『毒舌と罰!!』作者: / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角9308文字
容量18616 bytes
原稿用紙約23.27枚
 のんびりと過ぎ去って行く空がステキだ。どうせなら俺も雲になりたい。
 現実逃避したい俺の心を分かってくれ。帰還するには少し俺の精神は耐えられそうにない。
 されど、強制的に励起されていく記憶。もはや恨む言葉も出尽くした。
 視界に光がさしてゆく。見たくもないってのに・・・。

 窓が開け放たれた。外はひんやりと肌を刺す冷気をまとっている。
 小鳥のさえずりなどといった、爽やかなものはまったく感じられず鬱屈した心がエンドレスに俺の首を絞める。
 さして広くもない2DLKの部屋。リビングも一人暮しにしては広い方だが、むしろそれは寂しさを際立てる。
 店側の手違いで、紺色のはずが灰色になってしまった皮のソファーに半ば倒れ込むように腰を下ろすと、膝辺りの高さのテーブルの上に投げ出された新聞を手に取る。
 広げて中身をざっと見るが、日付の方に目が行くとそれを壁に叩きつけた。三日前のものだ。
 この情報過多の時代、もはや世界はどーでもいいアホ知識まで求め始め新聞も七割は無駄なもんしか書かれていない。
 暇を潰すには最適なのかもしれないが、それは余計に疲労を漂わせるのであまり考えないようにしている。
 億劫オーラを撒き散らしつつ、俺は玄関の郵便受けの方を見た。
 案の定、手紙が山の様に詰まれているが、それらの内容は見るまでもなく借金の催促が飽きることなく書かれているだろう。
 そう、まさに俺の生活はいまだ人類が覗いたこともないような借金地獄に埋もれている。
 確か最後に金額を確認したときは、ゼロが十個辺りになりかけていた気がするが、きっとそれは幻覚かポストが紅いせいだ。気にしない。
 そうだ、今度ギネスに申請しようか。駄目だ、もはや送る手紙と切手とペンを買う金とチャンスがない。
 そんな思考遊びをしつつ、手紙を一枚ずつ満載気味のゴミ箱に叩き込んでいると、一つ注目を引く手紙があった。それはラブレターのように、蓋をハートのシールでとめられた手紙だった。
 ドクン、と俺の心臓が大きく鼓舞した。丁寧にそのふたを開けると、中にはピンクな紙がひっそりと入っていた。
 借金取りの新手の催促かとも思ったが、紙を見てみるとそこには恥ずかしそうに4文字だけ書かれていた。
「好きです」
 明らかに女性の文体だったので、さすがの俺もこれには仰天した。とうとう俺にも・・・と思ったが、アホみたいな借金以外の取り柄もない俺を好むのはどこの生き神様だ。
そう思って紙を裏返してみる。そこに書かれた文に俺は目を見開いた。

「きゃはっ、驚いた?勿論嘘だから本気にしないでね☆ところで、この手紙は世界有数の借金地獄にまみれている人に送られていまーっす。なんでかって言うと、その人たちを集めて大規模なイベントをやろうと思ってるからですっ!
 さて、ここで重要な話なんだけど。なんと、そのイベントで勝った人には借金の全額免除、更に十兆円がプレゼンツされます!!
 と、いうわけで。参加したい人は四月一日、忠犬ハチ公前朝八時に集合ネ!じゃ!」

 目をまん丸に開き、口まであんぐりと開けて呆然としていた俺の顔はさぞかし間抜けだったろう。
 ドッキリかとも思って辺りを見まわしたが、特にカメラが仕掛けられていたとは思えないし、ドッキリならすでにタイミングを逸している。いや、あるいはそのタイミングとはそのハチ公前でのことかもしれない。
 だが、それならそれで出場料が貰えることだろう。と思って、俺は前向きに考えることにした。
 十兆円というのはもはや日本の国家予算にもなるほどの大金だ、信じられる要素はゼロに等しかったが、何故か俺は疑う気にはなれなかった。もしかしたら、こういうものを待ち望んでいたからなのかもしれない。
 かくして、俺の三月三十一日の朝はこうして迎えられた。

