『変態村』 ... ジャンル:ホラー サスペンス
作者:モロッコ                

     あらすじ・作品紹介
この村は狂っている。昔も、今も、そしてこれからもずっと―――

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「なんだよソレ、今まで聞いた中で最低のホラー話だ」
 サングラスをかけた肥満体の男がケラケラ笑っている。
「けど作り話じゃなくてホントにあった話だぜ?」
 対照的にガッチリした筋肉質のスキンヘッドの男が念を押した。だが、その顔は笑っている。
「よく言うぜ、この嘘吐き野郎が」
 サングラスがポケットからマリファナを取り出して口にくわえた。
「ったく、夜中にこんな薄気味悪ィ廃墟に連れ出されてこれじゃやってらんねェや」
 ライターをパチパチさせながら、サングラスが周りを見渡す。

 ―――彼らがいる場所は薄暗く、ただっ広い場所だった。
 唯一彼らの中央にある懐中電灯だけが光々と灯ってる。
 周りは錆びれた家具にボロボロの壁―――ここはある廃村の廃墟だった。
 ボロボロの古びた館は、昔は高級だったらしいが今はその影すらも見えない。
 今はヤク中の若者や浮浪者によるパーティに使われたりと、哀れな末路をたどっている。
 この若者たちもヤクのパーティ目当てでココに来たのだ。
 先ほどから他愛もない馬鹿話を繰り広げているこの3人の若者は、一様にヤクで酔っていた。

「おいおい、連れてってくれってせがんだのはテメェの方じゃねェかよ。いいハッパやりてェんだろ? な?」
「なぁ、持ってきてんのか?」
 ニット帽をかぶった、少し顔立ちの整った男がスキンヘッドに聞いた。
「おい、あんなのカンタンに手に入りゃしねえって。ったくふざけた野郎だ」
 スキンヘッドがマリファナの煙草の煙をニット帽に吐いた。
「ハハッもっとふざけた野郎はコイツだぜ?」
 サングラスがスキンヘッドを指差した。
「おいおい」
「アッハハ、そりゃいえてるな。さっきのホラーをマジであったとかほざいてやがる時点でな」
「いや、だからホントにあったんだって。よし、じゃあ隆介お前の話、コイツに聞かせてやれよ」
 スキンヘッドがサングラスに指を指した。隆介というのはニット帽の名前だ。
「ほら、話せよ」
 スキンヘッドがせかしてくる。
 サングラスが懐中電灯の光を隆介に当ててくる。
 隆介は仕方なくといった顔で話を始めた。
「なあ、好彦。その、俺さ、あの郁美とマジでペッティングまでいったんだ」
 サングラスは思いっきり爆笑した。好彦はサングラスの名前だ。
 好彦はその太い身体を精一杯バタつかせて腹を抱えた。
「アッハハハッハハハ」
 好彦とスキンヘッドがなおも腹を抱えている。
「おい嘘じゃねぇって!!」
「へへ、おいおいまだ乳搾りくらいでそうムキになんなよ」
 スキンヘッドがまた隆介にマリファナの煙を吐いた。
「ううっ」
「ヒヒヒ、あの郁美とはなあ。笑わせてもらったぜ。ったく」
 それは間違いだ。好彦は現在進行形でなおも笑っている。
 そのときだった。


 シャッ


 風を切る音がした。
 何かが横切るような―――そんな感じ。
「おい、何だ今の」
 隆介が音のした方に顔を向けている。
 3人の若者がいる場所は廃墟の館のホールのような場所だ。
 古びた大階段が広がるこのホールのど真ん中で3人はあぐらをかいて座っている。
「ああ?」
「なんか……聞こえただろ?」
「何ビビってんだよ。ったく気の小せェヤツだな」
 好彦がようやく笑いをとめた。
「でもよ、ここにいるときは気をつけた方がいいぜ」
 スキンヘッドが周りを見渡した。
「なんでさ」
 隆介がスキンヘッドに聞いた。
「おいおいよせよ、また始まるぜ。栄治クンお得意のホラーがな」
 好彦がスキンヘッド、つまり栄治をチャカした。
「でもよお前ら。このボロ館の話、知ってんだろ? 呪われてるってな」
「ただの噂だろ?」
 隆介が微笑した。
「なあ、下手な作り話はもういいって。聞き飽きたぜ、へへ」
 好彦が焦げたマリファナを後ろに投げ捨てて、新しいモノをポケットからライターとともに取り出した。
「でもこの廃村にはおかしな言い伝えがたくさんあるもんなあ、もしかしてホントの話とか」
「それじゃこれからとっておきの話を聞かせてやろうか? びっくりするオチがついてんだよ。きっとぶったまげるぜ」
 栄治がえらく自信あり気な顔をした。好彦と隆介はまたかという顔をした。
「―――なあ、もう俺たち帰った方がいいんじゃないの」
 隆介が少し顔色を変えた。さっきの妙な音のこともあるのだろう。
「へ、臆病なヤツ」
「違うよ」


