『聖夜3』 ... ジャンル:ショート*2 未分類
作者:水芭蕉猫                

     あらすじ・作品紹介
BL注意。ヤマとオチはありません。ひたっすらに野郎二人がいちゃいちゃしてるだけです。

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 ミニスカサンタである。
 何が楽しくて三十路の野郎にミニスカサンタなのか、雪哉にはまったく解らない。
「なぁなぁお願いだから。ほんっとにほんっとにお願いだからさー!!」
 目の前にはミニスカサンタのXL衣装を両手に掲げ、瞳をキラッキラと輝せて懇願してくる恭介の姿。
 くらっと眩暈がするが、ここで倒れるわけにはいかなかった。
 今宵はクリスマス。少し前に「クリスマスプレゼントは何が良い?」なんてこのお調子者のパートナーに聞くんじゃなかったと雪哉は思いっきり後悔した。
 その時の恭介には「ちょっとまだ決まってないから待ってて」なんて言われた。その後も何度か聞いたのだが、のらりくらりとはぐらかされつつ今日に至る。仕方なく雪哉は新しい腕時計を勝手に用意してこの日を迎えたのだが、夜になってご馳走を食べて良い雰囲気になった途端のコレである。
 結婚して五年も立つと、雪哉も恭介もある程度は手の込んだ料理も出来るようになる。
 結婚五年目。つまり、養子縁組してから五年目の今日は、折角だからと二人一緒に頑張ってクリスマスの御馳走を作ってみたのだ。朝早くから買い出しに出て、夕方からローストチキンやスモークサーモンの生春巻き、エビフライ等を二人で仲良く作り上げた。
 今年は二人ともうまい具合に休みも取れて、突然の仕事も恭介が風邪を引くことも無くて、心配事も一つも無くて、雪哉も今日ばかりはずっとご機嫌だ。
「チキン、なかなか上手にできたじゃねぇか」
「意外と生春巻きって巻くの難しいのな」
 そういう具合に、仲良し夫婦っぽく台所に立ってキャッキャウフフと甘いクリスマスを楽しんでいた。のだが、丸鶏の半分が骨となり、ケーキを食べてシャンパンを飲んで良い具合に酔いが回ってきたそんな時、箪笥の中から恭介がいそいそと目にも鮮やかな赤いミニスカサンタコスプレ衣装を出してきた。所謂、夜の繁華街で看板を持ったお姉ちゃんが呼び込みに使うアノ衣装だ。
「何これ」
「クリスマスプレゼントのリクエストです」
 そこから始まる攻防戦線。というより、恭介の一方的な説得が始まったのだった。
「良いだろう良いだろう!? 結婚してからあんまりこういうの着たこと無かったじゃん!? せっかくクリスマスなんだから今夜だけ特別!! 今夜だけだからねぇおーねーがーいー!!」
 女子高生みたいな発音で喋りつつ、べたーっと腰に抱きついてくる恭介の頭を、雪哉はえぇい鬱陶しい!! とばかりに引きはがした。
「な、なんでこんなの着なきゃなんないんだよ!? 野郎の女装だぞ!? 見てもつまんないだろう!?」
 何が楽しくて三十路の野郎がミニスカサンタ衣装なんて恥ずかしい女装を着なきゃならんのか。いかな人生のパートナーの頼みとはいえこの願いは憚られる。そういえば、夏頃にロープで縛らせてくれとか言われた気もするが、最近の恭介はアブノーマルにでも目覚めつつあるんだろうか。や、確かに結婚五年目ともなればマンネリもしてくるけどさ。色々と。
「詰まんなくない!! 絶対詰まんなくないから!! むしろ雪哉だから見たいんだよ!!」
 頼むよー。クリスマスだろー。俺だけのサンタさんだろー。なぁなぁなぁ頼むよー。
 駄々っ子みたいに腹に頭をぐりぐり擦りつけられて、だから、あの、その、と言いよどむ雪哉。だが、
「俺だけのクリスマスプレゼント欲しいなー。サンタさんに来てほしいなー」
 でっかい犬がキューンと鳴くような声でそう言われると雪哉はぐぐっと言葉に詰まる。
 ここまでされてウジウジ嫌がるのも男らしくない。見ている人は恭介だけだし、今日は楽しいクリスマスだ。何かもう吹っ切れるしかないだろう。
「ええい仕方がない!! 今日だけだからな!! 今日だけ!!」
 真っ赤なミニスカサンタさんの衣装をむんずと掴んだ雪哉は半分怒ったように洗面所へ向かったのだった。


