『猫も興奮【1】【2】』 ... ジャンル:リアル・現代 未分類
作者:甘木                

     あらすじ・作品紹介
ごく日常の他愛のない出来事です。い、いかん。なんか興が乗ってきて第2話を書いてしまった。しょせん短編読みきりですから許して下さい。

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 天気や気圧の変化で頭痛が出たり、古傷が痛んだりしたり、憂鬱な気分になる人がいる。そういう状態になることを気象病と言うそうだ。気象病はすべての人間に起こるわけではないけど、程度の差はあれ結構な数の人がなるそうだ。
 ボクも気象病かもしれない。
 ボクの場合は体調に変化はないけれど、気圧が大きく下がると心がワサワサしてきて落ち着かなくなる。じっとしていると心の中で何とも表現しがたい塊が大きくなってきて、その塊に飲みこまれそうになるんだ。でも、他の人が感じるような憂鬱な気持ちとかじゃなくって、暴れ出したいような、騒ぎたいような、何かを壊したいような、一種の興奮状態になる。
 心がワサワサしてきた時は、雨が降っていなければ外を走ってきたり、庭でバットを振り回して発散させる。家にあった段ボールの空き箱を握力がなくなるまで細かくちぎったこともあった。何度もワサワサを経験してきたから、中学生の頃には他人に迷惑を掛けない対処方法を身につけたんだ。外に出られない日は音楽を爆音でかけて、それに合わせて大声で歌うことだ。ボクの家は田舎にあるし、隣の家まで結構距離があるから大声で歌っても迷惑はかからない。両親も共稼ぎで午後七時過ぎまでは帰ってこない。歌を聞いているのは飼い猫の猫之丞だけだ。音痴のボクでも恥ずかしがらずに歌える。


 テレビの天気予報では、この十年で最大の台風が近づいているので、雨風に気をつけるようにと繰り返し注意していた。
 せっかくの創立記念日で学校が休みなのに、外は横殴りの土砂降りで出かけることもできない。ワサワサしてきてマンガやゲームに集中もできない。こうなればワサワサを吹き飛ばすしかない。
 自分の部屋に籠もり一時間ほど歌いまくったらワサワサがだいぶ消えた。もういいか。歌い続けたから喉はカラカラだし、薄腹も減ってきた。台所に行けば何かあるだろう。
 居間に降りたら猫之丞が絨毯の上で長くなって寝ていた。いつもならこの時間は外に散歩に行っている時間だけど、さすがに今日は出かける気が起こらないのだろう。
「猫之丞も外に出られなくってつまらないだろう」
 ボクの声に顔を上げると、不機嫌そうな表情で声を出さずにひと声鳴いた。外に出られないから機嫌が悪いのかな。
 と、猫之丞は前脚を伸ばすと爪を絨毯に引っかけ、ボクに向かって前進してきた。後ろ脚は伸ばしたままだからヘビのように身体をクネクネさせながら近寄ってくる。なんか気持ち悪い。こんな変な動きなのに案外早い。ボクが呆れて見ているとあっという間に足下まで来て、痛っ! 踵の辺りに噛みついた。ボクを見あげてブナァと不機嫌な声で鳴いた。
「痛ぇ。なんだよ」
 猫之丞は僕を無視して相変わらず前脚だけでウネウネとしながら元の場所に戻っていった。
 なんなんだ? 気圧が下がると猫も興奮するんだろうか? それとも外に出られないからイライラして八つ当たり?
 まさか、ボクの歌が下手で文句を言っているんじゃないだろうな。自分だって鳴き声可愛くないくせに生意気。
 またもワサワサしてきた。
「誰が飼い主なのか教えてやる」
 寝ている猫之丞の腹をワッシャワッシャしてやった。
「ぶなあな」
 嫌がっているけど続ける。
「ぶにゃあああああ」
 前脚でボクの手をつかむとネコキックの連発。
「痛っ! てめえ飼い主に何しやがる」
「にゃがががあ。ぶななななな!」
 爪が突き刺さる。この野郎!
 猫と乱闘することしばし。
「あー痛てぇ」
 手が傷だらけだ。でもワサワサは綺麗サッパリ消えた。
「なあ猫之丞、ボクたち何しているんだろうな?」
 思わず冷静になって猫に突っこんでしまった。
 猫之丞はポムポムとシッポを動かすだけで返事はない。おおかたヒマだと言っているんだろう。
 ボクもヒマだよ。ああ、嵐が止まないかなぁ。







