『BLUE  −完結−』作者:小都翔人 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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試合開始前のロッカールーム。
先発イレブンの発表を聞いて、青山智樹は驚いた。
「お、俺がスタメン!? 」

青山智樹、16歳。ポジションはフォワード。
小柄ながらもスピード感溢れるドリブルと、両足から繰り出す強烈なシュートが持ち味。
FC東京ユースから、15歳でトップ昇格。すぐにレギュラーの座を掴み取り、昨シーズンでは20得点、11アシストを記録。
若手注目のストライカーとして、各方面からの話題を集めた。
今年に入り、アテネ・オリンピックを目指す、U−23日本代表入りが噂されていたが、急遽、日本A代表に召集された。
日本A代表の、最年少選手である。
日本代表監督のソクラテスは、智樹の肩を叩いた。”頼んだぞ”と。

2006年ワールドカップ・ドイツ大会、アジア1次予選を間近に控えた、最後の調整試合。
相手は強豪、イタリアA代表である。
しかも今回は、日本代表監督ソクラテスの積極的な誘致により、ベスト・メンバーでの来日となった。
試合会場は、埼玉スタジアム。日本代表が2002年、ベルギー代表と緒戦を戦った場所だ。
本日の前売りチケットは、販売開始と同時にすぐ完売となった。

スターティング・メンバー発表と同時に、スタジアムから大歓声があがる。
今日の試合、ソクラテス監督は今までの4−4−2システムから、3−5−2に変更した。
サポーターの多くは、”今更なんで実験を”といぶかしんだが・・・・・・。

ゴールキーパーは長崎(名古屋)。
ディフェンダーは、中央に宮木(G大阪)、右に坪倉(浦和)、左に仲澤(横浜Fマリノス)。
ミッドフィールダーは、ボランチ左に小田(フェイエノールト)、右に稲垣(フルハム)、
トップ下に中多(ボローニャ)、左サイドに小都主(浦和)、右サイドに藤井(磐田)
そしてフォワードは、2トップ左に高岡(HSV)、右に青山智樹(F東京)だ。


「さぁ行くぞ!! 」
キャプテン中多の一喝にメンバーが合わせ、戦場のピッチへと入場していった・・・・・・。

午後7時20分、キックオフ。
イタリアはバック・ラインから、ゆっくりとボールを動かす。
日本は早いプレッシャーから、中盤でイタリア選手を囲み込む。
右サイドに大きく出されたイタリアボールを、日本の左サイド小都主がカットした。
ワンタッチで中央の中多にはたき、そのままサイドを駆け上がる。
中多は、プレッシャーを掛けに来た相手選手をいなすと、左サイド深い位置に素早いグラウンダーのパスを出した。
抜け出した小都主が、左足でゴール中央にクロスボールを入れる。
ディフェンダーに囲まれながら、高岡がヘッドで落とした。
「来た!! 」
智樹は、そこに走りこんでいた。
「コースはある!!打てる!! 」
智樹の右足が、ボールを捉えた。ややアウトに掛かった弾道を描いて、ボールがゴールに向かう。
「よし!! 」
サポーターの歓声が響いた。・・・・・・しかし、すぐに溜息に変わる。
イタリア代表ゴールキーパーのブッヘンが、決死のセーブでボールをはじき出したのだ。
「ああ〜・・・・・・。 」
智樹のA代表でのファーストタッチは、日本のファーストシュートとなった。
しかし、立ちふさがったアズーリの壁。

日本のコーナーキック。
ベテラン藤井の入れたボールは、あっさりと相手ディフェンダーにクリアされてしまった。
そして・・・・・・それまで眠っていた、イタリアの攻撃陣が牙を剥く。
ビクロから展開されたボールに、素早くデラピエラが反応する。
マイナスに折り返されたボールは、そのままビエールの足元に。
ビエールは稲垣を振り切ると、そのままドリブルで突進し、焦る日本ディフェンダー陣を嘲笑うかのように、
ミドルレンジから豪快なシュートを放った。

「・・・・・・ゴォォォーーール!! 」

キーパー長崎の手を弾いたボールは、左サイドネットに突き刺さった。
前半17分。
日本 0−1 イタリア。
この一撃で、日本の歯車が狂い始めた。中盤にボールがおさまらず、苦し紛れのハイボールが多くなる。
そして、追い討ちを掛けるかのようなハプニング。
ワンツーで抜け出したデラピエラに、ペナルティーエリア内で坪倉が痛恨のファウルをおかしてしまった。
これで得たペナルティキックを、デラピエラが自ら冷静に決める。
前半39分。
日本 0−2 イタリア。

