『不思議なブリキの店』作者:ヤシの実 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 どこの町にでもある様な街角。
そこの、とある中学生。彼が、いつもの帰り道を歩いていた。
 ふぅ、とため息をついた、といっても、彼は嫌な事がある訳でもない。
彼は、とてつもなく『暇』だった。
 理由は、『部活に所属していない事』だった。
部活に所属していない理由というのは、彼は手先が器用なわけでもなく、運動も
できる訳ではなく、そして何より、彼は『疲れる事』を何より嫌だったからだ。
 しかし、家にいても、特に面白い事はなかった。むしろ、楽しくはなかった。
母親が『勉強しろ』の一点張りだったからだ。
 家に帰っても、いつもの様に、『勉強しろ』だろうなぁ。
そう思いながら、いつもの帰り道を、なんとなく見回す。
 今まで気にもしなかった、ビルの間のむこうに、小綺麗な店があった。
裏路地に入る分類の位地にあるな。大丈夫か?
考えるよりも早く、自然とそっちに足を進めていた。
じめじめとした、ビルの間を歩く。両側のビルが大きく、なかなかそこに辿りつかなかった。彼は、それがかなり長く思えた。いや、実際にもの凄く長かったのだ。
 ビルの間を抜けると、周りは『裏路地』と思えないほどに明るかった。
周りには見向きもせず、一番にその店の前へ来た。
 店は、大きい訳ではなく、こぢんまりとした、店で、外は白い壁だった。
だが、見かけとは対照的に、中は木でできた、こげ茶色だった。
 ガラスのドアのタブを回す、すると、中から木の独特な香りがした。
中に置いてある物は、どうやら昔のブリキでできたおもちゃ、電動のブリキがたくさん並べられていた。大きな物は二メートルを越した物があり、小さなものでは、五センチ程の物もあり、ブリキの時計、車、飛行機等、たくさんある。
「おや、珍しい、お客さんかね」
ふいに声がし、そっちへ急いで顔を向けた。
「あーあー、そんな驚かんでもいいよ、一応店主の者だよ」
その声の主は、腰が軽く曲がり、手にはパイプを持った、男の老人だった。
「あ・・・お邪魔してます」
彼は言い、軽くお辞儀をする。
「可愛らしい、お客さんだね」
老人が棚の上を見て言った。
 誰にふってるんだ?と思うより早く、にゃーお、というネコの声がした。
ネコがいたのか、と思いながら、ブリキの方へ眼を戻した。



☆★☆★



 一通り、眼を通し終えると、彼は何時間経っただろうか、ブリキの時計へ眼をやる。ブリキの親指が五を差し、人差し指が、四十五分を差していた。
そろそろ帰らなきゃな、と思い、彼が一番気に入ったサルと木の時計を持った。
 それは、時計の針にサルがぶら下がった物だった。
一時間毎にうきー、という様な金属音がする、ちょっとヘンな物だった。
「これ頂けますか?」
パイプをふかしていた老人がその時計へ眼をやる。
「ああ、それかね。ええ、いいですとも。持ってきて下さりますかな?」
はいと彼は答え、老人のほうへ持っていく。にゃお、ネコが一鳴きする。
「それは、八百円だよ」
彼が、ポケットへ手をつっこむ。
カサ、という紙の擦れる音と共に、千円札が出る。
 その千円を老人に手渡すと、老人はそれを木でできた机の、ブリキでできた、箱へ入れ、カチ、カチとゼンマイを回す音がする。
 机の真ん中に穴が開き、ブリキの銀色の箱が見える。
彼は眼を見開いて、それを凝視というべく眼で見つめた。
「すご・・・い・・・ですね」
はは、と老人が微笑み、パイプを口にやる。
彼は少し何かをためらうような仕草が見えたが、そのお釣りを受け取る。
「お客さん、時間はあるかね?」
老人優しい声で、話し掛けてくる。
「えっ、ええ、少しだけなら」
 それを訊くなり、椅子から立ち上がり、机の後ろのドアへ歩くと、彼を呼び寄せる様に、指をくい、くいっと動かす。
「?」
不思議そうな表情で彼が早足で、老人の後ろ側へ立つ。
「じゃ、いくよ」
ガチャリ、とドアのタブを回し、老人が中へ入る。
 ハアっ、と彼が感嘆の息を漏らし、数分眺め続けた。
ドアの向こう側には、人間が二人乗れる位の、飛行機があった。
といっても、ほとんどがブリキなのか、コックピットが物凄く小さい。
「これって・・・」
ああ、老人は応え、
「飛行機だよ」
と懐かしむような声を漏らす。
「これって、飛ぶんですか?」
彼は、何も考えずに頭が思ったダイレクトな言葉が口から自然と出た。
「ああ、一応はね」
「す・・・ごい・・・。いつか、飛ぶのを見さしてください!」
期待に満ちた声が彼から発せられる。
「ああ、いいよ。いつか、飛ばしてあげよう」
「ありがとうごさいます!」
「おお、もうこんな時間か」
老人が腕時計を見る。彼もさっき買ったブリキの時計を見ると、今は七時を差していた。
「あ、やっべ。帰ります」
彼が、ブリキの時計を鞄に入れる。
「ああ、はいはい」
「では」
言うなり、一目散に家を目指して彼は、帰った。



