『漆黒の銀糸  第4話:盗まれた時計』作者:本宮 李飛 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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第1話 登場

 雨の降る深い漆黒の闇の中をパシャパシャと水たまりをけりながら走る人達がいた。首下程まで長さのある銀髪の女性を筆頭に3,4人ほどが走っていた。
ふいに、銀髪の女性が勢いよく飛び上がる。後ろの人々もそれに倣う。走っていた人達はまるで羽でも生えたように高く飛び上がり、木々や家々の屋根を飛び移っていった。

 暗い漆黒の世界に一筋の光が差してくる。その光は徐々に広がり、数分もすると辺り一面を光で照らしていた。昨夜の銀髪の女性は夜明けとともに目が覚めた。朝日に照らされ彼女の銀色の髪がキラキラと輝いている。
歳は十代の半ばほど。女性と言うにはまだ若すぎるかもしれない。その少女はバスタオルをつかみ、シャワールームへと入っていった。

「セーナ様、もう起きたんですか?」
銀髪の少女がシャワールームへと入ってまもなく、一人の少女が眠たそうに目をこすりながら隣の部屋から出てきた。十歳満たないと思われる少女だった。黒く長い髪を後ろでひとつに結んでいる。
「悪い、リィ。起こしたか?」
セーナと呼ばれた少女がシャワールームから出てきた。袖と襟のないスリットの入った短いチャイナドレスの様な上着を着て下には黒のショートパンツをはいていた。それらを腰の位置でベストを縛り、ベルトには短刀がささっていた。
「リィ、あいつらを起こしてくれるか?そろそろ出発する。」
リィと呼ばれた少女ははいっと返事をしてぱたぱたと駈けていった。

「お頭ぁ。まだ眠いッス。出発は午後にしませんかぁ?」
間抜けな声とともに2人の男が入ってきた。一人は黒髪でぼさぼさの頭だった。真っ黒な大きな瞳。服装はまるで忍者のようだ。もう一人は茶髪。黒髪の男と違いさわやかな感じのする普通の青年だった。
「リョウ、ユウ、リィ。もうこの国での仕事は済ませた。依頼主のところへ戻る」
黒髪の男はリョウ、茶髪の男はユウというらしい。
「だけどセーナさん、こんな時間に出歩くのは目立つんじゃ…仮にも盗賊なわけだし。」
ユウの意見にリョウが賛成する。
「ユウ、盗賊と言うのはやめろ。私達は依頼主に頼まれたものを取り返しているだけだ。」
セーナはさらりと言った。そして付け加えた。
「リョウの服さえどうにかすれば目立つ事はないだろう?」
「あとお頭の髪もねー」
リョウが言う。セーナはため息をつきながら
「私はいつものようにするだけだ。」
といいながらスプレーを取り出し、おもむろに髪に吹きかけた。と、みるみるうちに銀髪は黒髪へと染まっていった。
「じゃ、リョウは着替えよう!えーっとユウの服貸したげて?」
ずっと黙っていたリィがはしゃべりだす。
「ハイハイ。じゃー準備しますかね」

セーナ達は北へと森の中を走っていた。
「リィ、大丈夫か?がんばれ、もうすぐ森を抜ける。」
セーナは隣で走るリィを気づかった。
「大丈夫です。あ!」
リィは急に立ち止まった。セーナも止まる。ユウがセーナ達が止まった場所から少し先で止まり、リョウはよそ見していたために樹にぶつかった。セーナたちはリョウには気にせずリィを見ていた。
「どうした?」「なにかあった?」
セーナとユウがかわるがわる聞く。リィはまっすぐ先を指差した。そこには一人の人間がたっているのがかろうじて見えた。男か女なのかもわからない。
「セーナ様、依頼主さん。あそこでまってます。」
セーナは眼を凝らした。
「あぁ、本当だ。さすがだな。リィ。」
リィはほめられたのが嬉しくてにっこりと笑った。
「じゃぁ、ここで待ってて。すぐに終えてくる」
セーナはそういうと依頼主の元へ走り出した。

