『冒険者たち  完全版』作者:コヨリ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角11324文字
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原稿用紙約28.31枚
俺達は冒険者。
荒野を駆け抜け、夜の街を飛び回る。
自由を好み束縛を嫌う。
俺たちは狼。
だが、そんなおれ達も飯を食うためには働かなければならない。
「働かざるもの食うべからず」
人生の基本だ。
俺たちの仕事は『何でも屋』。
お金のためならプライドの許す限りは何でもする。
依頼のないときは日雇いのバイトもする。
……。さすがにこの間のティッシュ配りの仕事は辛かった。
食うためとはいえ……。
いや、辛かったんだよホントに!
金は無いし、不景気だし、腹は減るし!
ハードな俺たちのティッシュは誰も受け取ってくれないし!
悩んだんだよ、真剣に!
でも、お金が無ければ自由なんてないだろ?
……。
そんなことより、今回の仕事は洞窟にいる化け物を退治してくることだ。
ハードな仕事だ。
化け物には何の罪も無いがこれも生活のためだ、悪く思わないでくれ。
何も悪さはしてないんだ、化け物は…。
……。
……。
ハードな仕事だぜ。
……。
ギャラの方は300000円。
一般家庭の月収分だ。
悪くない金額だ。
これでまた冒険が楽しめる。
今度は歌舞伎町にでも…。
……。
俺たちは冒険者。

俺たちのことを紹介しよう。
俺の名はケン。
野獣のような男だ。
おっと、野獣なのは体つきだけじゃないぜ。
夜の俺は、すべてが野獣だ。
……。
得意技は武器による攻撃だ。
最近のお気に入りはムチだ。
使い勝手とあのサディスティックな感じがいい。
俺はムチが好きだ……。
……。
ハードな男なんだ。
……。
仲間を紹介する。
彼の名は山崎。軽い男だ。
昼夜を問わず最高のパートナーだ。
俺より手癖は悪いが破壊力に欠ける男。
彼の特技は魔法だ。
精神力を消費する代わりに傷を治すことができる。
だが、彼の夜の精神力は果てしなく無限だ。
……。
頼りになる男だ。

――。
そんなこんなで洞窟も九合目。
この角を曲がれば化け物のいる広間に出る。
だがそんなところに宝箱がひとつ落ちていた。
今回はそんな場面からだ。


「オイ、ケン見ろ!宝箱があるぞ!」
「よくやった山崎。お前があけてみろ。」
「わかった」
山崎は宝箱に手をかけた。
「ん…。ケン、今、『お前が』あけてみろって言ったよな?」
「あんたオレに開けさせようとしたよな?」
「こんな洞窟に宝箱があるなんて不自然じゃないか?」
「ボスの前には宝箱があるのが常識だぞ」
ケンは地鳴りのような声でつぶやく…。ハードだ…。
「それはゲームの話だろ?こんな天然の洞窟の奥に宝箱がおいてあるなんてあからさまに不自然じゃないか!」
「それに、今、オレに開けさせようとしただろ?」
「『お前が』開けてみろって言ったよな?」
「ケン、あんた罠かもしれないって気づいてただろ? 気づいてて俺に開けさせようとしただろ? 何かが起きてもいいようにオレを実験台にしようとしたんだろ?ふざけんなよ!!」
山崎はケンを睨み付けた。その目には失意と殺意が満ちていた。
チッ、気づきやがったか。
「何を言っている? 俺はハードな男だ。危険は臨むところだ」
「なら、ケンが開けてみろよ」
「望むところだ」
山崎とケンは入れ替わった。
「ハァーーーーーー!!!!!!!!!!!」
ケンは闘気を込めるようにうなり声を上げた。
山崎は思った。
『ケン、すまない。あんたを疑って! あんたの姿を見ればわかる!やはりハードな男だよ。本物の男だ!』
ケンは感じていた。
『この宝箱はやばい! 間違いなく罠だ! 俺の第六感、守護霊、虫の知らせ、テレパシー、宇宙意思、草葉の陰から…、全ての機能がオールキャストで知らせている。 この箱は危険だと!』
ケンは宝箱を注意深く眺めてみた。
よく見ると開き口の角に細い糸のようなものが張られているのに気づいた。
……。
……。
『絶・対・罠!!!』
ケンは山崎のほうを見た。
『クソッ、明らかに罠じゃないか! 死んでしまうじゃないか! 何とかこの場を乗り切らなければ! 糸のことを言えば山崎もわかってくれるだろう。…。待てよ?この箱を山崎に開けさせれば…。』