 シュンッ


 隆介の後方でまた風を切る音がした。
 しかも、さっきとは確実に距離が近くなっている。
 隆介は後方を振り向いたが、そこには穴だらけになったドアと、粉々になった銅像らしきものが転がっていただけだった。
「どーした? 隆介」
「おい、今の聞いたろ」
「は? 何がだよ」
「今のはマジだぞ、絶対何かいる」
 隆介は怯えた顔をした。
「ハッパのやりすぎできちまったんじゃねェのお前」
 好彦が頭を指して微笑した。
「そんなんじゃねえって!」
「おい栄治。上等じゃねェか、聞かせてくれよ。今ならコイツをビビらせるチャンスだぜ」
 好彦が怯える隆介を制して、栄治に話をまわした。
「よし、じゃあ今からある一族の話をしてやる。これはホントにあった―――狂った話だ」



「おい、155番と156番の実験台。こっちへ来い」
 その光景を見てから   そのときは分からなかった。
 まだ何も分かっていなかった わたし   私
「そこに寝ろ、155番」
 頑丈そうな少しななめになっている椅子が目の前にあった。
 そこに座れ、と言われたので最初は戸惑った。
 155番らしき少女が目の前のいすに座った。
「おい、156番は外へ出ろ」
 この後知った。
「はーい」
 軽い返事をかましたあと―――ドアを開けようとしたその時だった。
「ぐぎゃぁはぃやひあっがぁぁ"ぁあ"ぎゃひゃぁああえぁ!!!!」
 どこからともなく聞こえる悲痛な叫び。
 後ろへと振り向こうとするが身体が硬直して動かない。
 そうこう叫んでいると男が前に出てきた。
 その手には―――刃物。
「うぇ……?!」
 天井の、蛍光灯によって輝く刃物。
 だがその刃物は何度が使った形跡がある。
 ―――というものの、赤黒いものが付着していたからだ。
「ごめんねェ、麻酔。やるはずなのに。前のヤツが暴れるから時間食っちゃった。だから君には悪いけど、麻酔抜きでやることにするよ」
 明らかに謝りのかけらもない笑み。
 だんだんと接近してくる相手に対して156番は必死に抵抗した。
 だが、いつの間にか、身体はベルトのようなもので固定されて、動かない。
 もう1cmとしかない相手との距離。
 すると次に接近してくるのは相手が付いている刃物―――
 その刃物は頑丈に固定された右腕にへと。
 肌に触れる最初の感触はまだ何もしていないのにかすかな痛みと刃物の冷え。
「やッ……!」
 最初の感触からもう156番は嫌だった。
 次の瞬間―――刃物が奥深く食い込んだ。
「ッぅ……!!!」
 そうするととってを離し肉に食い込んでいる刃物をさらに奥深く刺した。
「あ"ァがッ……!!!」
 数分その体勢でいると刃物を抜こうとした。
 だがその抜き方はグリッと回しながら抜き始めた。
 肉も一緒に切れながらだんだんと上へと到達していこうとしはじめた。
 ブチュッ グチ グチュゥ
「イィッ! や、止めてェエェ!! 痛い痛い痛いいたいたいいたいたいイタイイタイ!!!!!!」
 ビチュッ
 その音の後に刃物は抜けた。
 そのときの156番は気が失いかけていた。
 もうこれで終わる。そう自分に励まし我慢していた―――が―――
「おい、次。GH21持ってこい」
 聞きなれない言葉に反応をし、嫌がる身体を無理矢理起こさせて見た。
 それは注射。しかもその中はミミズでもいるかのように細長く紫色の物体が蠢いていた
「ッ……ク、ハァ……」
 このときから分かり始めた。自分は何かされている。
 するとその注射の針を切れた傷口に刺して中に入っている液体やら物体を流し込んだ。
「ひゃがッ――!」
 中で何かが蠢いている感触。
 何かを食いちぎってじょじょに中へと入ってゆく物体。
「いッ……やァア!!」
 そうすると最後の力を振り絞って手を振り解いた。
 手錠をしていたはずの手だが実験をするために解いていたのだ。
 そのときは左手は大人が持っていたのが実験光景を見つめているのに気が抜けていた。
 右手も振りほどいて針は抜けた。
「ぎもぢわるッ!!」
 自分の中に入っている物体に156番は嘔吐感が出た。
 その瞬間。
 156番がありえないことをした。



