『オレとアネキのボーダーライン』 ... ジャンル:リアル・現代 未分類
作者:ayahi                

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 オレ、長吉和(ながよしのどか)が十歳のときに驚愕の事実を姉の瑞乃(みずの)から叩きつけられた。なんでこのタイミングで叩きつけられたのかは今になってもまだわかっていないしわかろうともしていない。オレがテレビゲームに夢中になっていたときの事だ。
「……くそっ、またここでやられた」
 そこまで大きくないテレビの前にどっしりと構えて当時流行っていた2Dスクロールアクションゲームに悪戦苦闘していたオレがいた。
「ちょっと、うるさいわよ」
 後ろのベッドで横になりながらファッション雑誌を読んでいる瑞乃の文句が聞こえてくる。この時の瑞乃は一三歳、今にしてみればこの頃から相当ウザかったな。
「なんでお前がこの部屋で遊んでるんだよ」
 オレは喧嘩腰で会話する。その頃はいつもこんな感じで会話していた。理由は単純、こいつがウザかったからだ。
「遊んでるわけじゃないの、雑誌でお勉強してるの」
「どっちみちこの部屋から出てけ」
「まぁ落ち着きなさいな」
 オレはこれ以上こいつと話していても意味がないと思って再び意識の全てをゲームへと戻した。しかしクリアには至らない。オレは瑞乃が近くにいるからクリア出来ないんだ、という何とも理屈が通らない結論に達していたのでいち早く瑞乃を追い出したかった。
「そろそろ出てけよ」
「うーん、あともうちょっと」
 ……。
 沈黙がしばらく続いた。瑞乃がちらっとオレの様子を見始めた。たぶん雑誌は既に読み終わっていて退屈していたのだろう。なぜ自分の部屋に戻らないのかはやはりわからなかった。
「和、一つおもしろい事教えてあげようか」
「……」
 オレは返事しなかった。こんなやつに付き合ってる暇はその時にはなかったからな。でも瑞乃は返答を聞くことなく話を勝手に続けた。
「私たち、実は姉弟じゃないんだ。血がつながってないの」
「……あっ、そう」
 またタチの悪い冗談を言いやがって、とオレは心の中で怒っていた。逆に信じる方がおかしいと今でも思っている。瑞乃は勝手に口を開き続ける。
「私はね、今のお父さんとお父さんの前の奥さんの間に生まれた子供なの。つまり離婚してお父さんについてきて、再婚したってこと。ちょっと和には難しかったかな」
「おう、そうだな」
 難しいも何も、こいつの話していたことは八割方内容を耳に入れなかったので理解できるはずもないし、したいとも思っていなかった。
 もちろん、この当時のオレがこんな事を真に受けて信じるなんてことはしなかった。
 しかし。

 ぴぴぴぴぴぴぴ。
 目覚ましの音が部屋の中を駆け巡る。オレは寝ボケ眼で目覚ましの位置を探って音を止めた。そしてオレの横で寝転がってる物体を確認する。
 その物体を見てオレはしばし黙り込む。しかしそんな沈黙も長くは続かない。
「おい、起きろこのやろう」
「んー? なーにー? もう食べられないよー」
 物体はよくわからない寝言を言っていた。どうせ甘いもの好きだからケーキ食べ放題の夢でも見てるんだろうな。
「のんくん食べ放題、えへへ」
 まったくもって意味がわからない。ちなみに「のんくん」とはこいつがオレにつけた気持ち悪い呼び名の事だ。ぜひこの呼び名は浸透しないでもらいたい。寒気がするのでこの呼び方は今すぐにでもやめてほしい存分だ。
「瑞乃、いい加減起きろ!」
 オレは起きそうにない瑞乃の頭を軽く叩いた。出来れば怒りに身を任せて蹴りを入れたかったがなんとか理性を保つことは出来ていた。まぁ、とにかくこれで起きてくれるだろう。
「……ん?」
 推測どおり、瑞乃は目をこすりながら身体をゆっくりと起こしていく。
「ここはオレの部屋だ、さっさと起きて出ていけ」
「……おやすみぃ」
 瑞乃は布団を頭から被ってもう一度寝ようとしたので、すかさず布団を奪った。もう季節は秋に入りかかっていて肌寒い日が続いている朝に布団を奪われたら厳しいだろう。
「ちょっとー寒いよー。何すんのー?」
「いいから出て行けよ。ていうかなんでオレの隣で寝てんの?」
「姉弟なんだから別にいいでしょー。しかも義理の」
「それは関係ないだろうが」
 朝からこんなにイライラしたくはなかった。でも朝はいつもこんな感じで怒り続けてる事が多い。ストレスで若年性うつ病になりそうだ。
「そんなにカリカリしてないで、お姉ちゃんと一緒に二度寝しよ♪」
「二度寝もしないしお前とも寝ない。今日は休日じゃないんだぞ」
 今日は立派な平日である。オレもこいつも学校があるんだ。それだけでもダルいのにこいつの対応をしていたらさらにダルさが増す。
「えー」
 ガチャ。
 オレの頭の血管が切れそうになっていたその時、部屋のドアが開いた。そしてそこにはオレ並みではないが少し不機嫌な顔をしている少女の姿が。
「のどかお兄ちゃん、みずのお姉ちゃん。お母さんがイチャイチャしてないで早く朝ごはん食べちゃいなさいって怒ってるよ」
 こちらはどこかの誰かさんとは違ってしっかり者な妹の薫である。先ほど言ったとおり、瑞乃とは血が繋がってないけど、薫とは血が繋がっている。
 今更ながら家族構成を説明するぞ。今現在はオレ、瑞乃、薫、そしてオレと薫の母の4人暮らしをしている。親父は遠いところに単身赴任していてあまり帰ってきていない。だから親父の顔ははっきりと覚えている自信はない。この件については女遊びに明け暮れてあまり帰ってこようとしないあちらに問題があると思う。だから前の母さんに逃げられるんだろうが。というかよく今の母さんに逃げられないな。
「もう少しイチャイチャしてから行くから下で待っててー」
「少しもするもんかこのボケ!」
 オレは瑞乃の魔の手から逃れて部屋を後にする。
 朝はいつもこんな感じでにぎやかでイライラしながら中学校へと向かうのが日常茶飯事になっていた。

