『時の姫君ー世界を刻みしものー【EP-6(1/5)】』 ... ジャンル:異世界 ファンタジー
作者:三毛猫☆                

     あらすじ・作品紹介
【主な登場人物紹介とあらすじ】主人公 時宮璃々亜 漆黒の髪にすべてを見通すかのような青い瞳が印象的な美少女。 いきなりルオと契約を交わされ、一度は≪時の神の時期姫君候補≫となったが[時の神になるための試練]を拒み、本当の世界へ返された。しかし、もう一度ルオに会いたい!と願い、なんとかルオのいる場所―異世界への扉を開くことに成功。‘時の覇者’と名のるものに再び試練に参加する資格を与えられた。ルオ・サファイア<ルオ>ラオの兄で異世界の住人。 時の神の時期姫君候補として璃々亜と契約を結んだものの璃々亜の試練拒否によりパートナーは解消に。 四年がたったいまも『過去の事件』に縛られている。ラオ・サファイア<ラオ>ルオの弟で同じく異世界の住人。リリアのことが好きで兄とよく衝突していた。彼女が兄のことを好きだったことに内心気づいていたが、リリアのことをあきらめることができず、その結果―リリア・フォルグ<リリア>本当はフォルグ家の一員ではなく捨て子。過去につらいことを経験していて、少し前までは性格も表情も暗くて、夜もずっと一人で泣いているような子だったが、なぜだか今では明るくて優しく、ちょっとおてんば?なかわいい女の子になっている。『過去の事件』で大事故に遭い、今は亡き人に……なったはずだが――?時宵霊刻神(ときよいのれいこくしん)<時の覇者>どのような人物なのかはおろか、年も性別もまったく不明。璃々亜に再び[時の神になれるかもしれない試練]への挑戦権を与えたが、何のために彼女に挑戦権を与えたのかは分からない。とにかくその存在ほとんどが謎につつまれている。   ≪〜あらすじ〜≫主人公、時宮璃々亜はすらりとしたスタイルに麗しい黒髪、まるですべてを見通すかのような青い瞳をもつ美少女。彼女はなぜか自分が閉じ込められていた無限のループから抜け出すことに成功する。だが、いきなり現れた青い光の巻き起こる魔法陣から出てきた謎のしゃべるカワイイ生物にいきなり謎の契約を交わされてしまって―!?

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【EP-1】「時の神の時期姫君候補に決定!?」

「璃々亜、行ってらっしゃい!事故にあわないように気をつけなさいよ」
―いつもとまったく変わらない朝―
「おはよう璃々亜ちゃん。ねぇねぇ、昨日のドラマ見た?私は見たよ。とってもおもしろかったんだよ!あのね…」
「おっす!時宮じゃねぇか!今日も相変わらず不快指数高そうだな」
「みんな、担任が来たぞ!!」
「コラー!おまえら授業とっくに始まってるぞ〜。さっさと席に着け」
―いつもとまったく変わらない教室―
 いつだって同じ…いつだってまったく変わらない。まるで無限に続くループのようにえんえんと繰り返される日々と日常。
(なぜなのだろうか…?まったく分からない)
 時宮璃々亜、十四歳。まるで夜に染まったかのような麗しい漆黒の髪に、すべてを見通すような青い瞳。すらりとしたスタイルといいその美しい容姿といい、まるで精巧な人形のように美しい少女だ。
 彼女の青い瞳はもうとっくに見抜いていた。ここが、何者かにより創られた偽りの世界だということ、そして、自分はそこになぜか閉じ込められているということを。
(この世界、偽物だがまるで神が創り上げかのように完璧だ。しかしなぜだ?なぜこの世界では、同じ時ばかりが繰り返されている?でも、この無限に続くループは、私にとってなにか重要な関わりをもつもののような気が…)
 そう不思議に思いつつ彼女はいつもの場所―図書室へと向かった。
 <キイィ…>
 きしむ扉を開けるとそこは本だけの世界。
 璃々亜はとりあえずできるだけ古い本を見つけ出して抱えると、ほこりっぽい椅子に座った。
(古い文献を見てみれば、今日こそ何かがわかるかもしれない…。いや、もしかしたら何かが変わるかもしれない…)
「無限のループについてなにか書かれている本はないかしら…」
 そうつぶやいて、璃々亜はチラリと高い本棚を見上げた。すると…!