「これが、本気のイタリアか・・・・・・。 」
智樹が呟いた。
「いや、本気のイタリアは、まだまだこんなもんじゃないよ。 」
キャプテンの中多だった。
「智樹、今からが試合だと思って、気持ちを切り換えろ!!そして、俺がボールを持ったら、常に裏を狙ってくれ!! 」
「わかりました!!ヒデさん!! 」

前半の残り時間は、あと5分弱。

イタリアは、バックラインからゆっくりとボールをまわし、中盤で日本の選手がプレスに来ると、すかさずボールを後ろに返す。
時間帯を考えて、決して無理はしない。
残り時間はあとわずか。智樹は早く、自分へのボールが欲しかった。
「智樹!下がるな! 」
中多からの激が飛ぶ。なかなか前線の自分に、ボールがわたらない事へのもどかしさ。

しかし、その情況を打破したのは中多だった。
相手のパスコースを読み、思い切り脚を伸ばしてボールをカットする。
そのボールに素早く反応した小田が、智樹にロングパスを通した。
「来た!!今度は絶対に決める!! 」
トップスピードでドリブルに入る智樹。しかし、そこに立ちふさがったのは、イタリアの英雄的ディフェンダー、ネスターレだった。
「くっ・・・・・・。 」
左右の脚で巧みにフェイントを仕掛けるが、ネスターレは全く隙を見せない。
激しいチャージが、智樹の体を振動させる。
「抜けない!でも、俺は勝負する!! 」
背後に小田の呼び声が聞こえた。智樹は、いちがばちかの賭けに出た。
ネスターレに背を向け、バックパスをする体勢を見せ付けて、右足のヒールでボールを流した。
「フ、フェイク!? 」
そのまま智樹は反転し、自分のヒールパスに自ら追いつくと、シュート体勢に入った。
ガッ!!
「ぐくっ・・・・・・!! 」
ネスターレがたまらず、後からのチャージ。智樹ははじき飛ばされた。
主審のファウルを告げる、ホイッスルが響く。
「し、しめた!!ペナルティーエリア内だ!! 」
痛みをこらえて立ち上がった智樹は、思わず愕然と立ち尽くした。
主審である、エクアドル人のブランカ氏が高々と上げたイエローカード。それは、明らかに智樹に対しての警告だった。
「な!そ、そんな、馬鹿な!! 」
シュミレーションだ。主審の目には、智樹の転倒が、演技による過剰ダイヴだと見なされたのだ。
「そんな!!どこ見てるんだ!?今のは、明らかに後から!! 」
「智樹、やめろ!!まだ前半だ!! 」
智樹を制したのは、中多だった。
「し、しかしヒデさん・・・・・・。 」
「ゲームに戻れ!退場にされたいか? 」
「・・・・・・。 」

イタリアのゴールキーパー、ブッヘンが大きく蹴りだした。
その時、無情にも前半終了を告げるホイッスルが、鳴り響いた・・・・・・。

ロッカールームに引きあげる日本イレブンに、容赦なくサポーターからのブーイングが飛ぶ。
とりわけ、智樹に対する風当たりは強かった。
「おい!青山!一人で調子にのってんじゃねーぞ!! 」
「柳原と変われ!!柳原と!! 」

ロッカールームでも、選手たちの意気は低かった。
小田が智樹に詰め寄った。
「おい!智樹!なんであそこで無理に勝負した?逆サイドで、高岡がフリーだったんだぞ!! 」
「す、すみません!でも、でも俺はただ、なんとしてでも前半に1点返したくて・・・・・・。 」
「お前が突っ込むより、もっと確実な選択があっただろう!! 」
「俺は、俺は、自分で最良の選択をとった!! 」
それまで黙って聞いていた中多が、2人に割って入った。
「智樹のチャレンジは良かったよ。主審の見方によっては、完全にPKだった。・・・・・・しかし、お前は常に、
 まわりの情況が見えてプレーしていたのか? 」
智樹は何も言えなかった。
「わかってると思うが、得点を奪うために最も必要な4つの事、ポジショニングとタイミング、そして広い視野と素早い判断力だ。 」
「・・・・・・はい。 」
「後半は、そいつをもう一度思い出してみろ。 」
「はい! 」

監督のソクラテスが、メンバーに声をかけた。
「後半もメンバー交代はない!このままの布陣で臨む!内容うんぬんの前に、得点にこだわってくれ!!そして、
 そして私に約束してくれ。イタリアから必ず、最低でも必ず1点を取ると!! 」

