『東京ラストヘブン 光陰如箭―編《承》 更新』 ... ジャンル:アクション リアル・現代
作者:鋏屋                

     あらすじ・作品紹介
突如首都東京を襲った大災害。そして出現した混沌の街。存在しないものも、存在してはいけないものも、この世界のどこにも行き場の無い存在が最後に流れ着く場所。全てを受け入れる代わりに、この街を笑って出て行く者はいない。なぜならここが終わりの場所だから…… だからこそ、人々はその街を畏怖と皮肉を込めて『東京ラストヘブン』【最後の天国】と呼ぶ。

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 二一世紀初頭、突如東京を襲った大災害……
 それが本当に天災だったのか、それとも人災だったのかは今でもわからない。
 そもそもそれがどんな現象だったのか、何が原因で起こったのかさえ、明確な回答を用意出来る者は一人も居ない。その質問に七十年たった今でも世界中の天文学者、物理学者全員が首をひねり、目を逸らす。
 ある物理学者は『三次元における次元特異点の出現で引き起こされた物質飽和現象によるものではないか』という仮説を打ち出したが、現在の科学ではそれを観測する事が不可能な故、その仮説を証明することは出来ない。 
 ともあれ、『局地的特殊変異災害』という、それまで聞いたことのない名称の未曾有災害に見舞われ、日本の政治経済の中心地であった首都『東京』は一夜にして事実上日本の地図から消え去った。

 災害直後、首都環状道路である環状七号線沿いに、突如未知の粒子が地上から噴出、その後放射状に障壁が形成され、環七の内側への物理的干渉が一切不可能になった。なにしろこの粒子は触れた物を有機物、無機物問わず原子レベルまで分解する性質を持っており、さらにあらゆる電波を遮断する性質を持っていた為、何者もその障壁に干渉することが出来ず、障壁の向こう側の様子を伺い知ることは出来なかったのである。
 その後、世界中のあらゆる機関がこの障壁の分析に当たったが、その正体を特定することができずに今に至っている。
 調査の結果、その未知の粒子は地上九千メートルの高さにドーム状に形成されており、地下に至っては観測できる深さ以上に障壁が形成されていることがわかった。
 謎の粒子が形成する障壁は触れた物を無差別に分解するので、臨時政府は急遽この障壁に沿って高さ三十メートルの鉄筋コンクリート製の巨大な壁を建設し、隔離を計った。六年ほどの歳月をかけて、環状七号線沿いに、総延長五十二キロに及ぶ巨大な壁が完成した。
 首都東京は、約一千三百万人の人々を飲み込んだまま、丸ごと外界から完全隔離された。
 その後、粒子障壁に比較的障壁形成が不安定な箇所が発見され、観測、研究を重ね、ついにその箇所にトンネルを作ることに成功したのは、災害発生から二十年が経過した頃であった。
 災害発生から二十年、外部からの干渉が一切出来なかった環七の内側に、初めて足を踏み入れた第1次観測団の団長、戦術自衛隊、追傘昌明【オイカサ マサアキ】一等陸士の最初の一言は、そのときの状況を克明に表していると言える。

『我々は、生きながら本物の地獄に来た……』

 退役した後に書かれた彼の著書には、まずはじめにその言葉が書かれている。
 災害発生直後から二十年間、完全隔離状態だった旧東京は、その姿を大きく変容させていた。
 災害発生当初、外部との連絡手段が遮断され、通常の都市機能の九割が麻痺した状態の中で、あらゆる犯罪、非人道的行為が発生していたことは想像出来る。しかし、そんな中でも内部に居た人々はその環境に適応して生活していた。
 だがそれよりも人々が驚いたのは、障壁内では、実に様々な超常的現象が起こっていたことだった。
 動植物の変異、未知の物体、生物。通常の物理現象ではあり得ない現象……
 政府はこの障壁内の旧東京の特異な環境と、独特な生活形態を考え、従来の日本の法律や政治経済圏とは切り離した地区として『特定隔離地区』に指定し、その後に見つかった三カ所の粒子不形成箇所に、同じようなトンネルを作り、そこにゲートを設けて人や物の出入りを厳重に管理することで自治を黙認した。
 それから五十年、旧東京特区は世界でも類を見ない混沌の都市として日本の一角に存在している。
 そんな混沌の都市を、人々は畏怖と皮肉を込めて『東京ラストヘブン』と呼んだ……

 この物語は、そんな東京ラストヘブンに生きる人々の物語である。




東京ラストヘブン 光陰如箭―編


1.
 