 ≪グラッ!≫
「!」
 璃々亜がその場から反射的に飛び退いた直後、本棚が<ズシンッ!>と大きな音を立てて倒れ、<メキメキッ>といういやな音がして椅子がつぶれた。
「間一髪、といったところかしら」
 平静を装ってはいたが、額には汗がうかんでいる。
「ちょうどいいわ。ええっと、古い文献は…ん?」
 璃々亜のひざの上に、青い革表紙の古い本があった。
「なんなのかしら…。あら、ずいぶんと古風な本ね。――時の書? 何これ」
 璃々亜は、とりあえず本を開いてみた。
 そこには…意味不明な詩が書かれていた。
我、時より生命を受けしもの。我の鼓動と時を刻む音は重なり、ともに高まっていく。我の鼓動は時そのもの、時も我の鼓動そ のもの。我の心臓が動くたびに、時は動き、我の呼吸が止まりしとき、時も止まる。我が動かなければ、時も動かず、また、我 の呼吸が完全に止まりしとき、世界は終幕を迎える。―すなわち我は、時そのもの―
時を奏でる資格のあるものよ、いまここに、我が試練を受けることを許す。さあ、証を受け取るがよい。
 ――選ばれし者たちよ、我がもとに集え――
「は?なんなのよ。この詩…」
 璃々亜がその詩を読み終わった。と、次の瞬間!!
 ≪ブウウウン!!≫
 突然、璃々亜の足下に青い光の渦が巻き起こる巨大な魔法陣が現れた。その光は次第に輝きを増していく、そして…!
 [ボムッ]
 青い煙がふきだした。
「げほっ、げほっ!もう、一体何が起こっているの!? 」
 煙が跡形もなく消えた。
 そしてつい先程まで謎の魔法陣があった場所になんと言えばいいのかわからないが、謎のかわいい動物がいた。
狼のようなとんがった猫より少し大きめの耳には右と左に二つずつ金色で星型のピアスがあけてあり、首には黄×黒のトラ柄バンダナ着用。深いブルーのくりっとしたつぶらな瞳は、まっすぐに彼女を見つめていた。体の色は宝石のサファイアにどことなく似ている。そのすべてがとても愛らしく、誰かれかまわず悩殺してしまいそうなほどの魅力を振りまいていた。
 いきなりの謎の動物登場に驚きつつも、そのあまりの可愛さに彼女はおもわず見とれてしまっていた。
しかし、驚きはそれだけでは終わらなかった。なんとその動物はいきなり話し出したのだ!
「リリ!?…いや、時宮璃々亜様。おめでとうございます。あなたは見事に予選をクリアされました。よって、時の神の<時期姫君候補>として、あなたの参加を認め、証をさずけましょう」
 彼女がなにか言おうとしたが、それをさえぎって動物が腕を少しあげた。そして、
「時の神に誓います。ここにわれらが証を授かり、パートナーになることを」
 すると、天から(図書室の天井から?)光が降りそそぎ、二人の指に謎の指輪がはまった。
「これで契約は終了しましたよ。…ふつつか者ですが、これから、どうぞ僕をよろしくお願いします♡」
 そういってその動物はほおを少し赤く染め、璃々亜にむきなおり、頭をチョコンと下げた。
「……はあ〜っ!!!!!?????」
 璃々亜の叫び声が本棚の倒れた薄暗い図書室に響き渡った―


【EP-2】「可愛らしい動物の正体」
「…………」
「…………」
「……ねえ、ちょっと教えてほしい事があるんだけど、いいかしら」
気まずい沈黙をやぶって彼女―璃々亜がたずねた。
「なんでしょうか?」
 にっこりと笑ってその動物が聞き返す。
「……あなた、一体何者なの?言葉を話すことのできる動物?それとも、あなたが言葉を話しているのではなくどこかに何かの装置が付いていて、遠くから誰かがそれを通して私に話しかけているのかしら?そうであれば、納得できるけれど。どういうことなのかちゃんと説明してちょうだい」
 すると動物は、その笑みをキープしたまま、いきなり話し始めた。
