『じょしかく!』 ... ジャンル:アクション ファンタジー
作者:yo-su                

     あらすじ・作品紹介
女子高生総合格闘技大会:ワルキューレUー18そこでの優勝を目指す総合格闘技クラブ所属のお嬢様達の物語強くなるために必要なのは努力?友情?…それともお金?

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一話:タイソン様が見てる

桜の季節
柔らかいな春の陽射し
新たな出会いに小さな胸を弾ませる少女達
初々しい笑顔に包まれた
ここは豊蘭女子高校、そこそこのお嬢様から入学が可能で地元では有名な少女達の秘密の花園、桜庭加奈もこの陽射しの下、華やかだが品が有る校門を潜り少女達の花園へ歩みを進めていた、周囲の生徒と同じく加奈の心も今日から始まる学生生活の事を考えると希望に満ちていた
「ご…ごきげんよう」
「ごきげんよう」
恥ずかしそうに、されど誇らしげにお嬢様な挨拶を交わしあう少女達を見て、内心(キタ━(゚∀゚)━!)な顔になりながら加奈は胸に込み合げてくる熱い思いを顔には出さず周囲を冷静に観察し、自分もお嬢様な挨拶は恥ずかしいが、やはりここは周りの生徒達と同じように挨拶をしようと覚悟を決め、その初々しくも可憐なお嬢様道を一歩踏みだそうと、挨拶を口にした
「ごきげんよ…」

「アップワァァァァーカットーーーー!!!」

加奈にとってのお嬢様道一歩目は神谷明節の効いたシャウトと強烈に迫ってくる殺気、そして下顎に感じる鈍く重い衝撃を身体を後方にスウェーしその衝撃を殺す事から始まった、お嬢様道を歩んでると思ったら、いつの間にか修羅道を歩んでた
何を言ってるかわからねーと思うが、私も何をされたのかわからなかった…。
そして人間は何百時間と言う気が遠くなるような鍛錬の末、無意識でも身体が反応し反撃を行う事が可能だ!唐突に現れた殺意の塊のような突き上げを後方に流し瞬時に間合いを取り相手が次の攻撃に転じる前に中段蹴り、ひと呼吸でこれを行うのが重要だ、加奈の中段蹴りは相手にガードされたが確実に相手の動きを止める事が出来た、そして動きを中段蹴りによって止められた爽やかな春の暗殺者、その正体は加奈の幼馴染、花川紗綾だった紗綾はこの豊蘭高校が建つこの船崎市の市長で日本では有数の会員数を誇るボクシングジム花川ジムの会長花川武一郎の一人娘、端正な顔立ちにボーイッシュな短髪と外見通りのサバサバした性格、そして強い正義感、正に同性に持てる女を絵に書いたような女子で有るが小学生時代からの付き合いで幼馴染の加奈は知っている、正義感が強いと言えば聞こえは良いが、こいつの本性は正義という大義名分を振りかざし弱きを守り強きを蹂躙する心優しき戦闘狂だ、加奈は瞬時に思考をフル回転させえ考えた、この場でこいつを埋めてしまいこの一瞬の攻防を何もなかった風に振舞、そしてお嬢様として学生生活を再スタートするのはまだ手遅れじゃないか?…空気の流れそして感情の流れを読むように素早く丁寧に周囲を見渡した…そんな訳ない無いじゃん、手遅れな訳ないじゃん!!周囲のお嬢様達はドン引きだった、中には涙目になってる子も居る、当然だ入学式初日に神聖な秘密の花園で異種格闘技戦が繰り広げられたのだ
(このままだとヤバイ、何とか取り繕わないと私の女子高生ライフが)
そんな加奈の苦悩を知ってか知らずか紗綾の方から声をかけてきた
「おぅ!加奈やん卒業式ぶりだな!」
「ごきげんよう紗綾さん、相変わらず元気なご挨拶ですわね、後加奈やんって言わないでくださいません?」
「ごきげんようだぜ加奈やん、その言葉使い気持ち悪いよ?何か変な物でも食べたの?
