『時』作者:緋村†蔵人 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角13828文字
容量27656 bytes
原稿用紙約34.57枚
The first day(14日)
俺は、日々変える事の出来ない過去を乗り越え、未来への一歩を踏み出していくはずだった……。
ある日の放課後、俺はいつものように屋上で目を覚ました。いつもと変わらぬ空。大きく伸びをして立ち上がり、ドアノブに手を掛けようとしたその時、ドアが大きく開け放たれた。
「オイ! ダイ! 大変だ!」
 いきなり深刻な顔のカズが現れた。
「どうしたんだよ、カズ。そんなに慌てて」
「美咲ちゃんが、美咲ちゃんが」
「ん? 美咲がどうかしたのか?」
美咲は俺の彼女である。自慢じゃないが結構かわいい。
「消えた」
俺はその言葉の意味を理解できなかった。
「消えたってどういうこと?」
「美咲ちゃん、今日は委員会の当番の日なんだ」
「あーそういえばそんな事言ってたな」
「それに来なかった」
「そんなのただサボっただけじゃないの?」
「今まで一度もサボった事ないのにか?」
「そりゃあ、たまにはサボりたくなるときだって……」
「それだけじゃないんだ。学校中どこを探してもいない」
「もう帰ったとか」
「携帯はつながらない。家には電話したけどまだ帰ってないそうだ」
「ふーん。でも、買い物に夢中になってるだけとか」
「お前もうちょっと物事を深刻に考えられないのか?」
「だって人が消えるなんて普通考えないぞ。それに今の話じゃ美咲は学校の中で突然消えたみたいじゃないか。神隠しか?」
「そうかもしれない」
 カズが真顔でそう言うから俺は思わず笑ってしまった。
「笑うな。俺は真面目なんだぞ」
 ケラケラと笑う俺を見てカズはかなり頭に来ているようだった。
「分かったよ。俺も探してみるよ」
 俺は話を切り止め、階段を下りた。カズは屋上に残っていた。
「しかし、消えたって」
美咲のことが心配で無い訳がない。だが、消えたって言うのは信じられない。誘拐とかにしても内部犯か……。俺は何考えてるんだ、探偵にでもなったつもりか。
俺は学校を出て、美咲の行きそうな店を回った。だが、美咲はいなかった。
時間が経つに連れて心配な気持ちが強くなっていく。
 2時間以上探しても見つからないので俺は家に帰ることにした。
家に着き、もう用意されていた夕食を食べた。面白くも無いテレビをみて、風呂に入り明日の為に寝る。そんないつもと変わらない作業。でも今日はいつもと違っていた。
The second day(15日)
学校への道。いつも会う美咲と会わなかった。本当に消えてしまったのだろうか。そんな思いが頭をよぎる。
教室に着くとみんな美咲の話をしていた。
「大井って昨日帰りは居たよな」
とか、
「家出かなぁー。でもそんなことするとは思えないし」
とか。彼らの話を参考に、美咲の行動をまとめると、帰りまではしっかりといた。そして、今日が委員会の当番の日である事をしっかりと覚えていて、仕事に向かおうとしていた。が、委員会活動には参加していない。ちなみに学校の外で美咲を見かけた者もいない。連絡も取れない。昨日のカズではないが、神隠しだと考えたくなる。
6時間目を終え、俺はいつものように屋上へ行った。
昨日に戻れたら……。そんな事を考えてしまう。過去に戻れたら、美咲が消える前に何か手を打つ事が出来るかもしれない。しかし過去になんか戻れない。
ふと目の前の景色が歪む。眩暈とでも言おうか、そのなんとも言えない感覚は言葉では表せない。別に身体に異常は無い。立っていられるし、頭が痛いわけでもない。
ゆっくりと周りを見渡す。夕日が落ちかけている。空がオレンジ色に染まり、俺の顔を照らす。
帰ろうか。そう思い、ドアを開け、階段を下りていく。ふと職員室を見る。見た事も無い教師ばかりだった。
「話がある。ちょっとこっちへ」
 後方からの声。俺の事を呼んでいるのだろうかと思い振り向く。違った。丸坊主のいかにも野球部といった感じの生徒が教師に呼ばれていた。
「夏休みの合宿についてだが……」
 夏休みの合宿?野球部の合宿は15年くらい前に無くなったって聞いたけど。再開するのか?大変だなー。
「では、連絡は頼んだぞ」
 話が終わり生徒と教師はどこかへ行ってしまった。
「さて、帰るか」
 意味も無く職員室前に立っていた俺は、当初の目的通り帰ることにした。美咲は一体どこに行ってしまったのだろう。
廊下を歩きながら俺は1つの掲示に目を奪われた。そこにはこう記されていた。
『祝、創立30周年!ただいま生徒会で記念式典を計画中。10月実施予定。』
おかしい……。確かウチの学校は去年創立50周年を迎えたはずだ。なのに30周年とはどういうことだ?イタズラか?