「すみません。自己紹介がまだでしたね。僕は、ルオ・サファイアと申します。どうぞ『ルオ』とお呼びください。先程、璃々亜さまが、「話す動物」とか、「装置を通して私と話しているの?」というふうに僕のことについて言われておりましたが、両方 とも違います。僕は一見動物のようですが、れっきとした人間です。動物の姿のほうが動きやすいから変身しているだけで、ほら!」
 そう言うと動物は
≪サファイヤ・レイ!≫
 と呪文のような言葉を唱えた。すると、淡く透き通った光がルオの体をつつみこんだ!その中で彼の姿は少しずつ変化してい  き、やがて――
「どうですか?これで僕が人間だってこと分かりましたよね!」
 青年は無邪気に笑った。
 しかし璃々亜は返事をすることもせず、ただ呆然と彼を眺めていた。
 すらりとした細くしなやかな手足。まるでサファイアのように美しい、青くてつややかな髪。きれいに整った顔の中でひときわ目立つ深いブルーの瞳は、まるで夜空の星のように輝いていて――
 すぐ目の前にいる青年の姿に、ひきこまれていたのだ。
「あの…璃々亜さま、どうなさったのですか?」
 心配そうな青年の言葉で、ボーッとしていた璃々亜はようやく我に返った。
「ごめんなさい…ちょっと考え事をしていたの」
 璃々亜はあいまいに笑ってごまかした。
「そうですか…。あ!そういえば、時の神についてのこと、まだお教えしていませんでしたね。ではまず聞きますが、璃々亜さまは時の神自らが書かれた文をご存知ですか?あの‘時の書’に書かれていた詩のことです」
「あの本…時の書の詩?ええ、確かにそんな詩があったわね。“我、時より生命を受けし者”っていうのでしょ?」
「はい。そうなのですが…。実は、あの詩は時の神の遺言みたいなものなのです。いいですか?いくら神だからといって無限の寿命をもつわけではありません。時の神は、もう自分が長くないことを悟りました。しかし、あの詩に書かれていたように、時の神が死んでしまえば世界は終わってしまいます。そこで時の神は思いつきました。人間の中から神となる素質のあるものを選び自分の後を継がせようと。そしてその者たちが、≪時の楽器≫を奏でることができるのかためすことを。ちなみに≪時の楽器≫とは時そのものとも、時を操ることのできる神器だともいわれておりますが、どちらも定かではありません。本当のことは時の神自身にしか分からないのでしょうから」
「ところで、私が受けた予選っていうのは?」
「まあ、あくまでテストみたいなものでしょうね。[時の書に選ばれることができるのかどうか]それを試すことで、おそらく神となる素質のないものが試練に踏み込むことがないように、という時の神の気配りでしょう」
「気配り…!?まさかとは思うけど…その試練って、危険だったりしないよね…?」
 少し震えながら、璃々亜はルオに問いかけた。
「ええ。もちろんです。…危険どころか、油断してると……死にますよ?」
 ルオは妖艶な笑みをうかべてそう言い放った。 

【EP-3】「契約と生命」
「ええ。もちろんです。…危険どころか、油断していると……死にますよ?」
 妖しい笑みを浮かべ、目の前の青年―ルオが冷たく言い放った。
「……死…ぬ…?…」
 あまりの驚きに彼女―璃々亜は呆然としたまま立ちつくしている。
「…先程、璃々亜さまは『危険があるのか?』と聞かれましたね。しかし実際は何百、何千もの『生命の危険』があなたを襲います。試練の途中信じられるものは二つ…僕という『パートナー』と『自分』のみです。試練の途中に出会う者は信じてはなりません。なぜなら、試練の途中で出会う人物はライバル…そしてそのライバルはみな敵を…璃々亜さま…あなたの命をも平気で狙ってくるからです。いいですか?絶対に信じてはなりません。僕と自分以外の者……誰一人として」
(生命の危険…?命を狙われる…?自分とパートナー以外は、誰一人として信じてはいけない…?)
