『都会から来た転校生』 ... ジャンル:リアル・現代 恋愛小説
作者:餃子                

     あらすじ・作品紹介
商店街があるこの町内は、本当の田舎だった。コンビニなんて、この町内に一店舗しかなく、スーパーがなかった。そして、この町の学校に、一人の転校生がやってきた。その転校生がやってきた日以来、数々の不可解な事件を町に及ぼしていた。そしてやがて行方不明になる人、大怪我をする人、容疑をなすりつけられる人。大勢の犠牲のなか一人だけ信也を疑い、少しずつ秘密を暴いてく男がいた…。その名も伊月陵、一五歳。彼が信也を追って、見出だしたものとは…。事件の謎が今、解き明かされる。

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 静かな駅のホームに、一両の電車が止まる。中には殆ど誰もいないが、たった一人駅から降りてきた。体は、小柄であり、電話をしたようだったが、以外と声は見た目より遥かに危なさそうだ。
「あぁ…着いたぜ。明日からが楽しみだ」
 そして、このときから絶望へのカウントダウンが始まったのだ。

第一章『火事』

 今日からまた学校か、ダルいな。
オレは校門を走り抜け、階段を素早く上がって、三年二組の教室に入る。
 教室に入ると、なんだか騒がしかった。
「おい、劉也。これなんの騒ぎ?
 山本劉也、オレの幼馴染み。ちょっと悪っぽいけど、悪いことは絶対にしない、信じれるやつだ。
「あぁ?これか。朝から転校生が来るって噂になってんだよ。女子はイケメンだといいな〜ってさ。願望だけは達者なんだよ。まずは自分の顔を考えろってな、はは」
「言い過ぎだろ。顔を否定するようなことは例えお前だとしても同情は出来ねぇよ」
「それにしちゃぁ、陵。デブは嫌いとか言うじゃねぇか」
「デブ自体は親からあずかったわけじゃねぇだろ。顔は整形以外変えられないけど、太る体質であっても痩せる努力は出来るだろ」
「面倒臭ぇな、やっぱりお前」
 そんなつまらない雑談をしているうちに、オレの彼女がやってきた。
「陵、おはよう。昨日は楽しかった。またいこうね」
「あぁ。咲もありがとな。昨日は楽しかったよ」
 鈴木咲。昨日はオレと近所の祭りに参加して、楽しいひとときを過ごしていた。
「あのさ、今度これいかない? 」
「花火大会? 」
「そうそう。商店街の皆が少しずつ貯めたお金で花火師にお願いして打ち上げるらしいよ」
「そっか。ならせっかくだし、行ってみるか」
 近所の商店街のグループが、お金を貯めて花火を打ち上げる資金などに使っていたらしい。この田舎にはコンビニが一つあるだけで、スーパーなどは全部商店街の利用となってる。だから高校を出ると皆広い都市に行っちゃうんだよね。一部例外もいるけど。
「おはようございます」
爽やかな声がして、皆が一斉にその教室に入ってきた生徒を見つめる。どうやら例の転校生らしい。
「お、あいつか。イケメンじゃねーか」
「あの転校生、すごくいい顔してるねー。性格良さそう」
 クラスの男子と女子が一気に転校生に寄り添う。その転校生はその寄り添うのを少し回避して、黒板にこう書いた。
『夢野 信也、一五歳。趣味はサッカー、筋トレ。特技はゲーム。好きな食べ物はりんごかな。彼女募集中だよ。』
 その言葉を見て、女子達が騒ぎ始めた。
「ねぇ! 私と付き合わない? 」
「私と付き合ってください! 」
 一目惚れ連中が一気に騒ぎたてる。 いつも教室が騒がしい気がするが、この勢いなら一階の職員室にも聞こえそうだ。
「まぁまぁ、落ち着いて。でもぼく、もう実は好きな人がいるんだ。このクラスにね」
 一瞬静かになったが、またすぐに騒がしくなった。
 女子は誰だ誰だと聞いていく。少しでも顔に自信ある奴は自分だろうとか絶対に思ってる。
「名前は知らないけどね。校庭で見かけたとき、とってもいい目をしながら校舎に入っていったんだ。ってあれ?あ、いたいたそこに。えーと…」
 そう言いながら信也は人混みをかき分けて、やがて此方の方へ向かってきてオレの横の女の手を取った。
「え…」
「咲!? 」
「へぇ、咲って言うんだ。ある程度名簿見たから…えーと…鈴木咲さんであってる? 」
「手、離してくれないか? 咲はオレの恋人だ」
 オレは少し冷静に喋った。
「あぁ、ごめんごめん。そうか。余ってなかったか…」
 オレは今余るって聞こえたが気のせいだろうか。余って? 人をこいつはなんだと思ってるんだ?
そうしてオレの前を通りすぎる。その際に小声でこんなことを言った。
「君に恋人同士が掴まると思う?そのうちぼくは君から奪うよ、咲ちゃんを_____
「おまえっ!」
 オレはずっと抑えていた気持ちを表に出してしまい、信也を後ろから殴った。信也は最初、少し痛そうにしていたが、無言で指定の席に着席した。
「どうしたっ! 陵」
「陵、いくらなんでもそれはやりすぎよ…私、人を殴る人とか真面目に好まないし、信じて損したな…ごめん、別れよう」
「なん…だって…? なん…で…う…ぅ…」
 オレはカッとなって信也を殴ってしまって、それで更に彼女にも別れようと言われてしまった。
 この日、オレは勉強机で顔を伏せた状態だった。意識は朦朧としていて、生きてるかさえもわからないぐらいだった。いつもは勉強を普通にしているが、今日だけ勉強はする気にさえ、見向きさえ出来なかった。オレは、填められたのだ。あいつの考えた罠に。あいつの思い通り、すべては計画だった。
 事前にオレがどんな人間だということを知っていた。学校では何もそんなこと今までになかったのに。なんで。なんで。オレの性格を知ってるんだ。
 放課後、午後の三時。
「おい、陵。もう下校だ。そう落ち込むなって。どうせあの転校生の野郎に何か唆されたんだろ? 何があった? 言ってみな、相談のるからよ」
 劉也はオレの側に来て、慰めるように言った。
「あいつ…転校生の夢野は…咲をすぐに奪うと宣言しやがった…。あんなやつに咲を渡せるか…! 」
「……。そうか。そんなことか。ならお前のプライドってモンを彼奴にみせつけてやれよ。咲を思う気持ちは、オレの方が強いってことをな」
 正論だった。だが、なぜオレの性格を奴は知っていたのだろうか。