俺は昇降口を目指した。帰るため、いやそれ以上に今俺の中に浮かんでいる疑問を解決するために。
自分の靴が入っているはずの場所には違う名前の名札が貼ってあった。
外へ出て周りを見る。何人かの生徒が下校していく。その中の一人の少女に声を掛ける。恐らく、中等部の生徒だろう。
「ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「なんですか?」
「今って西暦何年?」
少女は不思議そうな顔をして答えた。
「1984年ですよ。どうしてそんな事聞くんですか?」
「いやちょっと確認したかったから」
ふと、彼女の胸元の名札が目に入った。青山文。
「ありがとう」
俺はそれだけ言うと屋上へと戻った。
「俺はここにいて、階段を下りたときにはもう過去だった」
 事の始まりであろう場所に来てみたが、さっぱり意味が分からない。
と、また眩暈が俺を襲った。目の前の世界が歪む。
「なんだ……」
 目の前には変わらぬ風景。しかし、俺の前方に女の子が立っていた。小学生くらいだろうか。白、いや銀色の長い髪。現実離れした少女だった。
「君どうしてこんなところに?」
俺が歩み寄ろうとすると彼女はゆっくり俺の後ろを指差した。反射的に振り向く。
「なんだ? 何も無いぞ」
 俺が再び彼女の方を向いた。
「……いない」
 消えていた。俺が後ろを向いた一瞬の間に。
「くそーなんなんだ!」
 わけが分からない事が多すぎた。俺はしばらく立ち尽くしていたが、気を取り直しもう一度職員室に行ってみることにした。
 階段を降りて、右側にある職員室を見る。見慣れた教師たち。見慣れた顔があるだけで人は安心感を得られるのだと知った。あれは夢だったのだろうか。
ほとんどの生徒は帰ってしまったか、部活に出ている中、ぽつんと立っている俺を不思議に思ったのか、声を掛けられた。
「どうしたんだ? 望月」
 山下先生。体育の先生だがとても優しく頼りがいのある先生だ。
「いや別に。ところで今って西暦何年でしたっけ?」
「今か? 2005年だろ」
「そうですよね。あ、ところで」
 俺には確認しなければいけない事がもうひとつあった。
「1980年代の中等部の卒業アルバムってどこにありますか?」
「ん?中等部のか? 図書室にあるんじゃないか?俺も見た事ないが」
「そうですか。ありがとうございます」
俺は礼を言うと図書室へと向かった。
 図書室に着くとすぐに俺は1984年〜86年までの卒業アルバムを持ってきた。青山文という子が実在するなら、卒業アルバムに載っているはず。まず、84年のアルバムを見てみる。
「……無い」
85年のアルバムへと移る。
「青山文……無い」
86年のアルバムも見たがどこにもそんな名前は無かった。あれはやはり俺の見た夢だったのか。しかしまだ、可能性は残されている。どこかへ転校してしまったのかもしれない。そうだ。今の教頭は確か、ここに20年以上勤めているはず。もしかしたら……。
 俺はすぐに教頭に会いに行った。
職員室へ着く前にタイミングよく教頭に会った。
「すいません。ちょっと聞きたい事があるんですが」
「何かね?」
「青木文と言う子について聞きたいんですけど」
俺の言葉を聞くと教頭の顔が曇った。教頭は何か知っているのか?