手に持ったカップに口を付け、中身の黒い液体を縁に含んだ後、その湯気立つ香りも一緒に味わいながら「ふぅん……」と、ため息とも、唸りともとれる声を出し、安城隆紀【アンジョウ リュウキ】はカップをソーサに戻した。
「旨いな……」
 そんな風に呟きながら、視線をカウンターに向けると、レトロな手挽きミルのハンドルを握るあどけない少年が微かに微笑していた。ミルを置いたカウンターが少し高そうに感じるほどの背格好は、持ち前の幼い顔をより一層幼く見せているようで、一見したら中学生でも通用しそうなほどだ。
 栗色の前髪の奥に、子犬のような瞳が、まるで満点のテストを褒めてもらった時の子供のような色で揺れていた。
「それはよかった」
 その少年は口元の微笑を残したままそう返した。そんな顔を見るたびに、安城はこの目の前のカウンターで挽き立てのコーヒー豆を器に移し替えている少年が、裏通りでわずかに囁かれる噂の人物と、本当に同一人物なのか自信が持てなくなるのだった。
「俺もこんな商売だからいろんな喫茶店に足を運ぶけどよ? 本当にのぼる坊の淹れるコーヒーは全然違うんだよ。なんていうのかな…… 強ばってた肩の力がすっと抜けるような感じがする」
 安城がそんな感想を漏らすと、カウンターの少年は少し照れたようにして肩をすくませた。
「まあ、豆は区外で直接吟味して仕入れてますし、常連さんには出すときの温度も調節してますからね。でも安城さん、30代の男に『坊』は無いでしょう?」
 少年がそう言うやいなや、今度は横合いから「そうですよ!」と女性の声がかかった。
「坊なんてダサすぎます。のぼるちゃんはのぼるちゃんって呼ぶんですよ」
「いや、それもどうかと……」
 後ろに結んだ黒髪を揺らして嫌々をする眼鏡の少女に、のぼると呼ばれた少年は困った表情を返した。
「っていうかお前、自分の雇い主である店長を『ちゃん』付けで呼ぶのもどうかしてるだろ?」
「だって…… 絶対変だもん。これで三十歳半ばなんて絶対詐欺ですよ。まだ十代のあたしより肌つや良いとかマジで信じられない。しかも『天然物』だから驚き度二倍!」
 眼鏡の縁をクイッとあげて、評論家のような口ぶりでそう言う少女に曖昧な微笑を返しながら、喫茶店『アルテミス』の店長兼バリスタである神木のぼるは小さくため息をついた。そんなのぼるの横顔を眼鏡越しにまじまじと見つめる少女はこの喫茶店『アルテミス』のアルバイトで、名を明美・ミュラーという。名前からもわかるとおりハーフで、父親がドイツ人である。実家は秋葉原で、現在は中野新橋で一人暮らしをしているフリーターだった。
 平日の十六時という、少々中途半端な時間帯なせいか、こじんまりとした店内には安城の他には客は居なかった。
「まあ確かに明美の言うのもわかるわ…… 平日の昼間に歩いてたら、区外なら一発で補導されるだろうな。俺でも知らなきゃ補導するわ」
 安城はそうぼやきながら頬杖をついてカウンターの向こうののぼるを眺めた。この外見で三十代半ばだと言うのは冗談だといつも思う。ヘブンなら、闇医者に金さえ積めば遺伝子整形や非合法サプリ、はたまた魔術整形などでたやすく外見をいじることは誰でも可能だが、のぼるの外見は少し見ればすぐにそういった手術では得ることの出来ない、いわゆる『天然物』である事がわかるだろう。
 もっとも、その三十代半ばという話も、のぼるの自称であり、はっきりした歳を言わないのでわからないことだが、彼の経歴から判断して、実はもっと上なのではないかと安城は推測していた。
 ここは東京ラストヘブン…… 何が起こっても不思議じゃ無い街なのだった。
「あのね二人とも…… 普通そういう話は本人が居ないところでやらないかい? それに安城さん、それシャレになってないんです。僕この前区外に仕入れに行った時、二回ほど『学校はどこ?』って聞かれましたから……」
 そんなのぼるの言葉に安城は吹き出して笑い、明美はのぼるの隣で声を殺しながら笑いに耐えるのだった。
「でもでも、なんか安城さんから『補導』なんて言葉聞くと、安城さんがホントに刑事さんなんだなぁって思っちゃいました」
「オイお前…… 試しに補導してやろうかコラ」
 笑いの我慢が限界に達した頃、それから逃げるために話題を逸らした明美に、ひとしきり笑った安城はそう突っ込みをいれた。 
「うん、そうだね。安城さんの場合補導じゃすまない気がするよね」
 今までさんざんイジられていたのぼるも、ここぞとばかりに反撃に転じた。すると安城はすっと肩をすくめてコーヒーを口に含んだ。
「馬鹿言え、俺だってなあ、外じゃ柔らかく行くわな。区外じゃコイツをぶっ放す様な事も無いだろうしよ……」
 そう言って左胸を軽く叩いた。ジャケットの内側にチラリとショルダーホルスターに収まった大きめな拳銃の銃床が覗く。
「毎年殉職者が三桁に届くこのヘブンの所轄で、補導なんて悠長な事やってたら警官の棺桶でピラミッドが出来ちまうよ。俺が若い頃組んでた先輩なんてな、夜中道ばたで下着姿で泣いてる小さな女の子に話しかけたら、頭から『食われた』んだぜ? ヘソから下しか無い遺体なんて遺族にゃたまらんよ。ヘブンでデカなんざやってるんだ、まともな死に方が出来るとは思ってないが、せめて首ぐらいは無くさずにあの世に持って行きてぇ」
 安城はそう言い、再びコーヒーを啜ってカップをソーサーに戻した。
 安城は新宿署の殺人課刑事で、この道十七年のベテランだった。区外とは比べものにならないほど殉職する警官の数が多いヘブンの所轄の中でも、最も殉職率の高い新宿署で十年以上刑事を続けられているのは異例のことである。
 災害処理が一段落して、ヘブンが特区として新たなスタートを切った最初の年の全国の警察官殉職者の数はおよそ三百人に上り、その94%がヘブン内の所轄であった。
 その後年々減り始め、今では百人前後に落ち着いているが、区外の警察官殉職者数が十人から二十人前後である事から考えても、ヘブンの警察官がいかに殉職率が高いかわかるだろう。
 そんな中で十七年の刑事経験を積んだ安城である。勿論運もあるだろうが、安城隆紀の刑事としての優秀さもわかるというものである。
「渋谷じゃ十二、三歳のチビギャング達が機関銃やRPGで武装してるのがヘブンだ。区外と同じ対応してたら無関係な死者があっという間に三桁になる。そんな連中に睨み効かせるんだ、多少荒っぽくもなるだろうよ」
 そんな安城の言葉には、区外の人間には計り知れない重みがあった。
「流石、新宿の武装暴力団員もビビる『新宿署の破壊屋』の言葉は違うなぁ……うん」
 そんな安城に茶化すようにそう口を挟む明美に、安城は「言ってろ」と吐き捨て、カップに残ったコーヒーを飲み干した。
 しかしそう言う明美も、カウンターの下にSIGザウエルを忍ばせているのである。やはり彼女もヘブンに生きる人間だった。
 そんな二人のやり取りをにこやかに眺めていたのぼるは、不意に安城の前に拳大程の大きさの箱を置いた。
「はい、安城さん。頼まれてた物です」
 安城は「おう、ありがとさん」と言ってその箱を開くと、中身は縦にきっちり詰まった銀色の弾丸だった。安城は中身を一通り確認した後、無造作にコートのポケットにねじ込んだ。こんな喫茶店のカウンター越しに武器や弾丸の取引が行われるのも、ヘブンならではと言えるかもしれないが、普段のぼるはこんなことはしない。安城だけは特別で、また、のぼるで無ければならない理由があるのだった。
「またいつものところに、明日の夜までには確かに入れとくわ」
