『空駆ける海賊達』作者:ヤブサメ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約8.12枚

澄み渡る空の下―そこに高く昇る日は紺碧の海を煌かしていた。
その海に一隻の船が浮いていた。
赤く塗られた細長い船体、中央からは左右に―何かの胴体ごと三枚羽のプロペラのエンジンの取り付けられた、上に折れ曲がった主翼。後部には台形の形をした大きな尾翼が1枚取り付けられていた。
その船の甲板の上、1人の女性の姿があった。
スピーカーから雑音の響かせるラジオの傍ら、黒のタンクトップにぶかぶかのズボンを着込んだ短い黒髪の女性は陽で白く照る木製の甲板の上、仰向けに寝ていた。


その上を、一隻の灰色の船が飛んでいた。後ろに箱をくり抜いたような尾翼を幾つも付け、前に鋭く尖った船体は横に真っ直ぐと伸びた主翼で空気を切り裂きながらゆっくりと進んでいた。
その脇を流れていた雲が切れたとき、一隻のベージュ色の船が現れた。
所々錆びたそれは灰色の船に横付けするように並んで飛び、通信旗を掲げるためのロープに旗を吊るしていた。血のように、赤い色の旗を。


雑音の間に、電子音の高い音が混じる。
女性は目を開くとラジオをひったくってスピーカーに耳を押し付けた。電子音の音は短く、時折長く一定のリズムを繰り返していた。
女性はニヤリと笑みを浮かべるとラジオを抱え込み、左手でハッチの手すりを握ると開けた。女性はその中に飛び込む。そして着地の際、背の低い痩せた男を踏みつけた。ハッチが音を立て閉まる。
「御かしら!乗り込むときは下に気をつけてって言ってるじゃないですか!」
そう文句を言う男の顔には足型に赤く腫れが残り、目は涙目になっていた。
「バリス!出るよ!」
女性はそれだけ言い残すとそのまま両脇に並んだ扉の群の間を駆けていく。
「御かしら?」
駆けてくる女性を避けて壁に張り付きながら、派手なアロハシャツを着たサングラスの短い金髪の若い男が尋ねてきた。
「ベリック!出航準備!」
「了〜解!」
ベリックと呼ばれた男は、駆けていく女性の後姿に敬礼しながら言った。
そして、女性は艦橋と大きく赤ペンキで描かれた重そうなの立ち止まると、それを蹴って開けた。
「あ、御かしら?」
モニターだけが光を放ってる部屋の中、ぼさぼさの黒髪のゴーグルを掛けた少年がイスから身を乗り出しながら尋ねてきた。
「シバ!船を出して!」
「あい〜」
女性が言うと少年は間の抜けた声で答え、雲と太陽が浮かぶ青空と海が映し出されたモニターに向き直る。そして、H型の操縦桿を握ると裸足でイスの脇のレバーを蹴った。

船のプロペラが回転を始め、エンジンの脇の排気管から黒い煙が吐き出される。プロペラの形は無くなり、年輪のような円を描くようになった時、翼が回転し、プロペラは上に向いた。船体が浮かび上がった。海水が側面を流れていき、海は船を中心として円形に波立った。
船は船首を上に、尾翼を下に船体を傾けながら空へと飛んでいった。


同じ黒色のジャケットに身を包み、腕をロープで後ろに縛られた男達。左手に赤紫色のワインが揺れる瓶を握り、右手に真っ直ぐ下に突き出した弾倉の短機関銃を構えた髭面の男は男達に銃口を向けていた。
「おい、早く積み込めよ!」
「そうあせんな!」
しびれを切らしたように振り返って男が通路の向こう側に叫ぶと、禿頭の男が大きな木箱を両手に抱えたまま言い返してきた。
「たく」
そして、男達の方に向き合うと口端を吊り上げ笑った。
「どうせ緊急信号を出したんだろうが、淡い期待をもつんじゃねえ―俺達は最高のレーダーで半日はくる船が無えのを知って襲ったんだからな」
そう言ってワインを口の中に流し込み
「おい!船だ!」
誰かの叫びを聞いて、髭面の男は盛大に口からワインを撒き散らした。

「イヤーハー!!」
女性はハッチから顔を出して横付けして浮遊する2つの船の姿を見て叫んだ。
「あれがバリボロス海の一番のスカイジャック、ジャンクルズね!」
そして振り返ると、シバに向かって叫んだ。
「シバ!盛大にやるわよ!」
「あい〜」
シバは黄色と黒の縞々の箱の蓋を開く。そして、そこに現れた赤のボタンを押した。
船体に開いた穴から上に信号弾が放たれ、赤や黄色の煙を撒き散らして炸裂した。

