかと言いますと、実は道連れがまた1人増えたのです。
 今度の人は名前は名乗りませんが、別に無いわけではないようです。
 ただ自分をこう呼べと言いました。
 『おっさん』。
 最初聞いた時、目が点になりましたよ。
 だって、『おっさん』ですよ、『おっさん』。道ばたで呼んで、一体何人が振り返ると思っているんでしょうね、あの人。
 しかし本人が呼べというので、仕方なくそう呼んでいます。
 仕返しに妙なあだ名で呼ばれたら、僕のプライドに触りますし。

 彼、おっさんは、この事でもう分かってもらえたでしょうが、馬鹿の極まりのような人です。
 あなたと同じで猪突猛進で、考えもせず突っ込みます。
 そんな彼、あなたよりも年上で30幾つだそうですよ。奥さんや娘さんまでいるんだとか。
 世界は、馬鹿の量産地なのかもしれません。

 しかし、結構彼は役に立っています。
 ぐいぐい引っ張ってくれるので、無口なナナシと2人きりだった頃よりも、遥かに事がスムーズに運ぶのです。
 ナナシは我慢する事が多いので、そんなナナシの固い口をおっさんが開かせるのですが。
 そのおかげか、ナナシもストレスが溜まることが少なくなり、無駄に無口にならなくなりました。
 最近、自分から話題を振るようになったほどです。
 どうやら、生来無口だったわけではないようです。僕やあなたと同じように、少しひねくれた人生を送っていたんでしょうね。

 ちなみに今は、あなたの故郷の辺りにいます。
 といっても、あなたの故郷はあなたが知っているように、既に無いのですが。
 ですから近くの集落に宿を取って、2人に頼んで、少し荒野を大回りに行くことにします。
 そうすれば、あなたの故郷があった辺りに立てる。

 おっさんはついこの前会ったのですが、
 もしかしたらあなたは彼に会ったことがあるかもしれませんね。
 馬車の御者だったんです。不況に失業して、通りかかった若い僕らに声をかけたんです。
 あなたの故郷にも回っていたんだとか。
 覚えていますか、黒髪に浅黒い肌、やたらと筋肉質で露出狂の男なんですが。
 変態男と言ってしまっても良いかもしれません。
 その頃からおっさんと名乗っていたのかもしれませんし。

 彼と、ワンピースを着たあなたが会話しているのを思い浮かべると、
 僕は少し、おっさんと会えたことを嬉しく思いますよ。
 ああ、もちろん信じはしませんよ。
 信じて、ませんよ。
 あなたの道を、進み続ける限りは。僕はあなたの二の舞いになってはいけないんだ。





by Sekihi

「第4の石碑」






 途方に暮れています。
 僕がいつの日かあなたに言った『その時』が、やってきたのです。
 僕は、もうあの2人と別れる頃合なのです。
 あなたの道を行く旅も終盤を迎え、あなたの死の線が視界の中に見えてきました。
 僕自身も強くなり、あの2人がいなくても、何とかなるであろうと思われます。

 ですから僕は、昨日、1人旅に戻ると2人に言いました。
 どんな反応が帰ってきたのか、おそらくあなたは分かっているでしょう。
 あなたは、僕を、ずっと見護ってくれているはずなのですから。
 ナナシは最初、何も言いませんでした。
 ところがおっさんが、『冗談じゃない』と怒りまして。僕にずっと付いてまわると宣言までしたのです。
 そうしたらナナシまで、『同感だ』と言い出して。

 なぜそこまで、僕という人間に関わろうとするのか。
 彼等はもしかしたら、僕を陥れるために、僕の側にいるのかもしれません。
 あなたを裏切った、あなたの親友であったあの女のように。
 ですから、僕はこうやって夜中に宿を抜け出してきたのです。
 もう彼等に会うことも無いでしょう。

 ですが、最初に言いましたように、途方に暮れているのです。
 彼等がこれからどうするのか、気になるのです。
 僕を追ってきたりしたら、どうなるのでしょう。それはつまり、
 あなたの道を彼等も来ると言うことになります。
 あなたの踏んだ落とし穴に、もしかしたら彼等が落ちてしまうかもしれません。
 いや、それは彼等が裏切り者で無かった場合に限りますが……。

 しかし僕には関係ない事です。
 そうですよね、あなた。
 僕には関係のないことですよね。

 それではもう出発しようと思います。
 覚えていますか、もうあなたの命日まで幾許かですよ。
 あなたが歩いた道が途切れた場所へ、もうすぐで辿り着きます。


 見ていてください、僕の女神よ。
 僕はあなたの視界の中で、この命ある限り、精一杯歩き続けましょう。
 
 僕は孤独では無い。
  あなたがいるから。
 それが、僕の自信です。





by Sekihi

「第5の石碑」





 生きています。
 あなたの境界線を僕は超えました。まだ僕は生きています。
 この先の道は、僕自身で切り開かねばなりません。とりあえず、僕は僕の生き方を変えないことにします。
 僕は何も信じない、あなた以外は。

 ああそして、これはまだ予測の段階なのですが、
 旅の終わる地も見出せたようなのです。
 この大陸を抜け、海を隔てたもう1つの大陸です。僕が知っているその地についての知識は少ないのですが、医療技術が発達しているようですね。
 もしあなたが倒れたのがその場所であれば、あなたが死ぬことも無かったかもしれません。
 海岸都市まであと少しというところでしたのに。きっと、あなたの親友であった彼女は、それを承知の上で、この大陸であなたを殺したのでしょう。