「これがお品物で間違いはないですね?」
セーナはポケットからひとつの指輪をとりだした。宝石のはめ込まれた高そうな指輪だった。依頼主の女性は眼に涙を浮かべて受け取った。
「ありがとう…ありがとうございます…!」
大事そうに女性は指に通した。そして袋を取り出した。
「成功報酬になります。本当にありがとうございました」
そういうと女性は立ち去っていった。
「10万クォーツ確かに。」
セーナは袋の中身を確かめ、森の仲間の元へと走っていった。


第2話 国の決まり

「ここは気持ちがいーなぁ!今までで最高じゃないか?」
 リュウが思い切り伸びをしながらユウに話しかけていた。ユウも笑いながら
「そうだなぁ。国民達も歓迎してくれてるし」
リョウとユウが楽しそうに話している一方でリィとセーナは浮かない顔をしていた。
 セーナ達一行はとある海辺の近くの国へ来ていた。入国の時に身分証明書を求められたが誰一人としてもっていなかったため手続きに時間がかかった。セーナは髪について聞かれたが生まれつきだ、と冷たく言い放った。リィは「ご両親はこの人達ではないでしょう?どこにいるの?」などとしつこく聞かれた。結局、リョウの妹ということにしてしまった。
「セーナさん、このあとどうします?ホテルでも探しましょうか」
 ユウが今後の予定を訪ねたときだった。一人の男が話しかけてきた。
「もしかして、旅人さんかい?泊まるところを探しているならうちに来るといいよ。うちは小さな旅館をやってるからね。」

 一行はその男の旅館にお世話になる事にした。2つ部屋を借りて一泊の滞在予定だ、といった。リュウはもっとこの国にいたいと言ったがそれならおいていく、と言われたのでおとなしくなった。
 部屋につくと食事が用意されていた。新鮮な魚介類が多かった。さすが海辺が近いだけの事はある。しかしリィはえびをみるのがはじめてだったらしい。
「セーナ様ぁ、これなんですか?」
リィはまるで不思議なものでも見るような目でえびを見ていた。セーナはどう説明したらいいのかわからず、
「えびといって魚がちょっと変わったようなものだよ」
と少しあいまいに説明した。リィはへぇーと言いながら一口食べた。
「おいしい!セーナ様、おいしいよ!」
リィは嬉しそうにえびを食べ続けた。セーナはそれをみながら静かに笑った。そしてリィと一緒に食べる事にした。

 夜。
 セーナとリィ、隣室でリョウとユウが寝ていた。と、不気味な足音がそれぞれの部屋へ響いていく。キィっと扉が開く音がする。ひゅっと風を切る音がしてベットにこん棒が振り下ろされた。しかし、ベットはぼふっと音を立てたままなにも起こらなかった。不思議に思った男達が布団を上げるとそこには毛布がくるんで並べられていた。
「いない!探…」
一人男の言葉が途切れた。首筋に冷たい短刀が押しあてられていた。セーナはにっこりと笑い男に尋ねた
「何の御用ですか?こんな時間に」
男はひきつった顔のまま答えた。
「カっ金目のものをもらっもらおうと…」
男の首筋に当てられた短刀に力が入る。
「では、なぜこん棒で振り下ろすんです?死ぬじゃないですか。」
セーナの目は冷たく光っていた。
「この国の決まりなんですよぉ!旅人に不審な人がいたら殺すって…」
短刀が男の首をすべった。男はそのまま倒れる。
ほかの呆然としていた男達がセーナの目の前で次々と倒れていく。
リィだった。リィは自分の倍ぐらいの高さのある男達を次々と動かなくさせた。それも長い棒ひとつで。さっきまでの少女とは思えないほどたくましかった。棒を一振りするだけで三人は倒れた。と、勢いよくドアが開いた。
「頭!無事か?」
「セーナさんっ大丈夫ですか?」
リョウとユウだった。顔には血が少しついている。
「えぇ、大丈夫。リィもいてくれたし」
セーナがリィに笑いかける。リィはえへへっと嬉しそうな顔をした。
「しかし、なんなんでしょうかね?こいつら。」