説明しよう。ケンには山崎に彼女を寝取られたという過去があるのだった。

「山崎。お前ハードな男になりたいといっていたな? 俺のようなハードな男に…」
「何言ってんだよ、早く開けろよ!」
「この箱は危険かも知れない。俺の感がそう伝える。だが、軽い罠だ。せめて目がしばらく見えなくなる程度だろう。だが、それも数分のことだ。俺の感に間違いが無いのはお前も知っているだろ? 自ら危険に飛び込むことは、ハード名利に尽きる。ハッキリ言って俺は開けたい。だが、俺はあえてこれをお前に譲ろうと思う! 親友で、最高のパートナーであるお前のために!」
ケンの表情は男のそれであった。
ケンは山崎に男の道を譲ろうとしたのだ。

またまた、説明しよう。ケンは精神を集中したとき、宇宙意思により自分に降りかかる罠を見通すことができるのだった。
ちなみに今回の罠は間違いなく死を予感させるものであった。

山崎は感動していた。
「わかったよケン。あんたがそんなに俺のことを思っていてくれたなんて。さすがケン!最高にハードな男だ!」
ケンは山崎に道を譲った、男らしい最後へと続く道を。
山崎は宝箱に手を伸ばした。ケンはほくそえんだ。
山崎が宝箱をそっと開く。糸が張り詰める。
山崎が宝箱を半分まで開いた。ケンは胸の前で十字を切る。
山崎が宝箱を完全に開いた。糸が切れた。
山崎は宝箱を覗き込んだ。
「すげぇー!!」
ケンは心の中でつぶやいた。
「さよなら、山崎」
そのとき宝箱の中からものすごい勢いで風魔手裏剣が飛び出してきた。





だが、山崎は軽々よけた。
山崎は常人では計り知れないほどの動体視力と反射神経の持ち主だったのだ。
『何ーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!』
罠はケンにとっては致命傷になるものであっても山崎にとっては他愛の無いものであった。
山崎に直撃しなかった風魔手裏剣はケンに向かって飛んでくる。
その速度はますます加速している。
動けない。
――。
――。
「ピッコロさーーーーん!!!!」
どこかでそんな声が聞こえたような気がした。




ケンは動くことができなかった。
まったく予測していない事態であり、仮に予測していたとしてもかわせるような速度ではなかった。
ケンは死を覚悟した。通常なら死を覚悟する間もないほどの時間であったが、そこは魂の燃え尽きる瞬間、常識では考えることのできないほど頭の中が回転していた。
しかし、動くのは頭の中だけで体は硬直したままだった。
全てがスローモーションに見える。
風魔手裏剣が飛んでくる。
だが、その速度は感じられない。
飛んでくるというより迫ってくるという感じだ。
回転が読める。
左回りか…。
俺の左頬に突き刺さり、そのまま鼻を切り裂き頭を真っ二つにしていく…。
頭が輪切りの死体かぁ…。
ハードな死に方だなぁ…。
かっこ悪いなぁ…。
風魔手裏剣が目の前まで迫ってきていた。
頬に突き刺さる。
痛くは無かった。脳内麻薬のおかげだった。
風魔手裏剣は回転する。
頬が引き裂かれる。
鼻が引き裂かれる。
血飛沫が飛ぶ。
温かいなー…。
死んだー。



そのとき、風魔手裏剣の後ろで何かが動いていたのに気づいた。
風魔手裏剣の回転が止まる。
風魔手裏剣の後ろから何かが伸びている。
回転は止まったが前進は続いていた。
頭蓋骨が砕かれる。
頬骨は完全に砕かれ、もう感覚が無い。
風魔手裏剣から伸びるものを見た。
……。
…手だ。
その手は山崎のものだった。




風魔手裏剣の動きは完全に停止した。
山崎が持ち前の動体視力と反射神経を用いて風魔手裏剣をつかんでいたのであった。
風魔手裏剣はケンの頭部を半分だけ輪切りした状態で突き刺さっている。
半分だけ頭?
半分。
完全に致命傷だ。



「ケン大丈夫?」
山崎が軽い口調で聞いた。
「大丈夫だ」
普段ならハードにそう答えたはずなのだが、もう何を言っているのかさえ理解できなかった。
死は近い。
意識が遠のいていく。
あぁ…。
さよなら山崎。
……。
――。