 勿論代金のことだ。安城は時々、こうしてのぼるからある特殊な弾丸を仕入れていた。
「ええ、宜しく」
 のぼるは安城に軽く頭を下げた。
 とその時、店のドアの小鐘がカランと鳴り、来客を告げた。三人が視線を自然に店の戸口に視線を向けると、女が一人店に入ってきたところだった。
 歳の頃は二十代後半から三十代前半と言ったところか、少し茶色がかった緩いウエーブのセミロングの髪に、薄い紫のワンピースが少し影の薄い印象を持たせている様に見える。目鼻立ちは整っているが、地味なメイクのせいか若干ぼやけて見え、素材の良さを上手く演出出来ていないといった感じだった。
「いらっしゃいませ〜」
 若干語尾のトーンを上げ気味に明美はそう声を掛け、彼女に近づいていった。
「お一人様ですか?」
 そんな明美の言葉に、その女は「え、ええ……」と僅かにどもって頷いた。それからゆっくりと店内を見回すと、カウンター席に座る安城を目に止め、スッと明美の横を通り過ぎて安城の方に歩いて行った。
 安城は怪訝な表情のままその女の顔を見つめ、すっと自然に腕を組むようにして、女から見えない様に右手をコートの左胸に差し入れ、懐の愛銃のグリップを軽く握りながら少し体を女の方向に向け、女との距離が三メートルに達したところで「そこで止まれ」と声を掛けた。
 過剰と思うなかれ。何食わぬ顔をして近づき、道を尋ねると同時に弾け、半径二メートル前後に濃硫酸を撒き散らす様な自爆鉄砲玉がいるヘブンである。この安城の対応は、ヘブンの刑事としては至極当然な対応であった。
「俺に…… 何か用か?」
 その安城の言葉に、女は一瞬びくっと体を震わせ、右手を胸元でギュッと強く握り少し迷った表情をした後、静かに安城に聞いた。
「あ、あの…… 神木さんでしょうか?」
 その女の言葉に、安城は僅かに眉を寄せながら一瞬カウンターののぼるを見て、再び女の方を向いた。
「悪いが俺は新宿署でデカやってる安城ってんだ」
「け、刑事、さん……」
 安城の言葉に女は少し驚きの表情を見せた後、チラリと店内を見回してから再び安城に聞いた。
「あの、すみません。こちらに神木さんと仰る方がいらっしゃると聞いたのですが、お留守でしょうか?」
「いや、留守じゃ無い。あんたの前に居るよ」
 そう返した安城の顔を怪訝そうに見つめ、女はカウンターの向こうに居るのぼるを見た後「えっと、どちらに……?」と聞き返した。すると安城はフンっと鼻で笑い「あんた、誰に聞いてきた?」と尋ねた。
「中野の森ノ宮という男の方です。この店にヘブンじゃ有名な『見つけ屋』の神木という方がいらっしゃるからと……」
 その女の言葉に、カウンターののぼるは「はぁ……」と小さなため息をついた。
「森ノ宮…… あの男もまた中途半端な……」
 森ノ宮は旧中野を彷徨く情報屋で、そこそこ腕が良いと有名な男だった。
「いいや、アイツは絶対わざとだな。のぼる坊の困った顔想像してマス掻いてるぜ? あのカマ野郎」
 安城はニヤニヤしながらのぼるにそう言った。そんな二人の会話を聞いていた女は、その会話の内容から判断してたどり着いた自分の考えが信じられないと言った様子で、口元を押さえながらのぼるを見た。
「えっ!? まさか、だって、そんな……っ!?」
 驚きで目を見開き、二の句を繋げないでいる女に、のぼるはその幼い顔に年相応の困った表情を乗せていた。
「ええ、僕が神木です。『見つけ屋』神木のぼると言います。でも本業はこっちなんですよ」
 のぼるはそう言って棚から新しいカップを取り出し、女にそう言った。
「で、でもまさかこんな子供だとは……?」
 そんな女の言葉に安城が答える。
「確かに子供のように見えるが三十半ばだ。間違い無いよ、あんたの言う見つけ屋、神木のぼるはこの男だ。俺が保障してやる」
 安城のその言葉に女は無言で頷き、しかしやはりどうにも納得いかないのか、マジマジとのぼるの顔を見つめた。のぼるは少し俯きながら「どうぞ……」と女にカウンターの席を勧めた。
 女はおずおずといった様子で安城の隣の席に座った。
「とりあえず、何か淹れましょう。何が良いですか?」
 のぼるがそう聞くと、女はメニューから本日のコーヒーを選び、それを注文した。それを合図に安城は席を立った。
「じゃ、俺はそろそろ行くとしよう。五時半に人と待合せしてんだ。それに仕事の邪魔しちゃ悪い。明美、領収書くれ」
 安城はそう言うと明美は「は〜い」と返事をしてレジに向った。
「待合せって…… もしかして彼女?」
「だったらもうちょっと気の利いた服着るさ。今追ってる山のタレコミ聞きに行くんだよ」
 明美の言葉にそう返して、安城は領収書を受け取ってポケットにねじ込み、店のドアに向った。そしてドアノブに手をかけた所で不意に振り返った。
「あんた、見たところ区外の人間みたいだが、その男に任すなら大丈夫だ。だから絶対自分で動くなよ? 区外の人間が下手に動いたらあっという間に消えちまう。見た顔の仏見ると酒が不味くなるからな。だが、もしヘブンに居て何かあったら言ってこい。新宿署の安城って呼び出せば対応が速いだろう」
 安城はそう女に声をかけ「ご馳走さん」と言いながら店を出て行った。
「気を悪くしないでください。口は悪いですけどね、彼なりに心配して言ってるんですよ。あれでも新宿署じゃ特別優秀な刑事ですから」
 安城の出て行ったドアを怪訝な表情で見ていた女に、のぼるはそう声をかけた。女は「ええ……」と呟き、カウンター向こうののぼるに振り返った。
「今の方、区外からって…… やっぱりわかるんですかね」
「ええ、臭いでね。この町に長く居る人間とじゃ、まとってる臭いが全然違います」
 のぼるはそう言って女の前にソーサーに乗せたコーヒーカップを置いた。うっすらとした湯気が空気までリラックスさせるような、そんなコーヒーの香りを鼻孔に運んできて、女は「いただきます」と小さく呟き、コーヒーを口に含んだ。
「美味しい……」
 感嘆ともとれる呟きが女の口から溢れた。
「こんなに美味しいコーヒーを飲んだのは、いつ以来かしら…… 常連になってしまいそう」
 そんな女の感想に、のぼる微笑みながら首を振った。
「お言葉はうれしいですけど、区外の方ならよした方が良い。まっとうな人生を生きたいと思うなら、こんな場所に長く居てはいけません。用が済んだら早々にこの街から出て、もう二度と来ない方が良い。この街は、どんな存在も受け入れる代わりに、笑って出て行く者は居ないですからね」
 そんなのぼるの言葉に、女は微かに残念そうに無言で頷いた。
 存在しない者、存在してはいけない者…… この世界のどこにも行き場の無い存在を受け入れる最後の場所。ただし、一度この街の生活を受け入れたら、もうこの街でしか生きられない。なぜならここが終着駅だから……
 だからこそここは、ラストヘブン【最後の天国】と呼ばれるのだった。
「それで、何を探してほしいんです?」
 女のカップがカウンターに置かれたソーサーと触れて、微かに空気を震わせたと同時に、のぼるは女にそう問いかけた。すると女は脇の席に置いた皮のショルダーバッグから一枚の写真を取りだし、のぼるの向きにして置いた。写真には女と同年代といった歳の頃の男が写っていた。
 短髪で精悍そうな顔つきで、モスグリーンのサマーセーターがよく似合っている。しかし確かに男前な顔つきなのだろうが、どことなく印象が弱く、記憶に残りづらい顔の男だった。
「夫を…… 探してほしいんです」
 女はそう声を震わせて懇願していた。

