『朝、花屋へ』 ... ジャンル:ショート*2 リアル・現代
作者:遥 彼方                

     あらすじ・作品紹介
私は朝早くに開店前の小さな花屋を訪れた。そこでは店員の女性が作業しており、彼女と短い会話を交わすのが毎日の習慣だった。

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
 私はその日朝早くに家を出発し、上限坂を登ったところにあった、そのフラワーショップへ入っていった。
 そこには少し奇妙な形の花が置かれており、私はそっと近づいてそれを眺めてみた。
 手の平で、優しく包み込んであげたくなるような、可愛らしい花だった。そうして手を伸ばすと、「あら」とそこで女性の声がした。
 振り向くと、入り口にエプロンをつけた若い女性が立っており、私は思わず微笑んで頭を下げた。すると、「いつも、本当にありがとうございます」と彼女は綺麗なお辞儀をしてきた。
「まだ開店前ですよ。どうしたんですか?」
 彼女はそう言って私の隣に立ち、一緒にその小さな花を見つめた。
「ここに来ると、心がすっきり晴れやかになりますから。どうしても足を運びたくなって」
 私がそうつぶやくと、彼女は頬を綻ばせた。
「それは嬉しいですね。この頃合いに準備を始めるんですが、今日は朝陽が特に気持ちよくて」
 私は微笑み返し、「この花、素敵ですね」とその植木鉢を指差した。
「きっとこの花があなたを呼び寄せてくれたんですね」
 彼女は本当に小さな声でそう言った。私はその横顔を見遣って、「今朝はこれで失礼します」と軽く会釈して歩き出した。
 女性は一瞬物言いたげな様子を見せたが、「また、いつでも」と手を振って送り出してくれた。私はそのまま商店街の道へと入っていく。
 そんな中、彼女の視線がずっとこちらに向けられていることに気付いていた。だが、私は心中でぽつりとつぶやき、その場を去るだけだった。
 ――私はあなたの心に呼び寄せられたんですよ。
 今すぐその想いを伝えたい気持ちに駆られたが、今はただ風の柔らかさに口元を緩ませるだけに留めておいた。
 そして、明日も必ず会いに行きます、と心に誓ったのだった。

2012/09/15(Sat)20:29:59 公開 / 遥 彼方
■この作品の著作権は遥 彼方さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
少しの時間でも作品を書き綴っていたいと思いまして、とあるファミレスで小休止している時に衝動的にノートに綴ったものです。設定やストーリーなど、突っ込みどころが満載だと思いますが、お気づきになった点がありましたら、何でもご意見をお聞かせいただけたら幸いです。よろしくお願いいたします。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。