――。
――。
……。
……。

―――――。

いきなり意識がハッキリした。
ケンは起き上がると、全力で山崎を殴り倒した。
なぜだか分からないがそうせずにはいられなかった。
「ケン、何するんだ!! せっかく治してやったのに!!」
そうだった。
あまりの事態に完全に忘れていた。
山崎は傷を治すことができるのだった。
そういう設定だった。
「クソッ、せっかく治してやったのに…。」
言葉が無い。
さすがに今のは理不尽すぎた。
……。
……。
もう一度、全力で山崎を殴った。
「クソッ!!あんたはそういうやつだよ!」
とりあえず、これでやり取りが終わった。
これでいいんだ。
ハードな男に言葉など要らない。




「見てみろ!実物を見るのは初めてだ!!!」
山崎がとても興奮した様子で叫ぶ。
ケンは箱の中をのぞいた。
――。
「薬草だ!!!」
ケンもはじめてみたのであった。
よく考えてみよう。
食べるだけで傷が突如治る謎の草。
科学でも解明できない謎の草。それが薬草である。
道具屋で30Gで買えるなんてチャンチャラおかしい。
「すごいぞ!大発見だ!!!」
山崎が薬草を取り出そうとしたがケンはそれをせいした。
「山崎、薬草はあきらめよう。もう荷物がいっぱいなんだ」
山崎はあきれた顔でケンを見た。
「そんなの何かここで捨てていけばいいじゃないか! 薬草だぞ薬草!!」
「よく考えろ! 今から俺たちは化け物と戦わなければならないんだ。そのためには持ち物は無駄にはできない。一度捨てると消滅してしまうのは常識だろ。一度引き返すという手もあるが、あまりにも面倒だ」
「それならなおさら薬草は必要じゃないか!回復はもう残り一回しかできないんだぞ! 化け物と戦うのに必要ないものだって何かあるはずだ!」
山崎は持ち物を確認したが必要の無いものは何も無かった。
相手は得体の知れない化け物なのだ、あらゆる道具が必要になる可能性があったからだ。
だが薬草は惜しい。
もし回復ができなくなったら必要になる可能性がある。
「いいじゃないか。帰りに持って帰ればいいんだ。どうせ薬草などたいした回復量じゃない! ハードな男は攻めあるのみ!」
だが山崎はあきらめきれなかった。
そのとき山崎はケンが握り締めているものに気づいた。
皮のムチだ。
皮のムチは破壊力も無く、鎖分銅があるのでロープとしての価値も無い。
「ケン、その皮のムチ必要ないだろ? それを捨てていけよ」
……。
……。
……。
……。
……。
ケンは口を開いた。
「これは俺の魂だ」



                                 ★


俺達は冒険者。
光を望み、闇に潜む。
正義を嫌いつつも悪を切る。
俺たちは剣。
山崎が俺の魂のムチを捨てろと言う。
「プライドより金だろ?」
山崎は何もわかっていない。
俺たちの仕事は『何でも屋』。
お金のためならプライドの許す限りは何でもする。
だが、俺にとってムチを捨てることは死も同然。何よりも優先する。
俺は山崎を説き伏せ薬草をあきらめさせた。
いよいよ俺たちは化け物の所に辿り着いた。


「ケン、この先を行くと化け物のところに出る。どうする?」
「どうするって行くしかないだろ」
「仮に化け物がいるとしてその場合どうするかってことだ。今回の依頼は化け物退治だ」
山崎は得意そうに話す。
「ポイントはこの化け物は何も悪さをしていないってとこだ。依頼は退治すること。ひょっとすれば化け物は知能を持ち会話ができて、交渉すれば立ち退いてくれるかもしれないだろ。仮に化け物を殺す場合なら後ろを取って一気に問答無用頭で頭を潰してしまうほうが得策だ。そのときは化け物に弁解の余地は無い」
ケンはしばらく間を取った。
『仮に交渉できたとしても決裂してしまうかもしれない。その場合不意を付かれるのは俺達だ! それはマズイ! それならはじめから俺達が奇襲をかけたほうが確実じゃないか!』
クワッ!
ケンの表情が引き締まる。
「男は拳で語り合うものだ! …たとえ背後からであっても」
「ケン、あんたがそういう男だってのは分かっているけど、化け物といっても罪の無い生き物だ、情けくらいかけてやろうよ?」
「悪にかける慈悲など無い」
「オレのいうことも聞けよ! 薬草のときはこっちが譲っただろ。それならこうだ、仮に相手に気付かれず近寄れた場合は殺してしまおう。だけどこちらに気付いた場合は交渉に入ろう。絶対に手を出すなよ!それでいいよな?」
ケンはうなずいた。ケンにとっては気付かれずに殺すという点が重要だったからだ。
「気付かれた場合オレがいいって言うまで絶対だ! …行くよ」
俺達は音を殺しながら前進していった。
角を曲がる。そこには巨大な空けた広間があった。
……………!!!!!
そこには想像を絶する生物がいた。
大きさは2?、顔は中年男、体はゴキブリのような生き物がこちらを見ながら二本足で立っていた。
顔は青白く、腹はゴキブリの様に筋張って茶色く黒光りしていた。六本の手足は胸から体に張り付きながら伸びており、それは節足動物のもので、黒光りし筋張っており全体に棘がついていた。
ゴキブリ男。いや、ゴキブリと顔は言った。
「こんにちは」
……。
二人は思った。
『怖!怖!怖!怖!』

