『KIMERA@Dream[Pale Dream Foam]』 ... ジャンル:ファンタジー 未分類
作者:ベアトゼブル                

     あらすじ・作品紹介
夢の中で目覚めた主人公・レキ。ここが夢だと理解できること自体が異様と気付き、記憶の整理を始めることに。一方、現実世界ではレキが原因不明の高熱にうなされ、苦しもがいていた。そんな中、旅館の土地主から語られる"八岐乃贄(やまたのにえ)の儀"の全貌と土地開拓前に現れたという少女の謎。全ての謎がいまひとつになる----。

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▼プロローグ
 最期に記憶しているのは「おやすみ」と連れに告げた目を閉じたこと。
 旅の途中、特段特殊な宿に泊まったわけでは無く、就寝してからの記憶は特に無く、ただただ自分の置かれている状況に不安を覚えるだけであった。
「これは…夢…?」
 手足に絡みついた鎖をダメ元で必死に揺らして解こうとするが案の定、効果は無い。
 ため息をつき、夢にしてははっきりしすぎている意識をしっかり保ちながら、ボクは記憶違いが無いかゆっくりと思い返してみることにした。
 時は遡る事、6時間前。
▼ACT1 [Follow the storage]
 日は傾き、オレンジ色の夕焼けが今日も綺麗だった。
 とある店の壁に背を預け、ツレの任務の成功を祈りつつ、夕焼けを見つめながらボーッとしていた。
 その夕焼けはボク、"レキ・ルーン・エッジ"の特徴のひとつでもある真っ白い髪が夕焼けの色に染まる。
 その髪を染め上げる夕日はボクの髪以上に赤く染め上がっており、"オレンジ"というには色が濃すぎた。
 気持ちをどこか不安にさせるような色だが、どこか懐かしさも感じる。
 ……と感傷に浸るのは構わないのだが、やはり夕焼けとはいえ太陽は太陽。 直視すると光が強すぎる為、視力低下の恐れもあるし、それにいくら森の影などで日光を緩和してるとしても長い時間直視し続けると流石に目がチカチカしてくる。
 だからと言って夕日を見るぐらいしかやることが無く、ただ過ぎて行くこの無駄な時間もいい加減飽きてきた。
 もたれていた店の壁から背中を離し、目頭を押す。
 腕を上に伸ばし大きくアクビをしていると店から我が軍の工作員が何事も無い顔で現れた。
「レキ、宿取れたよ」
 もたれていた店から出て来た桃色の髪に猫耳を生やした少女は、自慢のツインテールを揺らしながら、無事に宿の確保という超最重要任務を完遂したことをボクに報告する。
 ……まぁ、彼女はコミュニケーション能力は高いので特に心配は一切してなかったんだが。
 彼女の名前は"白獅 美由"。
 身なりは似ているが、"人"とは違う"妖"という種族の少女。
 詳しく説明すると難しい話になるのだが、簡単に説明すると元々、"人"と"妖"は対立状態にある。
 理由は実にシンプルで"人という神に最も近い生物を崇めろ"と人が妖を反逆者には駆逐、奴隷扱い。 その傲慢な態度に妖が激怒。 そして現在、争いに明け暮れた両陣は疲れ果て、お互いの領地には不可侵が暗黙のルールとなり、冷戦状態に至るというわけだ。
 これで丸く収まれば全然問題ないのだが、問題なのが"否定派"とは別に"共存派"が存在していることだ。
 一見、両陣の架け橋になると思われがちだが、そんな簡単な話では無く、両陣の"否定派"からしてみればネギを背負った上質なカモだ。
 裏切り、束縛、誘惑。 なんとでも言い用があり、それと同じく裏切り者を始末するには絶好の機会といえるだろう。
 故にこれは人間側だけでしか聞いたことが無いが、他種族への同情は禁忌とされており、情を移してしまったら身を滅ぼされるのは自分だ。 現代社会の鉄則でもある。
 そんな中、彼女は色々と訳が有り人妖共存の孤児院の出で"人を否定"という概念を持ち合わせていない、少々特殊な立ち位置に存在する。
 だが、いくら特殊でも分類的には"共存派"に当てはまるのは間違いないだろう。
 そんな彼女と一緒に旅をしているボクも"共存派"になるのだろう。
 まぁ、自分はあんまり社会に馴染み難い性格なので別にかまわないのだが。
「了解。いま行くよ」
 ボクは美由に相槌を打ち、宿の中に入った。