「ふぁぁぁ」
 大きいアクビを一つかましながら通学路をノロノロと歩く。いつもなら歩いて十分で着くのに、今日はそれ以上の時間がかかってる。
学校にいる間は楽だ。だってアイツの顔を見る必要がないから。もし道端で偶然会ったら全力で他人のフリをすると思う。
「長吉!」
「おぉ、樋野じゃねぇか」
 オレとは対照的に朝から元気なこいつは樋野と言う。クラスは違うが同じサッカー部に所属していたりもするから仲良しだ。
「おい、例の件はちゃんとやってるんだろうな?」
「例の件?」
 朝だからなのか、頭が回らない。だから例の件って言われても思い出せない。面倒だから思い出そうともしない。
「忘れてんじゃねぇよ! 瑞乃さんの件だよ!」
「ん……あぁあいつの事か」
 未だに理由がわからないんだが、瑞乃は男子共には人気らしい。ここら辺では美人な女子高校生として名がそこそこ通っているとか。全くその理念が理解できていないでいる。
樋野もその一人で、瑞乃の弟がオレだと知ると目の色を変えて飛びついてきた。
「いやぁ、あのおっぱいたまんねぇよなぁ。質量感があるっつうか?」
 一つ補足し忘れていたがこいつは変態である。呼吸する暇があれば下ネタを言っているような野郎、だから女子からは好かれていないだろう(個人の憶測)。
「お前はいいよなぁ、あんなお姉さんがいるなんて」
「五千円やるから引き取ってくれよ……」
 二万円くらいまではこの交渉に使えるくらい引き取って欲しかった。そうすればオレも幸せだし他の男子も幸せだろう。めでたしめでたし。
「なんだそれ、皮肉かこのやろう!」
けっこうマジで言ってるんだけどな……。
「とにかく、ちゃんと約束は守ってくれよ。期待してるからな」
「へいへい」
 たぶん昼辺りには忘れてると思う。
「約束の物くれたら、オレの妹と仲良くさせてやるからよっ!」
「妹?」
 まず樋野に妹がいる事が初耳だ。なぜ急に交渉材料に持ってきたんだ?
「オレたちより一つ下で生意気なやつだ。本当に生意気なやつでウザイ。でも割と可愛い顔してるんだぜ!」
「あっそう……」
「反応薄いなぁ」
「朝だからテンション低いんだよ」
「そうかー」
 そんなくだらない話をしているうちに無意識に校門をくぐっていた。今日もノロノロと学校生活が始まる。