「では、今度は僕が璃々亜さまに問わせていただきます。……あなたは、すべてを捨ててその生命さえもかけて、≪時の神≫になるための試練に…大いなる戦いに挑む覚悟はありますか?」
「もし…もしも…ない、と言ったら?」
「その場合仮の契約を破棄し、即刻記憶を消させていただきます。≪時の神≫のことも、試練のことも、時の書のことも、それと、パートナー…僕のことも…すべてあなたの脳内から消し去り、現在の日本…あなたは本当にいるべき場所に戻されます。自分に秘められし力―能力のことも知らないまま人間という短い生涯を終えることになるのです。[時の神になるための試練]か[本当にいるべき世界]か…あなたに選ぶ時間を与えて差し上げましょう」
 ルオはどこからか青い砂の入った美しいレリーフの彫られた砂時計を取り出して空中に浮かばせると、クルリとひっくり返した。
<サラ…>
 砂が青く輝きながらゆっくりとまるでスローモーションのように落ちてゆく。
「この砂時計の砂がすべて落ちるまで、どうぞゆっくりとご自分でお考えになってください」
 そういって、ルオは姿を消した―。
 ☆★☆
「どうしよう……」
 もといた世界を選べば、母親にも、父親にも、そして兄弟にも、友達にも、懐かしい人たちみんなに会える。しかし彼、ルオにはもう二度と会えなくなってしまい、彼とすごした記憶すら消される…。
 しかし、試練を受けることを選べば、ルオとは一緒にいられるけれど、本当の世界にいる大切な人たちに会うことはできず、さらに、
『生命の危険』にさらされることとなる―。
「一体どっちを選べばいいの?分からない…」
 おそらく、ここでどちらの選択肢を選ぶかによって彼女の運命が決まる―。
『平和で幸せな世界と日常』と『時の神になれるかもしれないがとても危険な試練』
〔どちらを選ぶのか〕すべては彼女次第なのである―。
 かなりの時間がたった―砂時計の砂がすべて落ちると同時に、ルオが姿を現した。
「もう、お決めになられましたね。では聞かせていただきます。あなたは、[本当の世界]と[時の神になるための試練]…どちらを選びますか?」
 なぜか少し不安そうな顔で、ルオがたずねた。
「わ…わた…私は……か…え……帰る…わ…もとの…私が本当にいるべき世界に……帰らなければならないの」
 震える声で、璃々亜は言った。目がうるんでいる。
「そうですか。本当に短い間だったけれど、あなたと出会って、僕は何年かぶりに心から楽しめ、心から笑うことができました」
 そう言うとルオは璃々亜を力いっぱい抱きしめた。
「ちょっ/////」
 璃々亜が顔を赤らめる。
「お別れの挨拶です…。さようなら…どうか本当の世界でも元気で……リリア」
 まつ毛を伏せ、悲しげな顔で彼は最後に彼女の名をつぶやいた。
<カッ!!>
 それと同時に強い光が璃々亜をつつみこみ――
「キャアッ!」
(やっぱりイヤ!もとの世界に戻りたくない!!彼と…ルオとまだ一緒にいたい!。!!私、きっと初めて会ったときから彼のことが好きだったんだわ…今更気づいても遅い…もう少し、もうちょっとでも早く気付けていれば!!彼のいる場所に戻して!今すぐに!お願いだからっ……!)
 その意思に反して、体がどこかに飛ばされていく。
 <コツン>
 そのとき手になにかが触れた。璃々亜は必死にそのなにかをつかんだ。そしてそのまま彼女は気を失ったのだった―。

【EP-4】「そして取り戻した平和な日常」
「璃々亜、いってらっしゃい!事故にあわないように気をつけなさいよ」
―いつもとまったく変わらない朝―
「おはよう璃々亜ちゃん。ねえ、昨日のドラマ見た?私は見たんだけど、とってもおもしろかったんだよ!あのね…」
「おっす!時宮じゃねぇか!今日も相変わらず不快指数高そうだな」
「みんな、担任が来たぞ!!」
「コラー!おまえら授業とっくに始まってるぞ〜。さっさと席に着け」
―いつもとまったく変わらない教室―
 いつだって同じ…いつだってまったく変わらない。まるで無限に続くループのようにえんえんと繰り返される日々と日常。
(なにか…なにかが違う気がする)
 放課後の教室で一人、彼女―璃々亜はため息をついた。
「これはいったい何なのかしら?」
 手のひらにつつみこんだ石に視線をうつす。