 ★   ★   ★


 雪哉としては、体のラインが出るような衣装はあんまり好きではない。
 もう結婚してから五年も立つ。恭介からの愛情は今でもしっかり感じている。だから不安を抱きようが無いのだが、なんだかんだ言いつつも、やはり女性へのコンプレックスからは抜け切れないでいた。
 早い話、やっぱり女の子とは違うな、とか、やっぱり女の子の方がこういうのは似合うな。と少しでも恭介に思われるのが怖いのだ。
「やっぱり老けてくるとどうにもなぁ……」
 人間、どんなに若作りをしようと頑張ったところで老けてくる。三十代にもなれば益々男性ホルモンは増してきて、髭だって今より濃くなるだろう。その後も徐々に筋肉は衰えて、太りやすくなって、髪だって薄くなるかもしれない。一応体脂肪には気を付けて生活しているのだが、やっぱり女とは違うなと思われるのが凄く怖い。今、途方もない幸せに包まれている分、恭介を失う時を考えたりすると雪哉は涙が出そうなくらい辛くなる。
「皺は……まだ出来てないな……」
 洗面台の鏡を見ながら目尻を触ると、ぴょこんと前髪の中から白髪が一本飛んでいるのが見えた。
「髪、染め直さなきゃな」
 そのうち白髪染めタイプを買わなきゃダメになるんだろうなぁ等とげんなりしながら赤い衣装に手をかける。
 ワンピースタイプのサンタ服のスカートをを頭からすっぽりかぶった。すとんと頭を通して袖から腕を出し、適当に裾を引っ張って整える。やっぱり胸の部分はぶかぶかするがウエスト部分はぴったりだ。しかしスカートからにょっきり生える筋肉質な足見て、やっぱり似合わないような気がする。
 一応、内股気味に姿勢を正し、鏡を見ると女装した男がそこにいた。
 胸元に三っつの白いぼんぼりがついた、赤くて可愛いミニスカサンタの服を着た三十路の野郎だ。
 これがまだ十代の可愛い少年ならまだしも、三十路だぞ。果たして恭介はこんなののどこが良いのだろう。
(こんなの、恭介に見せるとか本気で辛いんだけど……)
 しかしここでグズグズしていても仕方ない。付属品の赤い帽子を頭に乗せて、意を決してそろりそろりと洗面所を出て行くと、興奮で幻の尻尾をぶんぶん回すヒト科の大型犬が出迎えた。
「おお、おおお、おおおおおーーーーー!!!」
 恥ずかしさのあまり肩を落として右手で顔を隠す雪哉の周りを、正しく犬のようにはしゃいだ恭介はどたどたぐるぐる回って舐めまわすように眺めている。
「似合わないだろ?」
 げんなり顔のまま自嘲するように笑って尋ねる雪哉だが、恭介はぶんぶんぶんを首を振ってぺかーっと擬音が浮かび上がる程のすがすがしい笑顔を見せた。そして両手の拳に親指を立ててサムズアップを形作ると、
「グレイト――――――!!!!!! 最高だよ雪哉!! めっちゃ可愛いよ雪哉!! ありがとうありがとう俺マジで来年も生きていけるよ!!」
 抱きしめてほっぺたにキスして赤い帽子の上からガシガシ頭を撫でる恭介に、雪哉はマジでこいつは目が腐っているんじゃないかと本気で思った。
「どど、どこがだよ!? 野郎の女装だぞ!? 三十路だぞ!? 全然似合わないだろうが!?」
 慌てて食って掛かる雪哉だが、すると恭介は解ってねぇなーという顔をしてちっちっちと指を振る。
「そこが良いんだよ。『俺に似合わない女装させて何が面白いんだ?』って挙動不審な雪哉が見たくってさ」
 何だそれは聞いてない。
 ぽかんとする雪哉の顔を恭介は顔をニヤニヤとさせたまま、どこかの名探偵のように顎に人差し指を当てて言う。
「どうせ雪哉の事だから、歳くって似合わない女装なんかしたら現実を目の当たりにした俺にキモがられるんじゃないかって心配したんだろ?」
「うぐっ」
 図星だった。
「ど、どうせ俺はネクラの心配性ですよーだ……」
 思わず呻いた雪哉はあまりの恥ずかしさに言い訳がましくボソリと言うが、しかしまた茶化すのかと思っていた恭介の行動は予想外な物だった。
 にこにこ笑顔を崩さぬままで雪哉の左手を手に取ると、筋張ったその手の甲に柔らかな唇を押し付けた。
 その薬指には、もちろん銀に輝くペアリング。
「大丈夫だからそんなに心配するな。俺はきっと三十年たっても雪哉の事を誰よりも綺麗だよって言える自信があるからさ」
「雪哉、愛しているよ」とそのあまりにも直球ストレートな物言いに、雪哉は首まで真っ赤にしたまま「バカ」と呟く。
 それから恭介の手を両手でぎゅっと握り返し、蚊の鳴くような小さな声で「俺も、お前を世界で一番愛しているよ」囁いた。



2015/12/25(Fri)07:45:31 公開 / 水芭蕉猫
■この作品の著作権は水芭蕉猫さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 クリスマス作品です。
 百合にしようか薔薇にしようか悩んだ結果、2009年初出のあの二人にご登場いただきました。ひたっすらにクソ甘いだけのお話です。実は毎年この時期になると出せー出せ〜と念を送られるような気がします。作中では五年となっていますが、今確認したら結婚して六年目でした。うーん、でも去年は書けなかったので、五年目にしておきます。キリが良いしね。うん。
 野郎の女装は似合う似合わないだけではなく、恥ずかしそうにしている表情こそポイントが高いと思うんだ(真顔)

 雪哉&恭介はクリスマスの日だけに書くゲイカップルのひたすら甘いだけのお話です。過去に二話ありますが、これだけでも大丈夫です。ただひたすら甘いだけですので……。

 それでは皆様、良い聖夜を〜♪

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