 ロクな仕事にもありつけない俺は、借金を背負っていながらまったく労働していない人間だ。 それでどうやって生活できているのかと言うと、俺の親は伝書鳩の飼い主だからだ。それがどう関係しているのかと言うと、窓から仕送りの金を送ってくれるからだ。さすがに借金取りもそこまでは気付けないだろうし、見つけたとして空じゃあ取りようがない、というわけだ。撃ち落としたら別だが。
 そういう訳で、有り余ってる時間をふて寝と読書で過ごしていた俺の全身は物凄いことになっていた。不精髭はあるわ、フケと垢はすごいわ、まぁその他諸々だ。
 さすがにテレビに出るのにこの格好はマズイだろうと思い、余っていた小銭をポケットに速攻でコンビニへ行き髭剃りetcを買ってくると、玄関脇に存在するトイレ兼用風呂に駆け込む。
 友人が多い俺は、なんとか頼み込んで水道と電気だけは供給させていただいている。己の徳の良さのせいの借金かもしれない。
 確実にそれはありえないだろうが、当然十桁の借金を抱える俺がそこまで気にする訳がない。
 設置された鏡を見ると、予想通り凄まじい体毛に覆われた男の顔が写っていた。少し気力を失いかけたが、早速俺はそれらの消去作業に移った。

 一時間後。ようやく、それらの除去に成功した俺の鏡に映った顔は、目鼻は申し訳程度に整っているが平々凡々の顔立ちの男だった。
 まぁ、人間中身だ。外見なぞ気にしない。それより、普通以上の容姿で産んでくれた両親に感謝。
 そんなくだらないことを考えつつ、トイレ兼風呂場を出ると郵便受けに目が行く。
 新しい便箋と小包が、いつのまにかあった。
 タオルを頭にかぶせたまま、それを乱暴に破り捨てて好奇心を多分に含んで中を覗く。

「やっほー、君は参加するみたいだね?これは各個人に、集合場所に来るためのアドバイスと道具を添えつけで送ってまーす。まぁ、例えば君は朝は借金取りが玄関で待ち構えてるなんてザラでしょ?
 そういうわけで、もう一つの小包の中にハジキとマガジン三つが入ってるから、それで頑張ってね☆」

 俺は何より、一言めと最後の行の言葉に戦慄した。つまり、俺の生活をすでにどこからか監視してるってことじゃないか!!
 しかもハジキ?銃だって、まさか信じられるか。この手紙でそんな疑心が溢れ出した俺だが、監視されていると分かって辺りを見まわすほど間抜けでもない。
 手紙と小包を持ってリビングの方に移動してテーブルに置き、窓を開けベランダに出て辺りを見回す。別にカメラを探しているのではなく、本当に小包の中に銃があった場合それを見られないためだ。
 右隣と上は確か空家で、左隣は現在旅行中。当然辺りに人はいない、よしOK。
 部屋に戻って丁寧に包まれた紙を破り捨て脇に放り投げる。現れた箱の蓋を取り払うと、神経質なまでにティッシュペーパーに包まれたハンドガンらしきものがあった。
 ティッシュペーパーを同じく破り捨て、その黒い無骨な物体のグリップを試しに握り締めその重厚感を味わう。
 思ったより小さいが、こんなものが人を殺すのか、と思うと俺の心臓は激しく鳴り続けた。
 箱の中をもう一度よく見ると、説明書きらしき紙と細長い円柱状のノズル、マガジンとおぼしきものが三つ入っていた。
 銃をテーブルの上に一旦置き。折りたたまれた紙を広げる。紙面にはこう書かれていた。
「アホ〜が見〜る〜♪」
 即座にそれを裏返してみると、予想通り正式なものが書かれていた。よく読んでみると、どうやら細長いノズルはサイレンサーらしい。一通り紙面を読んだ俺は、銃とノズルを持ち銃口を検分してみる。デコボコした螺旋があったので、それにノズルを突き刺して回してみると最後にカチッという音と共に組み合わさった。
 いきなりだったために、あまり現実味を帯びていなかった。だが、これがもし本物であった場合考えられるパターンは三つ。
 一つ、どこかの武器の密輸組織がたまたま発見した俺に罪をなすりつけようとした。この場合、俺は借金を抱えているため武器を持っていても金欲しさの犯行と見られるためが要因だと思われる。
 二つ、番組が国民から適当に選んだやつを監視している、いわゆるドッキリ。この場合銃は重みを持たせあたかも本物のように作成しただけ、銃弾もペイント弾か何か。
 三つ、俺ではない誰かに送るはずが、何らかのミスで俺に届いてしまった。
 一の場合だと俺を集める理由が不明だ、消去。二つ目が一番信憑性があるが、わざわざ銃を送る必要性がない、消去。三つ目だと二通目の一文目が不明だ。消去。
 つまり、案はないというわけだ。
 ここなら普通の人間は用心して行かないのだろうが、生憎と俺は普通の生活に飽き飽きしていた。(多少普通じゃないが)
 殺されたところで保証金が出るわけでもなく、どうせこの日常じゃ俺は腐っていくだけだ。俺は行くことにした。
 というわけで、俺は明日寝過ごさないよう寝だめすることにした。
 明日が楽しみだ。

