『猫も興奮』 ... ジャンル:ファンタジー 未分類
作者:神夜                

     あらすじ・作品紹介
企画便乗作品。他の方の作品と違って、ただの「外道」の物語です。猫に恨みはありません。実家が野良猫屋敷になってるくらいには好きです。が、物語上、猫の扱いが酷いです。猫好きな方は勘弁してください。

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 もうダメだっ、俺は手を引くっ、などど怯えきった顔をしてのたまったのは四丁目を縄張りにしていた虎之助だった。
 血相を変えて俺の所に来て何事かと思えば、「勘弁してくれ、俺はもう無理だ、これ以上手を貸せない。これ以上やると足がつく、バレたらお終いだ。俺だけじゃない、俺の部下まで皆殺しだ。だからもう俺はこの件から手を引く。勘弁してくれ」と懇願して来た。そんなことだろうとは思っていた。所詮は下等な畜生である、はなから期待などしていなかったが、それでも予想よりも根を上げるのが随分早かった。これだから畜生は嫌いなんだ。
「――で? 手を引くっていうことはつまり、それなりのケジメはつけるんだな?」
「……はっ?」
 頭を下げていた虎之助が、何を言い出すんだとばかりにこちらを見る。
 それはこちらの台詞である。
「おいおい冗談だろ。今まで散々甘い汁吸っておいて、今更怖くなったから逃げるなんてことが、何の代償も無しに許されると思ってんのか? ケジメはつけてもらわなきゃあ、他への示しがつかねえだろ。相応の上納品か、そうだな、お前の手か足一本、ここに置いていけよ」
「じょっ、冗談じゃないっ! なんで俺がそんなことっ!」
「子供の遊びじゃねえんだよ。こっちだってリスク背負ってやってんだ。手を引けば綺麗さっぱりになれるとでも思ってんのか。舐めてんのはテメエらの顔だけにしとけよ。それにこれは俺の情けだ。お前だけで済ませてやろうっつってんだ。いいんだぜ、お前の家族と部下全員売り払っても。……で? どうするんだ? 今すぐにここで決めろ」
 虎之助が絶望に塗り潰された顔をする。もはや目の焦点すら合っていない。
 ここに至ってやっと、事の重大性を悟ったらしい。顔もふざけてるくせに頭までふざけてる。
 やがて考えて考えて考え抜いた結果、小さな脳みそは最も取ってはならない道を選んだ。
「……あの。……じゃ、じゃあ……俺やっぱり、このまま、続けるよ……」
 予想通り過ぎて、もはや笑えなかった。
「そうか。続けるか。……残念だ。じゃあ、お別れだ」
「……えっ?」
「いつ裏切るかもわかんねえ奴を手下に置いとけねえだろ。寝首掻かれたらたまったもんじゃない。おい、こいつ連れてけ。確か連中から嫌がらせ用の首が欲しいって話あっただろ。それ用に引き渡せ」
 すぐ傍で待機していた部下にそう言うと、「へい」とだけ返事が返ってきた。
「ちょっ!? 待っ、待ってくれっ! 話が違うっ!」
「違わねえさ。裏切り者を粛清する、ただそれだけの話だろ。お前の代わりなんて、その辺にいくらでもいる。……ああ、安心しろよ。お前の家族と部下はちゃぁんと、俺が面倒看てやるから」
 敢えて笑ってやると、虎之助が大いに暴れ出した。
 が、あっという間に部下に取り押さえられて、そのまま連行されていく。無様この上ない格好のくせに、それでも眼だけは一丁前に俺を睨んでいて、そして最後の言葉を吐いた。
「地獄へ堕ちろっ! この悪魔めっ!」
 地獄なんてとっくの昔に落ちてるよ、と最後に笑ってやった。

     *

 輪廻転生なんて信じちゃいなかった。
 人だろうが動物だろうが虫だろうが、死んだらそれまでで、それ以降なんて何も無いものだと思っていた。つまりは一回きりの人生なのである、だから今まで本能に従って好きな事を好きなようにやって生きてきた。用意された人の道を通っていたのなんて確か小学校くらいまでの話で、それから先の道は獣道――いや、外道だ。非人道的なことも沢山やった。最終的に警察にとっ捕まって死刑を言い渡されたが、その時の罪状なんて全体の十分の一どころか、百分の一にも満たなかっただろう。犯した罪はもはや数え切れないし覚え切れない。直接この手で殺した人数も思い出せないのだから、きっと俺の事で間接的に死んだ人間の数なんて、もう一切不明だ。
 死ぬ直前も、死んだ瞬間さえも、俺は、俺が歩んで来た人生に後悔は無かった。
 人の道に囚われない自分の生き方に、誇りさえ持っていた。
 随分と長い間、目を瞑ったかのような暗闇の中を彷徨い続けたような気がする。
 そして気づいたら、俺は生きていた。闇に慣れた目には、突然に飛び込んできた明かりがあまりにきつ過ぎて、しばらくは視力が戻らなかったくらいだ。やがて意識と視界がはっきりした頃、俺の目の前には化け猫が居た。見上げるほど巨大な化け猫だった。人間相手ならいざ知らず、さすがに物の怪妖怪の類相手では怖気づいた。逃げ出そうとして、何とか後ずさりしようとして、盛大にコケて、慌てて自分の身体を確認して、そして、気づいた。
 信じられないことに、俺は、猫になっていた。
 人間の記憶をそのままに、俺は、猫になっていた。