 早速、宿のスタッフに連れられ、泊まる部屋まで案内される。
 ここの宿は人妖差別など行っておらず、どんな客でも笑顔で出迎えるのがポリシーらしい。
 単にこの不景気の中、金になるものをわけるわけにいかないのか。 それとも本当に本心からか。
 ……ダメだ。 悪い癖と知りながら、どうしても疑ってしまう。 直さなくてはならないのだが……。
「うわぁ~!!」
 一足先に部屋に入った美由が歓喜の声を上げ、その声でボクは我に返る。
 まぁ、どうせ厄介になるのは今日だけだろう。 とりあえず今は宿が見つかったことを素直に喜ぼう。
「どうしたの?」
 スタッフの者に部屋の鍵や宿のハウスルールの説明を半分上の空で聞き終え、ボクも改めて部屋に入る。
 そこには山一面に見事な紅葉が夕日に照らされ、色鮮やかに輝いていた。
「これは絶景だね…」
「うん…」
 ボクも美由も景色に見惚れてしまい、思わず言葉を失ってしまう。
 そう言えば、宿を取るときは大抵は市街地で、こういう自然に縁がある宿に泊まるのは初めてかもしれない。
 というか山の中で宿を経営していること事態珍しく、いつもは関所の無料の貸し出し宿か、外で野宿して過ごしていた。
 この景色をいつまでも見惚れていたいのだが、美由には申し訳ないのだが、流石に今後の予定を打ち合わせたかったので、静寂で色鮮やかな世界に別れを告げることにした。
「ところでさ」
「えっ!? あっ、うん?」
 美由は本当に見惚れていたらしく、声をかけると驚きを隠せていなかった。
 だが一瞬見えた紅葉に見蕩れていた彼女の横顔がどこか可愛らしく、気付けばボクの頬も赤く染まっていた。
 いつもは男顔負けな程に気丈な性格なので、こういう女の子らしい仕草を見ると、いつもの彼女が霞んで見える。
 もっとも、彼女の生い立ちからしてみれば"そうせざる負えなかった"のかもしれない。 だからなのか今の仕草が妙に可愛かったのか。
「……」
「……レキ?」
「えっ!?」
「いや、声かけて来たのそっちじゃん」
 美由は「ぶ〜」と頬を膨らませ少し怒っている。
 とんだ醜態を晒してしまったものだ…。 ボクは一息置き気持ちを整理した。
「改めて。 明日からどうする?
山の麓に村があるといいんだけど…」
 ここリアサルン諸島は先述の人妖問題もあり、地図という物が発行できないでいる。
 なのでどこになにがあるかなどは現地の者にしか解らない。
 一応、各地周辺の情報不足な地図なら売っているところもある。
 あいにく、この近辺では売っていなかったが。
「あぁ……確かに烈火や響。
不本意だけどルージュやサイファスも探さないとね」
 現在はボクと美由の一人一匹で旅をしているが、今は訳有って離れ離れになっている仲間がいる。
 美由とは偶然、飛ばされた場所が近く、想像以上に早くに合流出来たのだ。
「それに記憶の改ざんの可能性が絶対にあるから……計画までに間に合うかどうか」
 そう一番の問題はそこだった。
 ボクらは飛ばされたときに、記憶が改ざんされていた。
 ボクの場合は"記憶の抹消"で、最初は何も思い出せず、無理に思い出そうとすると頭に捻じ切れるほどの激痛が走った。
 その後、"ある物"で頭痛を乗り越え、記憶を取り戻すことが出来た。
 美由は"記憶の改変"。
 城のお嬢様として崇められ、市民に愛されていた。
 そんな事実上幽閉の中、旅生活が長いためか自ら今の生活に不信感を抱き、自力で記憶を取り戻した。
 まぁ、大変だったのはその後なんだけど…。
 お互いに記憶改ざんによる後遺症は無いが、まだ本調子では無いので一歩距離を置いた感じでいる。
『まぁ、そんなに急がなくても良いんじゃないの?
 まだ計画の日まで一年近くあるんでしょ?』
 若い顔立ちに煌くような白髪が特徴的な少女が重力無視で美由の頭に乗る。
 彼女の頭にも美由も物に似た猫科の耳がついている。
 彼女の名前は"故(ゆえ)"。
 美由のKIMERA。
