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『くるまくら〜座敷童と自分探し〜』 ... ジャンル:ファンタジー SF
作者:タキレン
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自動操縦すら搭載されて無い軽自動車。サビと汚れで薄汚い白となったボディ。
ライトなんか片方つかないくらいだ。
それでもこの車は走る。電気消費量は少し多いが走るのだ。
ハンドルの横にあるツマミを回せばラジオが流れる。基本使わないけどな
今時の物には珍しくCDを入れる場所がある。
記憶媒体がSDカードなどに完全移行する前に作られた物なのだ。それに旧型のSDカードなら読みとってくれる。
爺ちゃんから受け継がれたこの車。
爺ちゃんは「カナメ」と呼んでいた。
カナメのメーターが赤い光を点滅させた。そろそろ電気が切れてしまう。
周りを見渡しても建造物は無い。政府の野郎道路の整備の前に補給所を用意しとけってんだ。
今の時代コンクリートで固められて無い道路もあるのかわからないのだが
しばらく車を走らせると車が突然止まった。メーターを見るが電気はまだある……僅かだが。
窓がコンコンと叩かれた。開けてみると卵のような形をしたロボットがいた。
『只今の時間は整備時間となっております。 しばらくお待ちいただくか迂回ルートをお探しください』
「へいへい、りょーかい」
『ご協力ありがとうございます』
「……田舎だと昼からやんのな」
ロボットが約十分で終わらす道路整備、都会ではそれすらも夜中にやるのだ。都会はせわしない。
*
整備が終わった道路を走っているとサービスエリア的な物を見つけた。
中に入っても人はいない。
「……おお、よかった」
廃れたサービスエリアにも補給所は残っていた。小銭を数枚入れて車に電気を補給する。
「カイー、お腹すいた」
今まで静かだったチヨが声を上げる。ちなみにカイは俺の名前だ。
「じゃあ飯にするか」
「うん!」
笑顔で頷いたおかっぱ頭の少女彼女がチヨである。
・
夜だ。
「電気消すぞ」
「うん」
サービスエリアの駐車場で車のライトを消す。廃れたサービスエリアには光源など殆ど無く、車の中は真っ暗になる。
「……ふう」
溜息をついて車のシートに持たれる。この瞬間が一番落ち着くのだ。
どんな布団よりも、どんな枕よりも、車の方が落ち着く。
こうして車を枕代わりにしたことで、俺はチヨと出会ったのだ。
チヨ、名字無しで年齢不詳。彼女は人間では無い。
彼女は座敷童である。
俺が爺ちゃんから受け継いだ車を気に入って居座っており、俺が車を枕に……つまりは家代わりにした事で実体化した座敷童だ。
*
数ヶ月前に始めた自分探し。そのパートナーとしてチヨと共に沢山の街を走ってきたが何も掴めてはいない。寧ろ居心地の悪さが増えていくくらいだ。
一週間程前、俺は田舎に向かう事を決心した。
便利な機械に囲まれていた都会育ちの俺が田舎に行くというのは中々の決心だった。しかし都会に居心地のいい場所が無いのだ。
都会では自分を見失うばかりだ
田舎には、居心地のいい場所があるのだろうか。
何か掴めるだろうか。
「……まあ、考えても仕方ないか」
数ヶ月の間ずっと自問自答してきたが答えは出ていないのだ。
いつか見つかるだろう。
俺はそう呟いてゆっくりと目を閉じた。
・
[犯罪の無い町へ、潜在意識センサーテスト実施中]
町の入り口にそう書かれた看板が掲げられていた。
「潜在意識センサーテストってなにー?」
チヨが看板を見て言った。
「さあ、なんだろうな」
テストというからには試験的な何かなのだろう。大方都会に導入する予定の何かなのだろう。
車についている時計を見る。午後の一時だ。
「ここで飯にするか」
「うん!」
町の入り口にあった駐車場に車を止め、俺とチヨは町の中に入っていった。
*
「満足満足……ゲプ」
「お前はおっさんかよ」
チヨが膨れた腹をポンと叩いたその時、機械音声が聞こえた。
『潜在意識センサー反応』
『潜在意識感情・怒り』
『暴行の恐れあり』
『対象の連行及び被害者の保護を開始いたします』
人型ロボット数台が何処からか現れ、一人の女性を取り囲む。
周りにいた何人かがロボットに注目した。
「な、何よ!」
叫んだ女性の下にあるベビーカーで赤ちゃんが泣いている。
数台のロボットは少しづつ距離を詰めて行く。
『潜在意識センサーが反応致しました』
『手を上げて、おとなしく』
『抵抗をしないように』
それを見た女性は両手を上げる。目の焦点が少しあっていないように見える。
『そのまま、連行いたします』
ロボットが再度近づき始めた、その時だった。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
女性はパニックに落ちいったのかベビーカーをも無視して走りだした。
速度を落とす事なく一台のロボットを倒して逃げようとする。
『抵抗を確認』
『取り押さえます』
一台を除く全てのロボットの足からタイヤが出て凄い速さで女性を追いかける。