 息のある男の口から聞いたのはこんな話だった。
 この国の新しい国王はとても臆病だった。国ですこし揉め事が起きただけでどうしよう、どうしようと騒ぎ出す。反乱が起こったときには狂ったように叫びながら国外へ逃亡しようとした。反乱は大臣達が抑えたものの、国王の臆病は日に日にまして言った。
 あるとき、三人の旅人が入国した。旅人達は護身用に銃を持っていた。その事が国王に知れたとき、国王は震えながら「そいつらは私を殺しにきたんだ!私がころされる!その旅人供を殺せ!」と命令した。村人達はそれに不満を持ちながらもその旅人達を殺してしまった。国王は褒美をやるどころかその村人が国王の決定に不満をもった、という理由で死刑にしてしまったのだ。それ以来、武器を持った旅人は殺すという決まりができた。
《自分が死にたくなければ旅人を殺せ…》

 話を聞き終わった一行ははぁ〜?とため息をついた。
「馬鹿っぽい話。そんなの国王をやめさせちゃえばいいじゃん」
リョウが率直な意見を言う。みんなも同感だった。
と、昼間の旅館の主がやってきた。そして男達の山を見てすぐに震えた声でこういった。
「こ、こいつらとオレはなんのか、関係もないぞ!あ、朝一ですぐにでていってくれ!金はいらないっから!」
そのときに日が昇ってきた。セーナは
「いえ、もう出発します。とめていただいてありがとうございました。」
そういいのこして出発の準備をした。リィ,リョウ,ユウも準備をした。
「じゃ、どーもねぇ」
リョウの明るい声とともに一行は走り去って行った。


第3話 セーナの過去 前編

 暗い雨の降る街。そこに泣きながら震える一人の少女がいた。まだほんの6歳ぐらいだろうか。輝くような銀髪もよごれと雨にぬれてその輝きを失っていた。
 服は男用の大きなワイシャツを一枚着てその上に毛布をかぶっているだけだった。ワイシャツももうボロボロになっている。誰かが捨てたものらしい。
 少女は細い路地に座り込み泣いていた。自分が誰なのかもわからない。
果物屋の近くを偶然通っただけで泥棒扱いまでされた。私はなんなんだろう?生きる価値ってあるの?そんなことを毎日思っていた。

 あるとき、少女は空腹の限界がきた。今までは食べ物を恵んでもらいどうにかなっていた。しかし、もう2週間も食事らしいものはしていない。
ふと、少女の目に真っ赤なりんごが映った。男の子がりんごをかじりながら目の前をとおって行く。シャキッシャキッっと軽快な音をだしながら。
数メートルさきに果物屋があった。それを見つけると少女はなにも考えずに走り出した。ひゅーっと風の音が聞こえる。周りはあっという間に過ぎ去っていく。少女の目にはりんごしか映っていない。
少女はにゅっと右腕をだしぱしっとりんごを2個持てた。
そのまま勢いを緩めずに走り去る。
店の主はぽかんとしてみていたが、われに返って走って行った方向に顔を向けた。しかし、そこにもう、少女の姿はなかった。
その様子を黙ってみていた一人の大柄な男がいた。そして、にやっと笑うと少女が走り去ったほうへと歩き出した。

 少女が無我夢中でりんごにかじりついたとき、おい、と声をかけられた。
さっきの男だった。少女が警戒の態勢に入る。しかし男はにかっと笑い
「心配すんな。サツに通報しやしねーよ。てかできねーし。まぁ、これでも食うか?」
そういいながらパンをひとつ渡した。少女はぱっと顔を輝かせパンを男からひったくって食べた。
その様子を笑いながら見ていた男は少女の髪をくしゃっとなでた。
「よっしゃ、お前、オレと来るか?」
男の突然の申し出に少女は食べるのをやめ、ポカンと聞いていた。
「ちゃんと三食くわしてやるよ。服もちゃんとしたの着せてやる」
男は説得するように少女に話しかけた。少女はうつむいてボソっと何かを言った。
「ん?なんだ?きこえねぇ。」
少女はさっきよりは大きな声で
「…いく…」と言った。