『恐!恐!恐!恐!恐!恐!恐!』

『罪!罪!罪!罪!罪!罪!罪!罪!』

『殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!』 

二人は有無を言わさず襲いかかった。
ケンはムチを振るおうとしたがムチとあの生物が触れることに耐えられなかった。ムチを止める。
山崎も斧で切りかかろうとした、が吐き気を催した。
二人は精神的ショックと大ダメージを受けていた。
ゴキブリと顔はこちらを向きながら後ろへ跳ね飛んだ。
そのおぞましさに二人の精神は崩れそうになっていた。
「ぬぁあれはーーーーーー!!」
ケンは叫んだ。
山崎は吐いていた。
ケンは震えていた。
かってどんな強敵と出会っても恐れを抱いたことなど無い。
この俺が恐れなど…、ありえない…。

だが、あれはヤバすぎる!
グロテスクな外殻、細部、色、てかり、顔と身体のバランス…、全てが神経を縮こまらせ、胃を反転させる。
気持ち悪すぎる!
ゴキブリと顔は口を開いた。
「君たち――
ゴキブリと顔がしゃべるという行為にケンの精神は絶えられなかった。
ケンは渾身の力でムチを振るった。
しかし、ゴキブリと顔は翅を開き横へ飛んで避けた。
「ブーン、ブーン」
ゴキブリと顔の翅が翅音を立てる。
「ぎぃゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
ケンは泡を吹きながら痙攣し崩れ落ちた。
精神は既に限界に達していた。
ゴキブリと顔がケンに向かって飛んでくる。
ケンは動けない。
既にケンは防衛本能によりその心を閉ざしていた。
吐くものが無くなった山崎はそれに気付き、何とか追い払おうとする。
腰のホルスターにかけてあった銃を取り乱射した。
「くるなーーーーーーーーーーー!!!」
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッーン!銃声が響き渡る。
弾丸はそれ、空を切り裂き闇へと消えていった。
当たる訳が無い。山崎の腰は引けており、手元は震えていたのだった。
だが、ゴキブリと顔を怯ませるには十分だった。
ゴキブリと顔はそのまま飛び去り奥の壁に張り付きこちらをうかがってる。
山崎は腰が抜けそうになるが踏みとどまった。
「ケン!ケーン!起きろ!目を覚ますんだ!」
肩を揺すり呼びかけるが反応が無い。
ケンはイッてしまっていた。
「ケン起きるんだ!目を覚せ! …。クソッ、反応が無い。どうしたらいいんだ? こうしている間にもまたアレが襲ってくるかもしれないのに」
ゴキブリと顔に目をやるとこちらを見て微笑んだ。
おぞましすぎる光景だった。
「ケーン、起きてくれ!! オレを一人にしないでくれ!」
どうしたらいいんだ?
ケンを起こすには…   !!
ひらめいた!
生死をさまようものには心からの声と本人の信じるものが有効だという。
……。
山崎は声を張り上げる。
「あいつは悪だ! 存在そのものが悪だ!! あんたの求めていた敵だよ!あいつと戦ってくれよ! あんたはハードな男だろ!!」
しかし、何の反応も無い。
山崎はケンが握り締めていた皮のムチに気付いた。
これなら!!
山崎はケンからムチを取ると激しく地面を打った。
ヒュウン…ビシィッ!!
ケンの体がわずかにだが反応した。
山崎は続けて地面を打ち続ける。
ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!!!
ケンの体は反応するが意識が戻らない。
「ケン!これはお前の魂のムチだろ?」
山崎は地面をを打ち続ける。
ゴキブリと顔が飛び立とうとしている。やばぃ!!
山崎は大きく振りかぶった。
「起きろっ!!クソヤローーー!!!」
山崎は渾身の力を込めてケンの身体を打ちつけた。
ヒュゥン……、ピシッーーーーーーーーン!!!!!!!!
ムチはケンの身体を激しく打ちつけ肉を切り裂いた。
洞窟の中でムチの音がこだまする。
……。
――。