     *

 実に俺らしいのだが、人であろうが猫であろうが、俺自身の生き方は微塵も変わらなかった。
 幸いなことに、自分自身が猫になったからだろうが、他の猫の声が聞こえるようになった。最初の方は「にゃあにゃあ」鳴くだけのただのうるさい雑音に過ぎなかったのが、ある日を境にその中にある独特な声色に気づき、それに耳を澄ます内に、ただ単純に「にゃあにゃあ」と鳴いていただけのそれが、人間の声のような言葉で聞こえるようになった。そこから先は早かった。
 まず必要なものは地位だと理解した。
 猫社会なんてまったく知らなかったが、人間社会のノウハウを持っている俺からすれば、実に生温かった。飼い猫はともかくとして、野良猫には地域毎に所謂ボス猫という奴がいて、そいつらが互いの縄張りを持っているらしかった。つまりはそのボス猫の地位に俺が上り詰めれば、まず第一段階はクリア出来るという訳だ。
 猫の喧嘩のやり方なんて知らなかった。知る必要も無かったのである。
 もともと人間相手にも非人道的なことをやっていた身分である、畜生風情に何をしようとも、蟻を踏み潰すのと何も変わらない。あらゆる手を使って、近場のボス猫連中を引き摺り下ろして行った。再起不能にするのに手段なんて選ばなかった。標的になった奴は八割死んで、残りの二割だってもはやまともに歩けなくなった。
 やがてボス猫狩りの噂が広がって行って、最終的には他の地域のボス猫連中が、俺へと頭を下げに来た。
 こっちから逆らうことはしない、だから見逃してくれ。そんなようなことを連中が揃って言っていた。結論として、俺はそれを条件付きで受け入れた。つまりはお前らのボスは俺であり、今後は俺に服従しろと、そういう条件だ。
 猫になって僅か一年で、この辺り一体、正確に言えばほぼ市ひとつ丸ごとが俺の支配下となった。
 そしてこれもまた幸いなことであるのだが、俺が猫として生まれたこの街は、俺が生前、よく訪れていた所だった。さすがに何百以上の罪を犯して来たため、一箇所に留まることはほとんどしなかったが、この街には俺の『仕事相手』が居たため、よく来ていた。
 猫の世界は支配した。次に俺は、人間社会とのパイプを作ることに努めた。
 事実問題、これが一番難攻した。猫の言葉が聞けるようになった代償か、あるいは猫の耳ではそもそも人の言葉を聞き取れないのか、人間の話す声が低い唸り声のような音でしか認識出来なくなった。ただ唯一の救いは、人の言葉は判らずとも、文字なら理解出来たことだ。そこで俺は、筆談という手段を持って、かつての『仕事相手』の所へ乗り込んだ訳である。無論、手土産を持参した。
 使い捨ての猫どもを使って人間の家から金品を強奪し、極めつけは警察署から五人分の警察手帳を盗み出した。これに関しては猫だからこそ出来たことであろう。人懐っこい猫を演じれば人間はすぐに心を開くし、ほんの少しの窓さえ開いていれば、そこから中へ進入することだって可能だ。おまけにそんなことを猫がしているなんて、人間が考えるはずもない。
 それらを持って、『仕事相手』の事務所へ顔を出した。門前払いされる寸前で手土産を披露して、それを担保に暴れまくって何とか中に進入した。一年前に見た顔とどこも違わない『頭』の前まで行って、机にあったボールペンを口で咥えて、必死に文字を書いた。結果として、そこからの会話は筆談となる。
 元々字はクソ汚いし、漢字すらほとんど知らない、おまけに手じゃなく口で書いたせいで酷いものだったが、それでも何とか会話は成立した。
『文字ではなす』
 連中は最初、明らかに戸惑っていた。当然だ、いきなり猫が字を書いたのである。驚かない方がおかしい。
 ただその中の一人が面白半分で、相手をしてくれた。それが突破口だった。
『お前はなんだ?』
『桑納(かんのう)だ。おぼえてるだろう』
 連中から爆笑が起こった。桑納というのは俺の人間時代の名だ。
 連中の笑い声が非常に不愉快だが、話を進める。
『死んで、ネコになった』
『お前があのヤロウだって証拠は?』
『ツヅキ組のわかがしらのIDを知ってる』
 都築組とは、一言で言えば連中の敵対組織である。俺が警察にとっ捕まる直前、こいつらからその情報を入手する依頼を受けいていた。仕事としては成功していたのだが、金額の引き上げ交渉をしている最中に捕まったため、報酬を貰い損ねていた案件だ。一年前の情報とは言え、連中が一生を使っても入手出来ない情報だと言うのは断言出来る。なぜならその手段が、俺だからこそ出来たものだったからだ。連中ではない、他の俺のような奴に依頼しても、それは絶対に成し得れないだろうという自信があった。
 証拠に、連中が明らかに動揺を示した。
『IDはなんだ?』
 こうなればこっちのものだ。
『とり引きだ』
 必死に口で言葉を書き続ける、
『おれの生活をホショウしろ。そのかわり、これから、おまえらのシゴトを手伝ってやる』