それとも空手の試合で頭でも打って馬鹿になっちゃった?」
そう、これは紗綾の挨拶なのだ、間違っても暴力行為では無いし乱闘騒ぎでも無いのよ〜…と周囲にアピールをしている途中、紗綾のあまりにあまりなトラッシュトークに加奈の思考はブチィと鈍い音をたて切れ、被ってた猫が断末魔の絶叫を上げながら逃げて行った
「馬鹿は己じゃぁぁぁぁ!!!!どこの女子高生が登校中に挨拶がわりのアッパーカットを繰り出すのよ?何?アンタの前世は辻斬りなの?」
「とんでもない、アタシの前世はマイク・タイソンだぜ!」
馬鹿だった…お嬢様どうこう以前に高校生として人間として馬鹿な返答だった、そんな馬鹿なやり取りに時間を使っていたら、入学式場へと新入生を促す校内放送が流れた加奈と紗綾は先ほどの激しい暴力のやり取りが丸で無かったかのように、通常の挨拶を済ませた後のように並んで入学式場である体育館に向い少し歩みを早めた
「まっ、アンタの前世が何だろうがどうでも良いわ、それより何でアンタが此処にいるのよ、ここは一応お嬢様学校よ?」
「アタシはお嬢様だぜ?市長の娘で地元の名士の一人娘だぜ、もしかしたら加奈やんよりお嬢様だぜ」
「へぃへぃそうでした、アンタは良い所のお嬢様なのよね…世の中って不公平だわぁ」
「でも、本音言うと女子高なんて初めての体験だし心細かったから加奈やんに会えて嬉しかったぜ」
「アンタは嬉しい時にアッパーカットすんのか?それに女子高が初めての体験て当然でしょ?
私達は今日から女子高生になるんだから……それと心細かったのは私も同じだし、会えて嬉しかったわよ」
「おっ加奈やんがデレたぜ〜!」
「誰がデレたか!後加奈やんって言うな」
幼馴染との再会を喜びながら入学式へ向う2人、それを遠くから見つめている獣のような視線にこの時は2人とも気が付かないので有った。

ニ話:柿本英子の鍛錬 前編:衝突

柿本英子とは柿本財閥の一人娘で有る、容姿端麗文武両道それでもって性格は傲岸不遜唯我独尊、英子はこの春休みを使ってブラジルで一番有名なMMAジム、フロンティアジムに来訪していた。
目的は元ワルキューレライト級チャンピオン、カリーム・コルナとのスパーリングで有る、本来なら女子格アマチュア高校生ファイターの身分で面会すらできるはずが無い人物だった、しかし英子は目的のための資金投入を惜しまない、
その出会いが自分を強くすると確信したら湧き水のように金銭を投資する、今回の元チャンピオンとのスパーリングではカリームに対して年に2回行われるワルキューレのファイトマネー換算で5回分の金額が支払われる事になっている、それも即日キャッシュでだ、ブラジルの貧しい環境から這い上がってきたカリームにとって今回のスパーリングは経済大国日本から世間知らずなお嬢ちゃんが莫大な現金をわざわざ手渡ししに来てくれるそのついでに軽く趣味の遊びに付き合ってさしあげるボーナスみたいな物だった、勿論カリームを筆頭にスタッフ一堂が喜色満面の笑顔で英子を向い入れた、ブラジル人は日本人よりもリアリストだ金が無ければ路上に転がる死体かマフィアに売り飛ばされて知らない土地で死体として転がるか
どちらにしても死ぬだけだと、プライドとか見栄で命は維持できない、生きると言う事は這い上がり金を稼ぐ事、それが生きると言う意味だ
「ハイ!レディ柿本、お会いできて光栄です、私は」
「ミス、カリーム、元ワルキューレライト級チャンピオン、こちらこそお会いできて光栄だわ」
「お噂には聴いてましたが、ここまで美しい女性だとは想像もつきませんでした、日本では貴方みたいな女性の事を大和撫子と呼ぶんですか?」
「さぁどうかしら、私は大和撫子では無いと思うのだけどね…それにしてもカリーム、貴方の肉体は綺麗ね、まるで野生の肉食獣を彷彿とさせる無駄の無い筋肉量だわ」
「ありがとうございます、私はこの身体でここまで成り上がりましたから、この身体が私の全てですよ」
「ふぅん…金言ね」
