『ブレイク・ジ・アース』 ... ジャンル:リアル・現代 SF
作者:とりがみ                

     あらすじ・作品紹介
碧く輝く美しき地球―――生命が芽生え、人類が誕生し、文明が発達した―――さらに戦争と、21世紀、地球は銀河系の星々の頂点に達しつつあったのだ。だが、地球は壊れた。大異変が起きたのだ。戦争などという人類の創作によるものではない、自然の崩壊が今始まったのだ―――

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『ブレイク・ジ・アース』

 プロローグ 予兆

「フラスコチャーリー、そちらの区域で所属不明機を複数検知した、確認せよ」
 アメリカ空軍司令官のジャックは焦っていた。それもそのはず。
 彼の目の前にある、レーダーにはこれまで出会ったこともないような未確認大編隊が表示されていたのだ。
 その数は100を軽く超えている―――
「HQ、ふざけないで下さい。特に異常なし」
 これほどの大編隊なのにもかかわらず、1機も見つからないなんてことはありえないだろう。
 誤作動を考えたジャックはすぐに担当者へレーダーの診断を注文する。
「フラスコチャーリーへ、現在、こちらの誤動作の診断を行っている」
「空は澄み切っていますよ、HQ。そちらの誤表示でしょう」
 向こう側で笑い声が聞こえる。そりゃそうだろう。ジャックだって笑いたい気持ちだった。
 こんな馬鹿みたいなことは今までなかったからだ。
 すると、すぐに担当者がレーダーは正常ですとジャックに告げた。
 仕事が速いのは感心できるが―――正常だと? どういうことだ? じゃあここに映っているのは一体―――
 ジャックはその近辺を飛行中の連隊に緊急連絡をした。
「こちらHQ、飛行訓練中の第15イーグル連隊に告ぐ、そちらの区域内で所属不明機が表示されている。確認せよ」
「HQ、こちらイーグルNO3のアーチボルドです。全機確認しましたところ、特に異常なし。スコープにも反応はありません。一体なんでしょうね? 太陽風の影響じゃないですか。今日は黒点活動が盛んですからね」
 そんなことがあるのか?
 ジャックはこの職についてもう30年余りは経つ。今までこんなことは一度たりともなかった。
「レリーフデルタへ、あー……どうやらこちらのACSに軽微な不具合があるらしい。そちらのスコープには何か映ってないか?」
「HQ、こちらレリーフ小隊のジョセフ曹長。全機確認しましたが、こちらも特に異常なし」
 ジャックと担当者は顔を見合わせた。お互いにはてなという表情をしている。
 だが、この奇妙な出来事がこの後すぐに起こる、大異変の前兆だったことを彼らは知る由もなかった。