2.

 女の名前は中平佐織【ナカヒラ サオリ】といった。そして彼女が夫と言った写真の男の名は中平徹【ナカヒラ トオル】34歳。区外では証券会社につとめていたという。
 徹は三週間前、佐織に朝会社に行くと出たきり、行方がわからなくなったとのことだった。
「お住まいはどちらに?」
「高円寺です。セブンウォールのすぐ近くのアパート……です」
 セブンウォールとは、旧環七通りに形成される粒子障壁への接触防止用防護壁の事だ。高さ三十メートルの鉄筋コンクリート造の巨大な壁で、ヘブンの障壁が形成されている環七に沿って建てられている。旧環状七号線に沿って建てられているため『セブンウォール』と呼ばれており、事実上その壁がこのヘブンと区外との境目となる。
「高円寺…… ではヘブンには『中野ゲート』から?」
 のぼるはそう聞き返した。
 現在確認されている環七障壁の綻び地点は全部で四つある。それも申し合わせたように東西南北にあって、政府は六年かけてその障壁形成不安定ポイントに大きな地下トンネルを作り、特区と区外の出入りを厳重に監視する関を設けた。通称『ヘブンゲート』と呼ばれている。
 東のゲートを『江戸川ゲート』、西のゲートを『中野ゲート』、北のゲートを『足立ゲート』、南のゲートを『品川ゲート』とそれぞれ呼んでいる。
「ええ…… あの、でもそれが何か……?」
「いえ別に…… それで、ご主人が居なくなってから三週間と仰いましたが、警察の方に捜索願は出されているのでしょうか?」
 のぼるはさして気にした風も無く、次の質問に移った。
「ええ。最初は仕事が忙しいのかと思っていたのですが、三日経っても何の連絡も無いので警察に行ったんです。でも警察の方でも全然行方がわからなくて…… そしたら二日前、ヘブンで夫を見たと言う話を聞いたんです」
「見た…… 誰からです?」
「学生時代の友人です。ヘブンのツアーで渋谷に行ったときに見かけたって…… 声を掛けようとしたらしいんですが、直ぐに見えなくなってしまったんだそうです」
 佐織はそう言ってカウンターに置いた両手を握りしめていた。
 彼女の言う『ツアー』とは、ヘブンに本社のある旅行会社が企画している、特区公認の区外向けのヘブンを巡るツアーの事である。
 はじめの頃は区外の旅行会社もこのツアー企画に手を出していたが、複数の行方不明者を出し、その保証で軒並み倒産に追いやられたため、今ではヘブン内の旅行会社しか扱っていない。
 一部では区外の会社の参入を快く思わないヘブンの旅行会社が妨害したなんて噂も耳にするが、証拠が無いため立証することが不可能だった。
 今でも、年間数人の行方不明者もでるが、その行方不明者はいずれもコース外の危険区域に指定される場所に勝手に入り込んで失踪しているので、決められたコースをきちんと守っていれば、多少冷やっとする事はあっても命を落とす危険はなかった。
 はじめは、こんな危険きわまりないツアーでは、客などつかないのではという声もあったが、そんなスリルとミステリアスさが受けて大盛況であり、ツアー申込書と同時に書く『遺書』もまた人気に一役買っていると言うから驚きである。
「なるほど……まあ、ツアーでの単独行動は危険ですからね」
 のぼるはそう言って写真を見つめながらため息をついた。 
「人違いだった…… なんて可能性は? だってほら、渋谷でしょ? 『呪い《まじない》横町』が近いし」
 そう横合いから明美が口を挟んだ。のぼるは無言で腕を組みながら佐織を眺めた。
 『呪い横町』とは、渋谷の道玄坂に軒を連ねる魔術師商店街のことである。
 このヘブンでは、おとぎ話に登場するような、いわゆる『魔法』と呼ばれる技術体系が実在する。
 魔法はこのヘブンの至る所で見ることが出来、様々な非科学的な超常現象を引き起こす技術としてヘブンの最も大きな特異性の一つであると言える。その効果は呪い、占い、治療、殺人、破壊等々様々で、ヘブンでの生活に密接に関わっているのである。
 しかし、この魔法はおかしな事にヘブンのゲートを一歩外に出ると、その効果がコントロール不能になり、たちまち霧散してしまうのだ。これは魔法効果そのもの以外に、魔法によって生成された物も同様にその効果を失うのである。
 ヘブンの魔法は、ヘブン特有の学問であり、ヘブン内でのみ超常効果を発揮する技術なのであった。
 ヘブン魔導の本拠地は、本郷にある旧東京大学跡地の『天魔導協会』総本山を中心にした『魔導街』が有名であるが、そちらはA級危険地域に指定されているためツアーコースから外れている。
 渋谷の呪い横町は、その協会に属さない『はぐれ魔導師』の集まる場所で、比較的安全な場所と言うこともあってたいていのツアーのコースに入っており、そんな観光目的の区外人向けに、ヘブンならではのユニークな魔法グッズをお土産として売っていたりするのである。
 グッズには、『惚れ薬』『喋るしゃれこうべ』『呪いの便せん』など、いかにもといった名前の商品が並んでおり、中には『浮気相手をヤモリに変える煙草』や『恨み呪殺香』などという物騒な名のついた商品もあるが、いずれも区外では何の役にも立たないガラクタである。しかしこういった品々はヘブンでのお土産品として非常に人気があった。
 話を元に戻すが、渋谷はそういった魔導師達が集まっており、それに比例して『魔素』が濃い場所なので、そういう魔素や瘴気の濃い場所では、特に抵抗力が低い区外の人間は、まれに幻覚や錯覚を見ることがあるのだ。先ほど明美が言った事はそういった意味合いがあったのだ。
「確かに、そうかもしれません。でもその友人は、大学時代に私や主人と同じサークルのメンバーだったので、主人の事はよく知っていました。その話を聞いて、私は居ても立っても居られなくなって……」
 佐織はそう言って両手を口元に持って行き涙ぐんでいた。のぼるはため息を一つついて、カウンターに置かれた一枚の写真を手に持った。
「愛していらっしゃったのですね」
 ぽつりとのぼるは呟いた。すると佐織は「もちろんです」と顔を上げた。その涙にを浮かべた瞳には、ぼやけたのぼるの顔が映っていた。
「私たちは愛し合っていました。お互い無くてはならない関係だと思って居ました。失踪には、何か訳があるはずです。私はそれが何なのか、会ってあの人から直接聞きたい」
 のぼるはそう言って涙を流す佐織をぼんやりと眺めながら問いかけた。
「後悔する事になるかもしれません。それでも探しますか?」
 あどけない顔でそう問いかけるのぼるの瞳に、佐織は少し違和感を覚えた。その瞳に感情が無いわけではない。だがそれは自分の境遇を哀れんだり、悲しんだりしているわけでも無い。
 強いて言うなら……
 切ない感情を、悲しむべき感情を、ただ観察しているような、そんな瞳の色だった。苦しみも悲しみも全部理解して受け入れているのだが、自分とは別の生物のことのようにとらえている……
 この、幼い少年のような風貌の神木のぼるという男に、佐織は何か得体の知れなさを感じてわずかな震えを覚えた。
 この混沌の都市『東京ラストヘブン』の指折りの探し屋、神木のぼる。
 この男はもしかしたら、人では無いのかもしれない。
 佐織はそんなことを考えながら「何故ですか?」とのぼるに聞いた。
「この街だからです。この街に居ないのならそれで良い。でももしご主人がこの街に居るのなら、もう会わない方が良いかなって思ったからです」
 そんなのぼるの言葉に、佐織は首をかしげた。
「この街はどんな存在も受け入れます。それはこの街が最後だからです。ここより他に存在する場所が無い人間が集まる場所。この街に流れ着いた人間は、死んだって天国には到底いけません。ここが『最後の天国』なんですから。天国に行く切符を自分からちぎり捨てた人間が、最後に訪れるのがこの街…… だからこそ東京ラストヘブンと呼ばれるんです。
 ご主人はこの街を選んだ。それは逆にこの街以外に行けなかった事を意味します。そんな人間が区外に戻っても幸せになどなれはしない。もうあなたの知っているご主人では無いかもしれません。それを知ったら後悔する事になる可能性の方が高い。それでも、ご主人を探しますか? と聞いているのです」
 客の居ない店内に、のぼるの声が静かに響いた。それはまるで、この街そのものが語り掛けているような、そんな錯覚を覚え、佐織は身を固くした。
「ええ…… それでもかまいません。主人を…… 探してください」
 佐織はそう言って静かに頭を下げた。のぼるはそんな佐織の姿を見つめ、小さくため息をついた。一瞬口元がわずかに何か言いかけた様に動いたのだが、のぼるは軽く首を振って頷いた。
「わかりました、お引き受けします」
 のぼるがそう言うと、佐織は顔を上げ、指で涙をぬぐいながら「お願いします」と答えた。
「明美ちゃん、僕は少し店を空ける日が増えるかもしれないけど、お店の方、お願いできるかな」
 のぼるがそう言うと、明美は待ってましたとばかりに「お任せください!」と元気よく答えた。そんな明美の声は、何故かうれしそうで、少し冷たい感じの空気を一瞬で明るくしてしまったのである。そして明美は佐織のコーヒーカップを引いて佐織に聞いた。
「おかわり、いかがですか? 今なら一杯半額ですよ。ねえ、のぼるちゃん?」
 明美はそう言ってのぼるを見た。のぼるはそんな明美に苦笑しつつ「ええ」と頷いたのだった。