 連中が使っていた倉庫をひとつ借り受け、食料を定期的に届けることを条件に、俺の持っていた情報を連中に引き渡した。が、無論、その情報さえ手に入れば連中にとって俺は不要な存在になる訳で、約束なんて守る必要性が無い。そんなことは想定済みだ。だから時限爆弾を用意した。
 俺にもしものことがあれば、連中の内部情報を他の組、並びに警察に対し告発する。
 手下の猫が各箇所に常に待機し続け、そして奴らの首にはすべての情報が詰まったSDカードが括りつけられている。俺が生前、万が一のために隠していたものだった。こういうことに使うことになるとは思っていなかったが、備えあれば何とやらだ。だからこそ、俺に何かあった時は、その情報を持った猫どもが関係各所へ垂れ込むことになっている。つまり、連中が生き残るには、俺の条件を飲むしか無い訳である。
 が、何も一方的に要求する訳ではない。これは取引だ。
 連中が俺の生活を保障する限り、俺は連中の仕事を手伝う。
 ギブアンドテイクじゃなけりゃ、この世界は渡っていけない。
 それに俺だって、こういう事は嫌いじゃない。
 人間にしか出来ないことがあるように、猫にしか出来ないことだってあった。
 先の泥棒紛いのことだってそうだが、もっとずっとエグイことだっで可能だった。統率さえ取れれば、人を殺すことに関して、猫という媒体は案外適していた。連中から渡されたリストをもとに、何人も人を殺した。時に標的が運転する車の前に飛び出して事故を引き起こしたりもしたし、一番多かったのが、猫の腹に爆弾を仕込んで自爆特攻をさせたことだった。これが一番効率が良かった。連中の用意した爆弾を体内に入れて、標的へ近づけさせる。人懐っこい猫がまさか爆発するなんて誰も思わないだろうし、警備の目だって容易に掻い潜れる。当たり前だ、人間の敵は人間だと、連中は思い込んでいるから。
 自爆する猫なんて、代用はいくらでもいた。
 家族を人質に取って脅せばイチコロだった。
 やりたいことを、やりたいようにやって生きていく。それが俺の生き方だった。
 人間だろうが猫だろうが、それは変わらない。この自我がある限り、俺の進む道は外道だ。
 これほど楽しいことなんて、他にある訳がない。