 Act.1 開幕

「―――以上が大地震発生直前に記録された、無線会話だ」
 米国防総省、ペンタゴンにて総合参謀本部なるものが開かれていた。
 今からおよそ半年前、そう、あの無線の直後に震度を軽く7をも超える大地震が世界で同時に発生したのだ。
 その被害は計り知れなかった。津波は軽く100mを超えたという地域まで存在する。
 アメリカどころか、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、あらゆる地域は地獄を目の当たりにした。
 コンピューターシステムも回復不能に陥り、現在でもアメリカは他国に連絡が取れない状態が続いていた。
 いや、他国どころか自身でさえ、復旧の目途などは立ってはいなかった。
「本当にその未確認機が黒点だったということはないんですか」
「そのような黒点が発生するほどの太陽風はその当時は溢れてなかったとある」
「―――とりあえず、その未確認機については保留にしませんか? 議論しても何も生まれない」
 部屋にいる全員がコクリと頷く。
 ホワイトボードの前で立っていたガス少佐は仕方なしに手元の資料をバサリと置いた。
「そうだな、では本題に入ろう。エドワード教授、どうぞ……」
 ガスは頭を下げ、エドワードと呼ばれた白衣の60くらいの男性に話を回した。
 エドワード教授は白髪頭が全員に見えるくらい一礼をした。
「では大異変のその後について……世界各地での被害状況を調査した結果、壊滅状態にある日本において、興味深い現象が、発見された」
 白髪頭を一回かき一呼吸置いて、再びエドワード教授は話を再開した。
「日本にある、東名原子力発電所をご存知かな」
 その場の全員が頷いた。
 東名原発は世界でも有数の巨大原子力発電所だ。
「1986年、これに関連する出来事が起こったのはご存知ですな」
「―――チェルノブイリ原子力発電所事故ですね」
「左様、東名原発は1986年に大事故を起こした、チェルノブイリ原発よりさらに巨大な、百五十七万キロワットの原子炉を要しておる。これがもし、大地震により崩壊していた場合どうなるか―――」
 全員が息を呑んだ。
「細かい数字は私にも判断しかねる……しかし、ヒロシマ原爆のおよそ二千個分の放射能が発生し、死の灰が地上に降ると考えて下され」
「ヒロシマ原爆の二千個分だと!?」
「直接の死者は数百万人を軽く超えることでしょう。さらに数年後には白血病、癌患者が日本だけにとどまらず、世界でも数千万人に及ぶでしょう。無論、日本農業などは全滅です」
「しっしかし、そのような被害はわれわれアメリカ合衆国では起きてはいないんじゃないか?」
 ざわめいた一同を教授は手で制し、再び話を始めた。
「そこなのです、興味深いところは」
「どっどういうことですか?」
「あの震度10に達するんではないかとも言われる大地震で、東名原発が崩壊していないわけがないのです。すると、原発は破壊されてはいるが、なぜか放射能被害は出ていないということになる」
「単に、被害が出ていないってのはないんですか」
 一人の将校が聞いたことを教授は受け止めた。
「それは有り得ない事なのだよ。太平洋を飛び越えたら、すぐに我々合衆国がある。到達しないなんてことは絶対にありえない」
「それじゃあ……教授はどう思われるのですか」
「うむ、おそらくは水没している可能性が高いのではないか、と思うのだ」
 教授が話を終え、ガスが再び話を始めた。
「全ての命令系統、コンピューターシステムが破壊されて修復不能の現在、事実はどうなのか確認は取れない。そこで」
 ガスが一呼吸し、告げた。
「バリー中尉、アシュリー一等兵とともにふたりで現地に赴き調査にあたってもらいたい」
 バリー中尉と呼ばれた40近い男は敬礼してこう告げた。
「了解」
 