「なぜ彼女のことを君が知っているのかね?」
まさか過去で会いましたなんて言える訳が無い。とりあえず、
「知っているというほどではありませんが、ちょっと名前を見かけたので」
「そうか、名前を。まぁ不思議ではないか。あれは君が生まれるもっと前の事だ」
教頭は俺の曖昧な答えを追求せずに語り始めた。
彼女は、今から20年前中等部2年生だったこと。
そしてちょうど今頃、一人の生徒が姿を消したこと。
さらにもう一人後を追うように姿を消したこと。
それが青山文であったこと。
彼女たちが行方不明になってから1ヶ月が経ち学校に一通の手紙が来たこと。
差出人は不明。内容は、『無能な教師たちへ。お前たちは少女2人すら助ける事が出来なかった。』これだけだったこと。
警察も動いていたが結局彼女たちは発見されなかった、ということなどを俺に教えてくれた。
「詳しい事が知りたければ資料庫に行ってみるといい。きっと当時の資料が残っているはずだ」
 教頭はやけに親切だった。
「ありがとうございます」
 俺は資料庫へ向かおうと思ったがいつの間にか辺りは暗くなり、生徒の姿も見えなかったので帰ることにした。
家に着き、今日あった事を振り返る。美咲は昨日から行方不明のままだ。そして俺はどうも過去へ行ったらしい。
美咲はどこへ行ってしまったのか。俺と同じように過去へ?その可能性も否定できない。だが、誘拐や家出の方がまだ可能性は高いだろう。
もしかしたらと思い、美咲の家へ電話を掛けてみた。美咲のお母さんが出て、まだ何も連絡がないことを教えてくれた。美咲の携帯にも電話を掛けてみたが繋がらない。
「一体どこで何をやってるんだ。くそっ!」
何も出来ない自分の無力さに自然と涙が出た。
「美咲……」
 美咲のことを考えながら俺はいつの間にか眠ってしまった。
The third day(16日)
俺が学校に着くとなにやら教室が騒がしかった。
「ダイ! 大変だ。隣のクラスの安藤が消えた」
カズが俺のところに駆け寄ってきた。
「安藤が消えた!?」
「あぁ昨日の放課後辺りから見当たらないらしい」
美咲の行方不明に続き安藤までも……。これで事件性が強くなった訳だ。神隠しなどではなく、誘拐の可能性が高い。
「とりあえず、警察に任せるしかない」
「そうだな」
 美咲の事は心配だが、きっと無事でいてくれる。そう信じる事にした。
 授業が終わるとすぐに資料庫へと向かった。彼女のことが気になったからだ。
ダンボールを片っ端から調べた。ダンボールの中には学校行事のプリントや学校の活動を取り上げた記事などが詰め込まれていた。
1984年と書かれたダンボールを発見し、棚から引きずり下ろす。結構ホコリが溜まっていて辺りにホコリが舞った。
「うわっ」
思いっきりホコリを吸い込んでしまった。窓を開けて換気をする。
 換気も済んだところでダンボールを空け、中の新聞記事に目をやる。
『青山文さん(13)は16日午後4時過ぎに校門付近で目撃されたのを境に行方を絶っている。』
教頭の言っていった事と同じだ。記事の続きを読もうとしたとき昨日と同じ眩暈が俺を襲った。
部屋の外の雰囲気が変わる。外を確認するためドアを開けると見慣れない生徒たちが目に映った。
「またか」
 思わず呟いてしまう。諦めにも似た思いのなか窓の方に目を移すと、門に向かって歩いていく生徒たちの姿が見えた。一人だけ知っている生徒の姿があった。青山文だ。俺はその姿を確認するとすぐに外へと走っていった。
「文ちゃん」
 肩で息をしながら声を掛ける。
「えっ?」
 まさか誰かに声を掛けられるとは思っていなかったのだろう。驚いた様子で振り向いた。
「俺だよ、覚えてる?」
俺の姿を確認すると、知っている人物で安心したのか笑顔で
「はい」
と答えてくれた。
「今から帰るところ?」
「はい。先輩は?」
「俺は……俺も今から帰るところだよ」
 帰り道で行方が分からなくなるんだよな。という事は、
「一緒に帰らない? 家まで送ってくよ」
 いきなりの申し出に少し考えてるようだったが笑顔で了承してくれた。
「はい」
 こういう素直な子だから、事件に巻き込まれてしまうのか。と少し思った。
「実は一人で帰るの不安だったんです」
「ん? どうして?」
「昨日、友達が行方不明になってしまって……」
 そうか、昨日の段階で一人行方不明になっているのか。
「文ちゃんも気をつけなよ。常に何人かで行動するとか」