 今は東京の大学の寮で暮らしている姉さんが、まだ自宅で暮らしていた頃の話。
 原因はもう忘れたけど姉さんと派手なケンカになったことがあった。ケンカと言っても口ゲンカだ。ボクは男だから女の人に手を出すわけにいかないし、なによりボク自身が殴り合いのケンカをしたことがない。
 台所でケンカになったから、おやつを盗み食いしたとかそんな些細なことだったと思う。どっちが悪かったのか分からないけど、ケンカがヒートアップしていってお互い引くに引けないまま怒声だけが大きくなる。
「あんたが悪いんでしょう! 謝りなさいよ!!」
「悪くないのに謝れるもんか。姉さんこそ謝れ!」
「あんた年下のくせに年上のあたしに謝れというの?」
「年上なんて関係ないね!」
 どれだけの時間怒鳴り合っていたんだろう。もし怒声をエネルギーに変えられて発電できるなら、とうぶんボクの家は電力会社から電気を買う必要はないだろう。
「あんたが!!
「姉さんが!!」
「あんた達いいかげんにしなさい!!!」
 ボクたちのケンカは突然の乱入者によって唐突に終わりを迎えた。
 ボクたちのケンカを小水量発電だとしたら、乱入者の迫力は原子力発電、いや、核融合発電並みの威力はあった。
 気がつくと買い物袋を下げた母さんが呆れた表情を浮かべ立っていた。
「姉弟ゲンカなんてやめなさい。みっともないわよ」
「だって……」
「姉さんが……」
「いいから黙りなさい! あんた達が騒ぐから猫之丞まで興奮しているじゃない」
 母さんが指差す先にはいつもより1・5倍くらいにシッポを膨らませた猫之丞が、四つ足でビシーッと立った状態で目を真ん丸にしてボクらを見ていた。
「おまえいつから見てたんだ。ひょっとしてオス同士のよしみでボクを応援してくれていたの? さすがは猫之丞だ」
 猫之丞を抱き上げようと腕を伸ばしたら、
 猫之丞は全身の毛を逆立てて、「シャーア!」と威嚇音を上げ斜め後ろへとピョンピョンと勢いよく跳ねていった。
 ピョンピョン シャーア! ピョンピョン シャーア! ピョンピョン ゴキッ!
 後ろに下がっていくのはいいけど、ボクの家の台所はそんなに広くない。二三度も後ろに跳ねれば嫌でも端っこに着いてしまう。
 猫之丞の斜め後ろには大きな冷蔵庫があった。そこに思いっきりぶつかっていたのだ。シャーアと鳴くつもりで口を開けたまましばし凍りついた。
 ……ぺて。
 崩れ落ちるように床に伸びると、そのまま何事もなかったように毛繕いを始めた。
「猫之丞、おまえ何がしたいの?」
 姉さんの呆れ声を馬耳東風ならぬ猫耳東風よろしく聞き流し、
「なぁああ」
 まるで、「おや、今帰ってきたの?」と尋ねるような声で鳴いた。

2016/05/23(Mon)22:03:21 公開 / 甘木
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■作者からのメッセージ
ご無沙汰しています。知らない方には初めまして。
酒に酔った勢いで一気に書き上げました。なんとなく日常のワンシーンを切り取りたくて書いてみました。起承転結もなければ胸躍る出来事も、恋愛沙汰も、ハラハラするシーンもありません。ただただ日常のなかの馬鹿らしさを書きました。

今回の作品の主題は人間達の出来事を減らして、ただ題名通りの「猫のいる風景」を描く四コママンガを意識しています。

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