―――翌日

 最後に見た空は、確かかなり明るかったはずだが、時計を見るとすでに五時だ。
 どうやら、俺のバイオリズムに「寝だめ」という行動は登録できないようだ。無念。
 低血圧気味の頭を振りながら、十三時間ぶりに洗面器へと移動する。寝癖は大したことはないのだが、挑戦的につり上がった凄まじい目つきで俺を睨む顔があった。っていうか俺の顔だ。
 蛇口を捻り、冷たい水を顔にあてると急速に俺の意識が活性化してくる。唇が乾きやすい俺は、口唇をなでてよく水分を行き渡らせつつ、右脇にかけてあるタオルを取った。
 流行を気にする気はまったくない(あったらこんなに借金しない)のだが、たまたま残ってたワックスを髪につけて寝癖も整える。俺の性格を如実に表したような頑固な髪は、なかなかの曲者だった。
 自分で言ってどうする。
 いつからかのんびり癖のついてしまった俺は、いつの間にか時間が経っていることが多い。ベッドに戻ってぼーっとしてた俺は、改めてそう痛感してしまった。
 すでに七時半だったりする。
 ハチ公といえば待ち合わせで有名すぎるが、その分交通が激しい。だが、その辺は安心。俺のマンションはハチ公に近い。徒歩で三分十二秒だ。
「・・・・・・・あー」
 いきなりこんな声を出しては痴呆みたいだが、独り言なんか言うクセのない俺は自分の声を聞くのが久しぶりだ。思ったよりハキハキしてていい感じだ。
 なんか人的に駄目じゃないのか、俺。
 いや、今更再認識してるところで既に駄目だ。
 思考がどんどん横飛びしていくのも俺の愛すべき癖だ。
 そんなことはとりあえず、俺は箪笥からジャンパーを引っ張り出すと、それを乱暴に着る。ジャンパーの下は擦り切れたジーパン、ワイシャツとラフな服装だ(俺のラフは適当とか穴埋めとかと同義語だが)
 忘れ物はないか、と部屋を一通り見回す。さっそくあった。昨日送られてきたハンドガンだ。使う機会はなさそうだが、それをジャンパーの右ポケットに入れると財布とCDプレイヤー、愛用の煙草のマイルドセブンを左ポケットに入れる。
 玄関で頑丈な茶色の登山靴を履き、身長180弱の俺にとっては少し低い覗き窓から外を見る。特に人影は見られない。
 心の中で踏ん切りをつけると、俺は思い切ってドアを開けた。思い切りすぎて、ぶつかることが天の使命のように歩いてきた通行人にドアを叩きつけてしまった。
 白い目をむいてピクピクして倒れてるが、その男のジャンパーの懐から銃が覗けていた。
 ・・・マジで?
 かがんでそれを取り上げるが、俺が持っているものと同じタイプのハンドガンだ。震える手でそのマガジンだけ抜くと、俺はそれを男の顔に叩きつけてすばやく左右を見回した。
 右側の非常階段から上ってくる男を発見。顔つきから、私服だがこの倒れている男と同業だと判断すると俺は左側に向かって走り出した。背中で罵声が聞こえる。訳するときっとこうだ。『動くな!』=『撃つから動くな!』
 ンなこと出来るか!俺は一目散に左側の通常階段を目指して走った。
 部屋からは何事かと住民たちが顔を覗かせ・・・・ない。まるで人っ子一人いないみたいだ。確かに、もともとこのマンションは交通網しか取り得がないため住人は少ないが。これはおかしい。
 だが、そんなことを考えている暇はない。階段を半ば飛ぶように降りると、マンションの入り口の自動ドアのガラスを登山靴の頑丈な靴底で蹴り壊し、そのままハチ公へ向けて走った。