「はい、そうします。あ、あの、先輩名前なんて言うんですか?」
「あ、教えてなかったか。望月大輔。まぁ友達からはダイって呼ばれてるけど」
「望月先輩ですか」
 おかしいな。犯人らしき人物が現れない。俺が文と一緒に行動しているから当たり前と言えば当たり前だが。
 しばらく歩くと文が立ち止まった。
「ここが家です。どうもありがとうございました。望月先輩」
どうやら無事に家まで辿り着けたようだ。
「文ちゃん、今日は家から出ない方がいいと思う」
「え? は、はい」
「何かと危ないからね」
「はい」
なぜそんな事を言うのか分からないといった感じだったが、何とか納得してくれたようだ。
「じゃあまた」
「はい。先輩も気を付けて」
「ありがとう」
 俺は犯人について調べるため学校に戻る事にした。
 もうほとんど生徒がいない校内に入り廊下を歩いていると、角に屋上で見た少女が立っていた。
「あっ」
 声を掛けようとすると姿が消えた。すぐに走って追いかける。資料庫の中に入って行く姿が見えた。
 部屋に入る。そこにはやはり、少女がいた。屋上で見た少女、そしていきなり消えてしまった少女。
「君は一体何者なんだ?」
 俺の問いに少女はゆっくりと口を開いた。その時俺をまた、眩暈が襲った。それと同時に意識が遠のいて行く。
 しばらくして目が覚め、俺は新聞が散乱した部屋にいた。
「現代?」
 どうやらここは資料庫のようだ。俺が見ていた新聞があたりに散乱している。
「俺、こんなに散らかしたかな?」
 言いながら俺は、新聞を拾い集めた。途中興味深い記事をいくつか見つけた。俺はそれを家へ持って帰って読む事にした。
 家に帰り、すぐに新聞記事を読み始めた。
『犯人の目撃証言はまったく無く、学校周辺での不審者の目撃情報もないため、警察も新たな情報が無い限り犯人逮捕は難しいとコメントしている。』
『第二の被害者となった青山文さんは、行方不明になる当日帰っている姿を商店街の人が何人か見かけている。その時、青山さんは学生服を着た男と一緒に帰っており、警察はその人物が犯人との見方を強めている。』
 犯人はその男なのか?……もしかして、その学生服を着た男って俺?俺が関与した事によって少なからず歴史が変わったと言う事か?だとしたらなぜ彼女が消えたという事件は無くなっていないのだろう。まさか……。俺はただ犯行時間を遅らせただけ……。ありえない話ではない。いや、むしろそう考える方が自然だろう。
「俺は助ける事が出来なかったのか」
 ……いや、まだ助けられる可能性が無いわけではない。また過去への転移が起こるかもしれない。
その時の為に犯人の目星を付けておかなくては。
 他の新聞記事に目を通す。
『青山文さんが行方不明になるという事件について校長は「誠に、保護者の皆様に申し訳ない。我々も、沖さんが行方不明になってから、再発防止のため放課後から緊急会議を行い、放課後の生徒の送迎などについて話し合っていた矢先の出来事だったので悔しい思いでいっぱいです」と答えた。』
『沖成美さん(13)は午後3時半頃、門で待っている友達を残し、姿を消した。彼女は教室へ忘れ物を取りに行き戻ってくる間に姿を消したものと思われる。事件当時、教室周辺には誰もおらず、目撃証言も無い。』
 学校の中に犯人がいたという事か。外部からの進入と、内部の犯行。二通り考えられる。
 この場合、目撃証言も無い事から、もしその場にいても不思議に思われない人物。教師や生徒などの可能性が高い。外部犯の可能性も捨てきれないが、学校内で犯行をするというリスクを犯す理由が分からない。
 内部犯だとしてこの場合教師か生徒か。教師の場合生徒に警戒される事なく近づく事が出来るので犯行も容易だろう。だが、文が行方不明になったのは、放課後帰る途中だと思われる。(俺が関わっていない場合。)そのとき教師は全員、緊急会議をしていた。犯行を実行することは不可能。
 自然と生徒が犯人という可能性が高くなってくる。だが、犯人が誰か、までは分からない。
 美咲と安藤がさらわれた事件も内部の人間の仕業なのだろうか。
 思案を巡らせていると携帯に電話が掛かって来た。美咲かと思い急いで電話を取る。
「ダイか? って携帯だからダイが出るのは当たり前か」
カズだった。
「カズか、どうした?」
「また、消えた」
「またか! 誰が?」
「お前は知らないと思うけど、俺の部活の後輩の藤森ってやつだ」
