『私が此処に居る意味「読みきり」』作者:カックロ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 私などという存在はこの世に必要なかった。
 ただ置物のように、世間の人の目には映らないもの。哀しいものだ。
 私は存在するのか、それが私にはわからない。
 私は自分の存在を確かめる旅に出た。

 私の誕生日は5月6日。その日の記憶を探る。
 人間とは、思い出せないだけで記憶はあるというものだ。
 私は結構記憶力がいい。……うっすらと、映像が見えてきた。
 ほぎゃーほぎゃーっ! 赤ん坊の泣き声。母親の「これからよろしくね」って声。208……あの病室から。
 私はそっと入ってみる。可愛らしいとも、不細工ともいえない変な顔の赤ん坊の私。
「ここに私の存在はある?」
 と、私は問いかける。赤ん坊の私はぶんぶんと首を振った。
「ここにはないのか……」
 私はまた、次の旅に出た。

 目を開けたら、そこは保育園。
「そうか、ここ、私が通ってた保育園」
 ぱたぱたぱたと誰かが走る音がだんだん近づいてくる。ふと下を見ると、ソコには私のスカートのすそをひっぱる小さい頃の私が居る。
「ここに私の存在はある?」
 小さい頃の私はぶんぶんと首を振った。
「そう……」
 私は、きゅ、と目をつぶった。
 次のたびにでるために。

 私が立っているのは、小学校の廊下。
 キャハハハハッ! かん高い笑い声。頭に、キンキン響く。
 遠くを見つめると、廊下の端っこに私を見ている小学生の私がいる。
「ここに私の存在はある?」
 遠くに居る小学生の私は、「いいえ」とつぶやくかつぶやかないかくらいにほんの少し口をあけいった。そしてぶんぶん首を振る。
「……」
 そして、また。次の旅。

 ここはグラウンド。中学校の。
 グラウンドで野球のマネージャーをやってる私が居る。こっちを見てる。
「ここに私の存在はある?」
 野球部の私はじっと私を見つめる。そしてまた首を振る。
「ここにもないのね……」
 まだみつからない。……あれっ?

 わ・た・し・が・い・な・い

 何で気づかなかったんだろう。
 ここに、いたのに。
 あってきたのはどれも、「過去の私」
 じゃあ、今の私は……
 ここにいる。
「見つけた……私が此処に居る意味……」
 すっと目を開けると、そこは私の部屋。鏡に映った私。
「ここに私の存在はある?」

「……見つけたよ」
 聞こえた気がした。見えた気がした。
 絶望という階段をおり始めていた私。
 それを救ったのは、私。
 道を正してくれたのも、私。
 今の、私。

 私が此処に居る意味。それは私が生きるという証拠だった。
 今まで見てきた「私」がそうだったように……


終わり
2004-08-30 18:29:51公開 / 作者:カックロ
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