 いつから借金取りは殺人が容認されるようになったのか。というより、あれは借金取りか。ハチ公辺りで人を見て安心のため息を吐き出しつつ、記憶を呼び出し反芻する。否、あれは借金取りじゃあない。
 俺は趣味で軍用知識がアリの脳みそくらいはある。あれは日本の陸自(陸上自衛隊)並みの動きだ。素人じゃない・・・多分。・・・まぁ、天気予報の番組の占いよりは当たってるはず。
 相変わらずくだらねー事を考えつつ、俺は一人のしきりに辺りを見回すしてる女性を見つけた。目つきの険しさから、もしかしたら俺と同じ境遇かもしれない。その割には服装はいささか厚底の黒いロングブーツ、白に近いベージュのスラックス、ターコイズブルーの下地に水色の縦横のラインが入ったシャツ、その上から薄手のロングコートとおしゃれだ。薄めの茶髪で前髪をザンバラに、後ろをポニーテールでまとめている。顔立ちも中々―――
 と、考えた辺りで向こうが此方を向く。不躾ではないにしろ、下から上へ眺めていた俺と視線が鉢合わせした。その瞬間、向こうと俺の神経がシンクロ・・・するはずはないのだが、いささか気まずい。
「あの・・・・」
 ううむ、この際聞いてしまうか・・・しかし、自ら借金地獄に苛まれてる人ですと暴露したりするのは、いささか間抜けだしな・・・。
「あのー」
 いっそこのままナンパしてしまうか。この前二十歳で成人式迎えたばかりだが、いい加減一人暮しは辛いし、っていきなり結婚目的でナンパしちゃ冗談にしたってタチ悪いなぁ。
「おいコラ、聞けよてめえ。耳に竹棒突っ込んだら反対側から出てくる仕様か?」
「・・・・・・はひ?」
 今天使の優しい囁きでもあったのだろうか。いつのまにか目の前に移動してきている女性が、とてつもなくおしとやかな暴言を吐き腐りやがった気がするんだが。
「はひ?っじゃねえよ、人の話聞けってマミーに教えられなかったのか?このタコスケ」
 どうやら気のせいにしたくても、気のせいにしたくないらしい。相手が俺のストライクゾーンど真ん中なだけに、俺の心中はミクロ単位のダメージを受けた。
「はぁ、ちゃんと聞いてますが。なんですか?」
「なんですか、じゃねえこのヘッポコなすび。もしかしてお前も借金景気良く担ぎまくってる野郎か?」
 神様、もうちょっと口のいいつくりにはできなかったんですか、この悪口製造機。無理か。
 だが、どうやらこれも俺と同じ穴のムジナらしい。俺の柳眉が現在眉間に凄まじいシワを刻んでいるだろうが、相手は全然気にした様子はない。
「ええ、俺も借金担ぎまくってドンつぶれてるアホの一人ですが。貴方も手紙受け取りましたか?」
 おまえもドンつぶれの一人だ、と内心で付け足しつつ聞いてみる。ジェントルマンたるこの俺が姿勢を崩してはいけない。きっと毒舌対戦になる。
「悪かったなドンつぶれのアホで。受け取ったよ、気持ち悪い男の口調でな。ったくドッキリか?だったらさっさとネタ吐け」
「残念、俺もドッキリに引っ掛けられてる方だ。どうやらドッキリといっても随分手が込んでるようだな」
 こんなヤツに敬語を使うなんてアホらしいので、普通の言葉で会話することにする。向こうも気にしてないようだ。
 袖をまくって右手首につけた安物腕時計を見ると、針は七時五十分を示している。手紙に書かれたあの口ぶりからでは、もう三人くらいはいるだろう。そう思い、辺りを見まわすとそれは案の定簡単に見つかった。
 紙を片手に辺りをしきりに見まわす、背の高い金髪碧眼の彫りの深い、いかにもな外人の男。髪型は俺と似たように浅く切り、服装も俺と似たようなものだった。
 携帯で時間でも確認しているのか、イヤホンを付けたポケットに片手を突っ込んだオールバックの少し不良みたいな男。中肉中背で、特に目立つところはない。
 染めているのか、ブロンドの髪を前で分けてストレートにしているハイヒールの女性。茶色のトレンチコートが目立つ。
 最後の一人は、とても気の弱そうな小柄の女性だ。セミロングの黒髪の大人しそうな・・・って高校生!?制服着てるぞ!
 そして、短髪を尖らせた冬服まっさかりの俺、というわけか。
 なるほど、いずれも借金抱えてなさそうではあるが、なんとなく似たようなオーラを出している。つまり、俺と同じようなやつってことだ。
 特に興味があったわけではないだろうが、俺と目線が合うとその特徴的な四人はすぐに集まった。類は友を・・・哀しいから言わない。
 何の気なしだが、俺はとりあえず口を開いて聞いてみることにした。
「えーと・・・確認するが、皆さん莫大な借金抱えてますよね?」
「残念だけど、そうみたね馬鹿」
 おめえにゃ聞いちゃいねえよ。
「分かってること言うなボケ」
 うっせぇ非行少年。
「だから集まったんでしょう?」