3.

 夕方から降り出した雨は、時折激しく降り、アスファルトをはじける水滴がまるで白い絨毯のように見える。
 このヘブンを覆う不可思議な粒子の障壁は上空九千メートルに達しており、外部からの物理的干渉を一切拒否している。その大きな傘は街全体を覆っているはずにもかかわらず街に降る雨は、いったいどこから降っているのだろうと科学者達は揃って首を捻る。
 さらにヘブンで降る雨は少し変わっている。ヘブンで降る雨を採取し分析したところ、雨水に含まれる不純物の量は0.01μg/L(1リットル中に1億分の1グラム)以下である事がわかった。つまり限りなくH2Oに近い『超純水』なのである。
 通常、雨は水蒸気で発生した雲より、気体としての体裁を保てなくなる『凝結』状態になって地上に落下する。雲に含まれる成分はもとより、地上落下までに大気中の塵などを付着させて地上に到達するため、我々の頭上に達する頃にはかなりの不純物を含んでいる。
 仮にヘブンの雨が上空九千メートルの粒子障壁の内側から降っていると仮定し、しかもその付近に何らかの超純水を発生させる要因があり、それが雨として落下しているのだとしても、地上に到達するまでには確実に不純物を含むはずである。だがヘブンに降る雨は地上で採取しても、そのままバイオ研究や医療研究の施設で即使用できるほど高い水質を保っているのだ。
 この奇妙な雨もまた、多くの科学者達の頭痛の種であるのだが、雨がそのまま様々な研究で利用できるので、一部の研究者達はこのヘブンの雨を『天使の涙』という俗な名で呼んでいた。
 その雨は、そんな科学者達の疑問に関係なく、しっとりとヘブンを濡らしていく。その純粋さで、悲しみも苦しみも、そしてここに集まる不浄の混沌までも荒い流さんとするかのように…… 
 そこに街があるからだと言わんばかりに、今夜はヘブン全域が雨予報であった。
 そんな雨の中、男は足早に水しぶきの絨毯を歩いていた。
 駅前のコンビニで買ったビニールの安傘では、到底足下まではカバーすることはできずにジーンズの裾は濡れて色が変わっていた。しかし駅地下で買った総菜が入ったビニールだけは濡らせまいと胸に抱え、男は路地を曲がったところで足を止め、傘の下からアパートを眺め、角部屋の明かりが灯っていることに安堵した。
 アパートの階段まで来ると傘をたたみ、こぎみよくスチール製の階段を鳴らして2階に上がった。そして一番奥の角部屋の前に立ち、ドアをノックした。
「梓【アズサ】、俺だ、徹だ。開けてくれ」
 男がそう言うと、ぱたぱたと足音が響き、続いてカチャリと鍵の開く音がした。男はいったん目を閉じ深呼吸をする。それはこの生活を始めてからの、この部屋のドアを開ける度に行う一種の儀式のようだった。
「おかえり、お兄ちゃん」
 ドアを開けると、そう声がかかった。その言葉を聞くたびに、男はこの状況が夢では無かったと胸を撫で下ろす。
 栗色の長い髪を後ろに結び、スエットとパーカーの上から羽織った黄色いエプロンが揺れている。そして大きめの瞳が、まるで猫のように自分を見上げ、顔に浮かべた満面の笑顔がまぶしかった。
 この五年間、こんな日が続く事をどれだけ願い、そしてどれだけ絶望しただろう。その男、中平徹【ナカヒラ トオル】は初めて、この世界に神がいることを信じた。
 だが、ここは混沌の街『東京ラストヘブン』である。最後の天国と呼ばれる街で祈る神は、果たして本当に神なのだろうか……
「今日はお兄ちゃんの大好きなカレーにしてみました。さあ、手を洗ってご飯にしようよ」
 梓はそう言って鼻歌交じりに小さなキッチンに向かった。徹は、もう何も考えるまいと心に誓い、靴を脱いで玄関に上がった。
「あ、びちょびちょじゃない。先にズボン脱いでよ、も〜」
 そんな梓の抗議に、徹は「仕方ないだろ」と答えた。
「夕方いきなりザーって降ってきたんだから。こんな小さなビニール傘じゃ濡れるに決まってるじゃないか」
 徹はそう言いながら抱えてきたビニール袋を梓に渡した。そして代わりに梓からタオルを受け取り肩口をぬぐった。
「わあ、コロッケだ。じゃあ今日はコロッケカレーにしようよ」
 徹から受け取った包みを開け、梓は歓声のような声を出して笑った。徹はその笑顔に満足げに頷くと部屋の奥に行き、裾の濡れたジーンズを脱いで窓際に張ったゴムロープにジーンズを掛けた。そして部屋着代わりの紺色のジャージを履くと、キッチンに向かった。
 六畳一間の小さな部屋で、キッチンと呼ぶのもおこがましい小さな流しの前で、梓は白い皿に炊きたてのご飯をよそっていた。そんな梓をよけるようにして流しで手を洗い、流しの下にかかっている手ぬぐいで手を拭いた後、再び居間に戻ってちゃぶ台の前にあぐらをかいた。
「お兄ちゃん、スプーンくらい出してよね」
 と梓に文句を言われつつも、梓が持ってきた瓶ビールとグラスに手を掛けたとき、梓から「待った」の声がかかった。
「まだ早いでしょ」
 と梓は持ってきたお盆からカレーをちゃぶ台に並べて、徹の手からビール瓶を奪った。それからエプロンのポケットから取りだした栓抜きで栓を開けると、徹にグラスを持つように促した。
 徹は苦笑いをしながらグラスを持つと、梓は口をつぼめながら「とくとくとく〜」と声に出しつつグラスにビールを注いだ。
「お疲れ様、お兄ちゃん」
 梓がそう言うと、徹は「おう」と答えてグラスのビールを一気に飲み干した。炭酸がのどにしみるように弾け、空っぽの胃の中に流れ込んでいく心地よい感覚を味わい、徹は「ぷは〜」と満足げに息を吐いた。
「ビールはそれ一本だからね」
 心地よさの余韻を味わいながら、今度は手酌でグラスにビールを注いでいると、梓からそんな声がかかった。
「なんで? まだ冷蔵庫に二、三本あっただろ?」
 するとカレーを口に運んでいた梓が軽く首を振り徹の言葉を否定する。
「だ〜め、雨が小降りになったらお風呂に行くんだから」
「いや、だって雨降ってるから風邪引くって。一日ぐらい入らなくたって大丈夫だよ」
 そんな徹の言葉に、梓は聞く耳持たずといった感じで「だめ〜」と答えた。
「雨結構強く降ってるぞ? 今日はやめとこうぜ?」
「良いの! お風呂に 行 く のっ!!」
 言い出したら断固として聞かない妹の性格を思い出し、徹はヤレヤレと言った様子で説得をあきらめスプーンを手にとってカレーをすくった。
 そう、梓はいつもこうだった……
 徹はそんなことを思いながら目の前の梓を見た。そんな徹の考えを知らずに「うん、我ながら美味しい」と嬉しそうに笑いながらカレーを食べていた。
 それは徹にとって、五年前に失ったはずの光景だった。無邪気に笑う妹の笑顔をもう一度見ることが出来るなんて夢にも思わなかった。いつまでこの生活を続けられるかわからない。でもこの笑顔を見続けていられるのなら、俺は悪魔に魂を売っても惜しまないだろう……
 ようやく取り戻した幸福な時間。願わくば、この幸せが少しでも長く続く事を必死に祈りながら、徹はカレーを口に入れた。そして、その懐かしい味に目頭が熱くなって上を向いた。
「旨い…… 旨いけど辛れぇよ」
 湧いた涙がこぼれそうになる顔を梓に見せまいと、徹は上を向きそんな誤魔化しの言葉を吐くのだった。


