『四十九日後 〜ツタエタイコト〜』作者:栄琉 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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太陽が昇ってくる。
空が、少しずつ明るくなってきて。

朝が来た。
あの人が死んで四十九日目の、朝が。





私は見える方だった。
何がって? もちろん幽霊が、見える人なのだ。
結構幼い頃から見えていたからもう目の前の人が生きてるのか生きて無いのか、時々区別がつかなくなる事がある。
大抵は生きている方が生気みたいなものが溢れんばかりで、亡くなった人はそれが薄れているから、そのお陰で解るんだけど。
でも亡くなったばかりの人は、まだ生気が溢れているのだ。
だから、見分けが付かなかった。
あの時も。
気付いていたら、こんなにも。
こんなにも、心は、痛まなかったんだろうか――――?



それは、四十九日前の、朝だった。
学校に行く為に駅に向かった私は、いつも以上の人の多さに、愕然としたのだ。
近くに居た駅員に話を聞くと、三つ手前の駅で人身事故が起きたらしく、その所為で電車が止まっているらしかった。
仕方無しに私は駅を出た。近くのコンビニで時間を潰そうと思って、それで……――――
「こんにちは」
……あの人に、声を掛けられたのだ。
その人は、なんとなくだが、見た事が有るような気がした。
確か……朝の電車で、良く同じ車両になる人だ。
「こんにちは……?」
私は恐る恐る返事を返した。すると、その人は微笑んで――――その笑顔が、何か違うと思ったのは、後から考えれば当たり前の事だったんだ。
「貴方も、時間潰しに?」
私がそう聞くと、あの人は今度は苦笑した。
「僕には、時間が無いんですよ」
「――え?」
「……僕は、」
そこで止めて、少し時間を置いて、
「君が好きでした」
そう、あの人は言った。
そして、次の瞬間には――――
「あ、あのっ……?! 待って!!」
目の前に、あの人の姿はもう無かった。



その夜のテレビで、初めて私はあの人の名前を知った。
まだ若いのに。そう母が呟いたのを覚えている。
お前も気を付けろよ。そう父が言っていた気がするけど、その時の私の耳には届かなかった。
ただ――――
あの人が、今、何処に居るのかが気になっていた。
そして今も。
一ヶ月以上が経った今でも、私は同じ事を考えている。


前に出会った幽霊のおばあちゃんが、四十九日に付いて詳しく教えてくれた。
おばあちゃんの話は当時十歳に満たない私には少し難しくて、それでも優しく教えてくれた部分だけを思い出すと、要するに四十九日と言う期間は、閻魔大王が転生を許し、生まれ変わる世界を決定するために必要な時間だとか。
それが本当の事だと言うのを、私はそのおばあちゃんがきっちり四十九日目でこの世から姿を消した事で、確信を持っていた。
だから、あの人はまだこの世に居る。
それを決定事項として、私はあの人を探した。
もう一度会ったからって、どうする事も出来ない。それは解っていた。
本当は幽霊と自ら関る事はしない方が良い。それも知ってるけれど。
でも、どうしても、もう一度逢いたいと思ってしまったから。
私は、最後の一日。四十九日目の今日に、賭ける事にした――――。


そして。


「こんにちは」
そう声を掛けると、あの人はとびきり驚いていた。
当たり前だと思う心を隠して、微笑みをみせる。
「どうして、此処が……?」
「……不意の事で亡くなった人って言うのは、自分が死んだ場所から動く事が出来ない事が多いらしいんです。だから、……」
私は、その人の背後にある、駅を見上げた。あの日、事故が起きた、三つ手前の駅。
今は普段と変わらない時間に、普段と変わらない電車が行き交いしている。
「君は、僕が見えているんだね」
「……ええ」
その人は、なんだか悲しそうに、笑っている。
胸が少し痛いと、私は思った。
「それになんだか詳しそうだし」
「……そうかな?」
「うん。……だって僕は、あの時自分は消えるものだと思ってた。だから君に、最後に伝えたかった言葉を残したんだ」
泣き出されてしまった。私の所為だろうか。
「……なんで僕は、まだこんな処にいるんだ?」
「それは、今日が四十九日だから」
「――え?」
「人は亡くなってから四十九日間だけは、この世に居るんです。だから」
私がそこで言葉を切ると、その人は、ふっと笑った。
凄く優しい笑顔だ。――――――その笑顔が、私は。
「君は本当に、良く知ってるね」
その人の目元の雫が、きらっと光った。それを自分の服でぬぐっている。
透けた服。服だけじゃない。
その人の身体全体が……生気を失い、透けて来ている。
「生きている時に、もっと色んな事、聞きたかったよ」
「……私もです」
声が、震えてしまった。私まで泣きそうだ。
「私ももっと、貴方の事が聞きたかったです」
言葉が足りない。
話だけじゃなくって、笑顔だって見たかったし、伝えたい事だって――――――
「……ありがとう」
本格的に出てきてしまった私の涙を、透けた指で拭おうとしてくれる。
私は霞む目の向こうで、あの人がまた笑った様に見えた。
そして、
「向こうに付いたら、閻魔様にお願いしてみるよ。君の居る世界に転生させてって」
そう声が聞こえたのが――――あの人の、最後の記憶になった。





太陽が昇ってくる。
空が、少しずつ明るくなってきて。

朝が来た。
あの人が死んで五十日目の、朝だった。




2004-04-11 12:49:07公開 / 作者:栄琉
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■作者からのメッセージ
初めまして。始めて投稿させて頂きます栄琉と申します。よろしくお願いします。

この話は自身が始めて書いた短編です。
結構前に書いたので、ネタ的にかぶってないか心配です……。
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