『小さな旅と大きな家出(読みきり』作者:呂路 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角4037.5文字
容量8075 bytes
原稿用紙約10.09枚
 家出少年の旅路

本田家では父の怒号が響き渡っていた、この家の1人息子である勇次(ゆうじ)のテストの成績が振るわなかった事についての説教の声である。
 それにしても勇次も勇次で、小学6年生にもなって10回連続で0点とは親が怒る気持ちも分かるのだが、今日ばかりは勇次も黙って怒られはいなかった。
今回の国語のテストはなんと勇次の過去最高得点である、48点を取ったのだから、親にもウキウキ気分でテストを見せた。
普段みたいにコソコソ隠したりせずに…… だが、親の反応は勇次の予想とは少し違っていた。
いつも通りこっぴどく怒られてしまったのだ。これには勇次も黙っていなかった
「今回は今までで、一番良く出来たんだよ! そんなに怒らなくてもいいじゃん」
勇次は泣きそうになりながら父親に訴えた、いつも怒り役は父親であり、母親はその様子を心配そうに見つめているだけだった…
「ちくしょう…俺がんばって勉強したのに……」
勇次は父親の説教を聴きながら心の中ではそう叫んでいた、そしてがんばっても認めてもらえない自分の歯がゆさ、そして認めてくれない親への怒りにも似た感情が湧き上がってきた。
「クソゥ…くそぅ……」
勇次はずっと泣きそうになるのを堪えていた、泣いたら泣いたで父親に”男が人前で泣くんじゃない”って言われて、さらに怒られてしまうから

 その日の夜、布団に包まって1人で勇次は泣いていた、父の説教は小一時間も続いて精神的にも肉体的にも疲れきっていたので、すぐに眠ってしまった…いや、眠ったのは勇次ではなく、親の方なのだが……
勇次は決めた! 本日を持ってこの家から家出するって事を…家出、家出、家出
何をすればいんだろう、でも、とにかくこの家から出て行きたい、昼間のことが、まだ幼い勇次の心には酷い深手を負わせていた。
 もうこんな親なんて大嫌いだ、と勇次は寝ている親を起こしてしまわないよう、ゆっくりと台所に向かった、台所ではポタポタと閉め切っていない蛇口から水が滴っていた…まず向かう矛先は冷蔵庫である。
「とりあえず…食べ物がなきゃどうにもならないからな……」
ゴソゴソと冷蔵庫をあさって見るが、何も入っていない、食べられそうなものは…
ないよりはマシかと勇次は小学生には大きすぎるリュックに醤油とケチャップをとり合えず詰め込んだ。
次に部屋に戻って自分の服をありったけ入れ込んだ、時計は既に夜の12時を回っていたのだが、昼の事で完全に怒っていた勇次は振り返りもせずに夜の東京に飛び出していった

 夜の東京は以外と人が少なかった、とりあえず大きなリュックを背負って勇次は歩き出した……なんだか弱々しい後姿にその荷物は大きすぎた。
さてと、どこへ向かおう?
行く先なんて全く考えていなかった、とりあえず家出がしたかっただけなので、それ以外どうでもいいんだから…
「とりあえず、寝る場所さがさないとな」
勇次が呟いた言葉はすぐに東京の五月蝿すぎる喧騒にかき消された、チョッと歩いただけでも、街中に出た、ピカピカと光るネオン、高々とそびえる高層ビル群、それを見る勇次の瞳は、いつも母親に連れてきてもらう街中を見る瞳ではなかった。
 なんだか全てが大きくて、不気味で、恐かった…こんな夜遅くっていうのもあるんだろうけど、頼れる大人がいないっていうのも大きかった
「今日はココで寝よう…」
 とりあえず公園に入った、既に公園には先客であるホームレスが灯火を消して眠りに就いていた、無理もないだろう公園の時計は1時を過ぎていたのだから殆どの人は寝ていた。
 公園には漆黒の闇の中に街灯の光がポツリと浮かんでいる、不気味な静寂に包まれた不思議な空間だった。
「随分違うんだなぁ〜、昼と夜で…」
正直な気持ちがポツリと勇次の口から漏れた、ちょっと考えてみると今日の放課後だってココでサッカーをやっていたのだから考えれば考えるほど不思議な気持ちだった。