カリームは流暢なポルトガル語を繰り出す目の前の女子高生に強烈な違和感を覚えた、普通は男だろうが私と初対面で対面すれば萎縮するものだ、自分は女としての幸せを捨て誰もが自分を畏怖する程に、そこまで肉体を鍛え抜いたのだそれなのに目の前の少女は長い手足、整った顔、細いウェスト、お人形さんみたいな容姿をしながら自分の圧力を物ともせずに受け流している、カリームにとってそれは違和感と同時に不愉快な感覚だが相手は大財閥の一人娘で有る、機嫌をそこねれば自分に付いているスポンサー等塵芥のように吹き飛ぶレベルだ、それはどうしても避けなければいけない、女を捨て勉学を捨てた自分が持っている最後の居場所を失わないためにも、カリームは違和感と不快感を押し殺し話を先にすすめようと勤めた
「それで本日のカリキュラムなんですが、基礎訓練とブラジリアン柔術の体験をしていただき、その後にスパーリングを私とするという事でよろしいですか?」
「結構よ」
「そうですか、それなら良かった、ではまず更衣室へご案内します」
「基礎訓練もブラジリアン柔術も結構よ、準備運動をしたらスパーリングを開始しましょう?元チャンピオン」
「いやいや、飛行機での長旅でレディもお疲れでしょう?身体を温めてからスパーリングしないと怪我の原因になりますし危険ですし、それに成長期の身体に無理は禁物ですよ」
「プライベートジェットの中で軽いトレーニングはこなしてある、身体は充分温まってるわ、それとも日本の小娘がどんな動きをするのか観察した後じゃないと怖くてスパーリングに挑めないのかしら?元チャンプ」
舐められている、貧困層から身体1つで上り詰めた自分が乳臭い日本の小娘に舐められてるのだ、周囲のジムスタッフ達の顔が強ばっている、理由は簡単だカリームの顔が鬼のような形相になっていたのだから
「面白い事言うわねレディ、プロが甘やかすとスグに調子に乗るのはアマチュアな証拠だわ」
「そうかもしれませんね、アマチュアがプロより強いなんて、プロの立場としては許容できる事じゃないですものね」
「それは私に言ってるのか?」
「あら、元チャンプは私に負けるかもしれないと思ってるのかしら」
穏やかな陽射しの中、和やかな商談と自己紹介を行うはずだった空間は瞬時に修羅場になっていた
「それで元チャンプ、すぐにスパーリングのお相手してくださるのかしら、もし怖じけついてしまったのでしたら、残念ですが今回のお話は無かった事に」
「余り調子に乗らないほうが良い、綺麗な顔のまま日本にお帰りいただく事が難しくなる」
「それはスパーリング相手として合意して頂いたと考えてよろしいのですわね」
「30分後だ、30分後にスパーリングを開始しようじゃないか、それまでにせいぜいケガしないように柔軟をしっかりしておいてくださいレディ、どうやら優しい遊び相手としての対応じゃご不満なようですから」
「上出来よ…それじゃ30分後」
更衣室へと歩き去って行く英子の後ろ姿をカリームは鬼の顔で睨んでいた、もぅ誰も止められない。
日本からきた怖いもの知らずなお嬢様をどうやって無事帰国させるか、万が一事故が起きてしまった場合そう遠くない未来に自分達ジムスタッフは職を失う事になるだろう…スタッフ達は頭を抱えるしかなかった、周囲の苦悩をよそにカリームは怒りに震えていた、日本人に対して嫌悪感は無かった、それどころか勤勉で誠実な日本人に対してカリームは好感すらもっていた、しかしあの日私の前に現れた日本人は別だった。
自分を王者から転落させた女は日本人だった、相対した時、彼女はつねに自信に満ち溢れ不敵な笑顔を浮かべていた、しかしカリームはそんな彼女を見てもスタンドで打ち合いながら様子を見て隙が有ればテイクダウンに持って行き自分が得意な関節技で早々に決着をつけてしまおうと試合前に考えていた、いくら勤勉で実直な日本人とは言え私はブラジル人だ手足の長さにフィジカル差、この差は正直埋められない差だと確信していた当時の日本人ファイターと言えば器用にMMA技術を学び使いこなしてはいたが、それでもやはり全ての日本人ファイターが人種的な壁べにぶち当たり、ワルキューレのどの階級にもチャンピオンになれた日本人は皆無だった、カリームはファイターとしての日本人を軽視していた。
