『夏の暑さに誘われて』作者:夜行地球 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 あつい。
 アツイ。
 暑くて喉が渇く。
 渇きを癒したくて堪らない。
 水なんかではこの渇きは癒せない。
 そう、アレを飲まなくては。
 アレさえ飲めば私の渇きは癒される。
 しかし、あんな事を繰り返していたら、いつか危険な目に遭うに違いない。

 次第に喉の渇きは強くなり、気がつけば私は夜の住宅街へ繰り出していた。
 暑くて堪らないのは私だけではないらしく、窓を開けたままの家が見つかった。
 都合が良いことに照明まで消えている。
 こんなチャンスは滅多に無い。
 なるべく音を立てないように、そっと窓から侵入した。
 人の起きている気配が無いことを確認してから、部屋の様子を観察する。
 白を基調とした部屋のあちこちにぬいぐるみが鎮座し、いかにも女の子の部屋という印象。
 ベッドに寝ている人間を見てみると、やはり十代前半の少女が眠っていた。
 無防備な表情ですやすやと幸せそうな眠り。
 その寝顔を見ていると、これから自分がやろうとしている行為の残酷さが身に染みる。
『ごめんなさいね』
 心の中でそう呟くと、私は少女の首筋に口を当てた。
 瞬時に血管の位置を探り当て、少女の肌の中に口を沈める。
 ジュル、ジュルッ。
 少女の血液が私の喉を潤していく。
 なんて、暖かく。
 なんて、甘美で。
 なんて、背徳的な赤い誘惑。
 しばしの余韻を楽しんだ後、私は口を離した。
 幸い、少女には気づかれずに済んだみたいだ。
 彼女が目を覚ませば、私に血を吸われた後遺症に気づくだろう。
 彼女は、後遺症に耐え切れずに自らの体を傷つけてしまうかも知れない。
 改めて自分の罪深さを痛感する。
『ごめんなさいね』
 再び心の中で呟いた。

 そっと部屋を出て、廊下に向かう。
 喉の渇きは完全には癒えていない。
 少女相手だったので、やはり遠慮してしまったみたいだ。
 あと一人、誰かの血を吸わないといけない。
 この家に彼女一人しかいないなどということは無いはず。
 ほかの部屋を調べてみることにした。
 一つ目、物置部屋。
 ハズレだった。
 二つ目、客間。
 また、ハズレ。
 三つ目、寝室。
 やっと当たりだ。
 どうやら、少女の両親の寝室のようだ。
 だが、何か嫌な予感がする。
 ここにいてはいけないと、嗅覚が告げていた。
 この部屋からは早く出た方が良い。
 必要な量だけ血を吸わせてもらったら、早くここを立ち去ろう。
 私は相手が眠っていることの確認さえせずに、男性の方に近づいていった。
 急いでいたとはいえ、それはあまりにも無茶な行動だった。
 バチン。
 その音に空気が震えた。 
 その瞬間、物凄い殺気が私に襲い掛かる。
『まずい、この男はハンターだ』
 今更ながらその事実に気づいた。
 私たちの種族を毛嫌いし、その抹殺に情熱を傾ける人間を、私たちはハンターと呼んでいる。
 ハンターの領域に踏み込んでいって、二度と帰って来なかった同胞は数知れない。
 数少ない生還者の話によると、ハンターの殺害方法は残忍で、殺された同胞のほぼ全員は全身打撲と内臓破裂によって死亡したらしい。
 バチン。
 また、近くで轟音が鳴る。
 私は、ハンターの射程距離から逃れるため、全速力で部屋の扉へ向かった。
 しかし、相手の方が一枚上手だった。
 ハンターは私が到達する前に扉を閉め、部屋の照明をつける。
「死ねっ」
 照明によって私の姿を視認したハンターは、的確な攻撃を繰り出してきた。
 バチン、バチン、バチン。
 どれも命中すれば、即死ものの攻撃だ。
 すべてを紙一重で避けながら逃げ道を探し続ける。
「もう逃げられないよ」
 ハンターは薄ら笑いを浮かべている。
 気づけば、私は部屋の隅に追い詰められていた。
 どうやら今までの攻撃は、私の逃げ場をなくすためのものだったようだ。
 バチン。
 全身に衝撃が走る。
 内臓が破裂したことがリアルに感じられる。
 せっかく吸った血も、全て流れていってしまった。
 体が動かない。
 意識ももう消えてしまいそうだ。

「どうしたのー」
 私たちの死闘の音で目が覚めたらしい少女が、ハンターである父親に話しかけている。
「何だ、優子も起きちゃったか。すまないな」
 少女の首筋を見ると、私に血を吸われた後遺症があらわれていた。
 ハンターもそれに気づいたらしく、私から流れた血を見てから、少女に声をかけた。
「こいつにやられたのか。可哀相に」
 私が死んでも彼女の後遺症は残る。
『ごめんなさいね』
 最期に心の中で呟くと、私の意識は完全に消え去った。

「それにしても忌々しい蚊だな。蚊取り線香を焚いていたのに部屋に入ってくるなんて。優子、お前は首にムヒでも塗っておきなさい」

 <終わり>
2004-08-26 19:52:47公開 / 作者:夜行地球
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■作者からのメッセージ
最近、吸血鬼をテーマにした小説が増えてきたなーと思って書いてみました。
初投稿なので、感想を書いてもらえるとうれしいです。
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