『笑う事。』作者:シア / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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「笑う事ってとっても良い事なんだよね」
小学二年生の我が娘はいつの日か公園でそう言った。
「ええ、とっても良い事よ。幸せのしるし」
えへへっと笑いながら、嬉しそうにブランコをこぐ娘。
いきなり何でそんな事を言い出したのか私はわからなかった……。
けど、たった今、わかったのだ。


幼かった娘は、もう小学六年生。
学校に行く時は五、六人の二年生時代の友達と一緒にいて、いつも二階のベランダで洗濯者を干しながら娘を見守る。どんな会話をしているのかは、わからないが、ワイワイとわらい声がベランダに響く。いつも安心しながら見守る毎日の朝。


友達と本当に仲良しなのね。あんなにわらっていて……。
でも、そう思う事は間違っていた……。


今私の娘は泣いている。今までたまっていたストレスを解放するように、
泣きじゃくれている。ビックリした。あんなにわらっていた、あんなに楽しそうだったあの子が。全てをはきちらすんだった。
「もう耐えられないよ、お母さん」
涙を手でぬぐいながら言う。
「あんなの友達なんかじゃないよ、友達なんかじゃ……ない……」
「どうしたの?恵利奈……」
恵利奈というのは私の娘の名前。
「もう耐えられない、もう……笑う事はできないよ」
わらう事ができない?疑問に思う私だったが、名探偵が次々と謎をといていくように恵利奈のベランダの時の様子とは違う学校の様子を教えてくれた。


「どうしたの恵利奈。その筆箱……買ったの?」
友達……はそう言う、するどい視線をむけ、わらいながら。
「え、うん。そう、これ昨日買ったんだ」
「それ零と一緒の筆箱じゃん!」
「え……!」
零の筆箱と私の筆箱は一緒だった。
筆箱は、お母さんが昨日買ってくれたもので零も昨日買ったようだ、まだ
新しい。
「何ー?恵利奈のおそろいだっていうのー?」
「あ……。一緒だね、零」
周りは何故かわらっている。
「あははは、零、恵利奈と一緒じゃん」
周りは零に可哀想、というような視線を送っている。
……何で?ただ一緒だっただけじゃない。
私と零は同じ立場じゃない?筆箱も昨日買ったんでしょ?
疑問がふくらみつつあるけれど、周りにあわせ、何もわからずに笑った。
笑う……?でも、何か、違うよ……。
幸せのしるしなんかじゃないよ、お母さん……。
こんな状況は時がたつにつれ、多くなっていた。

「明日舞ちゃんが来るんでしょ!」
舞、というのは転校生で、クラスで明日用事が無い人は来るという内容だった。連絡は手紙がまわってきたし、久し振りの友達に会うのに、わくわくしていた。でも……。
「ねえ、恵利奈どうするの?明日行くの?」
「うん、用事ないし行くよ」
ニヤッとわらう人。
「何処に行くの?」
冗談……?
き、決まってるじゃない?舞ちゃんと遊ぶんでしょ?皆で……。
「ど、何処って……」
辛くて言い出せなかった。でも、その冗談……にあわせるように、ただわらうんだった。
そんな私のイメージと違う『笑う』という事に疑問をもつ出来事がこれからどんどん増えるのだった。
でも、笑うって良い事。
皆が笑ってくれるって何だか嬉しい。
たとえ、私一人が嫌な思いをしたって、皆がそれで笑ってくれるなら、
それでいいんだ、そう思うようになっていた。
でも、そんな出来事が多くなってくるにつれ、だんだん自分がそう思う事に腹がたってきた。こんなに嫌な思いをするぐらいけなしてくるトモダチ。
でも皆は笑っている、自分の気持ちとは裏腹に。楽しそうに……。
ズルい……。


まだ、たくさんの出来事を恵利奈から聞いた。
大人にとっては小さい事みたいに思えるかもしれないけれど、この子はまだ
子供。とっても辛い事だろう。大人でもそんなに前向きにとれる事ではないだろう。けなされる……トモダチから。トモダチは恵利奈の気持ちも知らず、ただわらう……。そんな状況に私はこう答えたのだった。
「恵利奈、笑うって事は良い事よ。前も言った通りにね。
 でも、たった一人でも嫌な思いをするのはそんな事、笑うって事じゃな 
 い。嘲笑。そう言う言葉があるんだけど、そんなもの」
「……嘲笑?」
「嘲笑って……人にとって嫌な笑い方みたいなものなの。
 一人が犠牲を払ってそれをわらう、そんなの笑うって事じゃない、
 悪い事なの」
「悪い……事?」
恵利奈は泣きじゃくった涙をぬぐい、私を見上げた。
「笑うって事は良い事。
 でも一人が嫌な思いをして笑うのは悪い事。
 楽しい時は精一杯笑えばいい、ね?」
「うん……」

恵利奈は弱々しく答えた。
これで良かったのだろうか。
恵利奈はわかってくれたのだろうか……。
これから友達と仲良くやっていけるだろうか。

最近は笑うという事に対して世の中甘くないだろうか。
最近は笑うという事に『死』という話題や、『人』を馬鹿にしたところ
で笑っているのが目立ってないだろうか。
笑うという事、もう一度、考えてみたいと思う今日だった。
2004-04-03 19:51:48公開 / 作者:シア
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この作品に対する感想 - 昇順
こんにちわ。読ませてもらいました。最後の問題提起が私にとってすごく新鮮でした。こんな名前のくせに笑いにもいろいろ区別がつくんだなんてきちんと考えた事ありませんでした。どこをどうしたらいい・・・とかは私は感じませんでした。強いて言えばわくわくしていた、のところで誤字が(めざとくてすみません)。これからも頑張ってください。
2004-04-02 23:32:23【★★★★☆】笑子
一見気分が暗くなるような終り方なのに、他人の子を憎む(あるいはそれを表に出す)暇があったら己が子の教育に費やすという母親像が垣間見えて、実は救いのある小説なのだと思いました。改行の仕方をちょっと変えれば(例えば、母娘の視点が切り替わる所で三行空け、その他は一行空けで統一)、もっと場面の切り替えがすっきりするかもしれません。
2004-04-03 00:59:31【★★★★☆】明太子
子供って残酷な時があるんですよね。 それをうまく表現されていたと思います。これからもがんばってください。
2004-04-03 22:21:58【★★★★☆】藍
計:12点
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