『少年A』作者:蘇芳 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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夕闇に響く、一発の銃声。
最初はただの衝撃。そして顔面にぶち当たった物が床だと理解するのに、数秒かかる。
やがて襲い来る痛みの奔流。
情けなく叫び声を上げ、悶えるようにして転げまわる。
動けば動くほど血は溢れ出し、痛みはやがて身を焼く熱に変わる。
死ぬんか。
俺はもう死ぬんか。
死にたない。
生まれて初めてそう思ったのを、よく覚えている。

「なんや翔ちゃん、もう死んじまうのか?」
旧友の冷たい、まるで感情というものが宿らない視線が俺を刺す。
霞がかった視界で捕らえた物は、そいつの手に握られた黒い塊。
よくドラマなんかで見る。でも外国の警察じゃあ、あんな玩具なんか使わん。
日本の警察だけが使ってるニューナンブとか言う銃だ。
装弾数は六発。重量は1キロちょい。
45口径の鉛の軟弾頭を撃ち出す奴だ。
「? コイツか?」
俺の視線は、どうやらそれに注がれていたらしい。
なんで高校生が銃持ってるとかいう理由じゃなくて、なんで実銃なんつーケッタイなもん持ってるのか。
そんな単純な理由で。
「コイツなあ、警官にもらったんや」
「……っ」
貰う? 警官に?
「なんやバイク乗っとったらギャーたれてきよる。むかついたもんで一発殴ってやったら倒れよってな。
なんやメンドくさなったもんで、マウントとって殴ってるうちに動かんくなってな。蹴っても起きへん、そいで銃パチって逃げてきたんよ」
そして再び俺のほうに、その銃口を向けた。
ライフルの彫り込まれた銃身が微動だにせず俺を捕らえ、その撃鉄がガチリと起こされる。
シリンダーが回転し弾丸を装填。セーフティを解除し、その引き金に指をかける。
ホントにエアガンと変わらん。
撃つ時も、エアガン感覚で撃つんやろな。
そないな事して楽しいんか?
俺はおもろないと思うねんけどな、どうなんや?
「…ぃ……なん、よ」
「聞こえへんわ、マッポ来る前に撃たせてもらうで」
押し込まれる引き金。
甲高い銃声と、鼻をつく硝煙の匂い。
飛び散る脳漿と鮮血が地面に花を咲かせ、司令塔を失った体がビクビクと痙攣する。
頭の上半分を消し飛ばされ、もの言わぬ俺の体を爪先がつつく。
「なんや、もう死んじまったんかい」
つんつんと何か得体の知れないものでも突付くように、爪先で死体を蹴る。
ああ、ホントに死んでもうたか。
ほんま、楽なもんやな。
ただ人が死ぬところを見てみたかった。
アニメ、ゲーム、ドラマ。空想の世界じゃ、いくらでも人なんざ死による。
そんなんやない。ただ純粋に死体ゆーものが見とうて、バカスカ撃ってみた。
知らないガキ、知らないオッサン、知らないオバン、知らない爺さん、知らない婆さん。
知らない人間をいくら殴っても、いくら殺しても何も感じへんかった。
ただ逆に虚しい。
頭上半分ふっとんで死によるか、胸に風穴空くか。
そんなもんや無い。
死体ゆーもんは、もっと綺麗なもんやった。
少なくとも、俺のしっとる死体は綺麗なもんや。
んで残った一発、俺のよく知っとる奴に使った。
おかしなもんや。
死体は綺麗なんや、せや、今しがた死んだ奴なんざ、最高に綺麗なんや。
でも、なんなんやろうな。
この頬を伝うのは、一体なんなんやろな?
誰か教えてくれや、なあ後生や。
頼むで教えてくれや、なあ翔ちゃん。
声聞かせてくれや、もう一度、俺のこと睨んでみいや。
なあ、口あらへんやん。
口どないしたんよ。
目もあらへんやんか、これじゃ見えへん。
耳も、鼻も、なんもあらへんやんけ。
どないしたんや? なあ、答えてくれや。
あ、俺が握っとるのって、銃か?
せや、警官殺してもうたんや。んで盗ってきたんや。
じゃあ、なにか?
翔ちゃん殺したんは俺なんか?
いんや、んな事あらへん。
確かにオッサンやらは殺した、でも友達殺すなんてしいへんよ。
でけへん、俺には、んな事でけへん。
なあ、なあ。
起きてくれよ、また二人で棒高でもやろうや。
翔ちゃん凄かったやん。5かそんくらい軽く跳んで、先公らも誉めとったやん。
翔ちゃん、そんときだけ生きてるって顔しとったやん。
それに翔ちゃん死んだら、サツキどうすんねん。
翔ちゃん、サツキと居る時だけは幸せな顔しとった。
サツキも幸せな顔しとった。なんや、泣かせへん言うたやんか。
翔ちゃん壊れてもうたら、サツキが泣くで。
なんや、よお聞こえへんよ。
翔ちゃん、声、聞かせてくれや…。






翌年某月某日。
当時17歳の少年Aに、死刑判決。
三浦裁判官長曰く、「反省の色が見られない。証拠、事実。ともに揃った状態で嘘を吐き続けた事は、遺族や被害者に対しての冒涜である。この死刑判決が間違っていると言うのであれば、自身の良心に尋ねてみればいい」
そして間を置き、
「被告人、少年Aを死刑に処す」
そして死刑執行。
少年Aこと茨木翔哉は、十三階段を上り、首に縄を掛けられても言いつづけた。

「なあ、翔ちゃんに会わしてくれや。もっかい跳びいくんよ、翔ちゃん凄かったやん。もっかい跳ぶべよ、なあ翔ちゃん」

end
2004-08-19 20:55:51公開 / 作者:蘇芳
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■作者からのメッセージ
サイコ? うーん…不明だす。
なんつーかオチガ意味プーって感じ。
酷評でもいいので付けてくださいm(_ _)m
この作品に対する感想 - 昇順
読ませていただきました。あまりにもリアルで重厚な描写に、正直ビビりました。そして、とても現代性を捉えたストーリーであったと思います。深いテーマですね。最後の犯人の叫びにも似た哀願に、なんともやるせない哀しい余韻が残りました。殺された翔ちゃんから犯人の少年に視点が切り替わるところが、少しわかりにくくて一瞬面食らいましたが、独特な筆運びによる凶行後の犯人の心情描写等は素晴らしく、真に迫るものがありました。少年犯罪と言う重いテーマを、見事に捉えた短編であったと思います。
2004-08-19 23:24:44【★★★★☆】卍丸
この標準ではない語り口調にずっしりとくるものがありますね。こういう方向に重い物語を始めて読んだ気がします。特に心情描写が本当にすげえです。深い物語、ありがとうございました。
2004-08-20 18:24:46【★★★★☆】神夜
人の生とか、死とか、もっと真剣に考えたいと思いました。きっとわたしも実感できない部類の人間だとおもいます。実際私が人を殺してしまったら。ということを想像しました。でもそこにリアルはありません。きっとそういうことなのだと感じました。
2004-08-22 10:04:46【★★★★☆】あき
おもしろい。おもしろい。好き。この話。リアルで。
話し方も、ななが普段話してる言葉に近いから、なんか余計リアル。
んー、関西圏?それはさておくとしても、チャカ無意味にぶっ放すのは阿呆。
最近の若い子は、農薬漬けだからああなるのでせうか。
2004-08-30 11:27:22【★★★★☆】シヅ岡 なな
計:16点
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