『トレジャーハンターニール 1〜2』作者:ハンペン / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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俺は今、レインポールの街に向かう列車に乗っている。
貨物列車の最後尾についた1両だけの客車には、俺以外に乗客の姿は無い。
西からの夕日がまぶしい。
窓の向こうには,見渡す限り色あせた緑の草原がどこまでも続いている。
車内には、レールのジョイント音だけが一定のリズムで刻まれている。
それを子守唄代わりに、俺は何時の間にか眠りに落ちていた。

どれくらい眠ったのだろうか。
もう窓の外は真っ暗だ。
レールのジョイント音の間隔が、徐々に徐々に広がるのが分かった。
「到着か・・・」
声を出したのがものすごく久しぶりに感じられた。
それから5分もしないうちに、列車はレインポールの駅に着いた。
列車を降りると、生暖かい風が頬を撫でた。
夜だからだろうか。
街は死んだように静かで、地獄のように暗い。
俺は宿を求めて、駅周辺の散策をはじめた。

30分くらい歩いただろうか。
俺は、宿どころか、明かりがついている建物さえ見出せずにいた。
立ち止まって溜め息をついたそのとき、何者かに俺の右肩がガシッとつかまれた。
ビビッた俺は反射的に肩からその手を引き剥がし、その手の主のほうに向かって右の腰につけていた剣を構えた。
「おいおい、そんなに驚くでない」
俺は気が抜けた。
それは白いひげを生やした腰の曲がったじいさんだった。
「なんだ、脅かすなよ」
じいさんは静かに笑うと、
「こんな街に何の用かね?見るところこの街の者でもないようだが・・・」
と柔らかい口調で言った。
「その通り、俺はここの人間ではない。旅をしてるんだ。世界各地のお宝を求めてな」
それを聞いて、じいさんはまた笑った。
「ほっほっほっ、それでこの街に財宝を求めてきたと」
「ま、そういうことだ。ここから北に行ったところに遺跡があると聞いた。そこに何があるかは知らんが、お宝というのは間違いないようだからな」
それを聞いて、穏やかだったじいさんの顔が変わった。
「本当にそこに行く気でいるのか?」
「ああ、もちろん。ここまで来て手ぶらで帰れるかよ」
「悪い事は言わん若いの、あそこに財宝を求めて入った者は、1人として帰ってきておらん。命あっての富じゃ。欲にくらんで死んではなんにもならんぞ」
じいさんの必死な様子に、俺は笑わずにはいられなくなった。
「じいさん、俺をそこいらの輩と一緒にされたら困るぜ。俺はお宝を探し出して飯を食ってんだ。それなりに危険な場所だって何度も経験してきた。心配してくれるのはありがたいが、俺には無用だ。それより宿屋の場所を教えてくれよ。どこも閉まってて困ってたんだ」
「宿屋はこのまま真っ直ぐ行けば右側に見えてくる。フン、どうなっても知らんぞ」
そう言うと、じいさんは闇の中に消えていった。
「・・・ヘンなじいさん」
おれはボソッと呟くと、じいさんに教えてもらったとおり真っ直ぐ歩き始めた。

俺は無事宿屋にたどり着く事が出来た。
しかし、なかなか眠りにつく事がが出来なかった。
じいさんの言っていた事が気になってしょうがなかったからだ。
「ええい、あんなじいさんの言葉、真に受けてどうするんだ。俺は世界一のトレジャーハンターになる男だろうが」
そう言ってから、布団を被るとなんとか眠りにつく事が出来た。
明日の朝早く出発しよう。
そう思いながら。

翌朝、日がまだ完全に昇りきらないうちに宿を出た。
空気がとても澄んでいて、空はなんとも説明ができない、1日のうちで最も澄んだ色をしている。
街に、昨晩と変わらず人の姿は無いが、所々の煙突から白い煙が立ち昇っていた。
朝日に照らされた石造りの家々がはっきり見え、鳥のさえずり聞こえる。
それだけでも、このレインポールの街に対する印象は全く違った。
「夜はゴーストタウンのようだが、明るいときはなかなか綺麗な街じゃないか」
そんな事を考えながら、石畳の大通りを北に向かった。

街の北の端には、石造りの小さなアーチ形の門があった。
そこをくぐりながら、俺はもう1年近く洗っていないジーンズのポケットから、クシャクシャになったメモを取り出した。
そこには、前に滞在していた街から得た情報、つまり財宝の在り処が記されている。
俺は宿屋から朝食代わりにもらったフランスパンをかじりながら、遺跡の位置を確認した。ここから歩いて1時間、いや、2時間といったところだろうか。
とにかく涼しいうちに遺跡にたどり着けるのは間違い無さそうだ。
「よし、行くか」
俺は軽く伸びをして、麻の袋を肩に掛け、お宝に向かって、どこまでも広がる草原へと出発した。
空には雲ひとつ無い。
今日は暑くなりそうだ。