後半開始に向け、日本イレブンは再びピッチに向かった。
「智樹。わかってるな。 」
中多が肩を叩く。
「はい!必ず1点を取る・・・・・・。それはフォワードの・・・・・・俺の仕事です!! 」





イタリアボールからの、後半開始。
メンバー交代なしの日本に対し、イタリアはデラピエラに代えて”王子”トッティムを投入。
スタンドの、イタリア側サポーターから大歓声があがった。

イタリアは、後半開始早々から日本を攻め立てた。
たたみかける事によって、早い時間に日本選手の志気を下げる作戦だ。
トッティムにボールが渡ると、一際大きな歓声があがる。
今期、所属チーム”ASローマ”での調子が良いトッティムは、今日の試合も万全のコンディションで迎えたようだ。
ミドルレンジからのシュート!!
これはキーパー長崎が、がっちりとセーブする。長崎から宮木、稲垣とパスが通って、ハーフウェイラインの中多へ。
イタリアも、中多には激しいプレッシャーを仕掛けてくる。
中多から、左サイドの小都主へ早いパス。追いついた小都主が、アーリークロスを入れる。
高岡のヘディングシュート!!・・・・・・しかしこれはキーパー、ブッヘンの正面だった。
この時、智樹は右サイドに”消えて”いた。前半の様子から、今日のブッヘンのクセを見抜いていたのだ。

 −正面でキャッチしたあとのブッヘンは、かならずロングフィードか、左のカンナヴィアリに出す−

ブッヘンがボールを放した瞬間に、智樹はダッシュしていた。
「来た!! 」
智樹の狙いどおり、ブッヘンはカンナヴィアリにボールをスローした。
カンナヴィアリがボールを受ける瞬間、すかさずカット。驚くカンナヴィアリを尻目に、ゴールエリアに突進する。
「よし!いける!! 」
立ちはだかるのは、やはりネスターレ。体を張って、シュートコースを消しにかかる。
ブッヘンも、早くもシュートに備えて身構えていた。
智樹はフェイントを仕掛けながら、ジリジリとゴールに迫る。ネスターレとの、間合いも詰まる。
「ここだ!! 」
智樹の視界に、ファーサイドに走りこむ中多の姿が見えた。智樹は迷わず、ゴールを横切る低いパスを出した。
中多がダイレクトで右足のシュート!!

「・・・・・・ゴォォォーーール!!ニッポン、1点!!1点返しましたぁぁ!! 」

後半12分。
日本 1−2 イタリア。
「よし!! 」
智樹は中多に駆け寄った。他の選手も集まり、歓喜の渦が起きる。
「まだ1点だ!!これからが勝負だぞ!! 」

この1点を皮切りに、日本ペースが続く。
後半19分、小田のミドルシュート。これはわずかに、クロスバーを越える。
後半23分、稲垣から高岡へのスルーパス。キーパーと1対1になるが、惜しくもオフサイド。
たまりかねたイタリアは、選手交代のカードをもう一枚切ってきた。

中盤の選手を一人退げて、フォワードのインザードを投入。
強さのビエール、技術のトッティムに加え、インザードが裏を狙う。
一瞬のミスだった。稲垣から坪倉への横パスをカットされた。すかさず、早いロングパスが通される。
宮木と競りながら、インザードが強引にシュート!!
キーパー長崎が、横っ飛びでパンチング。なんとか防いだ・・・・・・はずだった。
ルーズボールに詰めていたトッティムが、倒れている長崎を確認して、つま先でふわりと浮かすループシュート。
ボールは美しい弧を描き、ゴールネットに突き刺さった。

「・・・・・・ゴォォーール!!日本なんてことだ!!イタリア、決定的な3点目!! 」

後半37分。
日本 1−3 イタリア。
「まだ試合中だ!!下を向いてんじゃねーぞ!! 」
中多の激が飛ぶ。そうだ!!まだ試合は終わっていない。智樹は走り出した。

時間は刻々と過ぎる。焦る日本イレブン。智樹も、かなりの体力を消耗していた。
「はぁはぁはぁ・・・・・・。スタミナには自信があるのに・・・・・・。 」
それだけ激しい相手、それがイタリアなのだ。
その時、スタンドを埋め尽くした日本サポーターから、大声援がおこった。
「そうだ!!みんなの為に、そして俺自身の為に、イタリアからゴールを奪ってみせる!! 」

