『日常的会話』 ... ジャンル:リアル・現代 ショート*2
作者:火秧                

     あらすじ・作品紹介
宮古は殺人を見る事が一番の趣味であった。それは幼少期の頃から始まり、今になっても続いている、最長の悪趣味である。

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宮古は殺人を見る事が一番の趣味であった。それは幼少期の頃から始まり、今になっても続いている、最長の悪趣味である。


「宮古、あなた、また殺したわね?」
今はもう使われなくなった生徒会室にやって来たのは今年で五年目となる久保という教師であった。スラリとした長身に、肩まで伸びたか艶やかな髪がクールさを引き出している。
宮古は奥の、社長が座るような立派な椅子で久保を横目で見た。その姿は、立場は教師の方が上であるというのに、まるで宮古の方が上であるかのような威圧感がある。
「先生、僕は何も手を出していませんよ。彼が勝手に自殺をしたんです」
「お前の事だ……、何も手掛かりを残さなかったんだろう」
宮古はすぅ、と目を細めると、唇を緩く弧に描いた。久保は腰に手を当て溜息を吐くと、壁にもたれかかった。
「彼は恋人とのいざこざがあったな。前にそれで問題になって休んでいた……。そして、」
「殺害の原因もばっちりある、という事ですね」
途中で口を挟んだ宮古は、愉快そうな笑みを作り、くるりと椅子を反転させて開放感のある大きな窓の外を眺めた。障害となる木もないので眺めは最高に良い。下には図書館と、図書館の奥には木で囲まれた大きな倉庫がある。彼はその倉庫で殺人を行った。雲の無い満月の日であった事を、宮古は思い出していた。
「生きた人間というのは、どんな非道な行いも出来るものですね。彼が、彼女をあんなにも切り刻むとは思っていませんでしたよ」
背中を向けられている久保には宮古の顔が見えないが、恐らく笑っているであろうことは声でわかった。
彼、細川が恋人である東山を殺害したのは宮古のせいであると言っても過言では無い。きっかけを作ったのは宮古であるのだから。
「彼が死んだのはお前のせいだろう」
「だから、彼を殺したのは僕ではありません、と言っているでしょう? 誰かが殺した形跡はないんです。つまり、自殺なんですよ」
「どうせ春日にでも殺させたんだろう?」
絞り出すような笑い声が椅子の向こうから聞こえる。宮古は立ち上がって窓に近付くと、下を覗き込む姿勢になった。彼の首筋に掛かる髪が少しずり下がる。
「……本当に、春日は何をするにも優秀ですね」
春日が細川を殺した。宮古はそう言った。
春日というのは宮古と同級生の生徒である。成績が良いのだが、目立たなく、友人といるところを見た事が無い。影の薄い少女だ。そんな彼女が間違った方向に非常に優秀であることは、久保も認めていた。今回の事件にも春日は宮古の望む行動をしていた。
椅子が微かに悲鳴を上げる音がして、久保はそちらに目を向ける。
椅子に座った彼は相変わらず背中を向けていて、表情を読み取る事は出来ないが、窓に映る彼の顔は、きっと今回の事件を思い出して最高に歪んだ悦を露わにしているのだろうと、久保はぶるりと震えた。
実を言うと、近くで事件が起きるのは殆ど、いや全部が宮古が関わっている。だから今回の質問も、聞く意味の無いものであった。久保は全て、彼から聞かなくてもわかっていた。ただ、ゲームをクリアした後の感動を分かち合う会話なのである。
「宮古、お前は愉快なやつだな。私を、こんなにも愉しませる男は初めてだ」
宮古は久保の告白に「先生の趣味、悪いですね」と、自虐をしているのをわかっているのか、わかっていないのか、見下したように笑った。

2013/01/07(Mon)01:36:21 公開 / 火秧
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■作者からのメッセージ
変に捻じ曲がった性格のキャラクターが好きで好きで……。練習作に出してみました。変人二人による日常的会話のワンシーンです。厳しい評価など貰えると嬉しいです。

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