「名前、聞いてなかったなぁ。お前、なんていうんだ?」
 男は隣で車に興味をしめる少女に聞いた。と、急に少女の顔が曇る。
「……21号…」
少女は泣きそうな顔で言った。
「21号?なんだそりゃ。番号じゃねぇかよ」
「あたし、しせつにいたの。お父さんとお母さんの顔、しらないの。しせつではあたし、21号って呼ばれてたの…みんな番号だった…」
少女は泣きながらそういった。男にはだいたいの事情がのみこめた。
泣きながら話す少女の話をまとめるとこんな感じだった。

 この少女は赤ん坊のころからその孤児院に育てられた。
しかし、この孤児院は子供の名前をつけずに番号で読んでいた。
子供達はいつも機械的な動作で扱われ、時には物扱いされたそうだった。
この少女、21号も例外ではなかった。食事を忘れられるなどは日常茶飯事。一日に2食食べられればいいほうだった。
 あるとき、院長の大事にしていた花瓶を割ってしまった。
21号は正直にはなした。院長は激怒し21号をくらい個室に閉じ込めた。
光が差すのは天窓だけ。まるで囚人のような生活。まだほんの幼い少女が…
そんな生活が1ヶ月続いたとき、外に出してもらえた。院長の機嫌が直ったらしい。
その時、21号は光を見た。
−−こんなところに閉じ込められてはいけないんだ…−−
そう思うと同時に走り出した。逃げなきゃ、逃げなきゃ……
そうして今に至る。

「名前がないんじゃぁ呼びにくいなぁ。あ、じゃぁ、青南はどうだ?」
少女はどういうことなのかがすぐには理解できなかった。
この男はなにをしようとしてるんだ?名前をつけてくれてるのか?私に?
「いい名前だろう。オレがにほんって国に行ったときに知ったんだ。
あおいみなみって意味があるんだと。きれいだろ、あおいみなみって書いてセイナって読むんだ。」
少女は目を見開いて男の腕にしがみついた。
「それ!それがいい!」
今の少女にはどんな名前でもよかった。だけど、心のどこかで本当に気に入っていた。
「お、そうか?じゃ、今日からお前セーナだ。21号なんて忘れちまえ」
そういってくれた男は車のブレーキをかけた。目的地に着いたらしい。

第3話 セーナの過去 後編

 そこは薄暗い洋館だった。周りの建物よりも古い。しかし、圧倒される。
まるでその洋館だけ異世界にあるような感じだった。
「ここがオレの住処。中は広いんだぜ。」
そういいながら男は門をくぐり、扉をあけた。−湿気くさい。
 目に飛び込んでくるのは一枚の大きな絵画。他には古びた鎧や斧などが飾られている。お世辞にも立派とは言えないものばかりだった。
しかし、奥の部屋へと進むに連れてまわりの置物が豪華になって行く。
剣の鞘に宝石が埋め込まれているもの、金の像、宝石、アクセサリー、さらに世界的に有名な絵画まであった。

「オレなぁ、泥棒なんだよ。」
 男はお茶を豪快に音をたてて飲み干すとおもむろにそういった。
 21号、いや、セーナは別に驚きもしなかった。今までの品の数々をみてこの男は泥棒だ、と悟っていたのだ。それと同時にセーナは疑問におもっていた事を聞いてみた。
「どうしてあたしをつれてきたの?あたし、なんの役にもたてないよ」
男はにやっと笑ってセーナに顔を近づけた。
「お前、泥棒の才能があるんだよ。あの盗み方とか、あの足の速さとか、磨けば一級品になる。どうだ?一緒にやらねぇか?」

 深夜。2つの影がある宝石店に忍び込んでいた。男とセーナだ。
男は器用に裏口の鍵をはずし、あっさりと中へ入った。そして目的の物があるところまで突っ走った。その間に、2人の警備員が犠牲になった…。

「ちっこれメチックガラス(宝石などを展示する場合に使われる特別なガラス)かよ!時間がかかるぜ、こりゃぁ」
 男はぶつぶついいながら必死にガラスを割ろうとしていた。その横でセーナはあっさりと宝石を袋につめている。
「おま…どうやった?」
「こういうガラスってはじっことはじっこのつなぎ目がもろいんだよ」
6歳の少女に教わって30過ぎの男はガラスを割る事ができた。
「じゅんび、いい?にげるよ」
セーナの手際のよさに驚きながらも男はセーナの後をおって走った。走りながら男はつぶやいた。
「俺の目に狂いはなかったぜ!」

