『巫女と剣士―1―』作者:りあな / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約10.06枚
 時は狩猟生活を主にする移住生活から、
農耕をはじめ定住生活をはじめた頃。
人々は、米を中心に栽培を始め、動物を家畜化し、初めて社会を形成した。
リーダーがうまれ、それを中心に人々が集まって住み、まわりには堀がつくられた。
そうして、村というものがいくつも作られていった。


 ここは神秘のほまれ高い神巫村
村長と並び、この村を支えるのは、‘巫女’という存在。
神の声を聞き、民を導く者。
生まれたときからある種の才能をもつ女子達は、
神殿に集められ修行を積む。神殿で多くの知識を身につけ、
修行によってさらに才能を磨く。
やがて、一人前を示す儀式・月見の儀式を無事修めると、
一人前の巫女として認められる。
この儀式に合格する者は、十人に一人の割合である。
誰もが皆なれるわけではない。
独立後彼女たちは家をかまえ、その豊富な知識で人々を治癒したり、
力を役立てて暮らす。
しかし、最も力を持つ者には‘月見’の称号が与えられ、
この村の運命を担う大きな使命が与えられる。
神の声とともに村をしきり、数ある儀式をとりしきるのである。
これらのおかげで、この神巫村はここ数百年豊かな生活が送っているのだ。

 しかし、そのため他の村々は、この手あの手を使って村や巫女を脅かすようになった。
巫女さえ自分の村にいれば!さもなくば、いなければいい!
誘拐、暗殺、巫女の命は常に危険にさらされるようになった。
そして、設けられたのが、巫女一人に、村の訓練を積んだ若者を護衛につける仕組み。
村の守り神、月見には村一の剣士が仕えることが決められていた。

これは、そんな村にあった物語




小さい頃からの私の夢
それは神の声を聞く巫女として一人前になること
別に有名になりたいとか、稀代の巫女でありたいとか
望んだことはなかった・・・

 でも、あなたに会ってから変わった。

あなたに恋した瞬間から
あなたと過ごすために村一の巫女でありたいと――



神巫村
真夏の太陽が、さんさんと村をてらす、ある日常の日のこと

「飛鳥!飛鳥!」

一人の青年が必死でその小さな森の中を駆け回っていた。

「!」

草木をかきわけ進んだその先に、やっと捜していた者を見つけたようだ。
青年が駆け寄ると、その者は、横に座る小さな少年とともに、
草木をベッドにすっかり眠っているようだ。
青年は汗にぬれた髪をかきあげると、やるせない悲しみと怒りをこめて、
もう一度その者の名を叫んだ。

「飛鳥!!」


「・・・・うにゃ?」



月見の住居―月見の宮―

その命を守るため、あらゆる工夫をされた、一見民家とかわりのない
家の中は、質のよい檜の香りと巫女の使う香の匂いがやんわりと漂っていた。
そこまで安全に大切に、とされる村一の巫女・月見。
それなのに現月見の巫女は、真昼間に護衛もつけず、
危険極まりない森の中で、ぐーすかと昼寝をしていたのだ。
動揺を防ぐため村人全員には知らされていないが、ことを知る一部の人間は
てんやわんやになって月見を探し続けていたというのに。



巫女の居間では、

「いいか!?二度とオレをほっていくなよ!死にたくないならな!」

先ほどの青年が大声で怒っている。

「うぅ・・ごめんなさい・・・」

怒られているのが、眠りこけていた現月見。
名は飛鳥。
かわいらしい顔立ちではあるがまだまだ幼さが残るその顔は
今にも泣きそうな顔をしている。
赤みがかった茶褐色の髪は、他の巫女同様、足元までと長く、
すこしくせげであった。
大きな黒紫色の瞳は涙をこらえているように見える。
白い巫女のローブに胸元には、黄色の鼈甲のアミュレット、
そして耳には同じ鼈甲の耳飾をしている。
この石は巫女により異なり、儀式では同じ額飾りをするのだ。

そして、その巫女の護衛の証として、同じピアスをするのが護衛の決まり。

「はぁ。最初からするなよ・・原因は何なんだよ」

「えっと・・・・」

今怒っていた青年こそ、鼈甲のピアスをする、飛鳥の護衛なのである。
名は疾風。
典型的な黒髪黒瞳だが、瞳は陽に当たると鳶色に見えるのを
飛鳥は知っている。
村で年に一度行われる武術祭で、15歳という若さにして
村一になってから、ずっと優勝しつづける剣の第一人者である。

 飛鳥はちょっと横の少年を見てから、

「わ、悪気はなかったのよ。紫苑と遊んでたら、
 気持ちよくてついつい・・・」

「疾風が見つけるのが遅いんだよーー!」

疾風は、きっと飛鳥にひょっこり隠れる少年をにらむと、

「おまえが原因か〜こんなこと思いつくのはこの頭かぁ〜〜!!」

少年の頭をひっぱりよせ、ぐりぐりとこぶしをすりまわした。

「いていていてていでぇーー!!」



少年は、少年をしっかりとつかむ疾風の腕を振り払おうと、
ばたばたと暴れた。
この少年は村長の孫で名は紫苑。
いたずら好きな年頃で、ぴんぴんとはねた黒髪は彼の性格そのもののよう。
よく飛鳥と遊んでいる。
彼に限らず、飛鳥は子供に非常に人気があったのだ。