「ちょっと待てよ」
 隆介が大声を出した。
 その声はホール中に響き渡った。
「なんだよ、隆介。いいとこなのによ」
 好彦がつまんないといった顔でマリファナをふかした。
「ホラーでもなんでもねーじゃん。ただの気味の悪ィ人体実験だろ。一族なんてどこに出てくんだよ、ホラーもクソもねーじゃん」
「でもよ、さっきのクソホラーよりは脈絡があっていいと思うぜ」
 好彦が頭をボリボリかいた。
「おい好彦、正気か? 脈絡も糞もないだろ。俺はもう帰るぜ。怪談話はふたりでやってな」
 隆介が荷物をまとめだした。
「へへ、いいのか? さらしちゃうぞ、隆介? 俺の怪談話で尻尾巻いて逃げちまったとんだヘタレ野郎だってな」
 栄治がニヤニヤしている。
 隆介は出口への足をすぐに止めた。
「ちょっそれだけはよしてくれ」
「逃げらんねェのはお前もわかってんだろ、隆介。コイツのホラー聞いて逃げたとなりゃその次の日からは笑いの種だ」
 好彦が微笑した。口にくわえたマリファナはもう焦げかけている。
「さっきの妙な風を切る音だろ? ああ、俺も聞こえたさ。ここは確かに気味悪ィぜ。俺だって帰りてェよ。だが……」
 好彦が一呼吸して言った。
「笑い者にされるのだけは、勘弁してほしいからな。お前もだろ、隆介」
 好彦が隆介が座っていた場所を叩いて、少しきれいにしてどうぞと言わんばかりに着席を勧めた。
「―――わかったよ。ったく」
 隆介は肩に背負っていた荷物を下ろし、同じ場所にドカッとあぐらをかいた。
「―――で、156番が何をしたんだよ。栄治大先生」
「へへへ、待ってました。じゃあ話を再開するぜ野郎共!! その156番はな……自分で自分の首を180度廻したんだよ」