 上手い発音で外人が言うとむかつくぞ。
「そんなことも分からないんですか・・・?」
 ぐふっ、大人しそうな顔して痛いこと言うなお嬢ちゃん。
「ええ、お恥ずかしながら・・・」
 赤くなる貴方が一番の常識人だ。ありがとう。
 どうやら、俺とブロンドさん(仮名)以外常識人はいないようだ。しかし、これほどまでに特徴的なやつらの共通点は「借金」だけか。
「・・・うし分かった。じゃあ、各自の名前と借金の額を言ってください」
「なんでそんなこと聞くのよ?」
「単なる暇つぶしだ。どうせあと五分はある。じゃ、お前から」
「アンタがお前呼ばわりするな。アタシは近藤恵理(こんどう えり)。・・・借金は三十五億よ」
 険のある口調で茶髪の女性、近藤は借金を言った。ふむ、借金は俺ほどじゃないみたいだな。俺と同い年みたいだ。
「はい、じゃあ次は外人さん」
「ワタクシはロラン=マルヤマです。借金は・・・二十八億ぐらいですね」
 外人のくせにまた大量に抱えたもんだ。しかし、マルヤマって顔かよ。ハーフみたいだな。大体二十五かそこらだな。
「えーと、じゃあ君は?」
「指差すな。俺の顔が腐る。・・・・牧本紀一(まきもと のりかず)。借金は上手い棒三億九千万本分」
 このクソ生意気なガキめ・・・。要するに三十九億か。下手すると高校卒業したばかりだな、こいつ。
「はい、じゃあ君」
「私ですか?佐藤由紀子(さとう ゆきこ)です。えー・・・五十八億借金しましたね」
 二十代前半の見た目のくせしてやるな姉さん・・・。ううむ、しかしこのままだと俺が借金トップになってしまう。
「次。君は?」
「桜井夕菜(さくらい ゆうな)・・・。借金・・・七十三億円・・・」
 消え入りそうな声でそう言った。だが、その可愛らしい唇から漏れた言葉に全員が目を見張る。くそ、俺がトップか。
「えーと、因みに年は?随分若そうだけど」
「・・・十五歳」
「「「「「・・・なっ!?」」」」」
 嫌なことに全員一致で驚きの声をあげた。なんてこった、中学生かよ。それであの金額・・・。
「・・・驚いてないで、アンタも早く言いなさいよ。言いだしっぺでしょ」
 まだ呆気にとられているらしく、毒気を抜かれた顔で近藤がそう言ってきた。多少ためらったが、どうせ後には言うことなので俺は仕方なく口を開いた。
「久遠飛鳥(くどう あすか)・・・。借金は・・・九十九億九千九百九十九万九千九百九十九円」
「「「「「・・・なんだって?」」」」」
 今度は俺が五人分の疑問を言われる番だった。言ったとおり、俺は今時女子漫画でも出てきそうにない名前と、あと一円で十一桁に突入する記録保持者だ。無論、これは狙ったわけではないが面白いので借金はこれ以上しないと心に決めていた。返済は勿論しない。
 などと考えて時計をチラと見るが、あと二分ほど時間が余っている。目と口をまん丸に見開いて驚いている五人の顔を眺めているのも面白いので、そのまま鑑賞することにした。
 八時。
 俺の時計が「ピピッ」と音まで安っぽいアラームを鳴らした。
 カツン、とやけに響くハイヒールが地面に当たる音。
 俺たちはいっせいにそちらの方を振り向いた。赤い、スラリとした印象のスーツを着たハイヒールの女性。サングラスで目は見えないが、此方の顔を眺め赤い口紅の塗られた口唇が微笑んだ。
「全員集合、のようね。ついてきなさい」
 有無を言わさないその口調。思わず皆が歩を進めようとするが、一人それに従わない者がいた。紀一だ。
「ちょ、ちょっと待てよアンタ!誰か説明してもらわなきゃ困るぜ!!一体俺らは何のために集められた?そして、アンタたちは一体なんだ?」
 最後の紀一の「アンタたち」で俺もようやく気がついた。女性の先には、真っ黒なワゴン車が一台と、此方と周りを威嚇するように立っている黒いタキシードに身を包んだ三人の、あからさまに屈強な男たちがいることを。
 女性は振りかえり、見えはしないがどこか値踏みか品定めするような様子で紀一の顔を見た。やがて口を開くと。
「手紙に書いてあったとおり、貴方たちにはゲームをしてもらうのよ。毒舌と心理的やり取り。世界でも有数の富豪たちが貴方たちの誰が勝つのか賭けるわ。つまり、貴方たちは競輪の選手ってところね。
 そして、私たちはその運営係。勝ったら日本円にして十兆円、分かった?」
 どうやら、俺たちはハメられた、いや自ら泥沼に飛び込んだようだ。その、世界有数の大富豪とやらの賭け事として。普通なら「馬鹿馬鹿しい」で済むのだが、もともと俺ら自体馬鹿馬鹿しいのだ。どうせここまで来て断る理由は、虚数空間にもありはしない。
 奇遇なことに、その考えは皆同じだったようだ。皆が、ワゴン車の方へと歩いていく。それに俺もついていく。