 その石は琥珀と少し似た色をしている。調べたところどうやら宝石のようだ。どんな名前なのかはわからなかったが、かなり高価なものらしい。夕陽を浴びてキラキラとやわらかな黄色の光を出して輝いている。
 朝起きてみると彼女はなぜか夏でもないのに体中に汗をかいていた。そのときに自分の手が何かを強く握っているのに気付いた彼女は、これを発見した、という次第である。
「私にはこのようなものを持っていた記憶がない。家族にも聞いたがみな知らんと言っておったし…。でもなぜだろう?わけわかんない石だけどなんか、捨てちゃいけない気がする。なぜだかわからないけど―」
 それから毎日のように、璃々亜はその石を調べるのに没頭した。理由は分からない。けれど、この石がなにか重要なものらしいことはうすうす感じ取っていたのだろう。頭のいい彼女はおそらく感づいていたはずだ、
―この石はただの宝石ではなく、自分にとっての“鍵”であることにも―
 だが、たいした進展はなく、それから月日は過ぎていき―
 ―数ヵ月後―
『キーンコーンカーンコーン』
 始業を告げるチャイムが鳴った。もちろん、クラスメートの耳には聞こえてもおらず、教室はうるさいまま。たとえ教師が入ってきたとしても、一瞬で収まるようなものではない。
―しかし、その日はいつもと違った。
「おいおまえら!転入生が来てるぞ〜!」
 たったひとこと。ただそれだけなのに、あれだけうるさかった教室からざわめきが消えた。
 女子も男子も期待に満ちた顔で、くいいいるように教卓の前の扉を見つめていた。
「入ってきなさい」
<ガラガラッ>
 扉の開く音。
 だが転入生がいるはずの場所には、誰もいない―。
「いったいどうしたの!?転入生はどこにいんのよ!」
「どういうことだ!?誰もいねぇじゃねーか!」
 静かだった教室が、まるで水を打ったようにざわめきだした。
 すると―!!
 <ダンッ!>
 教室の後ろの扉から青年が現れ、大きく宙返りしたかと思うと教卓の上に飛び乗った!
「!?」
 驚いたのもつかの間その人物はとうとつに自己紹介を始めた。
「俺の名はラオ・サファイアだ!帰国子女なんでヨロシク!!あと今さっきのは俺の特技!カッコいいからって惚れるなよ!!」
「…………」
「ん?どうしたんだ、おまえ」
 青年はあきれてものも言えず、必死に笑いをこらえようと顔を伏せている前の席の璃々亜の顔をのぞきこんだ。
「!?まさか、リリア…」
 そういうと青年はいきなり璃々亜を力いっぱい抱きしめた!
―すらりとした細くしなやかな手足。まるでサファイアのように美しい、青くてつややかな髪。そしてきれいに整った顔の中でひときわ目立つ深いブルーの瞳はまるで夜空の星のようにかがやいていて―。
その青年は、まさに―!
「!!」
 その顔を、姿を一目見たとたん彼女の心の中ではちきれたようになにかがあふれ出す―!!
 時の書のこと、≪時の神≫のこと、無限のループのような世界のこと、≪時の神≫の姫君候補に選ばれたこと、[本当の世界]と[時の神になれるかもしれない試練]、どちらを選ぶのかせまられたこと、けれど自分は本当の世界を選んだこと、そのせいで好きだと気付いた彼、ルオ・サファイア―ルオと離れることになったこと―さらに彼により記憶を封印されたこと、そして本当の世界に戻されるときにつかんだものがあの石だったのだということも―
―彼女はすべてを思い出したのだ―
「ルオ…!!」
 そういうなり彼女は駈け出した。彼と初めて出会った場所―古びた図書室へと―

「なんで…なんでなんだよ。どうしてだ……俺の…リリア…」
 兄の名を呟き、急に走り出した彼女を見て、切なげにラオの瞳が揺れる。
―彼女が自分に向けた笑顔と、ルオに向けた笑顔―
 そのことを思い出すと、彼の胸がチクン、と痛んだ。
【EP-5】「不思議な声と証と再び与えられた挑戦権」
「はあ、やっと着いた…」
 彼女―璃々亜は古びた木製のドアの前に立っている。
 教室からその場所までたった三分程度しかかかっていないはずなのに…。それだけの時間だけなのに、とても長く感じられた。
「きっと、ここに戻る方法があるはずだわ!今すぐに戻りたい!」
 彼女の頭の中は、彼―ルオのことで埋め尽くされていた。他のことを考える余裕なんて、もちろんない。
 彼女は急いでドアノブに手をのばす。
 しかし、ドアノブに触った瞬間、彼女は不思議な感覚に陥った。
 まるで誰かになだめられているかのように……少しずつだが、あせっていた心が落ち着いていくのがわかる。