…しかし試合は一方的な展開だった、スタンドで打ち合いジャブで距離をはかろうと拳を軽く前にだした瞬間、圧倒的な衝撃がカリームの顔面を襲った、想像を絶する速さで身体を低く低空で突っ込んできた美香がダッキングからの右ストレートを打ち込んできたのだ、余りの衝撃に身体を後に逃そうとしたカリームの首をは次の瞬間に美香の両腕にロックされていた、膝が来る!と思った瞬間再度顔面を襲う鈍い衝撃と鈍痛、カリームが次に気がついた時目に入ったのはKOを告げるレフェリーと、不敵な笑顔のまま自分を見下ろす美香の顔だった、純粋な恐怖に呆然としながら自分の王座転落を受け入れるしかなかった。
その日から日本人が嫌いと言うわけでは無いが苦手意識を持ってしまったのも事実で有る、柿本英子は彼女に似ている、自分は強いと信じて疑わない、自分が望めば全てが手に入ると思い込んでいる、一度敵視してしまったら、いくら相手が自分のスポンサー全てを覆すぐらいの財力をもつ大財閥の娘だろうが、万が一の事故が起きてしまった場合自分の全てで有る戦う場所すら失う可能性が有るとか全ての最悪な可能性を考えてもなお、全力で英子を潰す事を決めてしまった、許せない事は絶対に許せない、カリームはそういう性分なのだ自分の全てをかけてお金持ちのお嬢様に世間の厳しさを教えてやろうと
、日本人ファイターは侮れない、それだけを心に確信しながらゆっくりとストレッチを開始し
彼女は30分後のスパーリング開始を静かに待った。

三話:柿本英子の鍛錬 後編:天才の成長

マットの上で向かい合う2人、女子総合格闘技ブームの昨今、誰もが知るブラジルの強豪女性ファイターそれに相対するのは日本から来た細身な美少女だ、しかもカリームは頭に血が完全に昇ってしまい想像できる最悪の未来を案じてるかのような剣呑な表情をしている。
俗に言う喧嘩は先に相手を殴った方が大概勝つ、この考え方は大方正しい、大半の人間は殴られなれてない生き物だ格闘家とは言え顎などの急所を不意に脳を揺さぶる形で殴られたら結構な可能性で意識を飛ばしてしまうだろう、ただしお互いの距離が一定以上有り戦う意思が有る状況では話が変わってきてしまう自分が先手を取り相手に殴りかかったら?相手がカウンターを合わせてくるかもしれない、それよりも相手が自分の頭部へハイキックを打ってきたら自分はどのように対応するのが一番リスクは低い?自分はグラウンドでの寝技が得意だ、それならやはり相手の拳なり蹴りなりに合わせてテイクダウンを?それとも接近戦に見せかけて抱きつきからの投げ技でグラウンドを取る事も可能だ、しかし相手は手足が長いクリンチが得意なタイプだったら次の瞬間自分はマットに沈んでしまうかもしれない。
このような不安猜疑心と戦い、そして対面した相手を観察し身体的な情報を取捨取得して最善の手を相手より先に選ぶ、準備を整えてからの戦いとは情報戦から始まるのだ、情報を制しその情報に適した行動を迅速に的確にこなせる身体能力こそがファイターとしての最低条件だ、カリームは英子という相手を測りかねていたフェザー級だと思われる細身な身体、カリームに優るとも劣らない日本人離れした手足の長さ、そして不敵な笑顔、しかしどう見ても打たれ弱そうな彼女に対して序盤はフィジカルで押して行きスタミナ切れを感じた所で先ほど断られたブラジリアン柔術の怖さを教えてやろうと自分の中で試合の流れを決めたのだ。
試合が動いたのはカリームの素早いローキックから左ジャブへと繋いだ一連の動作だった、対する英子は中国拳法を思わせるような流れる動きでローキックは狙わた足を浮かして流し横への勢いで身体を反転させジャブを躱しバックブロー、裏拳をカリームの顔に叩き込むが、これをカリームが右腕でガードをして間合いを取りながらのミドルキックこれには英子もたまらず一旦後へと距離を取る、そして再度情報戦が行われる、ワルキューレ所属のファイターとして生きると言う事はこれの繰り返しを意味するのだ、少しのミスが戦力不足が敗北に繋がる。