 日曜日の午前一時。咲からメールが届いた。普通の携帯からではない、最近発売されたポケットフォンという小型軽量スマートフォンからだった。そしてそのメールには、平仮名で『たすけて』。たったそれだけだった。オレは急いで咲の家に向かった。
 自転車を急いで漕ぎながら、必死で頭の中を整理した。どういうことなんだ。なぜ咲はメールをしてきたのか、オレにはわからない。また、メールの意味も分からない。事故にでもあったのだろうか。しばらく道を行くと、焦げくさい臭いがした。火事か。火事がこの近くに…ってまさかと思いオレはスピードをあげ、坂道をつっ切った。 咲の自宅周辺につくと、辺りに人が密集していて、空を見ると若干暗く、更にその先は見覚えのある家が黄色と赤色を混ぜたかのような鮮やかな炎によって焼き尽くされていた。そう、あの家は間違いなく、咲の家だった。
「すみません、ちょっといいですか? 」
「なんだい?」
オレは頭を整理して、おじさんに話しかけた。
「中の人はもう出てきたのですか? 」
「それが、出てこないんだ。警察と消防には電話をかけたんだが、今事故で通行止めになってしまって時間がかかるらしい…もう中の人は…」
そうおじさんが呟いたとき、オレは炎の中に入っていった。
「待てっ! 死にたいのか! 」
 オレは走りながら答えた。
「愛する恋人のためなら、オレは命だって捧げます。それで咲を救えるなら、死ねて本望ですよ」

「咲! いるか? 答えてくれ! 」
燃え盛る炎の中、オレは必死に声を張り上げた。
だがこの絶対絶命においやられた咲に届くわけもなく、咲からの返事は受け取れない。
 ただ、歩いていくと、人の声が聞こえた気がした。
「…て…」
!? どこからか小さいが声が聞こえる。オレは周囲を万勉なく探す。そしてその部屋にいないとわかると、すぐに部屋を出ようとした。だが、入り口は常に炎で塞がれる。だが、ここで諦めていたら咲が死んでしまう。オレは自慢の脚で火を飛び越えた。勿論と言うが、脚は少しだけ焼けてしまった。
「うっ…」
 熱いが我慢だ。咲のためならなんだってやる。一昨日言われただろ。プライドを見せろって。今思えばあいつの言葉には感謝でいっぱいだ。オレに勇気を与えてくれたから。
 ある程度、一階は探し終わった。けれど、咲は見つからない。二階に上がる。途中の七段目から九段目が、燃えて焼失されていたため、約一メートルの段差を手を使って渡る。落ちれば燃え盛る炎の海。上がれば新しい新天地。まるでRPGゲームの冒険ゲームのようだった。
 しばらくしてようやく渡りきることが出来た。咲の部屋に向かって一直線。そして中に入ると、殆どが炎で覆い尽くされていた。ただ、一ヵ所だけ、何も火を通さない場所があった。その近くから声がする。
「誰か! 誰か! 」
オレは微かな声だが、咲と確信し、まるで今までが何もなかったかのように、炎の中を平然と歩いていた。体の方はボロボロだが、咲を見つけられた快感の方が大きく、もう何も感じなくなっていた。
「咲っ! 」
「え…りょ、陵? 助けにきてくれたんだ…って、体中傷だらけじゃない! 」
「こんなモンたったのかすり傷さ。一晩寝れば治るから心配すんな。掴め、オレの肩。おんぶしてやる」
「ありがとう」
 咲はオレの肩を掴み、のしかかった。当たり前のように重かった。だが、必死に階段を下り、やがて外に出た。
 オレが外に出ると、近所の住民たちが一斉に拍手喝采だった。警察はもう来ていて、オレの方へ近づいた。
「君、大変な怪我じゃないか。救急車を呼んである。さぁ乗りたまえ」
「大丈夫です。でもこの咲をよろしくお願いします。オレは一晩寝れば治りますんで」
 といいながら、気絶した咲を下ろし、オレはゆっくりゆっくり前に進む。
だが、そんなかっこいい勇姿を見せつけたのは一瞬で、五歩歩いたところで頭から地面におもいっきり倒れた。

2015/08/19(Wed)15:34:50 公開 / 餃子
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■作者からのメッセージ
都会から来た転校生、書かせていただきます、餃子と言います。今回から書いていくわけですが、少し説明を。この小説は一応感動ものではありますが、一部不適切な場面や、ホラーな部分もあります。閲覧の際には上記のことに気を付けてください。

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