「それはいつだ?」
「分からないけど、また放課後だと思う。今日、部活に来なかったから」
「学校じゃあ何の対策もしてないのかよ!」
「おいおい、俺に怒るなよ」
ついつい声を張り上げてしまった。考える事が多すぎてどうしてもイライラしてしまう。
「悪い……」
「どうしたんだ? いつものお前らしくないぞ」
「いや、別に」
「なんだよ、話したくないならいいけど」
「じゃあひとつだけ聞く。過去にこれと似た事件が起きてるんだ。それと今起きている事件と何か関係があると思うか?」
「う〜ん。模倣犯ってやつかもな。あるだろ、前にあった事件を真似するやつ」
「なるほどな。参考になったよありがとう」
「お前また難しい事一人で考え込んでるんだろ。いつでも相談に乗るぞ」
「あぁ、ありがとう。でもこれは俺が解決しなくてはいけない問題のような気がするんだ」
「そうか。なんか長くなっちまったな。それじゃあ明日」
「おう、おやすみ」
電話を切り、ベットに倒れこむ。
「模倣犯か……」 
そのまま眠ってしまった。今日も眠気には勝てなかった。
The fourth day(17日)
学校に行くと、授業を無くして全学年の緊急集会が行われた。内容はもちろん三人の行方不明事件についてだ。教師の対応の遅さには驚いた。
「という事で、門には警察の方が随時待機してくださると言う事なので、もし不審者などを発見した場合はすぐに知らせる事。我々、教師一同も校内の見回りを強化したいと思っています」
 校長のこの言葉で集会は幕を閉じた。そんな事で犯人が捕まえられたら、こんなに被害者が出る事は無かっただろう。
校長の宣言通り、授業中でも教師が廊下を見回っていた。あまり効果があるとは思えないけど。
授業の時間を利用して、俺の周りで起こっている事をまとめてみた。
まず、過去への転移
これは今までの経験から、放課後起こることが予測される。理由は分からない。眩暈を合図として、転移が起こる。
過去の事件
これについては、犯人は生徒の可能性が高い。女子生徒を狙った犯行だ、犯行は簡単に実行できるだろう。
現代の事件
犯人は内部犯だと思われるが、まったく検討がつかない。過去の事件と同じく女子生徒ばかりを狙った犯行のため男であるなら容易に犯行を実行できるだろう。犯人が女性である可能性も捨てられない。
謎の少女
俺の前に二回現れた少女。しかも現代と過去で。二回目に会ったときは少女が何か言おうとしたがその時転移が発生したため聞けなかった。
こんなところだろうか。分からないことだらけだ。
ほとんどの授業をこのことを考えるのに費やした。
放課後になり俺の足は自然と資料庫へ向かっていた。
 資料庫に入り、1984年のダンボールを漁る。まだ読んでいない新聞がいくつかあった。内容はだいたい今までのものと同じだった。だが、ひとつだけ気になる記事があった。
『男子生徒一人も行方不明か?』
 三人目の被害者?……ふと、こいつが犯人なのではないかという思いが頭をよぎった。女子生徒ばかりを狙っていた犯人が事件の最後に男子生徒を誘拐するだろうか。
記事の続きを読む。
『名前は田中武君(16)行方が分からなくなってから一週間。安否が気遣われる。』
過去に行ったら探してみよう。そう思っていると目の前が歪んだ、例の眩暈だ。
足元に、新聞が落ちていた。まだここにあるはずの無い新聞だった。今日は17日、この新聞の日付は19日。俺と一緒にこの新聞も過去へ来たのか?新聞の事も謎だが、まずは文の安否を確認するのが先だ。頭では分かっていても、実際に聞くまでは信じられない事なんていくつもある。
すぐ近くにいた生徒に、文の事を尋ねる。
「青山文って子、無事か?」
 焦っていたため相手には理解が難しい質問になってしまった。生徒の方は何とか俺の聞きたいことを理解してくれたらしく、
「行方不明になったって聞いたけど?」
 と答えてくれた。
「……そうか。ありがとう」
 予想は出来ていたが、やはりその現実に直面するとショックは大きい。
 気持ちを切り替え、俺は田中武という生徒を探すため、教室へと向かった。
 田中武がいると思われた教室には、彼の姿は無かった。何の情報もないままではと思い、教室にいた何人かの生徒たちに田中武について質問してみた。彼らの話によると、田中武は学校に来ない事がよくあるらしい。だが、一般的に言う非行ではなく、不登校に近い状況だという事だった。このごろはよく学校で姿を見かけたが、授業には一度も姿を見せなかったと言う。