柿本英子は歓喜していた、自分に対して明確な敵意を剥き出しに襲いかかってくる攻撃に、相手は並の男性よりも遥かに鍛えあげられているブラジル人だ、それが敵意を剥き出しにして拳を蹴りを繰り出してくるそれが意味する所は一発でもまともに喰らえば喰らった場所は当分使い物にならなくなる、最悪骨折だってありえる顔に貰えば鼻血をまき散らしマットに自分は倒れるのだろう、上手く相手の攻撃を受け流した左足には小さいが鈍い痛みが走った、同階級の選手相手なら問題にならないような攻撃のやりとりでもウィトの差はそのまま打撃の威力になって自分に襲いかかってくる、そんな白刃の上を歩くような緊張感が英子に充実感を生み出してくれるのだ、自分が不利になればなる程その不利を跳ね返すために自分は努力が出来る、それは何一つ不自由をした事が無い人生を過ごしてきた英子にとって今を生きる証明に他ならない、自分より強い人間と戦う時、そしてその戦いの中で努力し成長し不利な立場から相手を倒し生還した時に英子は涙が出る程の安心感と幸福感に包まれるのだ、確かに今回カリームに対しての挑発行為は行き過ぎた所も有ると自覚している、しかし英子は今年開催される全国女子総合格闘技大会ワルキューレUー18に豊蘭高校の代表選手として出場し結果を残さなければいけない、その使命感が彼女を挑発行為に走らせたのだ、けして自分のためだけでは無く自分を支えてくれ協力してくれている恩師と親友のためにもカリーム相手に成長し、このジムを出る時にはカリームより強い自分で無ければ今日大金を動かしてまでここに来た意味が無いのだ。試合は情報戦とそれに合わせたスタンドでの打ち合いに終始していた、しかしカリーナが常人では考えられない低空のタックルで英子の片足を捕まえグラウンドへと持ち込んだ、英子は長い手足を使ってガードポジションへと持って行くが、相手は打撃よりグラウンドの攻防と関節技にも重きを置くオールラウンダーな柔術家だ油断したら極められて終わる、勝ちを確信し勝負に出得たカリームは素早く英子の足関節を固めようとした、しかし固めようとしたカリームの腕の関節を押し潰すかたちで空いていた英子の左足がのびたのだ、腕の関節を蹴りつけられた痛みでカリームの力が緩んだ瞬間に英子は既に何事も無かったかのように立ち上がっていた、再びスタンドでの打ち合いをカリームが予想した時、このマットに上がって初めて英子が口を開いた。
「やっと越えた」
その言葉と同時に英子はガードしていた両手を下げ腰の所で脱力したのだ、それを見たカリームが馬鹿にされたと思い左ジャブ、右フック左ジャブ、左ジャブ、右ストレート、左ハイキックとラッシュをかける、そしてラッシュを仕掛れば仕掛ける程にカリームの顔色もスタッフの顔色も青くなって行くのだ、それは本当に有り得ない事だったカリームから見たら悪夢以外の何者でもなかっただろう、攻撃が当たらないのだ、ガードを下げだらしなく手を下にたらした英子に対して息もつかせえないラッシュを繰り出すが一切当たらないかすらないのだ、英子は上半身を軽く動かしてるだけにも見える、そして英子が上半身を軽く動かした事で生じた空間にカリームが必死に拳を突き出し蹴りを繰り出してる、はたから見たらできの悪いヒーローショーみたいだと思うに違いない、しかし現実はいつだって敗者にとっては残酷な物語で勝者にとっては幸運を産む奇跡だ、カリームが英子の存在を認識し、右の拳で英子の左頬をフックで貫こうと思い右拳を繰り出す、繰り出すと同時かむしろ少し速いぐらいの動きで英子が身体を斜め後に逃す、そうすると拳は英子に触れる事なく空振りをする、蹴りもそうだったローを出そうと右足を出すと、出した場所に相手の左足は存在しない、ボディを狙えば相手の身体は斜めに捻った状態に既になっておりその場に英子のボディは存在しない、焦ったカリームが距離を見誤り英子の間合いに深入りしてしまった瞬間、英子の身体が空を舞い膝が顎に埋まったカリームは糸が切れた人形のようにその場に倒れふせた、途中まで五分と五分…むしろフィジカルの差でカリームが優勢だったとは思えない程に圧倒的な幕切れだった。