残りの一台はベビーカーの保護に向かったようだ。
ロボットの速さに勝てるわけも無く、女性は簡単に捕まった。
「カイ……あれ何」
チヨが小さく呟いた。
「わからん」
もし事件ならば近くに警官がおり、最後の連行は警官が行う筈だ。緊急時にはロボット個々で動く事もあるが……緊急時には見えなかった。
周りを見るがもうロボットに注目は集まっていなかった。
俺は近くにいた女性を捕まえて聞いた
「すいません、今のは……」
「ん? 潜在意識センサーよ」
「えっと……」
「私が詳しく説明しましょう」
声がした後ろを向くと温厚そうな中年男性がいた。
女性は男性を見て
「町長ですか、じゃあお願いします」と頭を下げて去っていった。
町長と呼ばれた男性はにっこりと笑って
「潜在意識センサーについて、興味があるのですかな?」
まあ、興味が無いと言えば嘘になるか
「はい」
「ならばお話致しましょうか。お茶でも飲みながら、ね」
・
俺とチヨは市役所の一室にいた。
「お茶まで……すいません」
「いえいえ、潜在意識センサーについての説明も業務の一つですから」
説明が業務の一つとは
「大変じゃ無いですか?」
「いえいえ、こんな田舎町に来る人なんてそういませんから」
まあ、そうか
「では、説明致しましょうか」
町長の説明が始まると同時に、チヨはケーキにかぶりついた。
「潜在意識センサーは犯罪を未然に止めるシステムです」
「犯罪を止める?」
「はい、過去のデータの表情や声などを参考に犯罪を犯す可能性がある人を取り締まるのです」
田舎でもここまで機械化しているのか……国からの試験費用の為だと思うが
そんな事を考えていると町長は机から大量の資料を取り出してきた
「他にも人の異常に強い感情をさっちしてメンタルケアを……もしよければそちらも詳しく……」
町長がいい終わる前に立ち上がった。
「いえ! 遠慮します!」
*
「眠いー」
「じゃあもう寝るか」
夜、車のトランクから毛布を取り出した。町についても俺は車で寝ている。
元々車に居座っていたチヨも居心地はいいらしく、宿代も浮いて一石二鳥である。
「ほれ、パス」
投げた毛布をチヨが受け止める。
「ナイスキャッチー!」
車に乗り込んで毛布を被る。
「じゃ、消すぞ」
「おやすみー」
電気を消して、俺は目を閉じた。
・
ぎゃー、ぎゃー。
そんな鳴き声のような音に俺は目を覚ました。目に入ってきた時計を見ると夜中の三時だ。
なんだか喉が乾いた、水でも飲もうと俺は起き上が……
「……あれ?」
そのままの体制で少しいるとチヨが目を覚ました。
「あれ……カイ起きてたの」
「……まあな」
目をこすりながら欠伸をするチヨに俺は頼んだ、口は何とか動く。
「チヨ、水を飲ませてくれないか?」
「何それ気持ち悪い」
チヨのジト目が本気だ。しかし誤解しないで欲しい
「いや、ちょっと」
「何よ」
俺は口の周りと目以外を一切動かさずに言った。
「金縛りにあったようだ」
*
「っだぁ! 動けた!」
俺の金縛りが解けたのは朝の五時頃の事だった。
体が石のように硬い。車から出て軽く運動。そして溜息を一つ
「着替えるか……」
服があり得ない程濡れている。
昨日ペットボトル半分程の水しか飲んでいないのにペットボトルがカラになったと言えば伝わるだろうか。
濡れた服を車の上に干していると何台ものベビーカーをもったロボットが歩いていた。
その中には昨日保護された赤ちゃんもいるようだ。
「……なんつーか」
「ここも機械ばっかりだなぁ」
いつの間にか起きていたチヨが俺の言葉を続けた。勝手に言うんじゃねぇ
「ねぇ、今日はどうする? もう次に行く?」
「どーすっかなぁ」
ここは居心地が言い訳でも無いし何か自分を、自分が本当にしたい事が見つかる気配も無い。
かと言って次の場所に急ぐ必要も無い。
どうするか考えているとチヨが遠慮がちに俺を見上げてきた
「何も決まって無いなら……お風呂入りたいな」
「風呂? 朝からか?」
チヨは頷く
「昨日銭湯見つけたの」
「銭湯? いいけど携帯風呂ならあるぞ」
「そうじゃなくて」とチヨは頬を膨らませた
「チラッとみたら本当の露天風呂だったの!」
「おお、自然のか」
今の露天風呂と言えば人工自然かホログラムで作られた擬似露天風呂だ。
本当の露天風呂に入りたければ名所に行かなければならない。そんな露天風呂がここで味わえるというのだ。
そういう事なら今日の予定は決まりだ。
「じゃあ行こうか、風呂」
「うん!」
・
「昨日また出たそうだね」
「潜在意識センサーの事かい?」
そんな雑談が聞こえる。やはりここでは潜在意識センサーは常識の物のようだ。
身体を洗って湯につかる。
チヨは勿論女湯だ。因みにチヨの外見年齢は大体十一歳くらいである。
「ふー」
目の前には少し大きな山が見える。
自然らしい自然をみたのは久しぶりかもしれない。
土砂崩れを防ぐ為につけられた補強装置が見えるのが少し残念だが……
山をみながら湯を堪能していると一つの雑談が耳に入ってきた。
「そういや俺金縛りにあってよぉ」
「お前もかよ、俺もだ」
……金縛り?