「ったく、これが今だに使われてないってのがよぉーくわかるな」
 先ほどまで156番の肌を灰色に輝く包丁で切り刻んでいた白衣の男が呟く。
 男の足元には156番が転がっていた。
 首が有り得ない方向に回っていて、操り人形を捻ったみたいなかんじに―――
 その裂け目から肉片に混じってミミズのようなものが蠢いている。
「あぅ……ぐぎゃぉ……」
 信じられないことにまだ156番は呻き声を上げている。
 人間の生命力とはたいしたものだとつくづく男は感心した。
 だが、その生命力も空しく、156番の少女は無残に息絶えた。
「ひどい副作用だ、まったく。もうこれに改良の余地はほとんどないな」
 男の手の中にあったGH21と呼ばれた注射器が、小汚い床に砕け散った。
「おい、155番は?」
「こっちも駄目ですよ。ああ、全然駄目」
 何があったのか、実験台に素っ裸で寝かされた少女―――155番の腹からいっぱい色んなモノが出てきている。
 ピンク色の、男にとっては見慣れた細長いモノ。
 そのピンクのモノを切り裂くと、茶色い、一般人でも毎日お目にかかるであろうモノが入っているのも男は知っていた。
「今日はこの子たちで最後か?」
 男は155番の実験台の前で突っ立っている白衣の女に聞いた。
「はい、そう聞いてますけど」
「はぁ〜やっと終わりか」
 男は血腥い部屋に唯一おいてある、背もたれありの椅子にドカッと腰を下ろした。
「死体は解剖医にまわしましょうか」
「そうしてくれ、若いコには興味あるが、死体には興味ない」
 女はわかったといった顔をして、床で無残にうずくまっている156番をもうひとつの実験台の上に寝かせた。
 女は齢はおそらく20代、見た目も結構小柄なのにも関わらず、いとも簡単に背格好が近い156番を簡単に持ち上げた。
 156番は首が有り得ないことになっていたが、それでもポロッと落ちるようなことはなかった。
 さっきまであれほど蠢いていたモノが影も形もなくなっていた。
「この子たちは、何やらかしたんだ? まだどう見ても高校生くらいだろ」
「流し台に被験者プレートありますよ」
 男は女にそういわれ気がつき、重い腰を持ち上げ実験台の横の流し台に向かった。
『静岡軍事研究施設侵入』
 プレートにはそう書かれていた。
「これってひょっとして『ハンガー』のことか?」
「ええ、そうですよ」
「うわぁ、運ないなこの子たち」
 通称『ハンガー』と呼ばれるこの施設―――簡単に説明すると、アメリカでいうエリア51のようなものだ。
 無論、男自身もその実態についてはほとんど知らないが。
「しかし、よく入り込めたな。確かハンガーって絶対に人目にはわからないんだろ?」
「研究員がその施設入ったところ、見たかもしれないんですって」
「おいおい、見たかもって……それじゃあこの子たち何にも知らないかもしれないんじゃ」
「疑わしき者はすべて抹殺―――ですかね」
「罪悪感感じるぜ」
 男がそう呟いたが、顔がそう言っていない。
 そもそもこれしきのことで罪悪感がわくようじゃ話にならない。
 とっくの昔に精神崩壊だ。
 女が155番だったモノが乗ってある実験台を外に運び出し、数分で戻ってきた。
「もう今日はお休みになられたらどうでしょうか」
「はは、お言葉に甘えてそうしようかな」
 女は昼からの勤めだったが、男は早朝からこの血腥い部屋にもうかれこれ10時間以上いた。
「じゃ、そっちのモノも任せるよ」
 男が156番だったモノに指差した。
「はい、お疲れ様でした」



「さっきよりは怖さが薄れたってカンジだねェ」
 好彦がマリファナを吹かしながら、胡坐をかいていた。
「首が回ったってのは結構やべェけど……まぁ何にしてもソイツらも結構まともな思考回路があるんじゃん。まあ狂ってるには違いないだろうが」
 隆介が栄治をじっと見つめた。
「へへへ」
 栄治が不気味な笑い声を発した。
 よく見ると目が完全にマリファナでイッている。
 隆介がそれに驚いて、後ろへつんめりそうになった。
「おっおい何だよ」
「まあまあ、よく聞けよお前ら」
 栄治が笑いながら手を振った。
「ここからが面白いんだよ。続けるぜ」



 今日からの私たちの家になる場所だ―――
 少女は少し古いけど、それなりの雰囲気を醸し出している洋館の門前に立っていた。
 門は少女の身長の3倍くらいの高さはあった。
「何度来てもスゲェとこだよなぁ」
 少女の横でパーマのかかった髪の毛が印象の背の高い少年がガムを噛んでいた。
「何年前だっけ。ここに来たの」
「親父たちがいなくなった年が最後だから、4年前だろ」
 4年前か―――
 この少女―――浜島美羽はあの時のことを少し思い出した。
 だけど何度思い出しても、やっぱりツライ。
「なんだよ、また思い出してんのかよ」
「アンタもでしょ」
「……もう忘れちまったよ。過去のことなんて」
 美羽の横にいる少年は1歳違いの、浜島美羽の弟の浜島達郎だった。
 現在高校2年でバレー部所属だ。背は180cm近くはある。
 高校3年の美羽はバスケ部所属だが、背は150cmくらいしかない。
 そのせいか、ふたりで並んでいて美羽は一度も自分が姉だと思われたことはなかった。
 美羽自身、達郎とはあまり一緒にいたくないのだが……今日ばかりは避けられない。
「なーにが過去なんか忘れた、よ。キザったらしい。じゃあ何で覚えてんのよ、4年前のこと」
「アッハハ、俺式矛盾ってやつだ」
「なによそれ」
 ふたりの笑い声がまわりに響いた。

2012/03/06(Tue)21:17:06 公開 / モロッコ
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■作者からのメッセージ
どうもモロッコといいます。
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