「ありがとうミス・カリーム、おかげで勉強になった、貴方のおかげで私は強くなれた感謝するわ」
意識が戻ったカリームに先程までの慇懃無礼な態度が嘘のような親しげに英子は喋りかけてきた、そして契約通りの金額が書かれた小切手をカリームに手渡し手早く更衣室で私服に着替え颯爽と帰路についたのだった。
そしてカリームはこの日を境にファイターを引退しトレーナーとして余生を過ごす事を決意したと後日語っている

柿本家プライベートジェット機内
新入生予定の子供達の情報をリストアップしたノートパソコンを見ながら彼女が呟いた
「去年は個人戦しか参加出来なかったけど、今年のワルキューレは団体戦も行けそうね…」
デスクトップに写っていた新入生の情報が桜庭加奈と花川紗綾で有った事は言うまでもない


四話:Let's野試合

無事入学式を終えた加奈と紗綾は案の定同じクラスで簡単なホームルームと自己紹介をこなし帰宅の途につく事になった、加奈は女子力が高いお嬢様達とお近づきになり自信の女子力を高めたいと言う強い思いがあったが、それよりも今日至急解決しないといけない案件が本日午前の入学式寸前に発生したのだ…勿論紗綾の事で有る、あの戦闘狂は事あるごとにボディーランゲージという名前の荒々しい拳を降り注いでくる、中学生時代は加奈もそれが楽しくてしょうがなかった、授業の休憩時間のたびに空手対ボクシングと銘打って3分2Rのスパーリングを行ったりもしていたし周囲もそれを楽しんでくれいたと思うギャラリーは日に日に増え、丁度女子の総合格闘技団体ワルキューレの試合がテレビ放送で始まった流行の流れも有り中学生時代の加奈と紗綾は船崎中学校のアイドルファイターという栄誉あるポジションに君臨していた、紗綾はその外見もあって同性からの支持が強く加奈も紗綾の普段の外面の良さと王子様的なルックスであればそれは仕方がない事だと納得していし紗綾も満更でもなさそうだった、紗綾が女性ファンを自分が男性ファンをと加奈は照れながら考えていた紗綾は男性的だが自分は女性的だと…そう加奈は慢心していたのだ、そんな加奈は中学3年の夏の日、一人の女子生徒に告白された、こんな事は紗綾なら日常茶飯事の出来事だったのかもしれないが加奈にとっては驚天動地の出来事だった、てか怖かった目がマジな同性の後輩に愛を呟かれるのは恐怖以外の何物でも無く加奈は全力で逃走した本気で怖かったのだ、こんな出来事をしょっちゅう綺麗に受け流してる紗綾は本当に凄いと思った、この事件がこれで終わればそれはそれで怖い思い出は残る物の加奈にとっては苦い体験ってだけの事だったのかもしれない、しかし現実はいつだって慢心した物を絶望の縁まで追い詰める、加奈が後輩の女子生徒に告白されたという噂は次の日にはクラスで既に充満していた、加奈にとって別にそれは大した問題では無かったしそれが自分の評判を貶める物でも無い、むしろ自分の人気に箔が付くんじゃないかぐらいの事は思っていた…慢心していたのだ、しかし加奈は聞いてしまったのだ男子達の会話を。
「加奈が後輩の女子に告られたってさ」
「あぁ聞いた聞いた、あれ本当かよ?」
「本当らしいぜー、まぁあいつカッコイイからな、何て言うの男らしい?」
「まぁ女だけどカッコイイよな、俺も女にモテたいなぁ」
「だなぁ〜、紗綾は隠れた所に女子っぽさが有りそうだけど加奈って何か本質的な所が男って感じするじゃん?」
「解る解る!普段サバサバしてる紗綾の方が何か実は女性っぽい面が有りそうって言うかね!」
「だなぁー」
「加奈さんマジ兄貴!」
「馬鹿、加奈さんに聞かれたら殺されるぞ」
「やっべぇえ」
「マジやっべぇ」
「加奈さんやべぇ」
加奈はそんな会話を盗み聞きしながら激しく戸惑った
(ちょっと待て、紗綾が私より女性っぽくて私が男性っぽいて如何いう事?そ…それより私が兄貴ってどういう意味だ!何が加奈さんマジ兄貴!だ殺すぞ吉井!!!!)