 KIMERAとはif。 "もしも"という可能性の存在だ。
 例えば生物は精と卵が結びつき、初めて生をこの世に受ける。
 この営みによりボクらは生まれてきた。
 けどもし、兄より先にボクが生まれていたら? もし、同じ親でも生い立ちが全く違ったら? もし、同じ精、卵だとしても全く別の者が所持して結びついたら?
 上げるとキリが無いがそういった"分岐した可能性"。
 そんな別次元の自分がKIMERAだ。
 みんながみんなKIMERAを行使できるのでは無く、夢の中で"邂逅の鍵"を貰わないとダメだとかなんとか。
 詳しいことは学者では無いボクには専門外なので省かせてもらう。
『でも美由はレキと一緒にいるだけで幸せなんだよ〜』
 『ね〜』と故が美由に同意を求め、笑いかける。
 美由は顔を真っ赤にしながら故を追い払う。
 そんな微笑ましい場面に水を差すのが、見上げるほどの巨体が特徴のボクのKIMERA。
『全く、姦しい』
 コイツはホワイトドラゴンの"H.D"。
 名付け親は自分なのだが"ホワイト"の頭文字がWだと最近気付いた。
 でもH.Dって呼び名の方がどこかカッコイイのでこのままにしている。
「まぁ、そう言うなよ。 美由ってどこか寂しがり屋だし、記憶を無くしてて大事なものを失った気分になってたんじゃないかな?」
 ボクらの存在を気にせず姉妹さながらな二匹を見つめながらボクは笑う。
 そんなボクに対してもH.Dはため息を吐く。
『老化が進んだか? この間も聞いたぞ、それ』
「えっ、言ったっけ!?」
 白髪は体質だとしてもボケるにはまだ早すぎる…。
 ボクはあたふたと手足をバタつかせる。
 その行動もH.Dの頭を抱える種の一つなのだが、ため息をつくだけで追求はしてこない。
『あれ、いたんだ』
 故がボクの頭に乗っかり、H.Dを見る。
 ちなみに現界しているKIMERAは言わば幽霊みたいなモノで、特定の者しか姿形が見えない上、質量が無いので重くない。 また媒介の者からそんなに距離を取らなければ縦横無尽に物質さえもすり抜けて動くことが可能。
『いたら悪いか』
 H.Dは悪態をつき故を睨む。
 その態度に故の口がにやりと口端が上に伸びる。
『まぁ現界してもその巨体じゃ動けないよね〜』
 そう言ってニヤついたままH.Dのありとあらゆるところを撫で回すように見る。
『鬱陶しい』
 そう言葉を残し、H.Dは煙のように霧状になり消えていく。
 にししと故は笑い、自分も霧状になり消えていく。
「はぁ」
 ボクらは揃ってため息をつく。
「とりあえず、私は気分転換にお風呂入るから、今後の話は夕食のときにしましょ」
 美由の提案にボクは頷き返した。
 正直、このグダグダな空気の中、話し合いをしても話が進まない可能性が高い。
 それに旅路で疲れているのも忘れていた。
 お互いに疲れを少しでも取り除くことも大切なことだろう。
「じゃあ、ボクは旅館の探索でもしとこうかな」
「えっ、一緒に入らないの?」
 ボクは美由のこの無頓着な質問に呆然とし、ため息をつく。
 たまにあるのだが、美由は独り旅が長いためか羞恥心に少し疎いところがある。
 初めて出会ったときもそうだった。
 介抱してくれたは良いが、自分は滝で水汲みをして、目を覚ましたボクになんの躊躇も無くそのままの姿で近づいてきたのだ。
「あのね、美由。
何回目になるかわかんないけど、普通は異性同士で一緒に風呂には入らないんだよ」
 美由はボクの話に「うんうん」と答えながら着々と服を脱ぐ。
「でもさ、一緒に入っても別にいいじゃん。
ほら、"裸の付き合い"ってやつ?」
「意味が違う。
6時半に食堂で待ち合わせで」
 そう言ってボクは手を振りながら部屋を後にした。
 全く。 男としては誘いを受けたいのは山々なのだが、平常心を保てなくなることを危惧するとやはり断るのが道理だろう。
 少し赤く染まっている頬を隠すようにボクは廊下を走った。