1時間程歩いただろうか。
俺は草原の真ん中にポッカリ開いている、四角い穴を見つけた。
期待に胸を躍らせながらその穴の方へ行ってみると、石でしっかりと造られた階段が、地下の闇へと続いていた。
それは、地獄へと続いているような不気味な雰囲気をかもし出している。
「ここが遺跡の入口か。思ったより早く着いたぜ」
俺はメモをもう1度見て、ここで間違いない事をを確認した。
そして、袋の中からランプとマッチを取り出し、ランプに火を灯した。
「さてと、仕事を始めるとするか」
俺は闇へと続く階段を、一段一段ゆっくりと降りていった。
どこかに仕掛けがあるのではないか、と心配しながら。
壁は狭く、大人1人がちょうど通れる程の幅であった。
20段程降りた辺りから、階段は左へカーブし、螺旋階段となった。
100段程降りると、だだっ広い部屋に出た。
注意しながら進んでいくと、大きな石の扉がしっかりと閉まっていた。
手で開けようと試みてみたが、やはりビクともしない。
そこで、扉をよく調べてみると、文字が彫られている事が分かった。
「えーと、なになに・・・『この扉の奥に眠りし宝を求めし者よ。汝、心清き事をここに示せ。汝の心が汚れ無き人の心であるとき、道は開かれん』・・・どういう意味だ」
その時、どこからともなく低い不気味な声が、遺跡の中に響いた。
「汝、心が清き事をここに示せ」
「誰だ!」
俺はランプを片手に辺りを見まわした。
しかし、俺の他に人の気配は無い。
「我はここの遺跡を守りし者」
「ほう、つまりここの遺跡の神様ってわけだ」
「さよう。汝、ここに何を求めて立ち入った」
「もちろんお宝さ。それが俺の仕事だからな」
俺は鼻の下を指でこすりながら得意げに言ってやった。
「なるほど。ここが太古のレインポールの王、ネルソン王の眠りし所と知っても宝を欲するか」
「ネルソン王?知らねェな。いつの時代の王か知らないが、俺は宝を求めている。早くこの扉を開けてもらいたいもんだな」
「汝は欲にまみれている。汝は欲に任せてここへ来た。それが汝のいう清き心か」
「ああ、そうだ。人は欲にまみれている。もちろん俺もだ。それを俺は隠さない。欲が無いなんてきれい事は言わない。俺は昔から嘘をついたり、人を騙したりする事が大嫌いだ。今回に関しても例外じゃないぜ。俺の中から欲が消える事があるとするならば、それは死んでからのハナシだろうよ」
扉は開かないかもしれない。
でも俺は、本当に清らかな心というものは、嘘をつかない心だと信じている。
欲望こそ人間に授けられた神からの贈り物。
欲望無くして、果たして人類はここまですばらしい文明を築き上げることができただろうか。
だから俺は、欲望を信じる。
トレジャーハンターとしての自分を信じる。
静まり返った遺跡内に、遺跡の神の声が静かに響いた。
「よかろう。汝の心、清きものと判断した。この先に進むが良い」
扉は大きな音を立てながら、ゆっくりと奥に向かって開いた。
俺は先に進もうとしたとき、ふと昨日出会った老人の言葉を思い出した。
「なあ、ひとつ聞いても良いか」
「なんだ?」
「レインポールの街で聞いたんだが、ここに来た奴は皆帰ってこないと聞いた。一体どういう事なんだ?」
俺は昨日から気になっていたことを尋ねた。
「皆?今まで汝以外に遺跡を訪れた者は1人しか居らぬ」
「何だって?」

これは一体どういうことなのだろうか・・・。


2004-04-01 13:37:45公開 / 作者:ハンペン
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■作者からのメッセージ
初めての投稿です。
いろいろおかしな点もあるかと思いますが、どうぞ読んでやってください。
つづきも製作中なので、どうぞよろしくお願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
トレジャーハンターものですか!私大好きですよ!なのに意外と多くなくて…。いいですねぇ期待してます!
2004-03-27 15:10:51【★★★★☆】ハルキ
読んでくださってありがとうございました。ご期待に応えられるかどうか分かりませんが、がんばります。
2004-03-27 22:11:32【☆☆☆☆☆】ハンペン
おじいさんの口調が好きです(微妙なトコついてますか?) 続き、楽しみにしてます。。
2004-03-28 20:21:30【★★★★☆】藍
感想ありがとうございました。おじいさんの口調ですか?いやはやそこを気に入って頂けるとは・・・
2004-03-30 16:50:12【☆☆☆☆☆】ハンペン
最後の言葉が意味深ですね。 続き頑張ってください。
2004-04-01 18:44:59【★★★★☆】藍
計:12点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。