 中平佐織がアルテミスを訪れた翌日から、神木のぼるは調査を始めていた。まず最初に訪れたのは、中平徹が目撃されたとされる渋谷道玄坂の呪い横丁だった。
 災害以前の道玄坂は、飲み屋や風俗店、そしてラブホテルが乱立した通りだったが、災害後のヘブンではその様相を著しく変貌させている。
 昼間から怪しげな色の煙を吐くダクトや煙突を生やした建物に、暗い濃厚色のフードを深めに被った者たちが、表を歩く人々をフードの奥から見つめている。
 トカゲやイモリ、はたまた蝙蝠といった陰鬱になりそうな生物の干物や燻製を、いかにもといった感じの演出で軒先に吊るし、その下には『惚れ薬あり〼』や、『大人気、人の心を読む眼鏡!』はたまた『百歳超えてもまだ現役、一つ舐めれば大絶倫飴』などの文句が並び、通りに時折青白い火花が光っては、彼方此方でツアー客の歓声とも悲鳴ともつかない声が上がっている。
 石畳の通りの店先で魅了の魔法を実演し、そのまま客を店内に引っ張り込む際どい販売手段の若手魔道士や、幻惑魔法で少なくとも四十は若く見せているだろう還暦真近の魔女が、肉感的な胸を腕に押し付け、鼻の下を伸ばした中年男に高額な水晶の髑髏を売り付けている様な景色は、世界広しといえどこの通りぐらいなものだろう。
 店先で売られている奇妙な商品はどれも怪しげな名前で、その名前にちなんだ効果をヘブンでのみ発揮させるお土産用魔法グッズである。
 もっとも、ヘブンでのみの効果と言っても、効果持続時間は長いものでも一時間から二時間程度で、『呪殺』なんていう効果のある物であっても、たいてい二十分程度仮死状態になるのが精々で、いたずら小道具か、ちょっと過激なパーティーグッズと言った代物ばかりだ。
 もし本当に期待通りの効果を発揮する物を望むなら、本郷周辺の『魔道街』に行けば手に入る。しかし魔道街では、強力な効果を発揮する物ほどお金以外の『対価』を要求されるだろう。殺傷相手を原子にまで分解する魔法を発動させる目覚まし時計に似せて作られた時限式魔法発動具を受け取る代わりに、一族全員の生きた心臓を要求された―― などという笑えないオチのついた話を耳にするのも良くある事だった。
 のぼるは、そんなツアー客で賑わう通りを、人をよけてするすると歩いて行く。元来小柄な背丈であるため、実に小回りのきく身のこなしで騒ぐ客達の間を縫うように進んでいった。
 そしてちょうど通りの中央にさしかかったとき、通りの中でも一際派手で大きな建物の前で立ち止まり、店内をのぞき込むようにして中をうかがってから大きな樫材の框戸を開けて店内に入った。
 店内も通りに負けず劣らず賑やかで、ツアー客でごった返している。のぼるはそんな光景を眺め、ヤレヤレと言った様子で小さなため息を一つ吐いて店の奥へと進んだ。そして客達の間をすり抜けてレジまでたどり着いた頃、レジの向こうから声がかかった。
「あれ? のぼるさんじゃないですか。おひさしぶりっす」
 カウンターの奥には、若い女がアニメのコスプレのようなゴスロリチックな衣装で包んだ商品をお客に手渡していた。
「うん、お久しぶりだね美紀ちゃん。でもどうしたの? その格好……」
「最近区外で人気の魔法少女のアニメキャラっす。五人で妖魔をぶっ飛ばすってやつ。社長がウケるから着ろって。あずみや明菜も別のキャラコス着てやってるっす」
 そう言って美紀と呼ばれた少女は右手をくるっと回して顔の前につきだし「にゃぱっ!」と言って笑った。どうやらそれがこのキャラクターの決めポーズらしい。
 彼女の名前は朝倉美紀【アサクラ ミキ】と言って、ここ呪い横町で人気の魔術店『ニートウィッチーズ』の店員である。現在二十五歳で五年前にこの店の店長に弟子入りし、魔導師歴は五年。ヘブンではまだまだ赤子同然の見習い魔女である。
「本物の魔導師がアニメの魔法少女のコスプレとかって…… 僕、頭痛くなってきた。君のところの大婆様はいったいどこを目指してるんだろうね」
 のぼるはそう言って指をこめかみに当てながら「う〜ん」と唸って俯いた。見た目が子供なのでその大人びた仕草はどこかシュールだった。
「でもこの格好しだしたらお店の売上げ30%もアップしたっす。ボーナス期待大にゃぱ!」
 そう言って再び決めポーズを披露する美紀に、のぼるはあきれ顔になった。
「いやそれもう良いから…… でも美紀ちゃん、少女ってちょっと無理が……」
「なにかな〜 なに言ったかな〜 おねえさんは聞こえないかな〜」
 ぽつりと出てしまったのぼるの呟きに美紀は全力で聞こえないふりをした。のぼるは再びこめかみに指を当てて大きなため息をついた。もっとも、幻惑魔法で少女の姿に変身しないだけまだマシかなと思い直し、のぼるは美紀に尋ねた。
「それで、その大婆様に会いに来たんだけど…… 二階かな?」
 のぼるは床を指さして美紀にそう聞いた。
「社長っすか? えっと、たぶん地下の『法技室』に居るはずっす。さっき追加で『心読めマスカラ』を作るって言ってましたから」
 美紀の答えにのぼるは頷き「ありがとう」と礼を言ってレジ横にあるSTAFFと書かれたプレートが掲げられた扉を開いて中に入った。
 中に入りドアを閉めると、ざわざわと賑わう店内の音が一瞬にして止んだ。そして狭い廊下が二メートルほど行ったところで地下に降りる階段があった。のぼるはその階段を降りていった。
 階段を降りていく際に、のぼるは奇妙な感覚を味わう。左の壁に取り付けられたブラケット照明が照らし出す階段は先が見えないほど下に続いている。店の外観から判断して、どう考えてもその長さの階段が地下に続いている事などあり得ないのだが、今のぼるの足下には、まるで地球の中心まで続いているのではないかと思えるほど長い階段があるのだ。
「これは見事。キットラー家に伝わる秘術『アウェルヌスの冥宮』…… これ程完成された結界術式は初めて見る。流石はスコットランド魔女の筆頭名家と呼ばれるだけのことはあるね」
 のぼるはいったん立ち止まり、そんな感嘆を漏らした。そして目を閉じて何やら二言三言呟き、再びゆっくりと目を開いた。すると足下の階段を二三段降りたところに廊下があり、突き当たりに錆色のドアが見えた。
 のぼるは何事も無かったかのように再び歩き出し、そのドアに向かった。
