『砂浜』 ... ジャンル:ショート*2 未分類
作者:水芭蕉猫                

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
 夜の波打ち際を歩いている。
 泡を立てながら押し寄せる冷たい波。
 引いていく瞬間に共に足の下の砂ごと海の向こうへ引きずられそうになる。
 砂を浚われて足の裏をくすぐられる感触に耐えながら歩いていると、月の光に照らされた貝殻が道しるべのようにきらきら輝いているのに気が付いた。
 見たことも無い貝殻で、指先でそっとつまんでみると、本当は貝のかけらは月に照らされて光っているのではなく、それ自体が月のように青白く光っているのであった。
 宙に翳して表裏をじっと眺めているうちに、そこではたりと気が付いた。
 この貝は、月から落ちてきた貝なのだ。
 だから、この貝の落ちている道を辿って行けば、最後にたどりつくのはきっと月なのだ。
 打ち捨てられた星屑のように重なるテトラポッドの上に浮かぶ月を見上げると、確かに遠いが、どうにかすればきっとたどり着けそうな気がする。
 しかし、このまま月へ行っても良いのだろうか。
 月は確かに綺麗だが、あそこには知り合いの一人も居ないのだ。
 光る貝殻を辿って月へ行こうか迷っていると、どこか遠くで犬の遠吠えが聞こえた。
 あまりにも寂しそうな遠吠えが耳の奥から頭の中に潜りこみ、そしてようやく決心した。
 仄明るい月の光の後を辿って、ゆっくりと歩み出す。
 暗い砂浜に落ちた貝殻を一枚一枚拾い上げながら、月に照らされて魚の鱗のように光る波の中を、のんびりと。
 月にたどり着くまで、どれくらいかかるだろう。
 暗い夜空を見上げると、自分が笑っているのに初めて気が付いた。

2012/08/20(Mon)23:08:00 公開 / 水芭蕉猫
■この作品の著作権は水芭蕉猫さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
何かを形にしたいと思ってやっと書き上げたものだったりします。
久しぶり過ぎて、何だかいろんなものがウヤムヤです。

八月二十日。ご意見を参考に語句のブレや描写をちょびっと修正。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。