 どこにいるかまったく検討がつかない人物を探すのは至難の業だ。ましてや、顔も知らないとなると……。
 俺は諦めず、学校の隅から隅まで探した。だが見つからない。帰ってしまったとすれば、もう今日のうちに発見するのは無理だろう。それに……。いや、まだ結論付けるのは早いとりあえずもう一通り学校を探してみようと、ひと気の無い教室に入ったとき目の前に何度か目にしたあの少女が立っていた。
「君は一体何者なんだ?」
いきなり質問をぶつける。
次の瞬間俺は彼女の声を初めて聞いた。
「わたしは四次元の存在」
 彼女の口から出た初めての言葉は俺の理解を超えた物だった。
「四次元? それは一体どういう意味だ?」
 再度質問をした俺の目の前に少女はもういなかった。残ったのは俺の中の疑問。
 混乱した頭を整理する暇もなく再び俺を眩暈が襲った。もう慣れてしまった感覚。起こるはずの無い事象への合図。
俺は現代へと戻ってきた。俺はしばらく動けなかった。考える事が多すぎたからだ。
なにやら外が騒がしかった。教師たちが集まっているのですぐに状況が理解できた。また起こったのだ。事件が……。
「どうしたんですか?」
山下先生に尋ねてみる。
「中等部の生徒が消えた。まだ探している段階なのでなんとも言えないが」
 今までの行方不明者が高等部の生徒だったので中等部の生徒の方まで目が行き届いていなかったのか。
「いつ頃ですか?」
「詳しい事は分からないが、部活へ向かう途中だと聞いているぞ。どうしたんだ? そんな事聞いて。事件を解決してくれるのか?」
「できればしてますよ」
「ははは、そうだな」
先生は軽く笑った。こんなときでも明るくしていられるのは先生の良い所だろうか。
「先生、がんばって下さい。俺帰ります」
「おお、そうか。気をつけて帰れよ」
「はい」
とりあえず、家に帰って休みたかった。ここ数日色々な事がありすぎて疲れた。
家に着くとすぐに俺は眠ってしまった。
The fifth day(18日)
「しまった。寝ちまった!」
 俺が目覚めたのは、もう朝日が昇った頃だった。
「色々考えたいことがあったのに」
学校に行くまでの間で、新たに分かったことを加えて考えをまとめよう。
現代の事件
今までに四回いずれも放課後、俺のいないときに起こっている。
過去の事件
今までに二回俺が会った、青山文も含まれている。こちらも放課後、俺がいないときに起こっている。
田中武
彼は少なからずこの事件に関わっていると思われる。まだ見た事も無いが。
謎の少女
 彼女は自分のことを四次元の存在だと言った。四次元の存在、つまり俺たちとは違う次元の住人と言う事なのか。分からない。
現代と過去の事件、これは俺の考えが正しければ、俺が転移している事とかなり大きく関係していると思う。謎の少女、彼女もこの事件、俺の転移に大きく関わっている事は間違いないだろう。
もう学校に行く時間だ。
 ……平凡な日常は自分がすべて満たされているからこそ平凡と感じるのだと思った。あるはずの物が無い。いつも隣にいた人がいない。たったそれだけで俺の平凡は消え去った。今、俺の周りにあるのは非日常の世界。
 俺は平凡な日常を取り戻せるのだろうか……。
学校に着くと、昨日行方不明になった中等部の生徒について説明があった。名前は中原 恵。現在も捜索中だが、いまだに見つからないので、誘拐された可能性が高いとの事だった。
授業も終わり、放課後俺は教室に一人残っていた。誰もいない教室。
「さみしい?」
 声がした。この声は前に一度聴いたことがある。俺は振り向き答えた。
「あぁ、一人っていうのは誰でも寂しいと思うけどなぁ」
 やはり、少女が立っていた。
「君は四次元の存在なんだよね?」
質問を投げかける
「そう」
「だから、どんな時間にも現れる事が出来るし、俺を過去へ移動させる事も出来る。」
「そう」
「なんで俺は過去へ来た?」
「あなたが望んだから」
「俺が望んだ?」
「あなたは過去に行きたいと望んだ。だからそれは起こった」
『昨日に戻れたら……。そんな事を考えてしまう。過去に戻れたら、美咲が消える前に何か手を打つ事が出来るかもしれない。』美咲が行方不明になったときそんな事を考えた。
「あなたが望み、わたしが叶えた」
 それだけの理由で俺は過去へ転移していたのか?