 頭の中がすうっと爽快になっていき、いつしかおだやかな気分になっていく。
 そうして落ち着くにつれ、考える余裕ができた彼女はあることに気がついた。
(そうだわ!私はただ何も考えずに決めつけていただけなんだ。どうすればいいのかとかちゃんと考えもせずに、ただ“きっと図書館に行けば戻る方法があるはず!絶対なんとかなる!!”って勝手に思いこんでいただけ…)
「よ〜し、どうすれば戻れるのか考えてみよう!!」
 そう言ってしばらく考えてみたが、
「…わからない。一体どうすればいいのかしら?あっ!」
 なかなか答えは出らなかったが、ヒントを探すことを思いついた。
「もしかしたら、あの‘時の書’って本に何か情報がのってるかも…」
 深呼吸をしてドアノブを握りなおすと、ゆっくりと扉を開いた。
<キイイ…>
 扉の向こう側は本だけの世界で、ほこりっぽい本棚がたくさん…なかった。あれだけたくさんあったはずの本棚が、ひとつもみあたらない。それどころか、本一冊すらないのだ。それどころか、まるで別の空間にいるかのような異様な光景が彼女の目にとびこんできた。部屋全体が青紫色の奇妙な光を放っている。その部屋の片隅に、一か所だけぽっかりと丸い穴が開いたように真っ暗で何もない場所があり、そのまわりには大小、色形さまざま時計がたくさん飾られていた。
「何なの…?この場所……」
 驚いて立ちつくしている彼女の心の中に、男なのか女なのか、老人か若者かさえ分からない、とても不思議な声が流れ込んできた。
そなたが時の封印を使うことのできるリリア姫か。その魔力…さすがだな
「だ、誰!?どこから話しているの?なんで私の名前を知っているの?こたえて!」
おびえることはない…。我は時宵霊刻神(ときよいのれいこくしん)―すなわち、‘時の覇者’である。我はそなたの心に言葉を送っているのだ。特別に助言をしてやろう。今から言うことをよく聞くがよい。時の迷路に出口はあらず。抜けだしたくば、自ら創りだすべし。おおいなる時の加護がそなたにはある。あきらめるな、あきらめればそこですべてが終わる。時の迷宮で、もし少しでも気をぬけば、そなたは永遠の闇に封じ込められるであろう―そなたが我を欲する時、我はそなたの助けとなろう。そなたに再び挑戦権を与える。試練を受けたいと望むなら、証としてこれを受け取るがいい――
 声がそう言うと、ぽんっとどこからか楽器が現れ、璃々亜の腕の中にすとんとおさまった。
「この楽器が証っていうものなのかしら?」
 彼女の腕の中には、とても美しい装飾がされているハープがあった。青い色の蝶が舞っている彫刻がほどこされていて、中央に紫色の宝石がはめ込まれている。
「これって、弾くことができるとか?」
 ためしに弦にそ〜っと触れてみる。
<ポロン>と、とてもきれいで軽やかな音がしたかとおもうと―
≪シュウン≫
 あの何もなかった真っ黒な空間が消え、かわりに青い扉が現れた!!
「あ!あの声が言ってた挑戦権ってもしかして…」
 彼女の予想は当たっていた。<ギイイ…>と扉がひとりでに開かれて、
<カッ>
 強い光があふれだし、璃々亜の体を包み込む。そして彼女はどこかへ飛ばされるような感覚をふたたび感じた。
(ついにあえるんだわ!彼、ルオに、ようやく、会える…)
 彼女はその流れに身を任せ、そして今回も以前と同じく意識を失った―。
【EP-6】「過去の記憶(1/5)」
「俺の……リリア…」
 深いため息をつきながらラオは再びそうつぶやいた。
≪リリア≫
 それは彼の心の中に大きくいすわっている存在。
 彼の心と深くかかわっている存在。
 彼の大切な親友であり幼なじみでもある存在。
―そして……彼の最愛の人<だった>存在。
「ちっくしょう…!!」
 今は、もうこの世のどこにも存在しない。 
 消えてしまったのだ。あの日のあの時間に、≪時の流れ≫にのみ込まれて。
 ―四年前―
<ドンドンドンッ>
 「お〜いラオくん、ご飯だよ!!」
 扉をたたく音と無邪気な少女の声が聞こえ、テーブルいっぱいの料理を今まさにほおばろうとしていたルオは現実に引き戻される。
「なんだよ!!人がせっかくいい夢見てンのに起こしやがって!そういう遠慮無しなトコを少しは変えろよぉ…」
 ベッドの上であぐらをかき、不機嫌そうな顔で扉を見つめる。
<ガチャ>
