『讃頌』作者:仮名 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 世界が少しずつ明るくなっていく。
 壮大で力強い、生命の色彩を色濃く湛える大地。雄大に構え、生命の源をどこまでも煌かせる海。広大無辺、輝く陽と煌々とした星々を抱く、いつまでも果てなき空。そして無限の命を抱えたこの美しい世界が、生命の光の中、今日も静かに佇んでいる。

 どこかで誰かが、世界中に語りかけるように、吼えるように、力強く言った。
「讃えるべきは大地だ! あらゆる総ての命を湛え、育み、強くこの世界を築き上げてきた大地。我等の立つ場所、世界の支え。この偉大な土を、このなにもかも壮大で美しい大地を忘れたか! 一つでは到底立ち上がることさえ出来ぬ我等を常に支え、命の志すことを教えてくれた大地。我々はその大地の恩寵に応えなければならないのだ!」
 人々は眠るように大地に両手をつき、歌った。その歌は偉大なる大地を揺らし、世界中に響き渡ってゆく。

 どこかで誰かが、世界中に語りかけるように、吼えるように、力強く言った。
「讃えるべきは海だ! あらゆる総ての命を生み出し、慈しみ、優しくこの世界を築き上げてきた海。生命の源、世界の源。この聖なる水を、このどこまでも雄大で美しい海を忘れたか! 一つの小さな存在であった我々を常に擁きしめ、命の、生命の尊さを教えてくれた海。我々はその海の恩寵に応えなければならないのだ!」
 人々は拝むように海を見つめ両手を合わせ、祈った。その祈りは静寂なる海に溶け、世界中に染み込んでゆく。

 どこかで誰かが、世界中に語りかけるように、吼えるように、力強く言った。
「讃えるべきは空だ! あらゆる総ての命を抱き、見つめ、明るくこの世界を築き上げてきたのは、空だ。光とは、世界の息吹とはなんだ! この真実の風を、この広大無辺の美しい空を忘れたか! 一つで闇の中に蹲っていた我々を常に守り、命の目指すべき道を教えてくれた空。我々はその空の恩寵に応えなければならないのだ!」
 人々は願うように両手を上へ広げ、叫んだ。その声ははるか遠い空に浮かび、世界中に降り注いでゆく。

「だが! 貴様らはその大地の恩寵を無下に振り払い、所詮足元の存在だと罵り、ぞんざいに踏みつけ嘲笑うか! 我々は大地を、遥かな土を、強く守る!」
 人々は信念を永久に通しぬく剣をとった。
「だが! 貴様らはその海の恩寵を無下に振り払い、災厄の源と決め付け、おろおろと恐れ逃げ惑うか! 我々は海を、遥かな水を、強く擁く!」
 人々は信念を永久に守りぬく盾をとった。
「だが! 貴様らはその空の恩寵を無下に振り払い、光を眩しいと言って閉じ込め、黒く汚し眼を背けるか! 我々は空を、遥かな風を、強く誓う!」
 人々は信念を永久に貫く槍をとった。
 なにかが叫んだ。
「これは聖戦だ! 我等の夢を! 大地を! 海を! 空を! 生命の光を!」
 総ての人々が叫んだ。
「我等の信念を!」
 世界を咆哮が轟き、その光は血で染まった。
大地を爆風が包み、海を灼熱が襲い、空を轟音が駆けた。

 世界に少しずつ闇が融けてゆく。
大地は赤く爛れ、土は灰と化した。海は涸れ果て、水は煙と化した。空は暗雲に埋まり、風は闇と化した。
世界は汚れ、静寂と化した。
雨が降る。さながら天の涙のように。
涙に打たれ爛れた大地が歌っている。今はもう無き海が祈っている。黒に閉ざされた空が叫んでいる。
世界が、涙で包まれる。
 やがて総てが闇に融け、世界はなにもなくなった。



2004-04-10 14:22:57公開 / 作者:仮名
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■作者からのメッセージ
ちゃんとした話の筋があるわけではないのでよく分からないかもしれませんが、批評お願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
意見のすれ違いで起こる戦い…人間とはまだまだ愚かな生き物だなと痛感しました。次回作たのしみにしてます!がんばってください!
2004-04-10 14:29:50【★★★★☆】森山貴之
読ませていただきました。詩的な短編ですね。長編ものにしても面白いのではないかと思いました。
2004-04-11 09:30:36【★★★★☆】メイルマン
計:8点
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