『無色のクレヨン  第一話』作者:シイナ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角2100文字
容量4200 bytes
原稿用紙約5.25枚
俺の手には無色のクレヨン。

毎日退屈で。
毎日窮屈で。

周りには家族も、執事も居たのに。
オレが知っているのは孤独の色。

――俺の手には無色のクレヨン。


第一話 完璧主義者な優等生


「あの……手紙呼んで頂けましたか?」
太陽が紅く、綺麗に光り輝いて見える夕方。
――体育館の裏。
告白場所にしてはベタすぎるね。
俺としては早く帰りたい衝動だけど、こういった些細な茶番劇にも付き合わないと、『優しい』俺のイメージに傷が付くだろ?
「ああ。読んだよ。だから来たんだけどね」
「そ、そうですよね! あの……好きなんです。一条様のこと」
 もじもじと俯きながら真っ赤になっている。まるで林檎状態。普通の男子なら「可愛い」と思うんだろうけど、俺にはまるで効果無しだぜ?……なんて、言葉にはしないけどさ。
 チラリと俺の方を見たかと思うと、また俯いてしまった。
「良ければ、付き合って下さい」
 やっぱりね。「付き合う」とかってその人の全てを分かってから言うものだろ? 俺の何を分かってるんだろう。反応を待っているみたいだけど、生憎答えは一つしか持ち合わせてないんだ。
「君のことは良く知らないし……それに僕、今は誰とも付き合うこと考えてないんだ。君にはもっと良い人が現れると思うよ。君は可愛いからね」
 砂を吐くような甘い台詞に、爽やかに微笑みを浮かべる。既に彼女の頬は朱に染まっていた。
「お時間取らせて……すみませんでしたっ」
 彼女は一度微笑み、走り去っていく。それは満足した表情のようにも取れた。
――俺の心の内も知らないのにね。
「……時間の無駄だったよ」
手の中にあったはずの可愛らしい手紙は、グシャグシャになって宙を舞った。

俺の名前は、一条鈴(いちじょう すず)。
名の知れた財閥の次男。だからって何ってことは無いんだけど。だって、この学園で、男女共に認知されているのは俺の努力の賜物だから。批判するのは、ごく一部の人間じゃないかな。
「鈴じゃん。おっはよー!」
 無邪気に笑いながら駆けつけてくるのは、無二の友人の新崎茜(にいざき あかね)。その瞳は真っ直ぐで、たまに……俺が凄く汚れてるんじゃないかって思う。
「おはよう、茜。珍しく今日は遅刻じゃなかったんだね」
「アハハ。俺だって毎日遅刻してるわけじゃないよ〜」
 茜は俺の前の席に座った。そこが彼の席だから当然なんだけど。
俺の表情が綻ぶのが分かる。計算じゃなくて、自で和ませてくれる奴。良い奴すぎて玉に瑕だけど。
「昨日さ、隣のクラスの佐々木さんに呼び出されてたろ? 付き合うの?」
「断ったよ。でも情報早いね。流石というべきかな」
「『一条様親衛隊』の奴らが言ってたからさぁ。あの子今頃リンチになってるよ、きっと」
 ああ、あのフザケタ奴らのことか。
迎えの車が来るまでに俺を囲んだり、少しでも近づく女子をリンチにしたり。まぁ、そのおかげで告白される回数が減ったのは有り難い。色恋沙汰の面倒は嫌いだ。
それはともかく、人は彼女らを、『一条様親衛隊』と呼ぶらしい。隊長が誰なのかなどは、あいにくと知らないけれど。3年の女子が担当していることだけは、間違いないだろう。
「ああ……『抜け駆け禁止』ってやつ?」
「そうそう! ていうか、鈴ってすっげーモテるよね。俺も女だったら放っておかないもん!」
「それは光栄だね」
 クスクスと自然に笑みが零れた。
照れないでこういうことを言うのが、彼の良い所だろうとも思える。
「あ、そうだ! 鈴って例の転校生のこと知ってる?」
「……転校生? 知らないけど。どうかした?」
「二年に昨日転校生が来たんだって! その子がすんごーく可愛いんだって!」
 嬉しそうに話す茜には悪いけど、その手の話には全く興味が沸かない。
知ってか知らずか、話を続けている。
「その子、柚谷真希(ゆずや まき)っていうらしいんだけど、後輩からは『可憐で清楚で、まるで白雪姫!』って言ってたけど、本当かなぁ? ねぇ、始まるまでまだまだ時間あるし、今から見に行かない?」
「……遠慮しとくよ」
 生憎、俺はそういう皆に認知されるような奴とは馬が合わないんだよ。同属嫌悪ってやつかな。
それに、わざわざ俺が見に行くなんてイメージダウンもほどほどだ。
 分かっていない茜はぷくっと頬を膨らませている。
「鈴のケチー。良いもん、俺一人で見に行くから!」
「いってらっしゃい。僕は保健室に行くよ」
「具合悪いの?」
「……頭が少し痛くてね」
 本当は仮病だけど、優等生で通ってるから誰も疑わない。
大体、一時間目ってどうも眠くなって仕方がないからさ。認知されてるのって特なんだよね。こういうときに。
「じゃあ、報告楽しみに待ってるよ」
 爽やかな作り笑顔を浮かべて、教室を後にした。


