『『北中の悪魔』 written by Mio Saeki』作者:桐生七紫 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約10.19枚

 県立北神(ほくしん)中学校、通称北中。文章じゃ解らないから言っとくけど、読みは「きたちゅう」じゃなく「ほくちゅう」。ものすごくサッカー部が強くて、文化部が音楽部と学芸部の二つしかない。他校はもっと多種多様な文化部があるそうだけど、そんなことは別にどうだっていい。
 あたし、こと冴木澪(さえき みお)は、こんな感じの学校で、ごくフツーの女子中学生として2年間過ごし、今年でついに3年生となった。みんなと同じよーに、みんなに合わせるよーに、制服のスカートの丈を少し膝上にしてみたり、ストパーをかけてみたり、等々……色々やった結果、今やあたしは、学校内ならドコに行ったって全く目立たない、「その他一般」の生徒の1人となっている。
 まぁ、ただ1つ違うことがあるとすれば…


   ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ(足音)


 ……ホラ、聞こえてきた。
 あたしは半ばうんざりしながらも、鞄に教科書やらノートやらを突っ込む作業を続けた。
そう、今は下校時間。帰りのホームルームが終わって、それぞれ部活に行ったり帰ったりする時間。…ちょっと考えれば、次の場面が解っちゃうくらい、ありきたりで単純なワンシーン。


     ガラッ(ドア開けた音)

    「みーおーっ! 迎えに来たぜーっ!」


 ……そう。言わずとも解る、↑コレ(酷)のこと。
 あたしは反射的に「来んでええわっっ」と叫ぶようにして怒鳴り、唖然とする周囲の人の目を気にしないふりをして、鞄に教科書の類を突っ込む作業を続けた。廊下ではあたしに思いっきり拒絶された彼、コレ、こと飛鷹匠(ひたか たくみ)がモノスゴイ暗いオーラを流出させ始めた。最早それは目に見えるくらいの密度で流れて……ぁ、ヤバ、教室に入ってきた。
「澪ぉ、冷たいねぇ。折角カッコイイ彼氏が待ってるってのに」
 今のは友人の宮下愛理(みやした あいり)。去年くらいまで飛鷹匠ファンクラブ(通称・親衛隊)のメンバーだったんだけど、ふとしたキッカケから、匠と同じサッカー部の岩城誠(いわき せい)に惚れちゃって、「当たって砕けろ!」タイプの彼女はそれからすぐに告っちゃって…で、現在、二人は所謂「付き合ってる」っていう関係になっている。
「彼氏じゃねぇって!」
 あたしは思いっきり否定し、ちゃっちゃと鞄の留め具を留め、鞄を肩に担ぐ。相思相愛っていいね、愛理。なんて、内心でちょっぴり岩城と愛理を羨んでみたりしながら。
 最初に言ったとおり、北中はサッカー部が強い。それは一人一人の技術の高さだけじゃなく、チーム全体の雰囲気の良さ……ミスをしたって、それを引きずらせない雰囲気があるからだ、と思う。
……何でこんな話をここに持ってきたかっていうと、何を隠そう、彼…飛鷹匠こそ、そんな北中サッカー部を率いるキャプテンだからだ。他校では「北中の悪魔」って恐れられてる、と聞いたことがある。
いつもはふざけてて軽い感じの彼、けど試合が始まれば、それは敵にとっては悪魔そのもの。実際に一度見たことがあるんだけど、最早それはいつもの匠じゃない。サッカーの鬼だ、あれは。北中の悪魔、っていうあだ名も頷ける。カッコイイし、文武両道……とはいかないけど、サッカーが北中の誰よりも巧いのは確かだ。シュート率はほぼ100%といっても過言じゃないと思う。
……あたしに思いっきり拒絶されて廊下から物凄い密度の暗いオーラを流出させている奴と同一人物とは、ちょっと信じられない。
「ホレ澪。ダーリンのとこ行ってやんなって。かわいそーに、いじけてんぞ〜?」
しかしコイツ、顔だけじゃなく声まで笑ってやがる。他人事だと思って。
「だから、彼氏でもなければダーリンでもねぇって;」
即答で弁解し、あたしは教室を出るべく、颯爽とドアに向かう。
愛理にじゃあね、と手を振ろうと思って振り返ってみると、クラスの男子が頼むような目でこっちを見てる……ぁ、何かテラスの方から殺気が……(汗)多分こりゃ親衛隊だろう。ううむ…怖い。
「……んじゃぁ仕方ない、哀れむべき生贄は、『北中の悪魔』の餌食となってきましょうか…」
はぁ、と溜息をついて、あたしは相変わらず暗いオーラ流出中の彼の元へと向かう。
「おーっっ! 逝ってらっしゃーいっっ!!」
 愛理が思いっきり明るく言い放つ。こいつ、絶対楽しんでる。ニコニコ笑いながら手を振る愛理、そしてそれに見送られるあたし。もう怒る気にもならない。あたしは諦めて、後ろ手に手を振った。