 いま僕は、あなたが死んだという村で花を買い、この石碑を墓に見立てて花を捧げています。
 祈ることはありませんが、やはり、確認するように僕はあなたに頼みます。
 僕を見ていてください。必ず僕は生き抜いてみせます。
 襲撃もあしらっています。特に大きな怪我もなく、体調が少し悪いものの、旅をするのに不自由はありません。
 資金も、まだ、あの科学者の財産が残っています。今までは3人旅で、時々僕がその貯金が支出していたので不安だったのですが、今は1人旅なのでとても安心できます。
 盗み人など僕の敵ではないことは、あなたも重々承知でしょう。
 ですから、微笑んで僕を見守っていてください。
 僕は必ず、最後までこの膝を屈しはしない。あなたのためではなく、僕のために。
 もしかしたら僕は、あなたという存在を生きるために利用しているのかもしれません。
 この思考回路は、生き物の本能の一部なのかもしれません。

 そもそもなぜ、僕は生きなければいけなくて、生きようと思うのでしょう。
 昔はそんな事を思いはしませんでした。あなたがいたからです、こう思えるようになったのは。
 つまり、あなたが僕を変えたのでしょう。ならばあなたは知っているのですが、この答えを。
 いや、でも、あなたは馬鹿でしたから。やっぱり無理ですかね。
 それとも、馬鹿にしか分からない回答というのも、世の中には存在しているのですか。
 馬鹿馬鹿と連発していますが、もしかして怒ってますか。
 いえいえ。
 僕は大真面目ですよ。
 天才にも悩みはあるのですよ。
 馬鹿じゃない、という悩みがね。

 話が逸れましたが、ともかく、そういうわけで、特に事件も起きてはいません。
 もう直ぐで港町に着きます。
 僕は海を見たことがないので、実は、少し楽しみなのです。
 おっさんは見たことがあると言っていましたが、もう僕は彼とは何の関係もありませんし。ナナシは、どうでしたかね。いえ彼とも関係はないのですが。

 それでは、いま彼等に追い付かれないよう、強行進行をしているところですので。
 しばらくは休むことになるかもしれません。
 あなたの道を超えて、いま、僕は僕の道を造ります。
 でも大丈夫。
 僕にはあなたがいるのですから。




by Sekihi

「第6の石碑」






 港町に着きました。海は広く、あなたが死んで以来、久しぶりに表情を変えたような気がします。あの時は呆気に取られましたが、今回は違う意味で呆気に取られました。
 しかし共通点はあります。こんな事があり得るのだろうか、という事です。
 想像以上でした。しかしこの海を超えるとなると、船も大きいのだろうなと思っていましたら、本当に大きかったので内心とても驚きました。船賃が不安だったので尋ねましたところ、何とかなる範囲でしたので、ほっとしました。1人旅に戻ってから、余裕ができたはずなのに、なぜか財布が気になるこの頃なのです。

 熱が出てきています。体調もやけに悪く、慣れない港町だからなのでしょうが、明日出港ということで、一応薬を多めに買っておきました。あなたは知らないかもしれませんが、僕は薬剤を取り扱うことができるのですよ。あなたは健康そのものだったので、経験は無いでしょうが、サブリーダーはよく僕を頼りにしたものです。

 なぜ僕の年で薬剤を扱えるのかということについては、
 いくらあなたでも疑問には思わないでしょう。生まれが生まれですからね。
 おそらく、僕のように遺伝子を操作されなければ、僕のような多才な人間は生まれてこないと思いますよ。
 もっとも、逆にいえば、
 さらに操作すれば化け物のような人間が生まれてくる、ということなのですが。
 いえ、今のは間違いですね。
 そもそも僕自身の段階で、既に化け物なのですから。
 あなたはあの頃のように否定するかもしれませんが、『化け物』と呼ばれ育った時間は、僕にとって長いものです。
 まだ僕は僕の名前に慣れることができません。
 ですから、僕は、あなた以外に僕の名前を呼ばせないのですよ。
 あなたの声にならば、反応できますが。
 他の者の声には、反応できないかもしれませんから。

 この頃、昔のことを良く思い出します。
 あなたとあなたの一団が、施設を襲撃したときのことです。
 うずくまっていた僕の手を引っ張ったのは、あなたではありませんでしたが、
 僕にとっては、やはりあなたこそが救いでした。
 あの頃に戻りたいとは思いません。
 なぜなら、あなたと出会えていないからです。
 ですから僕は、あなたと同じような運命を辿っていても、不幸だとは思えません。
 死んでいたとしても、あなたが生きていたという証はきっと、僕の中に、世界の全てに残っているのでしょうから。
 しかし、生きていたことも知らなければ、証にすら気付かなかったでしょう。これは確定できます。

 僕は船に乗り、この大陸を去ります。
 もう二度と帰ってこないかもしれません。
 でも恐ろしくはありません。

 ただ1つ、不安なことがあるだけです。
 果たしてあちらの大陸には、ホットケーキはあるのでしょうか。
 あなたが、良く焼いてくれたホットケーキ。
 何度も言いますが、やはりあれは至上の食品だと思うのです。

 いま汽笛の音が鳴りました。
 明日にはもう、この大陸にはいません。
 どうか、僕と共について来て下さい。
 あなたを愛しています。
 ええもちろん、ホットケーキより。




by Sekihi

続く
2004-09-13 23:56:41公開 / 作者:風魔
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■作者からのメッセージ
はじめまして、風魔と言います。
短編というか中編というか、ストーン・ディスカバリー前半を投稿させていただきました。特に何をコメントすればいいのかも分からないのですが、どちらかというと「のんびり」とした話だと思います。
雰囲気造りに気を配っていますが、至らぬところが多々あると思いますので、これから全話投稿いたしますが、よろしければ御指摘、御感想お願いいたします。
この作品に対する感想 - 昇順
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