俺も金縛りにあっている。耳に神経を集中させてみると他にも何人か金縛りにあったという話をしている。
「複数の金縛りか……」
少し考えて頭を振る。いかん、チヨとあったせいでいらない知恵がついているようだ。
「気にしない気にしない」
自分にそう言い聞かせて、俺は湯から出た。
「何飲んでんだよ」
「牛乳、瓶のやつ」
チヨの手には懐かしい瓶の牛乳、確かに風呂上がりには牛乳とか言われてたよな、うん
「……金はどうした」
俺の問いかけにチヨは手を出す
「ちょーだい!」
「……はぁ」
まあいいか、あるのならば飲みたいとは思っていたし
「牛乳二つ」
「はいよ」
従業員に金を渡している時に何気無く聞いてしまった。
「その、昨日金縛りにあったとか色んな人が言ってたんですが」
従業員のおっちゃんは誰かに言いたかったとばかりに顔を輝かせる
「そうなんだよ、俺も昨日あってな」
「ここではよくあったり」
「いーや、こんなの始めてだ」
「やっぱりそうですか」
「奇妙キテレツってやつだな」そう言っておっちゃんはまた笑った。
*
「金縛り?」
「……はあ」
やっぱり食いついてきたか、チヨの前で話したのは失敗だったな
「カイー」
「言うから、言うからとりあえず飯にしよう」
俺とチヨはファーストフード店に入った。
「で、金縛りって」
「口の物を無くしてからにしろ」
チヨは頬張っていたハンバーガーをコーラで流した。
「食べた!」
「じゃあ簡単に、俺もよくわからないんだ」
俺は風呂で聞いた事をチヨに話した。
「複数の、大幅な金縛り……」
話しを聞いたチヨは考えこむ、考えるのはいいがストロー噛むのはどうかと思うぞ
「……どうだ?」
「わからない、金縛りをするの何て沢山いるから」
「そっか」
俺達が話しているのは金縛り現象の犯人、大元の事だ。
チヨもわかっている事だが、俺は一応確認する。
「それでも、アレだよな」
「うん、そう思う」
チヨと出会い、何度かの事件を体験した俺だからその可能性を出せて、その存在を信じれる。
人の心や感情を請け負い、それを体現する者。
昔から語り継がれ、見たこと無くとも知っている、科学では解明できない者達。
「やはり……妖怪の仕業だよな」
・
夜、車の中でうとうとしていた俺をチヨが覗き込む
「どうする?」
「そうだなぁ」
妖怪の仕業だと言うのはほぼ確定だろう。それを知っているのは俺とチヨ、いるとすれば妖怪に関わっている者だけだろう。
俺ならこの状況を打破出来るかもしれない。しかし……
「あまり関わりたくない?」
そう、チヨの言う通りだ。
妖怪は心を体現した者。その妖怪に対応した強い想いを持っている人がいれば、その人と妖怪が出会えば、妖怪はこの世界に実現出来る。
条件を満たせば実態が持てるというわけだ。
例えば鬼のように強い怒りを内に秘めている人が鬼と出会えば鬼はその人に取り憑き実態化する。
人の怒りを体現した鬼はその怒りを発散する為に暴れる。結果取り憑かれた人の怒りも自然と収まる。
そんな感じだ。
人の心を表す妖怪、それに関わるという事は人の内なる感情に触れるという事だ。
正直に言うと、あまり……関わりたくない。
もしかしたら金縛り現象はあの一回
で終わったのかもしれない。
それでも気になるのは、金縛りを受けた人に何かしらの後遺症が無いかという事だ。
妖怪に関して知識が無い俺にはわからない。それが金縛りだけの現象なのか、金縛りは単なる予兆に過ぎないのか。
「……とりあえず寝るか、考えてもしょうがない」
俺は呟くように言って目を閉じた。
*
夜中、約三時。
ぎゃー、ぎゃー、という鳴き声のような音で俺はまた目が覚めた。
案の定体は動かない。金縛りである。
「……はあ」
喉が乾いたがチヨを起こすのも何だか気が引ける。
「……金縛り、ね」
俺は小さく呟いて目を閉じた。
*
朝、五時。
「…………」
「おはよー……何その顔」
チヨが聞いてきたのだから中々の顔なのだろう。
「いや、昨日も金縛りにあってな」