 のぼるがそのドアをノックすると、中から「お入り」と若い女の声が掛かった。のぼるはドアを開いて中へと進んだ。
「次元間強制接続なんて馬鹿な方法で来るなんてあんたぐらいだと思ったよ。人の家の秘術をなんだと思ってるんだいまったく……」
 ため息の出そうなほど大きな書棚にびっしりと詰まった書物。そしてその周りを何に使うのか皆目見当が付かない器具が所狭しと並んでいる。そしてその中央には、これまた大きな樫の机が置かれ、その向かいにある古ぼけた回転椅子には黒いセーターに深紫のロングスカートを着た若い女が座っていた。
 ソバージュのかかった髪をしっとりと右手で掻き上げる仕草には、男なら脳が溶けるような痺れを味わう色香があった。しかしのぼるの表情は欲情とは無縁のあどけない表情でニコリと微笑んだ。
「あれ程見事な術式に解除式を当てるのはいくら僕でも相当に骨が折れます。それに、あの様に美しい式を上書きするのはいささか無粋かなと思ったので……」
 のぼるはそう言って女に軽く頭を下げた。
「キットラー家の迷宮は冥府に続く冥宮なり…… 伝説は本当だった。流石はキットラー家の筆頭魔女、四代目アリス・キットラーの銘は伊達ではないね」
「元、『アリス』だよのぼる。何度も言わせるんじゃないよ」
 その女は顔をしかめてそうのぼるに言った。のぼるはそんな女にクスっと笑い「これは失礼」と大して悪気もなさそうに詫びを返した。
 女の名前は綺斗螺零【キトラ レイ】。見た目はどう多く見積もっても二十代後半だが、御歳二百に手が届く世界でも最高齢の魔女である。
 実家はスコットランドの欧州魔女狩り時代以前から続く有名な魔女の家系で、彼女はその直系であり、しかも五世紀も受け継がれている筆頭魔女『四代目アリス・キットラー』の銘を継いだ希代の魔女でもある。
「銘なんて百年前にとっくに返上してるさ。おまけに今じゃ破門のはぐれ魔女さね。そのうち妹か姪っ子の誰かが五代目の銘を継ぐだろうよ」
 零は少し自嘲気味に笑って机に頬杖をついた。
「それにしても、複層次元の境界面を重ねて繋ぎ合わせるなんて芸当、空間相転移も起こさせずにどうやったら出来るのか教えて欲しいもんだわ。ねえのぼる、あんた私に種付けしなよ。あんたと私の子なら、女なら確実に膨大な魔原子係数を内包した最強魔女になるよ。いいかい、魔の力は女の身の方が遥かに効率良く行使出来るんだ。何なら今からでもここで……」
 零はそう言いながらセーターの首元をひっ張り、絹の様な白く滑らかな肩口を露わにした。しかも零の顔は微かに上気しており、その肉付きの良い唇から桃色の吐息が悩ましく漏れ出すが、当のぼるは呆れた顔をして首を振った。
「魅力的な話だけど、それはまたの機会に。今日は聞きたいことがあって来たんです」
 のぼるがそう言うと、零は「はん」と鼻を鳴らして俯いた。すると一瞬にしてあたりに立ちこめていた卑猥な空気が霧散していった。
「時と次元の覇王が、こんな余命幾ばくかの年寄りに何を聞こうというのかえ?」
 零はそう言って腰を折り、わざとらしくこほこほと咳をしてみせる。
「その姿では何の説得力もありませんね」
「あんたに言われたかないよ。まあもっとも、あんたの場合は私のとは根本的に物が違う。何しろあんたはこの街そのも……」
「本題に入りたいんですけど…… 良いですか、零」
 脱線しかける話を、のぼるはぴしゃりと言って軌道修正をはかった。一方零はそんなのぼるの言葉にぶるるっと体を震わせ「ああはいはい、わかりましたよ〜」と拗ねたように答えた。
「それで、何が聞きたいんだい? 言っておくが、私は協会の坊やと違ってこの店から一歩も外には出ないんだ。渋谷の事しか知らないからね」
 零はそう言ってのぼるの方に椅子を回して足を組んだ。スカートにはスリットが入っているらしく、スラリとした足が、濃密な色気と共に太ももまで露出する。
 零はこの魔術師商店街『呪い横町』の総代も務めており、彼女の耳には、こと渋谷で起こったことならたいていは耳に入ってくる。魔女『綺斗螺零』の名前は、今彼女が言った『協会の坊や』こと本郷の天魔導協会会長と同じく、ヘブンの魔導師の中では恐怖と共に知れ渡っており、彼女の名前は魔道を行く者にとっては免罪符代わりになると言われている。なのでのぼるはまずはじめに彼女の元を訪れたのである。
 ちなみに、彼女はよっぽどのことが無ければこの店から出ることは無いと言われている。店名の『ニートウィッチーズ』とは、まさにそういった意味でもあるのだった。
「人を探しています。名前は中平徹。3週間前、区外で行方不明になったそうなんですが、最近この界隈で見かけたって話を聞いたので、零なら知ってるかなって思って」
 のぼるの話を聞きながら、いつの間にか机に置かれた一枚の写真を手に取った。それは昨日、中平佐織から預かった彼女の夫の写真だった。
 机からのぼるが立っている場所は二メートル前後、のぼるの両手は着込んだ紺のダッフルコートのポケットに入ったままである。しかし写真は彼女の手元の机の上にある。この二人の間には、空間という概念が消失しているようである。
「ふむ…… 二日前、マルキュー裏のそば屋に居たね。たしか高田の馬場の錬金工場で働いるバイトだよ。なかなか粋な感じのいい男じゃないか。臓腑も元気そうだし」
 零はそう即答した。店から一歩も外へ出ないはずの彼女が、何故にそんな情報を持っているのか見当もつかないが、のぼるもそこは突っ込まない様にしている。彼女はヘブンの魔女である。ソースは当然明かせないし、魔女の秘密は男子禁制であるのだ。
 ただし、最後の言葉は魔女ならではと言ったところか。
「さすがですね。情報屋も兼ねれば良いんじゃ無い? 宮ノ森あたりが首を吊るかもしれないけど」
「嫌なこったね。そんな暇あったら店を大きくする手を考えるわ。今度井の頭通りにも支店を出そうかと思ってるのさ」
 そんな商売やり手の魔女に、のぼるは「良くやりますね」と呆れた声で呟いた。
「ありがとうございます。とても参考になりました」
「お礼は別の方法でしてほしいね。あんたの場合はお金じゃ無いよ? か ら だ でね」