「とにかく!オレは村長に報告してきますから、大人しくしててくれよ」
「「は〜い」」

疾風は紫苑を離すと、大きなため息をひとつつき、その場を出て行った。
疾風がいなくなると、紫苑は、ちぇ、っと頭や腕をしきりにさすった。

「大丈夫?紫苑」

飛鳥が紫苑を頭をなぜた。
紫苑は気持ちよさそうにされるままになっていたが、
ぼそっとすまなさそうに、

「ごめんね、飛鳥ねーちゃん。失敗だったね・・・ごめん」

言ったきり、紫苑はうつむいてしまった。

「紫苑ったら、気にしないで。気にしてないから!
紫苑が協力してくれてるの、とっても嬉しいから。
嫌になってないなら、また作戦考えてって思ってるくらいだよ!」

飛鳥は笑いながら、紫苑を抱き寄せた。
紫苑は、照れたように、へへっと笑うと、

「嫌になるはずねーじゃん。うん、また考える。とびきりのを!」
「うん、待ってる」

くすくすと、二人は笑いあった。とびきり楽しい秘密の時間だ。


何分かすると、疾風が帰ってきた。
すこし奥から紫苑と飛鳥は、その様子をのぞいた。

  眉の間しわよってる・・・

  きっとじっちゃんになんか言われたんだな。
  おまえがちゃんと見てないからとか・・・

  うぅ・・ごめんね疾風

こそこそと会話してると、勘のいい疾風がこっちに気づいた。
飛鳥は飛び出ると、笑顔を作って、

「えっと、おかえり。」
「はい、ただいま戻りました」

  うぅ・・

飛鳥は疾風がまだ怒っていると思い、

「ごめんなさい!もうしないから!ちゃんと疾風に言うから!
 危ない森はもう一人で行かないから・・・だからっ・・・

だーっと思いつく限り、泣きそうな声で並べ立てた。
疾風は初め面食らってたものの、くすっと笑うと、

「そうしていただきたいな月見様」
「っ疾風ぇ!」

飛鳥はぶぅっとふくれたが

「・・・えへへ、ふふふ」

二人はにっこり笑いあった。
そこへ、紫苑乱入。

「紫苑にーーちゃーーん!」
「どわっ!」

ドッタタァーン
紫苑が助走をつけて、疾風のむこうづねにタックル。
二人とも音をたてて派手に床に転げた。
疾風のひざを抱きかかえたまま紫苑は目をうるうるさせて、

「ごめんね、疾風にーちゃん!僕ももう絶対危ないことしないよ!!」
「・・・ι」
「にーちゃん!」
「紫苑・・・
 ・・おまえはうそっぽい・・・」

ぼそっと疾風が呟くと、紫苑はうつむいて落ち込んで見せたが、

「無駄だぜ、し・お・ん」

にっと笑って紫苑の頭をぐりぐりなぜつける。

「・・・・。
  ・・ちぇっ」

くるっと悪戯失敗して悔しがる少年の顔を見せた。

「ほーらなっ」
「ちぇー疾風にーちゃん、性格悪いぞぉ」
「お前に言われたくねーよ!」
「・・・ふふふ」

兄と弟のような会話をみせる二人に、飛鳥がたえられなくなって
笑いをこぼす。
紫苑と疾風は顔を見合わせた後、お互いにっと笑いあった。

 「「「ははははは」」」


「はは・・っと、いけね。飛鳥!祈りの時間だ!
 ほら、紫苑さっさとどけよ。男に抱きつかれても嬉しくないっての」
「ちぇ。現実にもどんの早いなぁ、疾風は」

しぶしぶ紫苑も立ち上がる。

「呼び捨てすんじゃねーの!ガキ・・・
 ま、この祈りはさぼるわけにもいかねーからな・・っとと」

思わず口をすべらせた疾風は慌てて、二人を振り返ったが、
二人はにっこりと笑って、

「聞いちゃった。」
にっこりと笑みを浮かべて飛鳥。

「じゃ、他ならいいんだな!?」
同じく満面のいたずらっ子の笑みを浮かべて紫苑。

「・・・・ι」

「疾風♪」
「疾風にーちゃん♪」

「〜〜〜っうるさーい!
 飛鳥はさっさと準備する!紫苑はオレと外で待機!!」

「「はーーい!」」

  

・・ったく、調子狂うぜ・・・

普段の無口でクールなオレはどこいったんだよ・・

ガキの相手はこれだから困るってやつだな・・
2003-09-24 03:38:24公開 / 作者:りあな
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■作者からのメッセージ
はじめまして!
初投稿させていただきました。
まだまだ未熟者ですので、アドバイス等いただけたら嬉しいです。
では、これからよろしくお願いいたしますm(_ _)m
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