「親分、駄目ですぜ!船が来ましたよ!」
髭面の男は灰色の船の艦橋の窓ガラス越しにそれを見て叫んだ。
「慌てるな、よく見ろ!あれは小型船だ!そんなに人は乗ってねえ筈だ!」
オーバーコートを着込んだ男が指差し、そして振り返ると集まった男達に言った。
「野郎共!戦闘準備だ!」
歓声が艦橋に溢れかえった。

赤色の船はゆっくりと灰色の船の上に止まった。
そして船体下のハッチが開き、そこから左右の腰のベルトに黒鞘を差し込んだ女性が、続いてバリスを小脇に抱えてベリックが飛び降りて灰色の船の上に着地した。
「いい!この船は私が!あなた達はジャンクルズの方を!」
女性が振り返って言う。
「了解!」
「死ぬのはヤダ〜」
カウボーイハットを風に飛ばされないように手で押さえながらベリックが言い、バリスが泣き叫んだ。
そして女性は天井の上を駆け出す。目の前でハッチが開き、男が顔を出して叫んだ。
「いたぞ!1人だ」
そして銃を構えた次の刹那、女性が刀を鞘ごと男の頭に振り下ろした。男が床に倒れるのと同時に女性は船内に入る。床に転がって呻き声をあげる男は顔を踏みつけられ悶絶した。
女性はそのまま通路を駆け出す。通路の先には男が2人歩いていた。慌てて肩に掛けていた短機関銃を構えようとした先頭の男に女性は胸に肘うちを叩き込む。そして、空気を吐き出され前かがみになったところに頭を握り、膝と挟んで気絶させた。
「くそ!」
残った男は女性に銃口を向ける。女性はその銃身を握ると引っ張った。
男は前につんのめり、そのまま床と接吻を交わす。
女性は襟を掴んで男を起こすと壁に押し付け、刀を鞘から抜き出し男の首に刃を突きつけた。
「ひ、ひぃ」
悲鳴を上げる男に女性は笑顔で尋ねた。
「あなた達のボスはどこ?」
黙ったまま、男はゆっくりと右手を上げて指差して言った。
「こ、この船にはいません、む、向うの俺たちの船にお、親分はそこにいます」
女性は笑顔のまま
「そうなの―ありがとう」
それだけ言うと、男の急所に膝蹴りを叩き込んだ。

「船を出せ!」
オーバーコートの男がベージュ色の船の中で叫んだ。
「囮に残してきた奴は?」
ヘッドフォンをつけた男が尋ねる。
「時間内に戻ってこなかったんだ!見て捨てる!」
オーバーコートの男は叫んで
「仲間を見捨てるとは、カッコ悪いぜ」
「何だと!」
若い男の声に振り返る。男の目が見開かれる。
ベリックがオーバーコートの男の額にリボルバータイプの拳銃の銃口を押し付けていた。
「お、親分」
艦橋にいた男達がイスから立ち上がる。
「おっと、動くと親分がトマトみたく弾けるぜ」
ベリックが男達に言った。

女性は灰色の船の艦橋の扉を開けた。
「た、助けに来てくれたのか?」
男が尋ねる。
女性はそれを無視してロープで縛られた男達の横を歩いていくと、艦橋の窓から外を覗く。
ベージュ色の船の赤い旗が降ろされ、代わりに白い旗がはためいたのを見た。
艦橋に小さく、手を振るベリックの姿が見えた。
それを確認して、女性は振り返る。
そして、男達の1人のロープを解いた。
「ありがとう・・・誰だか知らないけ・・・」
男の言葉が途中で止まる。
女性は男の首に刀を押し付けていた。
「誰だか知らない?じゃあ教えてあげる」
女性は微笑んで言った。
「私はジュン・エリバレスト―海賊よ」
男達は口を開けたまま硬直した。
2004-03-23 13:15:59公開 / 作者:ヤブサメ
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■作者からのメッセージ
明るいのを書いてみたくなって、書いてしまいました(汗
この作品に対する感想 - 昇順
海賊ですか〜。海のど真ん中で繰り広げられる戦闘が浮かびました。女海賊がいいですね!その部下にも個性があって。読んでいて楽しめました。
2004-03-24 11:22:57【★★★★☆】葉瀬 潤
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。