「えへへ!だってラオくんがいい夢見てるのかわるい夢見てるのかどうかなんて私にはわかんないんだも〜ん!」
 そう言ってにっこりほほえんだ。
(うっ…そんな顔で言われたら言い返せねえ……)
 ラオは目の前にいる少女のことが好きだった。
 大好きだった。
 愛していた。
 ピンク色のふりふりのパジャマを着て、栗色のやわらかな髪を肩にたらし、琥珀色の瞳で自分を見つめている少女が。
 リリア・フォルグ
 十三歳の女の子。ラオより一歳年上で明るくて優しく、ちょっとおてんば。可愛いうえになんでもできるのででピューリム村の女子の中では一番モテる。だがそのぶん女子からうとまれていて、村の女の子たちには悪口ばかり言われている。
「ラオくんってば!もう、お昼ご飯冷めちゃうよっ!先に行ってるからね!!」
 もう一度ラオに極上の笑顔を投げかけるとリリアは部屋から出て行った。食堂(実を言うとここは学校の男子寮で本当なら女子は立ち入り禁止なのだが食堂はほとんどのものが大食堂で食べる。寮のコックの料理がビミョーなため)
 その直後。
<カチャ>
「ラオ、入るよ」
 今度は誰かと思いきやラオの兄ルオだった。
「おい兄貴、なんの用……」
 話しながら何気なく兄のほうをみたラオは、あまりの驚きに次の言葉が話せなくなった。
「ん?どうしたんだラオ」
 ラオは目が目が離せなくなっていた。兄の隣にいるリリアから。
「あれ?あたしの制服か髪になんかついてる?」
 不思議そうに彼を見つめるリリアの髪は…黒。
 しかもショートカットだ。着ている服も中学の制服で、ピンク色のふりふりパジャマではない。
「あれ……?リリアって黒髪でショートカットだったっけ?栗色の長い髪じゃなかったか?それに今階段降りて…」
「は?何いってんのラオ、十歳の誕生日にこっそり髪切って二人を驚かせたじゃん!覚えてないの?」
 そうリリアに言われた瞬間にラオは気がついた。
 リリアが栗色で長い髪だったのは十歳まで、ピンクとふりふりのパジャマが好きだったのも十歳の時までで、今はむしろ大嫌いだ。(ふりふりのせいでコケて、水たまりに頭をインしてしまったときから)
 それにラオのことを<くん>づけで読んでいたのも十歳までだったはずだ。
「おい……リリア、おまえ…まさか…」
 言葉にならない声をあげ、ラオはリリアの肩を強くつかんだ。

【EP-7】「過去の記憶(2/5)」
「おい……リリア、おまえ…まさか…」
 言葉にならない声をあげ、ラオはリリアの肩を強くつかんだ。
「痛っ!!」
 強くつかみ過ぎていたのか、リリアは顔をしかめ、小さく悲鳴を上げた。
「あ、わり…「大丈夫かっ!?」
 ラオの謝罪の言葉は、最後まで紡がれなかった。
「ルオ…うん。大丈夫!!」
 心配げなルオにやわらかく笑いかけるリリア。
「リリア…」
「大丈夫だってば!もう謝らなくていいから!!」
 ラオにも二カッと笑顔を向けるリリア。
 だが、その笑顔は先程ルオに向けられていたものとは明らかに違ったことに、ラオは気づいていた。

 


2012/09/22(Sat)12:13:16 公開 / 三毛猫☆
■この作品の著作権は三毛猫☆さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
みなさんはじめまして!私は三毛猫と申します!超ヘタで、話がめちゃくちゃおかしいかもしれませんが、できるだけ頑張って書いたつもりです。分かりにくかったり、ルール違反だ!ということがあったら、是非教えてください。登竜門では、皆さんみんな本気で、すばらしい作品を書いていらっしゃいますね。先程読ませていただきましたが、どの作品もタマシイがこもっているなあ。と感心しました。皆さんと違いまだ未熟者ですが、私もお話を書いたり読んだりするのが大好きです!もちろん、みなさんのように本気で書いていくつもりです。だから、どうかこれからも、不器用な三毛猫ですが、どうぞよろしくお願いいたします! <(_ _)>(ペコリ↓)

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
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2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。