 Act.2 樹海

「っいたたたた―――っ!!」
 暗い森の中を、切羽詰った叫びが駆け抜ける。
 今の時分は昼頃の筈なのだが、高い木々のせいでかなり暗い。
 その木々の間を見ると、植物の塊が2つモサモサ蠢いているのが分かる。
「アッシュどうした。また枝でも踏んだか?」
 片方のモサモサがもう一方のモサモサに話しかける。
「うぅ……そうです」
「ったくドジなヤツだ」
「だってぇ、仕方ないじゃないですか! この服すごく重くてモサモサして動きにくいし……」
 傍目異様な光景だが、この2つの塊は正真正銘の人間―――
 人間の周りを植物らしきものが覆っているだけなのだ。
 これはギリースーツという迷彩服の一種であり、隠密活動を行う偵察兵、ハンターなどが良く使用するものである。
 近年ではその偽装効果の高さゆえバードウォッチングなどにも使用されている。
 もうそんなことやっている人はいないだろうが―――
 簡単に説明すると体や銃などに植物もしくはそれに似ているものを巻き付けることで、輪郭をわからなくする効果がある。
 よく見ると、この木々の中にいる2人の人間が持っているアサルトライフル―――XM8にもその偽装が施されているのが分かる。
「すぐ慣れる」
「そればっかり!」
 文句ばかり言ってる、ギリースーツから少し見える茶髪のショートボブの可愛い、ちょっと背の低めの白人の少女はアシュリー・R・マシューズ。階級は一等兵。
 ほんの半年前まで、普通の女子高生だった、17歳の少女である。
 大国のアメリカが非常召集、それも少女をだなんて有り得ない話だと思えるが、それほど今の世界情勢は危ういものだった。
 そう。今から半年前、それは突然起こった―――
 世界を大地震が襲ったのだ。それは天罰なのか、必然なのかは未だに分かっちゃいない。
 現にアシュリーたちの母国、アメリカ合衆国も復旧の目処など全く立ってはいない。
 アシュリーの住んでいた街も道路の端にまるで丸太でも敷き詰めたかのように、死人が並んでいたほどだ。
 核攻撃にも耐えられるはずの軍事建造物でさえ無事じゃなかった。
 軍隊は混乱の挙句、発生した暴徒を取り締まるのに精一杯だった。
 もっとも、軍そのものが、暴徒と化した州もあったのだが―――
 軍人の数が全く足りないため、アシュリーは嫌々非常召集で軍隊に入ったのだ。
 そして案の定、世界の中でも壊滅状態にある日本の、富士の樹海へと送り込まれたのだ。
 そんな愚痴を頭の中でこぼしているうちに、足に枝が突き刺さる。もういやだ、帰りたい。なんでこんなオッサンと―――
 アシュリーが葛藤していたその時だった。
 周りの木々がサワサワと揺れ始めた。今の日本の季節は冬らしいが、それでも突然のことだった。
 アシュリーは大地も揺れているのを感じた。
「―――揺れてますね」
 アシュリーは足を止めて言った。
 周りの樹木もやはり多少ながら揺れているのがわかる。
 だが、地震はすぐに収まった。
「弱震だな、震度2ってところか」
 ふたりは地震には、すっかり慣れっこになっていた。
「先は結構ある、急ごう」
「―――!? ちょっと待ってくださいよ!」
 アシュリーはもうクタクタだった。
 もうかれこれ5時間ほどはノンストップで歩き続けている。
 しかも、軽装ならまだしも重いギリースーツを着用の上、手にはアサルトライフルがあり、背中には荷物もあるのだ。
 学校では運動神経は良い方だったが、それでももう足が限界に達している。
 ただでさえ、道らしい道などない、樹海の中なのだ。
「なんだ、どうした」
 私はついこの間まで普通の高校生だったんですよ!!
 そう言おうとしたが、息が切れてなかなかいえない。
 それにバリーはそんなことなど考えてもいないだろう。
 40近いバリーは軍隊に入って数十年が経過しているはずだ。体力などまだ有り余っているのだろう。
「もう、ヘトヘトです」
 アシュリーはそれを言うだけで精一杯だった。
「ひらけた所にでたら、そこで野営できる。それまでの辛抱だ」
 バリーがそう言った瞬間、先ほどまであれほどあった樹木がない、広々としたスペースに出た。
 どうやら誰かが私の願いをかなえてくれたらしい―――
「―――運が良かったな、今日はここで野営だ」
 アシュリーはため息を漏らしてその場にうずくまった。
「ぜぇぜぇ―――」
「テントは俺がはってやる、それまで少し休んどけ」
 アシュリーは木陰で腰を下ろした―――
 テントをはり終えたバリーは息が整ってきたアシュリーに話しかけた。
「それにしても、お前さんも不運な女だな。非常召集されたあげくこんな所にほっぽりだされて。それも年増の男と2人きりでだ。その年頃じゃもっと色々エンジョイしたかったろうに」
「不運―――アハハ、そうかもしれませんね」
「―――おいおい、そこは否定するところじゃないのか?」
 冷たい風が吹く樹海の中で2つの笑い声が響いた。
「―――あひゃ!!」
 アシュリーが突然、叫んでバリーに抱きついた。
「おいおい、気持ちはうれしいが今はそんな状況じゃ―――」
「誤解しないで下さい! そんなんじゃないです!!」
 アシュリーがそう言いながら、震えて人差し指を木陰の方を指した。
 ―――ヘビがいた。それもかなりでかい。
「なんだ、オオアナコンダが」
 バリーはそういい、コマンドナイフで一瞬でソレを捕らえた。
 ピクピク喘ぐその様子は―――なんだかとっても怖くて―――
「怖い―――日本ってこんなのいるんですか?」
「いや、このヘビはアマゾンに分布しているはずだ。日本にいるわけがない」
「じゃあなんで―――」
「ペットか動物園から逃げ出したって所だろう。そのまま野生化しちまったんだな」
 バリーは哀れみの目で、捕えたヘビを湿った地面に置いた。
「一応、気をつけたほうがいいな。ここはもう国じゃない、何が出てきてもおかしくないからな」

