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『非科学の礎に』 ... ジャンル:ショート*2 SF
作者:雇われ世界観
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Y氏は、幸せの絶頂にいた。町に漂う煙草の灰は妖精の如く煌めき、電車の騒音が往年の名曲のように聞こえる世界にいた。それもそのはず。ついに彼は、世紀の発明を、念願の夢を、全人類の希望をその手に収めたのだから。
「ついに完成したよK君。これが、私の、文字通り、人生をかけた、発明品だ。」
その年月を噛みしめるようにそう言うとY氏は旧来の友人であるK氏の前で、つい昨日完成したばかりの発明品を披露した。
「遂に……か。これが君の人生を懸けた、死神可視装置。なんだね」
「あぁ。紆余曲折を経て、科学的に死神の存在を認知したのはいいが、それを可視化するまでに、私の人生が終わってしまう所だったよ。」
「まぁなんにせよ、間に合ったんだからいいじゃないか。ただ、僕は生憎だが、自分の死期には興味がないんだ。」
K氏はそう言うと肩を窄めて見せた。
「今日は、古くからの友人の君の願いが叶った、記念日ということで、駆けつけてみただけさ。君が僕を実験台に選んでくれたのはいいが、自分の死期は、神のみぞ知るって事にさせておくれよ。」
「なんだ、ばれていたか。」
「古くからの付き合いじゃないか。まぁ、なんだ、それはめでたい事としてさ。」
そういうとK氏は持っていた紙袋の中からワインを取り出し、いたずらに微笑んだ。
「いいじゃなかK。わざわざすまんな。」
その夜、二人は学生の頃に戻ったかのように、ワイングラスを片手に語り明かした。
「しかしよくやったな、Y。僕は君がここまでの発明をする男だとは思わなかったよ。」
「K。お前はいつもそうやって、非科学的に物事を決めつける……。」
「非科学にも夢は存在するものだよ。決して無益な妄想ではない。こんな話もある。どうも明後日、ここ東京を大地震が襲うというんだ。」
「ほう、その情報源はどこだね。」
「世界的に知名度のある予言者だ。かのW杯の結果、有名歌手の、死期まで……。」
「またそんなどうしようもない。」
そんな話をしながら彼らは朝まで飲み明かした。
翌日、装置を積み込んだ車で、Y氏は繁華街に向かった。
車に積んだ、装置のスイッチをオンにしPCでの微調節を終えたY氏は、まさに天にも昇る心持で遂に、死神可視装置を起動させた。
「まずい。」
その瞬間、繁華街の人口は倍になった。
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2014/11/30(Sun)15:21:44 公開 / 雇われ世界観
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