 今日の昼までは、親に守られた存在だった自分が、今、たった12時間後には親から離れて、一人で生きている人間、その変革に自分でも驚くと共に、勢いでやってしまった行為の愚かさが冷静になって見えてきた…
「家出って一体なんなんだろうな…」
そう勇次は囁いた、その声を夏の蝉だけがしっかりと聞いていた、よく考えてみると、ますます家出ってなんなのか分からなくなってくる…
 以前に本で読んだことがある、無理やり父親に読まされたのだが、その本ではこんな風に書いてあった
 旅とは一旦、今の自分を捨てて、どこか他の地で息抜きして、また同じ場所に帰ってくるっていうこと…
 それで、別れとかっていうのは、2度と帰ってこない事…
簡単にしか覚えてないけど、こんな感じだったと思う、そしてそのどちらにも家出は当てはまらないんじゃないかなって思う、まぁどっちかって言えば旅だと思う、極論なんだけどサ…

 そんな事を考えているとそろそろ眠たくなってきた、だからとり合えずホームレスさんのお家(ビニールシートでダンボールを囲った粗末な物だが)に寝かせてもらおう と頼みに言った、考えてみるとこんな風に知らない大人に話し掛けるのも初めてかもしれない、いつもは親が色んな事をやってくれてたから……
 でも、自分に親はいない! そう言い聞かせると勝手に身体が動いていた、生きる為には行動しなければならない、自分で行動を――

「すいませ〜〜〜ん?」
勇次は寝ているかもしれないので、起こさないような小声で声を掛けた
「………………っ」
反応はなかった、それでも起きているのは感覚ですぐに分かった、イビキをしていないのにも、嘘寝入りだという推理に確信を与えた。
「オジサン? 起きてるんでしょ、話を聞いて」
「………」
それでも無視を決め込む男性に、さらに食いついた
「オジサン!」
しつこく声を掛けてくる子どもに男も諦めて声を返した、背中を向けて寝ているので、どんな顔かも分からないのだけど……
「んだよぉ〜うるせぇ〜なぁこんな時間に」
ダルそうに話す男にも勇次はめけずに頼み込んだ
「オジサン! 僕今日は寝るトコないからココで寝かして?」
勇次は頼み込んだが聞き入れてくれなかった、何度言っても
「家出なんてダメだ!家に帰れ」
というだけであった、勇次は気になっていた、この男まだまだ若い人の声である、25,6歳の人間の声…だから気になっていた事を聞いてみた
「どうしてホームレスやってんの? おじさん」
「…………っ、ガキが首突っ込むんじゃねぇよ…」
若いホームレスはそう言った、ナゼかすごく寂しそうに――
 勇次は結局ココでは寝させてもらえないな、と判断して外に出た…熱帯夜、普段は嫌な言葉も、この日ばかりは暖かく自分を包んでくれる母親のようでもあった…
「野宿やっても凍死はしねぇよな……」
そう呟いたとき、後ろから声がした

「勇次〜〜〜〜〜!」
母親だ! どうやらこの熱さで起きてみると息子がいない事に気づき、慌てて探しに来た様子で、服装も寝巻きであった
 すぐ近くまで走ってきた母親、俺はなにもせずにそこに棒立ちになっていた、
そして母は俺を強く強く抱きしめてくれた――
「勇次、ごめんね…ごめんね…ごめんね……」
母は泣きながら俺に謝った
公園の向こうでは父さんが走ってきている、隣には街中ですれ違ったオバちゃんがいた”チクッたな”そう心で思ったがとても口には出せなかった…
「勇次…ごめんね…ごめんね…」
母は尚も謝り続けていた、俺は何か言わなければならないと思ったが、何を言ったらいいのか分からなかった……
だけどもその間も母親は泣きながら謝り続けて、父親は既に母の隣に立っていた
そして、母親がゆっくりと話てくれた
「勇次…貴方には本当は…お兄さんが…いるのよ…」
泣きながらもしっかりと聞こえる声で母さんは言ってくれた
「でもね…お兄さん……生まれてすぐに…亡くなっちゃって…」
「だから、父さんと母さんは、そのお兄さんの分もお前に立派になって欲しかったんだ」
父親が口を挟んだ、
あぁ、そうか! だから俺の名前、勇次って言うんだ、次男だから、次なんだ…
知らなかった…兄がいたことなんて…
「でも…父さんも母さんもお前に強く当たりすぎていたな…悪かった」
そんな話を聞いていると、家出なんてして両親に心配を掛けた自分がとても申し訳ない気がした、だが、それでも正直な気持ちにはなれなかった
「父さんも、母さんも俺の気持ちなんて分かってくれないんだ…」