目を閉じたはいいが動けないという違和感から眠れなかった。
「で、今日はどうする?」
「今日も移動は無理だ、こんな体調で運転したら事故を起こすこと間違い無しだ」
昨日も今日もろくに寝ていない。
これではここから出られないじゃ無いか。いや、無理に出たとしても金縛りはついてくるかもしれない。
ならば、気は進まないが……
「チヨ」
「なーにー?」
「金縛りの妖怪問題を解決しようと思う」
・
昼、二時。
寝ていた俺は一時くらいにチヨに起こされた。腹が減ったと俺の腹にダイブしてきやがったのだ。
てなわけで昼食である。
「金縛りか……」
「ふぁふぃかほかひぃほほろは?」
チヨがパスタを頬張りながら口を開いた。
「飲み込め」
「ん……何かおかしい所は?」
チヨに言われて軽く体を動かす。
「いや、特に後遺症は無いな」
「金縛りの時に何か見えなかった?」
「いや、特別何かは無かった」
実体化するといっても姿を見せる妖怪ばかりでは無い。
チヨのように常に実体化する者もいれば実体化条件に加えて特定条件下のみ実体化する者もいる。
チヨは更に質問を重ねる。
「じゃあ金縛りの時には本当に金縛りだけだった? 何か合図とか」
金縛りにあった時、他にあったもの。それでいて過去二回に共通するもの……
「そういえば鳴き声のような音が聞こえていたな」
「鳴き声……」
チヨは少し考えて
「いくつか心当たりはあるけど、どれも断定出来ないかなー」
「そうか」
チヨも全ての妖怪を知っているわけでは無い。人間が全ての哺乳類を詳しく知っているわけでは無いように妖怪も全ての妖怪は知らない。
俺より少し知識があるくらいだろう。
「俺が知ってるような妖怪だったらいいんだけどな」
特定の地域のみで伝わる妖怪ならば、少し探りを入れなければならない。
もし機械化していくに連れて妖怪の事が伝わっていなかったら……お手上げだ。
*
食事を終えて少し休憩、三時。
特にする事も無いし散策でもしようと歩いていると昨日もいたベビーカーをもった数台のロボットが散歩をしていた。
やはり育て親が潜在意識センサーに感知された為に一人となった子どもを育てるロボットなのだろう。
「子育てまでも機械か……」
都会では当たり前の事、もしかしたらもう日本中こうなのかもしれないな。
そんな事を考えていると小さくガタンという音が鳴った。
どうやらベビーカーの一つが段差を乗り上げてしまったらしい。
乗り上げた振動を感じてその赤ちゃんが目に涙を溜める。
「あーあ、泣いちゃうね」
チヨが言った瞬間、案の定赤ちゃんは泣きだした。中々の大声だ。
チヨが俺の方を見て言う
「あれだけ泣けるって事は元気なんだね」
「ああ……そうだな」
「よかった、ロボットが散歩してるから大丈夫かなぁって思ってたんだ」
赤ちゃんの泣き声はまだ響いている。
全く動かない俺を見てチヨが怪訝な顔をする
「カイ? 何してるの?」
「いや……」
俺は目だけを動かして周りを見る。人はいないがベビーカーを持っているロボットは全て動きを止めている。ロボットから微かに聞こえる擦れる音、モーターなどに異常は無さそうだ。
壊れていないのに動かない。そして、俺の体も動かない。
泣き声はまだ響いている。
やはり……
「チヨ……」
「なーに?」
「あれが、金縛りの大元だ」
「あれ? ……赤ちゃん?」
「ああ、そうだ」
今だ泣く赤ちゃん、それにつられてか隣の、そして更に隣の赤ちゃんも連鎖的に泣き始める。
「…………」
金縛りが強くなり口も目も動かない。
「……あれ? あれれ? カイー、動かないー」
どうやらチヨも軽い金縛りにあっているようだ。
連鎖する事で金縛りが強くなる、それは泣いている赤ちゃん全員が似たような感情を内に秘めているという事だ。
赤ちゃんはそれぞれ泣き止まない。
寧ろどんどんと泣き声が大きくなり、それに連鎖して身体も動かなくなる。
金縛りってレベルじゃない。まるで身体が石になったようだ。
「…………」
まてよ、石?