 猫になって、そういう生業を始めて、しかし僅か一年で、事態は終止符を打つこととなった。
 さすがに警察も馬鹿じゃない。泥棒やテロ行為を繰り返していたのだ、それが猫の仕業だと理解するのは早いだろう。そして猫単体にそんなことが出来るなんて普通は考えないから、裏でそれを操る人間がいると、そう仮定するのが普通だ。つまりは、俺の仕事相手の連中が、全員しょっ引かれた。
 そして、それを皮切りに、この界隈一体で、警察による大規模な猫狩りが始まった。
 外に居る猫という点に絞り、もはや飼い猫であろうが野良猫であろうが関係無く、ローラー作戦で軒並み猫が捕獲されていった。捕獲された猫はすべて殺傷処分だろう。倉庫を提供していた連中が捕まったのだ、だからこそそこが狙われるのは必然だった。連中がしょっ引かれたことを悟ったと同時に住処を別の所へ移したが、もはやローラー作戦で虱潰しに事を成す警察に、俺らの一派はほとんど追い込まれていた。
「ボスッ! まずいです、もうほとんど囲まれてますっ!」
 部下が慌てた声を出す中で、俺は欠伸をしながら応えた。
「……そうか。もう、ゲームオーバーか」
 河川敷の近くにあった薄汚れた廃工場まで逃れたが、もう限界らしい。
 窓ガラスが叩き割れた窓の向こうに、パトライトの光がいくつも見える。一台や二台の話ではなく、完全に囲まれている。人の気配も何十人単位だ。逃げ出せるような話ではない。ずっと傍に置いていた部下もすでに四匹しか残っていないし、手持ちの駒も三匹だけだった。人間時代もそうだが、俺の進む道というのは、本当に先が短い。僅か一年足らずで終わるなんて。しかし――まぁ、いいか。これはつまるところ、ただのロスタイムだったのだから。俺の人生における、追加の番外編だったのだ。そう考えれば、これはこれで、案外面白かった。だから最後は、派手にゲームオーバーと行こうか。
 すぐ傍で待機していた部下の四匹に向かって、言った。
「……これで終わりだ、お前ら。人間の突入と同時に、そこの三匹を爆破する。離れたところに居れば、爆煙に紛れて上手く逃げれるかもしれねえぞ。ご苦労だったな。後は好きにしろ」
 その言葉に、一様に戸惑っていた部下連中だったが、一人が行動すれば後は早かった。残りの二匹もそれに続いて俺から離れ、壁付近に待機し始める。駒の三匹はもはや絶望に塗り潰されて身動き一つしない。
 そんな中で、唯一、誤算があった。
「なんだ。お前は逃げなくていいのか」
 部下の中で一番の古株の、ジョルノという猫だけが、逃げずに俺の隣に居続けた。
 ジョルノはその言葉に、鼻で笑った。
「はっ。馬鹿言わないでくださいよ。あんたのことだ、そいつらが爆発したら、どうせこの建物全部吹っ飛ぶんでしょ。逃げれる訳ないじゃないですか。そのくせ最後にあんなこと言って。どこまで俺らをおしょくれば気が済むんだか。ムカつくから、最後はあんたの思惑に背いてやろうかと。……最後だから言っときますけど。ボスとしてのあんたは最低だ。クソ以下だ。でも、俺は案外、面白かったんでね」
 その言葉を聞いて、最初は呆然としてしまった。
 そして思考が回り出すと同時に、思わず笑ってしまった。
 皮肉な話だ。人間時代、誰からも理解されなかった俺が、最期には人間ではなく、猫に理解されてしまった。これほど滑稽な話が他にあるだろうか。いいね。実にいい。実に俺らしい。
「気に入ったぞ。次にデカイことするときゃあ、お前も一緒に来い。もっと面白れえもん見せてやるよ」
「それはいいですね。付き合ってあげますよ」
「なら、――盛大に、終わらせようか」
 輪廻転生なんて信じちゃいなかった。
 だけど、俺はここに居る。
 人間としてではなく、猫として、俺はここに居る。
 次はあるだろうか? そんなことは今は判らない。
 しかし、次があるなら、俺はまた、人間になるのだろうか? それとも、猫? 犬? 虫?
 まぁ、何でもいい。俺は俺だ。俺の生き方は、何になろうと変わらない。
 だったら、次があったらまた、俺として、楽しめばいいのだ。
 外道をただ、真っ直ぐに進もう。
 俺らしくて、良い人生じゃないか。

 次が楽しみで、ガラにもなく、――興奮、するじゃないか。



2016/05/20(Fri)19:18:59 公開 / 神夜
■この作品の著作権は神夜さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶり、冬眠していた神夜です。
最期に顔を出したのもう一年くらい前かもしれない。冬眠したら神夜は長いんだ。
クソ忙しい私生活の中、それでも小説を冒頭だけ書いては消してー書いては消してーを繰り返し続けた結果、ふと読ませて貰ったこの企画に便乗したら案外最期までさらっと行けた。内容が面白いかどうかはともかく、せっかく書いたのだから投稿しよう。しかし『猫も興奮』ってなんだ。水芭蕉猫さんが興奮してるのかな。
最初は人から生まれ変わった猫が美少女のスカートの中を覗いて盗撮しまくって「うひょー」と興奮している物語を書こうとしたはずなのにどうしてかこうなった。なんでこうなったのかもわからない。嫌悪感抱かれた方はすみません。最初に注意している神夜は悪くありません。
誰か一人でも楽しんでくれることを願い、神夜でした。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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