お調子者なクラスメイトの吉井が加奈が自分を見てる事に気がついて話しかけてきた
「兄貴お疲れ様です!後輩の女性徒から告白されたらしいですな、流石男前えは違いますな!憎いよ色男!」
「ダッシャッコラァァァ!」
空手少女のはずの加奈が獣の雄叫びと同時にやけに打点の高いドロップキックで吉井を吹き飛ばしていた、次の日から加奈は男子から尊敬と畏怖を込めて「加奈兄貴」と呼ぶようになった、勿論思春期なのに彼氏はできずそれどころか男子生徒の大半は加奈を兄貴と呼ぶしまつ、余りにも青春からかけ離れた自分の立場に枕を濡らした加奈は何としてでも女子力を取り戻し魅力的な女性になるのだと心に誓い、近所ではお淑やかなお嬢様が多い事で有名な豊蘭女子高に地獄のような猛勉強をして入学したのだ、空手の道場にも週末は通ったりしているがそれはあくまで趣味の範疇で有り自分がこの3年間もっとも学ばなけれえばいけないものは女子力だと加奈は考えている、それなのに…それなのにだ花川紗綾が現れた、彼女は早急に手を打たなければいけない危険な存在だ、このままでは花の女子高生生活が拳と拳のぶつかり合いで浪費されかねない、それは正に悪夢だ自分は女子力を高めるためにこの高校を選んだの決して紗綾との殴り合いを楽しむために選んだわけじゃない。
「紗綾、話が有るの、今日暇?」
「おぉ加奈やん、夜は親父がアタシの入学祝いをジムでひらくって言ってたけど、それまでなら暇だぜ」
「じゃぁ少し付き合ってくれるかな」
「愛の告白とかじゃないなら全然構わないぜ」
「バ〜カ」
二人が連れ添って到着したのは加奈と紗綾が小学生時代によく遊んでいた神社だった、勿論行き先を指定したのは加奈だった、とにかく此処で紗綾を説得しなければ自分の女子高生として歩き出したばかりの青春という名の果てしない坂が未完になってしまうからだ!
緊張で加奈の頬を汗が一筋流れた、まるでこれから試合でも始まるかのような緊張感が周囲を包み込んだ。
「…紗綾あのね」
「ゴメン!…さっきからずっと考えてたけど、やっぱり愛の告白は受け入れられないぜ」
「だからそれは違うって言ったでしょ!百合ネタで引っ張るの辞めてよ」
「がちゆりだぜ」
「がちかよ!って百合なのかよ!」
「アタシはいたってノーマルだぜ?人の思念が流れ込んできたりは残念ながらしないぜ」
「別に紗綾ってニュータイプ?とか聞いた憶えは無いよ?…もぅいい突っ込みも疲れてきたから本題入るわね」
「受けて立つぜ」
「紗綾、あのね…私もぅ空手は趣味程度にして貴方との他流試合とかワルキューレごっことか、そう言う誰かと戦うのは辞めようと思うの」
「それは駄目だぜ」
「そっか〜…駄目かぁ、って駄目?、何で駄目なのよ!」
「それは加奈やんもアタシも戦う宿命の元に産まれたら戦乙女だからだぜ(`・ω・´)ノ」
「今度は厨ニかぁぁ!」
何処までも紗綾の巫山戯た対応に加奈は激しく焦っていた…このまま紗綾のペースに乗せられてしまったら今度こそ本当にワルキューレに一緒に参戦しようとか言い出しかねない、言い出したら一直線な彼女の事だ、気がついたら自分を連れてワルキューレに参戦とか本当にしかねない、もしそんな事になって自分が世間から兄貴呼ばわれされる日が来たら…と加奈の被害妄想は加速して爆発した。
「私はもぅ戦いたくないの、そんな事してたら全然女っぽくならないんだもん、また兄貴って呼ばれちゃうんだもん、あのトラウマを克服するためにも私は女子力を高めて魅力的な女性になるのよ!!」
「み…魅力的な女性か、凄い漠然とした目標だな…流石のアタシも加奈がそんな理由で戦うのを辞めたいって言ってたかと思うと、ちょっと…いやけっこう引いたぜ」
「そんなって何よ、そんなって!とにかく私はもぅ誰かと戦ったりなんかしないの!解ってくれた?」
「いや…何て言うか…」
「解ってくれたわね!」
(この流れで強引に私が二度と戦わないって主張すれば紗綾も引っ込まざるえないはず!…これは勝った!)