 零のそんな言葉にのぼるは苦笑しつつ「気が向いたら考えます」と答え、零が持っていた写真をすっと取ると、くるりと背を向けた。そんなのぼるに零は「ホント? マジだからね」と言葉を投げた。
「あ、そうだ。ねえのぼる?」
 のぼるが先ほど入ってきたドアのノブに手を掛けた瞬間、背中から零の声がかかった。
「あんた『ソドム』って聞いたことある?」
 そんな零の言葉に、のぼるは「ソドム……?」とオウム返しに聞き返しながら振り向いた。
「いいえ、初耳ですね」
「四、五日前から『犬組』の下っ端がこのあたりをチョロチョロしててさ。なんだろう? って思って試しに一匹さらって蛙に変えてやったのよ。で、訳を聞いたらゲコゲコ鳴き(泣き)ながら話し出したんだけど……」
 零はそのしなやかな人差し指を均整のとれた美しいあごに当てて考える仕草をした。とても美しく、また絵になる仕草だが、話している内容とのギャップの差が激しすぎる。のぼるは、その蛙に変えられてしまった構成員にちょっぴり同情し、それからその蛙をどうしたのかはあえて聞かずに居ようと心に決めた。
「何でも、新しい麻薬のサンプルが奪われたんだって。その新麻薬の名前がソドム。若頭の権堂の手下どもが血眼になって奪った奴探してるらしいのよ。どうでもいいけど、あのむさ苦しい連中がうろつき出すとツアーのお客さんがブルッちゃうからこっちは良い迷惑だわ」
 零はそう言って腕を組み、ふぅと小さいため息をついた。
「新麻薬…… そんなに効果が高いのかな?」
「依存率100%。でもって静脈に直接打てば、一気に昇天、しかも死ねなくなるらしい」
「そんなの日本橋の薬屋で簡単に手に入るじゃないですか。ブゥドゥーのゾンビパウダーなら一袋二万円で売ってますよ? もしくはお茶の水の第7研でゲノム手術を受ければいい」
 日本橋の小網町界隈は江戸時代から続く薬問屋街だったが、ヘブンになった今でも薬が集まる薬街として有名だった。しかし、以前と違い今では半分以上が非合法ドラックを扱うメッカになっている。一方お茶の水は旧順天堂大学の跡地に建てられた特区第七研究所を中心に、超科学研究に勤しむマッドサイエンティスト達が集まり、日夜非合法な実験を繰り返している。ここの科学者達に金さえ積めば、完全整形や遺伝子性転換手術、サイボーグ手術からバイオ強化手術、果てはクローン作成まで、区外では到底実現しえない技術の手術が受けられる。ただし、リスクもプライスオンなのは言うまでも無い。
「馬鹿だね、あれはもうとっくに死んでる体を動かすのさ。死んだ人間は殺せない。でもね、死ねないってのはまた別の話だよ。でもまあ手っ取り早く死ににくい体を手に入れるんなら、あんたが今言った様なことをすりゃ良いわけだ。もっとも『ヘブン限定で』っていう制限付きだけどね」
 零のその言葉に、のぼるは妙な響きを感じて首を捻った。そんなのぼるの仕草に、零はのぼるが自分の言いたいことに気がついたことを知って薄い笑みを浮かべた。
「フフっ、そうさね…… 嘘か本当か知らないが、そのソドムってやつは外でも効果があるんだそうだよ」
「区外でも……?」
 のぼるは怪訝な表情でそう呟いた。そんなのぼるの表情を見て、零は嬉しそうに笑った。
「あらまあ、あんたもそんな顔をするんだ。これは珍しいものを見たよ。さっきの情報料はチャラにしてあげるわ。あんたのその顔見れるってわかってたなら、あの蛙に変えた兄ちゃんも助けてやってもよかったかねぇ」
 そう言って妖艶に笑う希代の魔女。そんな彼女にのぼるは肩をすくめて見せた。
「しかし、ヘブンの技術は外じゃ使い物にならないってことは今じゃ常識だからね。ゲートの通関検査も昔ほど厳しくないって話じゃないか。もし本当にヘブンの技術が区外で使えるのなら、これはちょっとした問題だよ? この国の上の連中が黙っちゃいないだろう。何せここは区外じゃ想像外のものばかりだからさ」
 零は静かにそう言った。のぼるはその零の声を聞きながら黙って零を見つめていた。
「ま、夢物語、ヨタ話の類いだろうけど、それにしちゃあ犬組の連中がいやに必死なのがちょっと気になったのさ。ただそれだけだよ。さ、用が済んだら出てっておくれ、私はこれから追加の商品をこさえなきゃならないんだからね」
 そんな零の言葉を合図に、のぼるは「ありがとう、僕も少し気にしてみよう」と声を掛け、ドアを開けて部屋を出た。そして部屋の前の階段を一、二段登り振り返ると、そこには来たときと同じように、深い地下へと続く階段が続いていた。
「夢物語か…… だけど零? ここはヘブン、夢すら現実になる街だよ。でもまあ、こんな街で見る夢だもの、それは悪夢に違いないだろうね」
 無限に続く地下への階段に誰とも無くそう呟き、のぼるはゆっくりと階段を上っていった。
 


2013/11/01(Fri)06:24:02 公開 / 鋏屋
■この作品の著作権は鋏屋さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めましての人は初めまして。おなじみの人は毎度どうも。鋏屋でございます。
ここまで読んでいただいた方、大変感謝いたします。
この話は、以前から架空の街を作ってみたくて書きました。もうごっちゃ煮みたいな、何でもありの混沌とした街ってやつを創造したくて、色々と設定を考えてはボツにしたりしてましたが、ようやく形になってきたので書いてみました。
そんなおかしな街に生きる人たちを書いてみようかなってw
一応、起承転結の4部構成で考えてますので、たいして長いお話しではありませんが、おつきあいくださればと思います。
こんなふざけた街ですが、私にとっても、読んでくださる方にとっても魅力的な街にして行けたら良いなぁ……
それでは、こんなお話しですが、一人でもおもしろいと思っていただける方が居ることを願って。
鋏屋でした。

10月30日:誤字修正

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
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MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。