−−それからもう10年近くたった。私は泥棒時代の学びを生かし取り返し屋をやっている。
 あの男は死んだ。お互い別々の家で獲物を盗んで家に帰る予定だった。しかし、男はその家の主に射殺された。私はそのことを知った時、初めて人のために涙を流した。
 今日で男が死んでから5年目だ。私は仲間に無理を言って墓参りにきた。
仲間は私が世界的に有名なあの男の弟子だとわかると心底驚いた様子だった。
 私の心は凍っている。世界のいろいろなものを小さいころに見すぎた。
だから、私は孤児であるリィと一緒にいる。たしかに、彼女の能力は優れている。しかし、それ以上にこの子に私と同じ目に合わせたくなかった。
 私達と旅をしている以上、危険は伴うし、人を殺すこともある…だけど、あの寒い街の中を一人で歩かせるようなまねだけは絶対にさせたくない。
街の人間に物扱いされるような、そんな人生を送ってほしくないから……


第4話 盗まれた時計

「お引き受けします。決行は明日の0時ちょうど。お約束の金額は北のはずれの湖のほとりで。」

暑い夏に久しぶりの依頼がきた。
依頼主は20代後半の男性。彼の祖父は1年前の夏に死んでしまったらしい。
彼が遺品を整理していたら祖父が大事にしていたと時計が出てきた。その時計は銀の縁取りで金の装飾が施されている立派な時計だった。
彼は祖父の形見としてその時計をもらうことにした。
家に帰って早速家に飾ったが質素な彼の家には不釣合いだった。そのため、彼は時計をガラス張りの棚に飾っておく事にしたらしい。時計が飾られたその一角はとても立派にみえたそうだ。
ところが、そんな生活が3ヶ月ほど続いたとき、家に盗賊が押し入った。
仕事の都合で強盗が押し入ってから1週間後に彼は帰宅した。
そこには変わり果てた家族の姿と我が家があった…
その後、彼は個人で調査に乗り出した。半年の時間を費やしたという。そしてやっと盗賊グループがはっきりした。と、同時にセーナ達、取り返し屋の存在を知ったのだ。だからセーナ達を頼ってこの時計の取り返しを依頼しに着たのだった。

「っていうわけなのよ。今回も協力よろしく、みなさん。」
光り輝く銀髪の持ち主・セーナが他の3人に呼びかける。まだ幼く、長い黒髪を持つ少女・リィがすぐに反応した。
「じゃぁ、これから移動ですね?」
目を輝かせて質問するリィ。笑いながら言葉を濁すセーナ。
「ほんっとに引越しが好きだよなぁリィは。お頭、その様子を見るともうこの街にいるんじゃないんっすか?その盗賊団。」
黒髪の男・リョウがソファに寝そべりながらにやっと笑って見せた。
「さすがリョウだね。相変わらず感が鋭い」
「いやぁ、それほどでもありますけどねぇ♪オレ、シックスセンスが鋭いからぁ…いてっ」
みなまで言わせず茶髪の男・ユウがリョウの頭を叩いた。
「調子にのるなよ。お前の悪い癖だ」
ユウが冷たくリョウに言い放つ。
「んだと?オレがいつ調子にのったってんだよ。」
「毎日だ。」
そんなやり取りを続けていた。セーナとリィはくすくすと笑ってしまう。
〔本当にいいコンビだな。まぁ、当然か。〕
セーナはこのやり取りを見るたびにそう思った。

「セーナ様、盗賊団の居場所はわかってるんですか?」
リィが笑いが1区切りついたところで聞いてきた。
「あぁ、わかってるよ。けど、リィ、相手は一般の盗賊だ。くれぐれも無茶はするなよ?」
セーナは念を押すようにリィに言って聞かせた。しかし、当のリィはにこっと笑い、
「それはわかりません。セーナ様に危害を加えるようなら容赦なく攻撃します」
さらっととんでもない事をいってのけた。