「……、お待たせ、匠」
 あたしは廊下でいじけてる匠に声を掛ける。すると一瞬にして変わる匠の表情。こいつ、ホントに中3か? 幼稚園児じゃないのか? こんなのに親衛隊がいることすら信じられなくなってくる。けどもう…突っ込む気にもなれない。最早この動作はお馴染みのものとなってしまったから。
「よーっし、じゃあ帰り道デートといくかぁっ(ハート)」
「いや、部活はどぉしたよキャプテン」
「……ぁ」
 おいおい、と突っ込みを入れつつ、照れ隠しのように笑う匠を眺めていた。てか、ちゃんと部活に行ってくれないと、彼ら(サッカー部員、特にクラスの男子の)が可哀そうだ。あまりにも。
……で、結局匠は部活に行ってくれることになり、あたしは1人で帰れるかと思いきや、近くで見学させられることになった(「俺のカッコイーとこ、澪に見しちゃるからっっ」by匠)。断ろうと思ったけど、何故か断れなかった……。
 辺りを見回せば、やっぱりいたいた、親衛隊。毎日「キャー○○様―っ」とか「○○くーんっ」とか、同じよーな声援を黄色い声で送り続ける。よくもまぁ、毎日飽きないこと。別な意味で感心しちゃう。……まぁ、サッカー部、カッコイイ人多いからねぇ。あたしのタイプじゃないけど。(そもそもあたしに好きなタイプっているのか? という疑問には、目を瞑ることにしよう。)
中でも一番の人気は、何と言ってもキャプテンの匠だ。「俺の彼女は澪だっっ」と公言しているにも関らず、この人気は一体何よ。って。
フッとグラウンドの方を向いたら、匠がこっち見てニッコリと笑いかけた。ドキン、と心臓が跳ね上がる。ビックリした。いきなり目が合うんだもん。
1つ上の姉・雫(しずく)の話によると、匠のカッコ良さは、何とビックリ……入学当初から評判になっていたらしい。(同じ学年なのに、全然気付かなかった。)漫画に出てくる「カッコイイ人」ほどじゃないにしても、彼に憧れたりする人数は相当なものだったらしい。
あたしらが2年生になって後輩ができると、「匠先輩ファンクラブ」とかってやつができたとか。それが今の親衛隊のもとになったとか。(別に興味はなかったんだけど……雫姉に「今3年の飛鷹匠って知ってる?」って聞いたら、長々と彼についての情報を語ってくれた。っていうか雫姉、どっからそんな情報を手に入れたんだ?)

 そんな彼が、ある日突然、何の接点も可愛らしさもないし目立ってもないあたしに、「ずっと好きだった、付き合ってくれ」みたいなことを言ってきて。ビックリして固まったあたしが「え、えーと」とか言ってる間に、何か勘違いされて。
で、「付き合ってる」っていう関係まがいの、今の状況に立たされているわけだ。そういう面で、ホント……苦労はつきない。親衛隊には目をつけられるし。まぁ、殆どが後輩だからね。先輩に目をつけられるよか、マシだけども。菜穂を敵に回したのは痛かったな〜。
でも……別に匠の傍にいるの、嫌じゃない。匠は匠でいっぱい話題持ってるし、話面白いし。一緒にいて退屈しない。…ってことを、この前愛理に言ったら、『やっぱ飛鷹君のこと好きなんじゃな〜い?』なんて言われた。
いや、んなわけない。鞄に道具を入れるのが遅くなった、ってのも指摘されたし。それは薄々、あたし自身も自覚してはいるんだけど。愛理に言わせれば、『さりげなく、かつ無意識に、愛しのダーリン・飛鷹匠を待ってる』んだそーだ。それこそ、有り得ない。あたしに限って。(……ていうか愛理、ダーリンっていうのをやめて欲しい。)