 Act.3 崇拝

 その晩、アシュリーはバリーとこの薄暗い樹海の中でふたりきりで過ごす事となった。
 アシュリーは勿論想定していた。地図を見る限り、1日やそこらでたどり着くような場所に東名原発はない。
 一応、ギリースーツ同様の迷彩をテントにも施している。
 何が出てきてもおかしくないこの国―――いや、もう国と呼べるのかどうかも難しいところだが―――
 とにかく何かと対策はしておかなくてはいけない。
 ふたりはテントの中にいた。とりあえず、夕食として軍携行糧食の缶詰をつついた。
「俺がなぜこんなところに送られたかわかるか?」
 バリーが食べながら喋った。
 さっきの、蛇を仕留めた時とは一風変わって陽気だった。
「さっさあ……」
「軍のネットワークを利用してちょっとした悪戯をしてな、本来なら収監される身がなんとか軍に残れた。まあ、軍の中では曲者揃いのアメリカ陸軍583大隊所属F小隊に送られる羽目になったが」
 アシュリーはその部隊に聞き覚えがあった。
 通称「スクランブラー」と呼ばれるこの部隊は軍のはみ出し者達が集まるところと言えば聞こえは良いが、早い話が正規兵を割きたくない場合に最優先で作戦を押し付けられる、いわゆる使い捨ての兵力であった。
「ってことは私も使い捨て……」
「ハッハッハ、F小隊のことは新参アッシュでも知ってたか!」
 バリーは高笑いした。
「笑い事じゃないですよ! そんなことって……私……」
 アシュリーは泣き顔になった。
「おいおい、我が軍の心得忘れたか? "軍人の涙は親の葬式でも見せるべからず"」
 バリーはアシュリーの泣き顔などてんで気にしていない様子だ。
「中尉は、怖くないんですか!? 自分の、我がステーツ(合衆国)に使い捨てにされて」
「誰も使い捨てとは言っちゃいないぜ?」
「え?」
 アシュリーがきょとんとした。
「たしかに、ご存知の通り俺の所属するF小隊、いわゆるスクランブラーは軍のはみ出し者だ。だが今回ばかりは違うと思うんだ」
「それはつまり……?」
「俺たちをこのままほっといても何の利益にもなんねェだろ。貴重な食料を消費しただけでな」
 私たちより食料が大事なのか。
「救援自体は要諦通り来るだろう。そうじゃなかったら原発の真相だってわかりゃしない」
 確かにそうだ。私たちは無線も持っていない。
 ネットワークの中枢部が破壊されて、現在通信電子機器はほとんど使える状態じゃないのだ。
「よかった」
 アシュリーは安堵のため息をついた。
「それと」
 バリーは迷彩を施したアサルトライフル、XM8を出した。
「このライフルは軍ではお目にかからなかったろ?」
「はっはい」
 軍ではM16やM4を使っての訓練がほとんどだった。
「ここに来る前に使ってみたかんじどうだった? M16なんかより使いやすかったろ」
 たしかにそうだった。
 このXM8はM16などに比べ、リコイル(射撃反動)も少なく、軽い。その上命中率もこっちのほうが格段に上だった。
 性能面、機動性、すべてにおいて明らかにXM8の方が上だ。
「XM8が我が軍で採用されていない理由、知ってるか」
「いえ」
「聞いて驚くぞ、ばかばかしくてな」
 バリーは一呼吸置いた。
「外見だよ」
「えっがっ外見?」
「お上の方々は嫌ってるんだよ。この玩具のような外見をな。やつらはM16崇拝者だからな、どう考えてもこっちの方が使いやすいってのに、かわいそうなライフルだよ」
 そんな理由で―――アシュリーは軍隊の武器=M16と考えていた。ただ、崇拝しているわけではない。
 でも、上官はみんな違うのだろう。
「我がF小隊は好き勝手にやっていてね。M16なんで古参モノは使っちゃいないんだ。近代兵器を次々導入さ。よかったらお前も迎えてやるよ。かわいい子ならやつらだって大歓迎だろうよ」
「ええ!?」
「軍で何かへまをすりゃいい。よし、こうしよう。帰ったら、軍のコンピューターにウイルスでも侵入させろ。そうすりゃ文句なしでスクランブラー入りよ」

2012/02/23(Thu)17:46:30 公開 / とりがみ
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