深夜0時。セーナ達の行動が開始された。
リョウ・ユウが最初に盗賊団のアジトの中に入り、そのあとにセーナとリィが続く。
「何者だ!」
見張りの盗賊に見つかったらしい。リョウは「ちっ」と舌打ちをして日本刀で一突きに刺した。
その様子を見てユウは
「あーぁー。最初から殺しちゃって。」
とため息混じりにリョウに話しかけた。
「だって、今仲間呼ばれたら面倒ジャン?」
―開き直った。

多少、盗賊側の犠牲はあったもののセーナ達は時計の元へたどりついた。時計は強力なガラスケースにおさまっていた。
「ん〜これはオレには無理っすね。お頭、たのんます。」
リョウがガラスケースを調べて言った。
時計を見たセーナは「あれ?これって…」とつぶやきながら作業を進めた。
セーナが作業に取り掛かって5分後には強力なはずのガラスケースはいとも簡単に壊れていた。
『さっすが{お頭・セーナ様・セーナさん}♪』
3人の声が重なった。と同時に…
「かかれ!」
盗賊団団長が声をかけた。
20人ほどの男達が手に思い思いの武器を持ち攻撃を仕掛けてきた。
セーナが時計を持って逃げようとしたときすっと右に動く。が、腕に少し痛みが走った。
盗賊の一人がセーナの腕にかすり傷をつけた。間一髪のところで右によけたためにかすり傷ですんだ。
「セーナ様!」
一人で3人ほどを倒したリィがセーナの元へ駆け寄る。
「お怪我はそれだけですか?支障はないですか?」
「あぁ、大丈夫だ。これくらいなんともない。あっリィ!」
リィは怒りに任せ走り出した。
そしてセーナに怪我を負わせた盗賊を一瞬でしとめてしまった。
襲い掛かる盗賊を西洋の剣でしとめながらセーナの元へユウが近づく。
「セーナさん、腕だしてください」
言われたとおりに彼女が腕を出した。と、ユウは怪我の上に手をかざした。
すると彼女の傷口からは血が出なくなった。ユウの能力、治癒再生による治癒。
「家へ帰ったらちゃんと手当てします。それまでそれで我慢してください」
「ありがとう。あと、この時計お願い」
そういいながらセーナは立ち上がり風のごとく短刀で切り倒していった。ざっと一人で8人ほど。

団長がおびえた目でこちらを見ていた。セーナはさっと近づくと団長の耳元で優しく話しかけた。
「安心なさい。私達に危害を加えなければ命は奪いません。
ただし、もう盗賊などやめなさい。」
そして安堵した団長の目をにらみつけながら
「さぁ!早く行きなさい!」
そう叫んだ。

セーナは北の湖のほとりで依頼主を待っていた。深緑の湖は深く、どこまでも続いているようだった。
そして、依頼主がやってきた。
時計を渡す。男はじっくりと様子を見た。鑑定でもしているようだ。そして安堵の息を漏らした。
「ありがとう。これにまちがいはない。約束の金だ。傷つけずにもって来てくれたから少し弾んでおいた」
そういってパンパンに膨らんだ金貨袋を渡した。セーナは金貨が本物かを確かめて依頼主と別れた。
そして、男の姿が見えなくなってからつぶやいた。

「あなたのおじいさんは盗賊でしたよ。
それは30年以上前にある先進国から盗まれた貴重な時計なんですから。」

2004-05-16 13:16:30公開 / 作者:本宮 李飛
■この作品の著作権は本宮 李飛さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
読んでくださってありがとうございます。

「漆黒の銀糸」は一応、盗賊ものです。結構人が死んじゃったり暗いところが多いんですけど、(特にセーナの過去とか…)是非読んでください。。
リョウ・ユウの過去、リィの正体(過去)も今後掲載予定です。
この作品に対する感想 - 昇順
読ませていただきました。盗賊モノですか?無国籍な感じが良い雰囲気を出している、アクション・ファンタジーといった印象ですね!まだセーナ以外のキャラたちが、表立って活躍していませんが、わかりやすいストーリー展開で好印象を持ちました。今後の期待を込めて。
2004-05-02 16:13:51【★★★★☆】卍丸
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。