    ピッピーーーーッッ


 考え事をしていたあたしの耳に、けたたましく鳴り響くホイッスルの音が飛び込んできた。
どうやら部員を2つのチームに分けて練習試合をやってたらしい。みんな汗だくだが、どっちが勝ってどっちが負けたのか解らないくらい、良い顔をしてる。
……と、匠がこっち見て、ブイサイン出してニッコリ笑った。多分勝ったんだろう。凄いシュートでも決めたのか?
……ぁ、匠の活躍見てないや。帰り道でその話題振られたらどうしよう。って考えてる間に、匠はどっかに走っていった。
 でも、練習試合も終わったってことは、もうすぐサッカー部の活動も終わるんだろう。一般の部活動が終わるのも、もうそろそろのはずだし。そしたらまた匠が「澪―っ!」なんて、語尾にハートをくっつけて言いながら、あたしのとこに走ってくるに違いない。部活後の、疲れと充実感の入り混じった、実にいい笑顔を浮かべながら。
その匠に、「好きだよ」なんて言ってやったら、匠は一体どんな顔をするんだろ。言ってみよぉかな?
「匠、好き―― ―……って!! ちょっと待て、何考えてんだあたしはっっ!!!////

    『澪も鈍いねぇ、そんなん恋に決まってんじゃんっ!』

 不意に愛理の言葉を思い出す。あたしが匠に惚れてる? ……冗談じゃない。そんなの、あたしは絶対に認めない。この胸のトキメキは、きっと……『北中の悪魔』飛鷹匠が、あたしにかけた魔術のせいだ。絶対そうだ。……と、信じたい。

                                           End..
2004-08-22 20:32:20公開 / 作者:桐生七紫
■この作品の著作権は桐生七紫さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初投稿作品を、ちょちょいっと直しました。
テーマ“初恋”、「もしや実話?」なんて思えるような感じにしたつもりなのですが…如何でしたでしょうか。
厳しいご意見(指摘)・ご感想、お待ちしてます。
この作品に対する感想 - 昇順
読ませていただきました。『初恋』をテーマにした明るい雰囲気の話ですねw 自分は恋とは無縁です(遠い目
ただ、気になることがあります。『v』や『V』などの文字は、使わない方がいいと思います。メールなどでやり取りするをする場合などでは良いのですが……。こんな自分が生意気なことを言ってスイマセン。次回作を期待します。
2004-08-21 21:21:59【☆☆☆☆☆】疾風
なんともロマンチックな話ですね!「初恋」とはほろ苦いものです 次回作も楽しみにしています!よかったら私の投稿作品も読んでください!ご意見をいただければ幸いです。宜しくお願いします。
2004-08-21 22:14:59【☆☆☆☆☆】大國 心 
<疾風様>はわわ…;;ご指摘、有り難う御座います。時間があるときに直したいと思います。(ぉぃ。)恋とは無縁だなんて、そんなこと仰っちゃいけません(笑)。感想有り難う御座いました。
<大國 心様>ロマンチックですか!(笑)そう言っていただけると嬉しいです。感想有り難う御座いました。
2004-08-21 22:45:05【☆☆☆☆☆】桐生七紫
初めまして、読ませていただきました。なんだかもどかしい感じの初恋の雰囲気がでていて良かったと思います。あと、「…」は二つ組み合わせて「……」にした方が更にいい感じになると思います。生意気なこと言ってすみません。それでは次回作も頑張ってください。
2004-08-22 00:01:55【☆☆☆☆☆】とと
読ませていただきました!この甘酸っぱい感じはもう!!なんだかこっちがドキドキしてしまいました。匠がモテル理由が分かるようなとても魅力的な人柄も伝わってきました。個人的に好みなお話でした!!次回作楽しみにしています!!
2004-08-22 09:42:59【★★★★☆】あき
時間があったので(笑)、ご指摘のあったところ直しておきました♪<とと様>雰囲気出てます?^^ご指摘&感想、ありがとうございますv<あき様>好みですかv拙文お褒め戴き光栄です。(笑)感想ありがとうございますv
2004-08-22 20:36:40【☆☆☆☆☆】桐生七紫
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。