『鼓動リモコン』 ... ジャンル:ショート*2 SF
作者:月渡り
あらすじ・作品紹介
星新一をイメージして書いた読み切り掌編小説です。消音になっている心臓の鼓動のボリュームを操作することのできるリモコンを開発した博士のお話です。読みやすく気軽に楽しんでいただける内容になっていると思います。
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ある博士が、消音になっている心臓の鼓動のボリュームを操作することのできるリモコンを開発した。
彼はさっそく自分の心臓をめがけてリモコンのプラスボタンを押してみる。すると『ドクン、ドクン、ドクン……』と、心臓の鼓動の音が耳に届くようになった。どうやら実験は成功のようだ。
それにしても、博士は一体どうしてこのようなリモコンを開発したのか。
その動機は、彼の一人娘の生存を自分の耳でしっかりと確認する為だった。彼女は今、原因不明の病に掛かっていて、ガラス張りの部屋に一人閉じ込められていた。中に立ち入ることは許されず、外から見ているだけでは生きているのかどうかさえ分からない。
しかし、リモコンが完成した今では、もう心配することはなかった。
彼は誇らしげにリモコンを手にし、娘の心臓に標準を合わせる。そうして少しずつボリュームを上げていく。
『ドクン、ドクン、ドクン……』
徐々に大きくなっていくその音を聞いて、博士の表情は緊張の面持ちから穏やかな顔へと変化していった。ついに娘の生存を確かめることが出来た。これからは離れていても確かに娘の鼓動を聞くことができる。
彼はその喜びを抱きしめるように、リモコンをギュッと握りしめた。
ドクンと鳴る鼓動の主が、娘の周りを飛ぶ小さなハエのものとは知らずに。
彼女の身体がすでに冷たくなっていることを知らずに。
博士は幸せの鼓動に耳を澄ませている。
2013/10/11(Fri)21:20:17 公開 /
月渡り
http://www2.hp-ez.com/hp/tsukiwatari/page9
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