続く→
――――――――――――――――――

第二話 噂は信じちゃいけません
2004-04-19 05:27:39公開 / 作者:シイナ
■この作品の著作権はシイナさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
シイナです。殺人ウイルスの展開に悩んでいて、平和(?)な学園生活を書いてみました。気の向くままに書けて楽しかったりします(笑)気の向くままに視点は交代制だったりします。

一条鈴……十八歳の男。御曹司。自分に自信があると同時に、誰からも認められる完璧な奴。親衛隊が有るほどの人気っぷり。裏表が激しい。猫かぶりのときは「僕」。自は「俺」。同時に「君」から「お前」に変わる。

新崎茜……鈴の友人。明るく天然。単純純粋が似合う奴。良い奴過ぎて時々苦労人。裏表は無し。成績は全然駄目だけど運動神経は鈴と並ぶ程良し。頭は悪いが馬鹿じゃない。
この作品に対する感想 - 昇順
ども、白い悪魔です♪一条様…かっこいいですねしかも御曹司…完璧…。これからが楽しみです♪
2004-04-19 06:45:24【★★★★☆】白い悪魔
鈴と茜の、対照的な二人のキャラが良いですね!ワタシ的には、鈴の小憎らしいほどの完璧ぶりに、かえって惹かれますが(笑 これからの展開に期待してます!
2004-04-19 12:36:47【★★★★☆】卍丸
学園物って私書けないので羨ましく思いながら読んでました。御曹司で完璧ならば誰だって惹かれますよ!リンチされる女の子が可哀想な気がしますが;視点をコロコロ変えてしまうので、同一人物視点のみ、というのは出来ません;第二話のサブタイトル(?)が凄く気になります…!
2004-04-19 15:23:08【★★★★☆】柳瀬羽魅
殺人ウイルスとはまたがらりと変わった作品ですね。ですが楽しいです。鈴と茜は対照的、だから無二の友人になれるのでしょうね(ぇ 抜け駆けでリンチって……怖ええっ!!(オイ ああ、あの女の子は今どこでどうしているのでだろう(違  何はともあれ、これからの転校生とも関わりも気になります。続き頑張ってください!!
2004-04-19 16:51:52【★★★★☆】神夜
なんかこういう主人公好きです。何故か知らないけどこの裏表があって色々な顔を使い分ける奴ってどこか好きなんですよ。これからどう変わるかって。変わらない奴は嫌だけど。手を出したらリンチってのもなんかいいです。一条というキャラの人気がよくわかります。まだ序盤なので点数は低めに
2004-04-20 00:35:54【★★★★☆】グリコ
無色のクレヨンというのが一体何なのか。象徴的な言葉かと一瞬思いましたが、違うのかな。自信家の主人公が裏表ある性格なのですが、すこし自分を嫌悪をしているのかなと思いました。もっとぶっちぎってもいいかも。(というか一箇所以外ソレを垣間見せてないので) でも、こういうキャラすきですよ(笑) 転校生が登場してどのように物語が進展していくのか楽しみです
2004-04-21 01:36:19【★★★★☆】晶
計:24点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。