 しかし、他の皆は気付いていないのだろうか?
 ハチ公の周りにいる人間全てが、俺が朝出会ったような銃を持っている人間だということに。
2004-03-30 22:22:15公開 / 作者:赫
■この作品の著作権は赫さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
シリアスなのかギャグなのか・・・。
初投稿する小説間違えたか・・・。まぁ、いいようにやっていこうかと。
うむ、なんか終わっちゃった。(没
次回こそ・・・。
この作品に対する感想 - 昇順
続き物、ですよね?凄い展開になりそうで楽しみです!続き、期待してます!
2004-03-29 22:36:56【★★★★☆】ハルキ
こうゆう感じ好きです。 ところどころ笑えて、でも続きが気になる・・・。まだ始まりですが、続き、楽しみにしています。。
2004-03-29 23:15:25【★★★★☆】藍
や、お二人どうもです。期待に添えない二回目で申し訳ない。(汗)次回も期待裏切りかねません。しかし、読みにくさも粗雑さも本物だ・・・。さすが初の小説。
2004-03-30 21:39:34【☆☆☆☆☆】赫
いきなりの展開にビックリしました。もっと普通そうなのかと思ったら、一気に飛んで凄い事になってますね。面白いです〜!
2004-03-30 22:32:22【★★★★☆】冴渡
すごい展開ですね。どうゆうゲームなんでしょう?
2004-03-31 00:53:24【★★★★☆】藍
計:16点
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