「じゃあ俺が過去に行かないようにする事も可能なのか?」
「可能」
「俺は今日ここでしなければいけないことがある」
「知っている。あなたが何をしようとしているのか。そしてその結果も」
「そうか。じゃあ俺は待ってるだけでいいのかな?」
「そう」
今日は聞きたいことがやっと聞けた。それに、うまく行けばすべてが解決する。
「来る」
 彼女はそういうと廊下を指差した。足音が近づいてくる。そして足音は教室の前で止まった。
「ちょっと君。教室に入ってきて」
 俺が言うと、足音の主は教室へと足を踏み入れた。
「何か用ですか?」
見たことの無い生徒。
「君どうしてここにいるの?」
「僕の通っている学校です。僕がいてはいけませんか?」
そうだな。間違ってはいない。
「じゃあ次の質問。君は今まで何をやっていた?」
「図書室で調べ物をしていました」
「図書室で調べ物か……」
「なんですか?」
「じゃあ次の質問。その図書室とは20年前の図書室かい? 田中武君」
「えっ!」
初めて彼が動揺した顔を見せた。だがその顔はすぐに元に戻った。
「そうですか。するとあなたは、僕と入れ替わりで未来と現在を、いや現在と過去を行き来していた方ですか?」
「そうだよ」
 やはり彼も気付いていたのか。見た目や言動からも頭の良さがうかがえる。気付くのは当然か。
「美咲達はどこだ?」
「そうですか。僕が犯人というのも分かっていたんですか?」
「あぁ、それに過去の事件もすべてお前の仕業だろ?」
「そうですよ」
 自分のやった事がばれたのに、彼は嬉しそうだった。
「それで、美咲達はどこだ? まさかもう……」
「いいえ、まだ死んでいませんよ。校舎の裏です」
 そう言うと彼は教室を出て行った。俺もすぐ後を追いかける。校舎の裏は、更地だった。彼はいきなり地面の土を払いのけ始めた。しばらくすると、そこに鉄の扉が現れた。
「こんなところに」
 思わず俺は呟いた。武は鉄の扉を開け、中へと入って行く。
「昔ここは防空壕だったんです」
 と彼は言った。
どこまでも続くかのように思える薄暗い道を進んでいくと開けたところに出た。そこには行方不明になった人たちの姿が……。
「美咲!」
「ダイ! ダイだよね! よかった」
 すぐに美咲に駆け寄る。
「無事でよかった」
「う、後ろの……。」
美咲は俺の後ろ、武を指差した。怖がるのは当たり前だろう。
「大丈夫。」
 そう言って俺は美咲を抱きしめた。
「ありがとう、ダイ」
 それだけ言うと安心したためか、美咲は気を失ってしまった。
「他の人たちも無事だな」
 俺は気絶した美咲を背負うと、ゆっくりと出口に向かって歩き出した。
「よし」
 出口で美咲を降ろすと、後ろからついてきた武を見る。
「なんで俺に協力してくれた?」
「協力、ですか。確かにそうですね。……嬉しかったんです」
「嬉しかった?」
「はい。僕に友達なんて物はいませんでした。欲しいとも思わなかった。自分よりも劣った存在となんて関わりたくないと思っていました。でも、どこかで人との関わりを求めていたんです。だから、事件を起こした」
 彼は一呼吸置き再び話し出す。
「事件を起こしているのは僕だと誰かに気付いて欲しかった。気付いてもらえないまま終わるのは嫌だった。だから自首する気も無かった。でも、あなたが気付いてくれた。だから……」
「だから俺に協力したのか?」
「はい。僕の希望は叶えられました。あなたという存在と関われた。それに、あなたに僕の事を気付いてもらえた」
 俺には彼の話した理由が自分の起こした事件の解決に手を貸すに値する理由とは思えなかった。でも、彼にとっては十分な理由だったのかもしれない
もう辺りは真っ暗だった。