 居眠りしてる間に午前中の授業は終わっていた。先生は見捨てたのかわからないが起こしてくれないようだ。まぁその方がオレとしてはスヤスヤ眠れてありがたい。
「ナイスシュート!」
 そして何も学ぶことなく昼休みになったので、オレは体育館で友達数人とバスケしている。大体昼休みになると給食を一瞬で平らげて早いもの勝ちである体育館へとダッシュするのが日課となっている。
「長吉!」
「あっ」
 そんな回想をしていたら、つい友達からのパスを逃してしまった。やっちまったぜ。
 ドスッ!
「あっ!」
 オレが受け止められなかったボールが不幸にもたまたま近くを歩いていた後輩女子の頭にあたってしまった。まぁまぁスピードのあるボールだったから、相当痛いと思う。
「大丈夫か!?」
 オレはすぐさま女の子の傍に駆け寄る。彼女は頭を抑えてその場にうずくまっていた。見たところ血は出てないからちょっと安心した。
「長吉、とりあえず保健室行った方がいいんじゃねぇ?」
「そうだな。おい、立てるか?」
 オレがそう言うと女の子は小さくうなずいて静かに立ち上がった。そして周囲の視線を盛大に浴びながら共に体育館を出て行った。
 あぁ、面倒な事になっちまったなぁ。

「少し赤くなってるけどアザにならなそうだし大丈夫よ。バスケットボールなんて青春してるわねぇ」
 保健室のおばさん先生がヘラヘラ笑いながら女の子の手当をしている。これくらいのおばさんって常にヘラヘラ笑ってるよなぁ。おまけに聞きたくもない世間話をやたらしてくる。もしや暇なのか、淋しいのか。
「身体動かすのはいいけれど、二人共怪我しないように気をつけなさいねっ!」
「あ、ありがとうございました」
「これを機に恋が芽生えるなんてことはないのかしらねぇ……」
「……」
 明らかにオレたちに聞こえる音量でそんな独り言を言わないでくれ、先生。ほら、女の子もちょっと顔を赤らめてるじゃないか。
 仕方なく逃げるようにオレ達は保健室から出て行った。
 女の子も、見たところ大丈夫そうだから安心した。これで顔に目立つ傷なんてつけてたらどんな顔して廊下歩けばいいかわかんねぇからな。
「あの、わざわざついてきてもらってありがとうございます」
「いや、オレのせいで怪我したんだから当然だって……」
 まさかこんなお礼を言われるとは思っていなかった。いや罵倒されるとはさすがに思ってなかったからね。
「お、長吉じゃん」
「あ、樋野」
 保健室前で今朝一緒に登校してきた樋野と会った。こいつの泥だらけの制服のズボンを見ると外でサッカーしてきたんだな。そのまま教室行ったら迷惑がられるんじゃねぇかな。
「あれ、美莉亜」
「……」
「お、知り合いか?」
 下ネタ王子の樋野にこんな可愛い女の子の知り合いがいるとはたまげたなぁ。
「い、妹だよ」
「え、マジか」
 すぐさま二人の顔を交互にじっくりと観察。
「似てねぇ」
「よく言われる。だが残念ながらこいつは正真正銘俺の妹だ」
「な、何が残念ながらよ! 私だってこんな変態兄貴お断りよ!」
「あぁ? 兄貴に向かって変態とは何だ!」
「変態に変態って言って何が悪いのよ!」
 このままケンカしてる間にどっか行ってしまおうか。
 まぁどっかに行かないけどさ。
「それでなんでお前と長吉が保健室から出てきたわけ? さ、さてはお前ら……!?」
「違うぞ」
「違うから、変態」
 オレと樋野妹の二人からの否定が入った。だからこの議案は否決だ。
「まぁそうだよな……はは」
「実は体育館でバスケしてたらこの子に当てちゃってさ。それでついてきたわけ」
「なるほど、怪我はなさそうだな。もっと思いっきりぶつけて根性叩き直してもらったら良かったのにな」
 お、またケンカの始まりか?
「う、うるさい! と、とにかく私は行くから!」
 プンスカ怒りながら樋野妹はどこかへ行ってしまった。まぁ、あれだけ元気なら心配ないな。
「悪いな、あんなガキの相手してもらって」
「いや、大丈夫だよ。オレのせいでボールぶつかったんだし」
 それにお前の方がガキだろう。おそらく。いや、絶対。
「でも顔はなかなかだろ〜」
「い、いいから教室戻れよ。授業に遅れんぞ!」
 話を濁して樋野とお別れした。
 実際、付き添ったあたりから樋野妹を見ていて可愛いとは思った。さっきあいつが美莉亜って呼んでたな……。可愛い名前じゃねぇか。
 ショートカットの髪からは天真爛漫なものも感じれば、クリッとした目からは小動物のような可愛らしさが感じられる。
 改めて考察してみると可愛い。少なくともオレの姉よりは。
 これは朝に樋野が言っていた約束をこなしてしまいたくなるくらいだ。よし、美莉亜ちゃんのためにも樋野からのミッションを今夜実行しようじゃないか。えいえいおー。

2014/02/26(Wed)00:42:05 公開 / ayahi
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執筆意欲が中途半端なayahiです。作者自身は姉萌え大好きです。

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