『森と林』作者:小田原サユ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 森と林
                                   

 家の近くに林がある。そこは嘗て森だった。


 昔、私の家の近くに3人姉妹の女の子達が住んでいた。その子達と私と姉は仲が良かった。       
 いつも私達は同じ場所に居た。そう、森。そこは、人通りの少ない場所にある。
 毎日、日が暮れるまで帰らなかった。時には、8時頃まで遊んでいて親に叱られた事も。
 森はいつでも広くて、木の香りがして心地良い。夏には夏の、冬には冬の景色が感じられる。幼い私は、ずっとこのままでいられると思っていた。


 しかし3年前、仲が良かった子達は引っ越してしまった。私は別れ際に会えなかった。何故、会えなかったのかは覚えていない。そして、転校する少し前にくれた白いマフラーだけが手元に残った。
私は、何も言えず、何も渡せないまま別れた。


 気が付くと時間は過ぎ、いつの日からか私は森へ行かなくなった。勉強の事、部活の事で時間が無かったから。


 今年の3月30日、猫が一匹亡くなった。

 死体は綺麗だった。生き物は魂が無くなると物になってしまうらしい。猫の少し開いた瞼を手で閉じて、少し触った。どんどん冷たくなっていくのが判る。


 その日、私は森に行った。手にはスコップと新聞でくるんだ猫を持って。
 景色は昔とほとんど変わらない。ただ、とても狭く見える。雑草が前より少し生い茂っていた。森は、絶対的な何かが違っていた。あの日の場所は、林へと変わっていた。
 私は日の当たる場所を探した。それはすぐに見つけた。新聞紙を近くに置き、重いスコップでそこを掘る。涙はでなかった。途中、隣のおばさんに声を掛けられたが無視をした。
 小さな穴が掘れた。そこにそっと猫を置く、そして、もう一度触ってみる。さっきより冷たい…
私はスッと立ち上がり、見えなくなるくらいまで土をかぶせた。その時、昔の事を少し思い出した。


 小学校5年生の時、私はお祭りが大好きだった。毎日がお祭りだったら良いのに、と考えていた。その夏の日も、私は友達と一緒にお祭りへ行った。夜店の金魚すくいやかき氷など、とても魅力的で目を奪われる。その日も楽しいはずだった。
 その日、私は浴衣を着ていた。お祭りだけあって、人は多かったが、浴衣を着ているのは少なく小さい子ぐらいだった。もちろん、友達も着てはいない。
 突然、私は恥ずかしくなった。周りの人の視線が笑っているように感じて、一人だけ浮いている感覚だった。
 その日から私は大のお祭り嫌い。周りばかり気にするようになった。


 しばらく私は、その場でボーっとしていた。この場所だけは絶対に変わらないと思っていた。裏切られたような気がした。


 林を出て家に帰った。帰り道は、軽くなったはずの腕が重い。
 家に付くと、姉が帰ってきていた。「猫が死んだ」と姉に言うと、姉は何も言わずただ泣いていた。私はその場に居づらくなって二階に行った。


 ベットに横たわり、同じ事ばかり考えている。「なぜ私は泣いてないんだろう」と。嫌なヤツだなぁなんて。

 
 不意に、森の記憶がよみがえる。それと同時に、猫の横顔が見えた。
 今も、目をつぶれば顔もにおいだって思い出せる。手を伸ばせば感触も伝わってくる。幻覚じゃない。
 
 何も忘れたくないし、忘れられない。今日は、今だけは。


 全ては変わりはしない。そのはずなのに…私は…どうして…

          
 夕日が沈んでいく。

 窓から風が吹いて、瞳から雫が落ちた。


fin
2004-07-28 15:44:42公開 / 作者:小田原サユ
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■作者からのメッセージ





この作品、実は学校の夏休みの宿題の課題の作文…だったんです。
「大切にしたいもの」というテーマの中に「ふるさとの風景」という項目があって、書き始めたんです。でも、書いていく内に、コレは小説の方が良いなぁと思って小説にしてみました。
作者未熟者なので、文章的におかしいところが幾つかあるかもしれません。その時は、ビシッと叱ってください。
では、ご意見・ご感想待っています。
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[簡易感想]文句無しのおもしろさです。
2013-08-28 14:58:53【☆☆☆☆☆】Iglesia
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