「じゃあ安藤、後のことは頼む。俺まだやる事あるから。」
「うん」
俺達は美咲達を残し、屋上へと向かった。
「ここからすべてが始まった」
 屋上には、少女がいた。
「過去に行きたい」
 俺がそう言うと彼女はうなずいた。そして目の前が歪む。
過去に来た俺と武は、すぐに校舎裏へと向かった。そして美咲達と同じように文達を助け出した。
「望月先輩。助けに来てくれたんですか?」
安堵の為か涙で目を潤ませている。
「そうだよ。怪我とか無い?」
「はい。大丈夫です」
「そうか、よかった」
「あのぅその後ろの人」
 彼女の目線の先には武がいた。
「大丈夫。彼は俺に協力してくれた。安心して」
「は、はい」
いきなり自分をさらった犯人を目の前にして安心してというのは無理な話だろう。かなり警戒しているのが見て取れる。
武が俺のほうに歩み寄ってきた。
「僕自首します」
 そう言って、彼は微笑んだ。
「そうか」
彼に掛ける言葉が見つからなかった。
「あ、最後にお願いをひとつ聞いてくれますか?」
「なんだ?」
「僕と友達になってください」
「あぁいいよ」
「……ありがとう」
彼は一人歩いて行った。今の彼がそのまま逃げてしまうとは思えなかった。
だから俺は彼の後を追わなかった。
 武の後ろ姿を見送り、文に別れを告げることにした。
「もう家に帰ったほうがいいよ。ご両親も心配してるだろうし」
「はい。先輩は?」
「俺も帰るよ。ただ、もう二度と会えない」
「えっ?」
不思議そうに俺を見る。
「さようなら……文先輩」
最後の別れを告げるとタイミング良く目の前の景色が歪んだ。
景色が元に戻ると、文の姿はもう無かった。その代わり、あの少女が立っていた。
「これで終わり」
 彼女はそう言った。
「という事は、君ともお別れなのかな?」
「そう」
「そうか。じゃあ最後に。ありがとう」
 その言葉を聞いて少女が微笑んだ気がした。
「お別れ」
 その言葉とともに少女は消えた。
「さて、帰るか。」
 今日は久々にゆっくり眠れそうだ。
Epilogue
朝の日差しで目が覚める。大きく伸びをして外を見る。
「おーい。ダイー遅刻するよー」
 窓の向こうから声が聞こえた。
「分かってるよ、急ぐからちょっと待っててくれ!」
 すっかり忘れていた日常。少しだけど取り戻せた気がした。
Fin
2004-04-30 22:08:06公開 / 作者:緋村†蔵人
■この作品の著作権は緋村†蔵人さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
とにかく感想下さい!!!
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全体的にイイ感じな具合だと思います。ストーリーも読んでて飽きない。けど、こう1つにまとまりすぎというか、1つにストーンと書かれているので読むのに苦労しました。次回作待ってます!
2004-04-30 23:18:27【★★★★☆】聖
初めまして、上倉と言います。感想はと言うと・・・良い!「なんか時をかける少女」って感じがしますね。ちゃんとラストが決まっててよかったです。すこし気になったのが「教頭はやけに親切だった。」という所なんですけど、妙な感じがしました。事件と関係している事は関係しているけど、あまり引き出ていなのでおかしく感じました。犯人だったら、分かりますけどね。でも脇キャラの設定は良かったですよ。
2004-04-30 23:25:44【★★★★☆】上倉 長門
計:8点
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