ピキ−ン!!!!
そのときケンの中で何かが目覚めた。
「フォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーー!」
ケンの髪は金色に変わり、逆立ち、身体は金色のオーラに覆われた。
「ケンどうしたんだお前?!」
ケンは黄金に輝いていた。
地鳴りのような声でつぶやく。
「地獄がお前を待っている…。ハァーーーーーーーーーーーーー!!」
ケンは闘気を練り上げていた。
そして次の瞬間…。
ケンは懐に飛び込み全力で殴りつけた…

山崎を…。

「ウォリャーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
ケンが拳を振りぬく。山崎は顎を振りぬかれる。
「ドリャーーーーーーーーーー!!!!」
山崎は顎を砕かれ吹き飛んでいく。
ズゴン!  ズゴン!  ズゴン…!
山崎の身体が鍾乳石や岩盤を貫いていく。
ゴキブリと顔は呆気に取られている。
ズドン! ズドン!  ズドーーーーン!!! 
……。
……。
山崎は意識を失った。
ゴキブリと顔は正気に戻った。
ケンは黄金のオーラを放っている。
ゴキブリと顔は飛び立った。山崎の下へ。
山崎のはそばに降り立つと山崎を抱きかかえた。
そして口の中をモゴモゴすると粘液に包まれた小さな球体を吐き出した。
ゴキブリと顔はそれを山崎に飲ませた。
すると! 山崎の体が光り輝きケンに砕けれた顎が復元していく。
――!!
山崎の身体は完全に回復し意識が戻り始めた。
…。
……。
山崎が目を覚ますと、目には心配そうな表情なゴキブリと顔が映り、抱きかかえれたその感触はおぞましく、おまけにゴキブリと顔の口から伸びている粘液は自分の口へと伸びていた。
……。
――。

ピキ−ン!!!!
そのとき山崎の中で何かが目覚めた。
「フォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーー!」
山崎の髪も金色に変わり、逆立ち、身体は金色のオーラに覆われた。
「何をしたーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
山崎はゴキブリと顔を殴り飛ばした。
「クソッ!
そして追いつき蹴り上げる。
「コノォッ!
ゴキブリと顔は跳ね上げられた。
山崎は高くジャンプし跳ね上げられてきたゴキブリと顔を待ち構えた。
「死にさらせぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
そして地面に叩きつけると銃を乱れ撃つ。
「オラーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
ゴキブリと顔の身体に弾丸がめり込んでいく。
カチッ、カチッ、
全弾撃ちつくすと山崎は着地した。
「ふぅ〜」
山崎は元に戻った。
一部始終を見ていたケンは山崎の非道ぶりに感嘆していた。
男は拳で語るもの…。
山崎はケンが元に戻っていることに気がついた。
「ケン、大丈夫か! オレこいつに何かされたみたいなんだけど変なところはないか?」
「大丈夫だ。お前はパーフェクトな対応をした」
「ナイスガイ!」
ケンはポーズを決めて山崎を褒め称えた。
大丈夫らしい。
……。
俺たちはゴキブリと顔を見下ろした。
顔はグチャグチャになり身体には十数発の弾痕がある。だが、まだ息はあった。
身体を見ていると吐き気がしてきた。
「ケン、どうする?」
「殺虫剤は無いのか? 間違いなく必殺だぞ」
「除草剤はあるけど、殺虫剤は無いんだよ。除草剤でもいいか?」
「駄目だ。こういうやつは間違えた物を与えると変化してしまう可能性がある」
……。
俺たちは再びゴキブリと顔に目をやった。意識は無いようだ。
ケンが重い口調で言う。
「切断しよう…。」
「あぁそうだな…」
既に二人の中で意思の疎通はなされていたのだった。