★☆★☆



次の日、の放課後、昨日と、同じビルの間をふと見る。
「・・・?」
昨日と光景が違った。その空間には、じめじめとしたビルの向こう側。
そこには、すぐに壁があった。
急いで、そこへ彼は走った。できる限り全速力で。
 ぺた、ぺた、と壁を触るが、消える訳もなく、そこには壁しか、なかった。
「あれ・・・? 昨日は・・・ここに・・・店が・・・」
と独り言が舌を突いた。
「・・・」




<その後、あのブリキの店を見た者は誰もいない>

2004-07-20 14:48:06公開 / 作者:ヤシの実
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■作者からのメッセージ
短編書きましたー。。
この頃、忙しくて急いでパパッと仕上げた物です。グダグダですみません^^;
感想等、頂けたら嬉しいです。では
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは。初めまして。読ませて頂きました。えっと、少し指摘させていただきますと、改行した次の行は1文字開ける事をお忘れなく。出来ているところもあるのですが、なぜか出来てないところもあるので…多分、ワードか何かで書いてらっしゃるんじゃないですか?そうすると、ワードでは一文字開いているのに、載せると1文字空いていないことがよくあります。ご注意下さい!では、感想にうつりたいと思いますが…とりあえず、少しはっきり言わせていただきますと「投げっぱなし」といった感じがします…(^_^;ゞ。私の、読みが浅すぎるのかも知れませんが…とにかく、話が途中で終わってしまっている感じなんですね。だから、微妙な感覚が残りました。ここでもう少し、おじいさんと男の子のからみをつけると良かったと思います。千円をすっ、と出したところも、そこでおじいさんが何か言うとか、むしろ、お金がなくて困る、という風でも良かったかも知れません。これは、私の感性だけの話なので何とも言えませんが、もう少しだけ変化を与えて欲しかった、と思いました。これからも頑張って下さい。
2004-07-20 18:39:56【☆☆☆☆☆】冴渡
拝読させていただきました。店の中の雰囲気は大体読み取れましたが、全体的に、いささか描写が浅いと思います。少々くどくなるかもしれませんが、指摘をさせていただきます。「そこの、とある中学生。彼が、いつもの帰り道を歩いていた。」の文章なのですが、「そこの」の「そこ」とはいったいどこのことでしょう。指示語が出てきた以上は、その指示語を直接的に表す文章(もしくは語句)が大抵は前にあるはずなのですが、適当なものが見つからないように思います(「街角」にしては雑過ぎるようにも思いますし)。「そこ」を指し示す文章がないために、「そこの」が宙ぶらりんになって、何だか変な感じがします。「いつもの帰り道」にももう少し描写がほしかったかなぁ、と。人通りは多いのか、騒がしいところなのか、建っているビルはどれだけの大きさのものなのかなど、色々と描写ができるかと思います。あと、時間の経過の仕方がしっくり来なかったかなぁと。お金を払った時間が五時(四時かな?)四十五分で、そのあとに飛行機を見る。そして帰る時間が七時。飛行機を約1時間ほど見ていたということになりますが、おじいさんと彼とのやり取りを見ているとそんなに時間の経過がないように見えます(せいぜいニ、三十分程度にしか思えない、というのが本音でしょうか)。あとは、句読点がくどいところが気になったでしょうか。物語的には、ブリキの店がどうしても、この類の不思議さをまとっているようには思えなくて、ラストは腑に落ちなかったように思います。暇でしょうがない彼が出会った不思議な店、これで終わらせるのはもったいないなぁとも思います。飛行機が飛ばずに終わってしまうなんて(涙)。それでは、長々と失礼しました。
2004-07-20 20:41:28【☆☆☆☆☆】エテナ
正直な話、主題が見えないなあと思いました。ひょっとしたらこれは私の読解力がないだけなのかもしれませんが……。あと、落ち着いた雰囲気なはずなのに、どうにもゆったり進んでいる感じを受けないと思ったのは、おそらく心理描写が少なかったからじゃないかなあと。情景描写はところどころにある気はするのですが、どうにも内面が受け取りづらかったです。何か指摘ばっかりになってしまってすみません。
2004-07-21 07:04:15【☆☆☆☆☆】村越
指摘は皆様がもうしていますので、取り敢えずは感想を。全体的には良い雰囲気なのですが、イマイチ物語の全体を掴めませんでした。これは不思議な店と少年の話なのでしょうか?ならばもう少しそのお店を捻ってもいいと思います。それに飛行機。一番最後に、見上げた空に飛行機が飛んでいた、とかそんな感じの文章でも入れてくれたのならすんなり行けると思うのですが、そのままというのが少し悲しかったです。  しかし、ヤシの実さん次回作、期待してます。
2004-07-21 08:49:26【☆☆☆☆☆】神夜
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。