「オィ!クソガキ!!」
向こうの方から声がした、先程の若いホームレスだった、彼は家族のやり取りを聞いていたらしく、重々しく口を開いた
「教えてやるよ…俺がホームレスになった訳…」
聞くと彼には小さい頃から両親がおらず、寂しい思いをしながらもがんばって生きて、結婚もして家族もいるのだという…だが、彼は両親から愛を受けずに育ったので、自分の子どもとどうやって接したらいいのか分からないのだと言う、だから会社には行っているが、家には帰れずココで暮らしているらしい…
「お前には家族がいるんだから…十分愛してもらって育てよ……」
そう言うと彼はすぐにテントに戻った
「お前の、お兄さんや……俺達みたいな人間の分もな……」
男はそれだけ最後に呟くとテントの中に消えていった

分かった気がした、家出の意味が…
それはタダの、自己の存在表明…自分も甘えたかっただけなんだ…
探して欲しかったんだ…それだけなんだ…

僕は…両親に抱きついて謝った
         ――ごめんねって――
2004-09-01 16:48:26公開 / 作者:呂路
■この作品の著作権は呂路さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
一応読みきり作品なのでこれで終わりです
がんばって書いたんですけど、誤字脱字とか多そうで、読みにくかったらすいません…
(一度書いたあと全部消去して泣きかけました)
この作品に対する感想 - 昇順
読ませていただきました。卍丸と申します。とても初々しいと言うか、ピュアな印象を受けました。ワタシも家出少年だったので(笑、なんだか懐かしく読ませていただきました。後半の展開が少し急だったかな(特に亡くなった兄が居た、と告白する辺り)と言う気がしましたが、文章自体はすらりと読みやすく好感が持てました。家族愛がテーマの暖かな物語でしたね。次回作も、ぜひ頑張ってください。
2004-09-01 16:51:15【☆☆☆☆☆】卍丸
はじめまして。海帆(うみほ)といいます。家出が自己存在表明……ああ、なんだかわかる気がします。「探して欲しかったんだ…それだけなんだ…」というところ、とても素直に読むことができました。
最後の方、親御さんたちが現れてからもう少し長く読みたかったなぁと思いました。個人的には、ホームレスのお兄さんがツボです。優しいお兄さんですね。
2004-09-01 17:18:48【☆☆☆☆☆】海帆
美帆様、卍丸様、レスありがとうございます!
自分でも読み返してみましたが、お二人の言ってる通り後半は展開が速過ぎて無理やり詰め込んだみたいですよね…
 そんな事がないようにこれからの作品作りは気をつけて執筆したいと思います
(レス誠にありがとうございました…
2004-09-01 21:15:51【☆☆☆☆☆】呂路
自分は家出すると一ヶ月は帰りません(マジで) しかも親とか探しに来ません。笑 まあ身の上話はいいですね、感想へ。全篇を通して家族愛というものについて訴えかけていて。「ああ、やっぱ家族って良いなあ」とか思いました。ただ後半の、兄の話へのくだりが不自然でした。やはり前フリがないと、あまり意味を持たないので、少しでも兄という存在へのくだりを書いた方が面白かったと思います。まあご自身でも自覚しているようですので、深くは言いません。次回作も頑張ってください、それでは。
2004-09-01 23:33:46【☆☆☆☆☆】蘇芳
すいません…下の文章、海帆様のお名前が美帆様になっています…
申し訳ありませんでした…
2004-09-02 11:55:58【☆☆☆☆☆】呂路
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。