何かが引っかかる……なんだ……
俺の思考を幾つもの警報音が途切れさせる。
『潜在意識センサー反応』
あのロボット達がベビーカーの方向に向かってくる。しかし泣き声によって止められる。
動けないままロボットは音声を続ける
『潜在意識感情・悲しみ、怒り……』
並べられていく様々な感情、そういえば町長は言っていた
人の異常に強い感情をさっちしてメンタルケアをする機能もあると。
ならばあのロボットが言っているのは赤ちゃんの感情。妖怪が反応する程の強い内なる感情がその中にある筈だ。
俺はロボットの音声に耳を傾ける
『驚き、恐怖、緊張……』
違う、ピンと来るものが無い。
幾つも並べられる感情、途中で一つ、耳に大きく聞こえた気がした。
『……孤独』
「……!!」
「孤独……」
チヨが呟く、俺も動けていたなら呟いていただろう。
金縛り、泣く、孤独……全ては一つの妖怪に繋がった。
泣く事で石のようになる。中々に有名な妖怪。
その名は……子泣き爺だ。
・
「そうですか……見直す必要がありそうですね、もう一つについてはすぐに対処いたしましょう」
町長は落ち込んだような顔で言った。
「では、俺はこれで」
俺は町長の家を出た。
車に乗り込むとチヨが饅頭を食べていた。
「どうだった?」
「ちゃんと伝わった、いい町長だったよ」
「よかった」
チヨは無邪気な笑顔で言った。
連鎖する金縛りから解放された俺はすぐに町長の元に向かった。
そして潜在意識センサーの廃止と特別理由が無い限り親と子の再開を訴えたのだ。
今回の事件の経緯を書くとこうなる。
潜在意識センサーにより育て親と離れる事となった赤ちゃん達。
ロボットに育てられる事で健康には問題無かった赤ちゃん達、しかし精神的には問題があった。
親と会えない悲しみ、自分が一人になったような孤独感。そんな強い思いを子泣き爺は感じ取ったのだ。
「子泣き爺は言葉を使えない人に取り憑く事が多いらしいよ」
「泣いて伝える赤子のように、か」
「そんな感じ」
でもさ、とチヨは続ける
「何で夜の方は二日とも同じ時間だったのかな?」
「ああ、それか」
なんてことはない、子泣き爺が夜泣きに反応してしまっただけの事だ。
あまりにもあっさりとした解決、しかし実際の事件なんてそんなものなのだ。
車をしばらく走らせる。チヨから貰った饅頭を飲み込んで俺は切り出す
「チヨ、お前はどういう妖怪なんだ?」
「座敷童だよ」
それは知っている。
「そうじゃなくてさ、子泣き爺は言葉で伝えられない事のサポートだっただろ」
「じゃあ座敷童は何だと思う?」
座敷童といえば家に幸福をもたらす妖怪だった筈だ
「俺に幸福でもくれるのか?」
「うーん、間違いでは無いかなー」
「じゃあなんだよ」
「おしえなーい」
チヨは舌を出してあっかんべーをする。
「なんなんだか……」
チヨは自分の事を中々話さない。いつもはぐらかすのだ。
少しの沈黙の後、どら焼きを取り出しながらチヨは口を開いた。
「しばらくは一緒にいるよ……あっ、あれ町じゃない?」
目の前には幾つかの光、恐らく家のものだろう。
次の町では……自分が、自分のしたい事が見つかるのだろうか
そんな考えを知ってかチヨがぽつりと言った。
「カイ……何事もゆっくりでいいと思うよ」
名字無しで年齢不詳の座敷童。おかっぱ頭のこの少女としばらくは共に歩む事になるだろう。
[願わくば、彼女と共に自分の道を見つけられんことを]
何かにそれを祈って、俺は車のスピードを上げた。
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2014/11/07(Fri)23:28:41 公開 / タキレン
■この作品の著作権はタキレンさんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
いつもの妖怪物ですが今回は少し雰囲気を変えてみました。どうでしょうか?
アドバイスや感想あると嬉しいです
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。