『アウトボイルド 第三話』作者:桃次郎 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 昔の仕事仲間に、長田の情報を聞き出した。一番信用性の高い情報は、長田が最近、クルーザーを購入したということ。これはマスターの、
「長田がデカい買い物をしている」
という話とも合致する。
 そのクルーザーを停留しているのは、千葉県の銚子マリーナ。そう遠くはない。
 千葉から、銚子行き下り鈍行電車に乗りこんだ。駅の売店で買った新聞には、木塚殺しの記事は載っていなかった。
 そしてもう一つ。今日発売の週刊誌だ。その見開きの部分に、俺の目は釘付けになった。
『関東三田村連合会 vs 関西!!!』
 その見出しが、大きく踊っていた。
『関東三田村連合会が、関西親和会と全面抗争に発展!?』
 関西親和会というのは、関西系の広域暴力団、五団体による親睦組織である。それぞれ独立した組織だが、親睦を図る意味で毎月一回、最高幹部同士による食事会が開かれている。これにより、昔から抗争の絶えなかった関西系の組織が団結。関東を含め、他の地域の組織には脅威となったのだ。
 別に知りたくもない情報だが、この世界に身を置いていると、自然と耳に入ってくる。
 その週刊誌によると、この抗争の発端は、木塚和弘の死に関連があるらしかった。
 大阪湾に建設予定の、人工島巨大テーマパーク。その利権を一手に任されていたのが、日本最大の組織、広瀬組の幹部、木塚和弘だった。木塚は三十九歳という若さで、関西親和会の執行部を勤め、広瀬組の筆頭若頭補佐として、次期若頭候補ナンバーワンの大物だったというのだ。
 その木塚を暗殺したのが、関東三田村連合会。未だ犯人は逮捕されてはいないが、三田村会は、このテーマパークの利権を獲得し、関西への進出を狙っている…というのが、この週刊誌の読みであった。
 それもあながち間違いではない。三田村会は、結成当初から全国統一の野望を掲げていたし、それを達成するためには、膨大な資金力と、広瀬組壊滅が必要不可欠だった。
 もし木塚殺しが三田村会の仕業であったならば、次期若頭を殺られた広瀬組系列の組織が、その椅子を巡って内部抗争に発展するのを狙ってのことだろう。
 そして紙面の最下に小さく載せられた、
『この記事は、あくまで推測の域を出ません』
 という文字。その上には、


『――――この抗争事件の裏には、プロの掃除屋、情報屋の暗躍の可能性が大である。当誌の取材記者は、この件に関わっていると思われる情報屋との接触に成功した。その情報屋Nは、裏世界では有名な情報屋で、Nに頼めば掴めない情報はない、と謳われている。
Nの話によると、広瀬組幹部、木塚和弘(三九)殺害の影には、少なくとも三人の掃除屋が絡んでいることということだ。その中でも、実行犯の疑いが一番強い、掃除屋Kとは、古い馴染みだと言う―――――          
 この記事は連載してお届けする。……次号 ― ここまで語った情報屋N!!』


 とんでもない話だ。長田は週刊誌に俺を売って、金を引っ張っていたのか。それも、ありもしないデタラメな情報で。
 ありえない話ではない。昔、俺も同じような裏世界の記事を売りこんで、金を引っ張ったことがある。
 しかしクルーザーはおろか、車さえも買える金額ではなかった。
 銚子の駅は、授業をサボった学生たちでごった返していた。この辺りでは有名な不良高の生徒たち。彼らは、俺に鋭い視線を投げかけていた。
 そんなガキどもは無視して、不規則に止まっているタクシーに乗りこんだ。
「銚子マリーナまで…」
「……」
 タクシーは無言で動き出した。運転手の鈍い動きは、面倒くささを物語っている。
 潮と醤油の入り混じった、なんとも言えない香りが車内を漂っていた。
「タバコ…いいかな?」
「どうぞ…」
 車内でかわした言葉は、これが最後だった。
 およそ十五分ほどで到着した銚子マリーナには、人影がほとんどなかった。
 この中から長田のクルーザーを探すのは不可能。…自力では。
 俺は長く出ている堤防に腰を下ろし、空を見上げた。さっきまで暑いほどに照り付けていた太陽が、灰色の雲に隠れている。
「……一雨来そうだな」
 その声は後ろから聞こえた。
 振り向くと、いつのまにか、見知らぬ男が立っていた。
「……」
「あんた、神崎さんだろ……」
 自然に身についた俺の第六感が、
『この男は避けろ』
と、しきりに危険信号を鳴らしていた……。
2003-10-07 11:48:04公開 / 作者:桃次郎
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■作者からのメッセージ
なんとかかんとか第三話です。長い話になりそうだぁぁぁ…
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