このままでは不利と思ったのか強引に話を進めようとする加奈に若干ドン引きな紗綾が、ある提案をしてきた
「解った…解ったぜ、それじゃぁこうしよう、ここで試合をして加奈が勝ったら二度とアタシに付き合って戦ったりしなくてかまわない、アタシが勝ったら一回考え直して欲しい」
「別に何回考え直しても私の考えは変わらないわよ、それでアンタはいいの?」
「別にかまわないぜ、どうしても戦うのを辞めたいって加奈やんを無理やり引き止めるわけにもいかないからな、ただ最後の最後に本気での立会いを望むぜ!これはそう…想い出作りってやつだぜ」
「想い出作り、別にそれはかまわないけど流石に素手で殴り合うって言うのは花も恥じらう女子高生としては」
「加奈やん、その発言は痛いぜ…それとグローブならここに2人分有るから大丈夫だぜ」
「アンタ、普段からいつもそんなの持ち歩いてるの?」
「当然だぜ!いついかなるときに試合を挑まれても良いように常に警戒レベルは5だぜ」
「いや…戦争レベルの技術解除はしないでほしいかなぁ…あと常にってそれは危ない人にも限度が有るわ」
どうしよう友人が歩く凶器だった…そんな凶器がグローブを投げてよこした。
「理想はオープンフィンガーグローブなんだけどね、まぁ紗綾が持ってるグローブって言ったらボクシンググローブよね…まぁこれはこれでケガはしにくいから別に良いけど」
「おぅ、グローブって言ったらボクシンググローブだぜ!」
変な流れになったなと思いながらも、自分の格闘家としての最後の想い出作りと考えると今日この目出度き日に友人と神社で殴り合うのも決して悪い物じゃないなと加奈は思い始めていた、物心付いたときから空手を学び、中学時代の3年間を紗綾や他の格闘技経験者との他流試合に費やした加奈はやはり血が騒ぐのだ。
向かい合う二人の間を春風が吹いた。
「いつはじめるの?」
「もぅ、はじまってるぜ」

2013/09/29(Sun)19:11:40 公開 / yo-su
■この作品の著作権はyo-suさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
この度は「じょしかく!」を読んでいただきまして感謝の言葉しか御座いません
小説を書いてみたいとは昔から思っていたんですが、「じっさい小説書くって時間かかりそうだし、プライベートは本読んだりゲームしたりダラダラしたいしなぁ」と言う良く有るパターンで日々過ごして来ました、元々総合格闘技とか格闘技が好きでして、そういう漫画とかも読んでたんですが唐突に「そういえば萌え系の格闘技本って無いのかな?読んでみたいな〜」と思い悩むようになり、色々と探し回った結果そんなオマエさんに都合が良い本は無い!という現実に絶望し、この度稚拙ながら自作する事になりました、色んなかたにご指摘いただきながら読みやすく楽しい美少女バイオレンス小説にできましたら幸で御座います、今後ともよろしくお願いしますm(__)m

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。