中盤での激しい競り合い。ボールキープした藤井を、小田がヘルプする。
その小田を後から追い越していく、稲垣へのパスが通る。稲垣はディフェンダーを引き付けて、
中多へのショートパスを出した。中多が前を向く。智樹はもう、トップスピードで走り出していた。
中多の強く、長いパスが出される。ゴールエンドを割るか!?
「くっ!!絶対に取ってみせる!! 」
智樹は、決死のスライディングで追いついた。すぐさま立ち上がり、ゴールだけを見据える。
この角度では、シュートコースが無い。智樹は中央へ、ドリブルで突進する。
ネスターレ、カンナヴィアリが行く手をふさぐ。もう時間はロスタイムだ。
「相手が誰であろうと・・・・・・フォワードは勝負だ!! 」
智樹はネスターレに体を寄せると、自分の軸足にボールを当てて反転した。
ネスターレの動きが一瞬止まる。智樹が、動き出すと思っていた方向とは、逆に切り替えしたからだ。
ネスターレを振り切り、カンナヴィアリのタックルをかわす!!
「いまだ!! 」
智樹は、右足を力強く振り切った。

「・・・・・・ゴ、ゴォォォーーール!!青山決めた!!ニッポン、土壇場で1点差!! 」

智樹はすぐさまボールを拾うと、ハーフウェイラインめがけて駆け出した。
「まだ、あと1点!! 」
・・・・・・しかしこの時、試合終了を告げる、ホイッスルが鳴り響いたのだった・・・・・・。


試合が終わり、健闘を称え合う両イレブンたち。
智樹のもとに、トッティムが歩み寄ってきた。ユニフォームの交換を求めている。
トッティムは智樹とのユニフォーム交換を終えると、イタリア語でなにやら話し掛け、智樹の肩をポンと叩いた。

「ヒデさん。トッティムは俺に何て言ってたんです? 」
中多は、笑顔でこう答えた。
「”もし、本格的に世界を相手にプレーしたければ、ローマに来い”と言ってたよ。 」
「ほ、本当ですか!? 」
「ああ。しかし、”もし他のイタリアのチームに来た場合は、容赦なく削らせてもらう”そうだ。 」
そう言って、智樹の髪を手でくしゃくしゃにした。
「ははは!!・・・・・・イタリアかぁ。・・・・・・でも、俺は別の場所で夢を追いたいんです・・・・・・。 」


日本イレブンは、スタンドのサポーターに挨拶をした。
負けたとはいえ後半の大善戦に、惜しみない拍手と歓声がいつまでも続いていた・・・・・・。


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試合を終えて、一週間後のことだった。
智樹のもとに、スペイン”リーガ・エスパニョーラ”の強豪チーム、”バレンシア”からの正式オファーが届いていた。












 −END−
2004-04-14 12:34:22公開 / 作者:小都翔人
■この作品の著作権は小都翔人さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ずっと書いてみたかった、サッカー物です。
サッカーファンでないかたは、少しもおもしろくないでしょうね(汗)
感想いただけたら、ありがたいです。
この作品に対する感想 - 昇順
ネーミングだけでニヤリ。ヴェルディの15歳Jリーガー森本君の未来もこんなカンジですかねー。いやー、サッカーファンには面白いですよ!どんな場面か短い文章からでも想像がつくので。本当の名前を使わないのには理由があるのですか?後半も楽しみです!
2004-04-09 13:53:24【★★★★☆】境 裕次郎
境さん、ご感想ありがとうございます!!かなり自己満足的なエゴで書いた物なので、お恥ずかしい(汗)境さんは確か、C大阪ファンでしたね?ワタシは大のFC東京ファンですが、実は年齢設定こそ違えど、この物語りの主人公のモデルは大久保義人なんです。
2004-04-12 13:27:43【☆☆☆☆☆】小都翔人
短い描写で鮮明な場面を喚起させる、その才能に脱帽です。サッカーファンではありませんが、非常に楽しく読めました!! 後半戦を楽しみにしております!!
2004-04-12 21:48:13【★★★★☆】蘇芳
蘇芳さん、読んでくださってありがとうございます!そこまで誉めていただけるとは思わなかったので、感激です!あらためて、小説を書くことの楽しさを実感しました。ありがとうございます!
2004-04-13 08:45:37【☆☆☆☆☆】小都翔人
フフフ、面白かったです。審判は賄賂でももらってるんでしょうか? 知っている選手達(漢字とか微妙に違いますがw)が出てて、とても入り込めました。
2004-04-13 17:43:45【★★★★☆】風
計:12点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。