俺たちは武器を支柱にし鎖分銅でゴキブリと顔を地面に固定した。
そしてケンはチェーンソのエンジンをかける。
ドルン…。  ドルン…。 ドルン…、ドドドドドドドドドドドドドドドドド…!!!!!
ギュウィーーーーーーーーーン!!!!!!!
チェーンソが唸り声を上げる。
ウィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!!!
山崎は固唾を呑んで見守る。
作業は困難を極めた。
初めに一番下の足のところで胴切りにすることにした。
ウィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!!!
チェーンソの刃がゴキブリと顔に触れる。
ガッ、ガッ、ガッ、ガガガガガガガッッッッッッッッ!!!!
チェーンソの刃がゴキブリと顔の外殻を削り始めた。
どうやら外殻の硬度よりチェーンソが勝ったらしい。
ガガガガガガガッッッッッッッッ!!!!
そのときだった。
ガガガガガガガッッッッッッッッッッッッガッ、ギシュ!!
「ギィャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
チェーンソがゴキブリと顔の外殻を破り肉に食い込んでいった。
ブシャーーーーーーー
切り口から紫色の液体が飛び出てきた。
辺り一体紫色に染まった。
「ちっ、血だ〜!!!!????????????」
俺たち二人は紫色の鮮血に染まっていた。
山崎はパニックになっていた。
だがケンは怯むことなく刃を進める。
ギシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュシュ
ギシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュシュ!!!!!!!!!
ブシャーーーーーーーーー
ギシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュシュ!!!!!
「ギィャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ゴキブリと顔はもだえ苦しみ叫ぶ。
「ギィャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ケンが怒鳴る。
「オイ!そのうるさい口を黙らせろ!!」
山崎はハンカチを丸めてゴキブリと顔の口に詰め込む。
ギシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュシュ
ギシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュシュ!!!!!!!!!
「ンクッ!ンクッ!クッ!ンクッ…」
ゴキブリと顔の口から声にならない声が漏れる。
ギシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュシュ
ギシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュギシュシュシュシュシュシュシュ!!!!!!!!!

それれはまさに地獄だった。

「クックックックッ…。」
山崎はケンを見た。
「クックックックッ…。」
????
「クックックッ…ハッハッハッハッハッハッハハハハァハハァハハハァハハハァハァ…」
ケンの気が触れたようだ。
「クックックッ…ハッハッハッハッハッハッハハハハァハハァハハハァハハハァハァ…」
ケンは今まで見せたことの無い狂った笑顔でゴキブリと顔を刻み続ける。
ゴキブリと顔は涙でくしゃくしゃになっていた。
ケンは胴を切り終えると節々ごとに切り裂いていった。
チェーンソーがゴキブリと顔をバラバラにしていく。
全てをバラバラにしていく。
残るは顔と2本の腕だけだった。
ケンと山崎は切り取った部分を山にすると、火を放った。
「ゴキブリ野郎は死に際に卵を産むらしいからな」
ケンは山崎に笑いかけながら言った。
「……。」
山崎は応えれなかった。
ケンは最後にゴキブリと顔の首を切り落とし、残った部分を炎の中に投げ入れた。
ケンは頭部を掴み、口の中のハンカチを取り出して地面にほうり捨てた。
「こうなれば人間と同じ。化け物の証拠にならないかもしれないな?」
山崎はゴキブリと顔を見つめた。
本当にそれはただの人だった。
「行くぞ、山崎」
ケンは出口へと向かった。
山崎は落ちているハンカチを拾い握り締めた。
ハンカチは涙と青い血でクシャクシャになっていた。
「……。」
「行くぞ 山崎!」
「……。」
ケンの後を追い出口へと向かう。
山崎はゴキブリと顔の表情と宝箱の薬草のことを思い出していた。










2004-04-16 12:59:10公開 / 作者:コヨリ
■この作品の著作権はコヨリさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめまして。
稚拙な文ですが、ギャグ系書いてみました。
完結しました。ラストのほう書いていて残酷さに涙が出そうになりました。
ギャグだったはずなのに…。
評価とご指摘のほうお願いいたします。
             こより。


この作品に対する感想 - 昇順
楽しく読ませてもらいました!ハードと連発する主人公のキャラがあれですね(笑/ドレ)続きも楽しみにさせてもらいます!
2004-04-14 03:10:12【★★★★☆】シイナ
ピッコロさんが気になりました。 ティッシュ配りと魔物退治のギャップといきなり頭が真っ二つに割れるってトコに驚きました。。
2004-04-15 18:24:17【★★★★☆】藍
計:8点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。