 建物の構造は屋上含め全五階。
 一階はフロント・サービスフロア。
 受付は勿論。 ここのフロアに食堂や土産屋、硬貨や紙幣を入れると目的の商品が出てくるという、店側の必要経費は電気代とメンテナンス代だけで労働費が掛からない楽器的な機械も存在する。
 どうやらこの機械は最近導入されたようでまだ未開発な部分も多いとか何とか。 その割にはこのフロアだけで無く、色んなフロアの色んな所に設置してあるイメージがある。 どこにでも置けるというのが利点の一つでもあるのだろう。
 また、この機械の亜種であろうものが食堂にも設置されており、この機械から出てくるのは目的のメニューの引換券。
 これを店員に渡し、料理を作ってもらうというシステムなのだが、これでは労働費が発生してしまうため、店側としては損をしているのでは無いのかと疑ってしまう。
 ただ単に注文の記載ミスを危惧しているなら、メニューに番号を振り、番号で受け答えすれば早い話である。
 とりあえず今は食堂に用事は無いので、また後で来よう。
 お次は二階と三階。
 この2フロアは客間となっており、廊下を挟み左右に10室づつある。
 更に奥には大広間があり、二階はスタッフルーム、三階は宴会会場として使われているようだ。
 ちなみにボクらの部屋は二階の最奥にある。
 また階段のすぐ横にも扉があり、出た先は非常用の鉄製の螺旋階段となっている。
 触ってみると解るのだが実際は新品に近く、作りも頑丈なようなのだが、色が赤錆を連想させる色で塗られており、色のムラなのか謎の赤黒い箇所が幾多か見受けられる。
 ここのスタッフにホラー好きでもいるのか?
 公私混合は良くないとよく聞くが、こういう風に趣味で作られると確かに良くないと頷ける。
 気を取り直して四階は温泉とトレーニングルームとなっている。
 温泉、トレーニングルーム共に使用可能時間が設けられており、下の階の者の眠りを妨げないように作られている。
 また、この部屋自体にも防音機能を設けられており、使用可能時間内なら音に気にせず施設を利用できる。
 あと、これはいたしかない事なのだろうが年齢制限もあり、温泉には規定年齢以下なら保護者同伴でなければ入浴できない。
 まぁ、危険なトレーニング器具や溺れたりして事故を起こし、大怪我や最悪の場合死んでしまうこともあるのだから仕方ないだろう。
 屋上も露天風呂となっているが使用申告が必要なようで入場できなかったのだが…。
「響、こんなところでなにしてるの?」
「はい?」
 意外なところで意外な奴と会うものだ。
 堅物としか思ってなかった奴はニコニコ笑顔で露天風呂の番兵をしていた。
 剣山のように尖った髪に、見るに痛々しい抉れた傷跡たち。 引き締まった胸も露見している。
 そんな用心棒の風格な奴が目の前で何食わぬ顔でニコニコ笑顔でいる。
 正直、気持ち悪い。
 ボクとコイツの仲の険悪さは端に置いたとしてもこれは無い。
 夜に太陽が出てるのに暗いぐらい無い。
「ボクのこと覚えてないの?」
「え? えっと本日お泊りになるお客様のレキ様ですよね?」
「いや、そうじゃなくて」
「申し訳ございませんがそれ以上のことはちょっと…」
 ダメだ。 やっぱり記憶が改ざんされている。
 ボクはため息をつき、彼に対しての禁句を言った。
「あぁ、どこかの無能用心棒がいないから烈火との一緒の旅は楽しいな〜」
 瞬間、彼の中で何かが弾けた。
「レキ・ルーン・エッジィィィィ!!!!!!
貴様あぁぁぁ!!!!!」
 案の序、記憶の改ざんは消えたがこの反応は想定外だった。
 恐らく防音機能を備え付けているこのフロアでもその声は全館に響き渡ったことだろう。
 平日で客数が少なくてよかった…のか?
 記憶を取り戻しや否かで響はボクの襟元を掴む。
「貴様っ、お嬢に何をした!!?」
 ようやく本調子に戻る。
「さぁ? 烈火の居場所はまだ特定できてないし」
「ホラを吹くな!」
 ボクの襟元を掴みながら激しく揺らすのはやめてほしい。
 気持ち悪くなってきた。
 そこに先程の声を聞き、スタッフが慌てて駆けつけた。 ナイスタイミング。
「お客様、どうかされましたか!?」
「そこの無粋な鬼にいきなり首元掴まれて困ってます」
「なにをぉぉ!!」
「こら!! お客様に何をしている!?」
 響はスタッフ六名がかりでスタッフルームに運ばれていった。
 いいザマである。
『…見つけた…私の…』
 ボクはふと後ろを振り向く。
 勿論、そこには何も無かった。 空耳だったのだろうか…?
 後にこの言葉に気付かった事に後悔するのだった。

2015/04/30(Thu)02:27:39 公開 / ベアトゼブル
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■作者からのメッセージ
初めまして、ベアトゼブルと申します。
今回はリハビリがてらに前回投稿した物のリメイク作となるのですが、なんせ5年前の作品ですので全く別物になったので改めて投稿させていただきました。
まだまだ改良の余地があるとは思うのですが暖かい眼で見守ってください!
アドバイスお待ちしています。

H27.04.29 プロローグからACT.1中篇まで投稿

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。