『記号の少女』 ... ジャンル:ショート*2 異世界
作者:赤釘春流                

     あらすじ・作品紹介
 読み易いように改稿致しました^w^ では、本編をどうぞ^^

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記号の少女。

 『記号』の充満する、この世界。
 私は、記号の少女。
 個性と言う名の、『記号』を全身にまとう。
 ロリ顔という『記号』、赤髪という『記号』、胸がデカイという『記号』。
 両の瞳の色が違うという『記号』、無条件で主人公を好きになると言う『記号』。
 それが私。作者の好き勝手に生み出され、作者の勝手な都合によって破棄される私達。
 私が生み出された世界のジャンルは、どうやら『学園』らしい。
 しかし、作者はプロットも作らないで勢いだけで小説を書いている人だから、この先のストーリーがどうなるのか予想が付かない。
 ジャンルは『学園』と銘を打っているが、実際の所、それが守られるのかすら怪しい。
 この作者のことだ。学園に居た仲間を引き連れて、異世界にトリップしてしまうかもしれない。主人公が女装趣味に目覚めるかもしれない。パラレルワールドから別の私がやってくるかもしれないし、パロディだらけの二次創作もどきになるかもしれない。
 本当に、一秒先が分からない世界。
 ――妄想力の豊かな中学生が作っている、小説の世界。
 それが、ここなのだ。……まぁ、私は私の役割をこなせば良い。
 好きでもない主人公を庇って、死ぬのだって別に怖くは無い。
 だって、私は元々無なのだから。ただの、『個性』と言う名の、記号の寄せ集めに過ぎないのだから。
 無が一回、有に変わったとしても。無であったことに変わりは無いのだから……。
          ☆
 長編か、と私はボソリ呟く。
 どうやら、この作者、無謀にも長編ストーリーを書く気らしい。
 ……本当に最後まで書くのだろうか? 最後まで物語を終結させてくれるのだろうか? 
 今から、そんなことを不安に思う。
          ☆
 そして物語は始まった。
 この話の主な内容は、何だかよく分からない民族の生き残りの主人公が、何だかよく分からない使命の元、何だかよく分からない化け物と戦いを繰り広げる、それに尽きるらしい。
 主人公の能力は、何だかよく分からないけれど最強で、異世界から炎の剣を取り出すことが出来る。
 ……何だかよく分からない。
 さて、どうやら出会いは夜の街らしい。周囲は真っ暗闇に包まれている。すると、唐突に何だかよく分からない巨大な化け物が私を襲ってきた。
「ヒッ!」
 そう言って、目を瞑る。危機一髪の私。
「放て、炎水魔槍天剣」
 不意にそんな声が聞こえた。すると、目の前の化け物は、「ヒギャー!」とか言う叫び声を上げて、チリとなって消えた。
 呆気に取られている私を尻目に、主人公は何も言わずに去って行く。……と言う、『イカにも』な出会いがまずあった。
 助けておいて、何も言わない。
「……カッコ良い」
 私は、そう呟く。そういう描写が、早速小説の中に入った。どうやら、私は主人公に惚れたようだ。
 それにしても、どうなんだろう? 現実的に、そんなことがあったら、私は主人公のことが好きになるのか……? まぁ、そんなこと私が考えても分かる訳が無い。
 作者が、私が主人公に惚れたと書いているのだから、惚れているのだ。多分。
 と、言う訳で私は初対面の主人公に惚れたのだ。
          ☆
 さて、私と主人公は学校で再会した。……色々と疑問はあるが、こんなご都合主義の小説に一々そんなことを言っていたらキリが無い。
 まぁ、ともかく、こうもアッサリ私と主人公は再会した訳だ。
 さて、話してみると、主人公は、俗に言う「嫌な奴」だった。……なんて言うか、多分、『クール』を書きたいのだろうけれど。……端的に言ってしまえば、『人を見下している』ような奴だったのだ。
 主人公が友達と仲良く談笑をしているのを、一度も見たことが無い。恐らく、友達が居ないのだろう。
 孤高の一匹狼 = カッコ良い。
 とかバカなことを思っているのが、やはり作者の人生経験の浅さを物語っている。
 実際の所、孤高の一匹狼は孤独なだけなのに……。
 そんなことを思いつつ、主人公と会話をする。私はこの主人公のことを好き……らしいから。積極的に、主人公に声をかけて行く。自分を、アピールする。
 そのくせ、肝心の所では顔を真っ赤にして、恥ずかしがり、何も出来ない。
 いや、それは別に良いのだ。そう言う子は現実にも沢山居るだろう。だから、私が演じている『私』に共感してくれる人も多分居るはずだ。
 だけれど――。主人公に付きまとうせいで、私は事件に巻き込まれていく。巻き込まれた挙句、何度も主人公に助けられる。
 ようは、『足手まとい』になっているのだ。それでも『私』は、主人公にまとわりつく。
 『私』って何てウザい子なんだろう? 
「はぁ……」
 自己嫌悪の溜息を一つ吐いた。
          ☆
 私は主人公に惚れているらしい。
 惚れては無いけれど、惚れているらしい。
 まぁ、仕方が無いだろう。この、小説の世界で、記号の寄せ集めである私は、作品の中で『私』を演じるしか無いのだから。
 だから、「記号」の寄せ集めである私はいわゆる、「ツンデレ言葉」を使いながら、主人公と通学路を歩く。
[アンタ、バカじゃないの?]
[そ、そそそそ、そんな訳。……無いじゃない]
[はぅうっ!?]
 など。……はぁ、と心の中で溜息を吐く。私は何をやっているのだろうか? と思う。 
 そもそも、私は主人公のことを好きでは無い。好きなのだけれど、……内心では好きじゃない。いくら顔が良かろうと、いくら強かろうと、こんな人を見下したような奴を好きになりはしない。
 それなのにも関わらず「好きでは無い、だが、内心惚れている」と言う演技をしなければならない。本当に疲れる。
 まぁ、主人公の男の子も、しょせんは記号の集まりなのだ。そう考えると、彼に同情すら覚える。
 恐らく、彼も「クール」を演じることに疲れているのだろう。私のように。
 でも、私達はその疲れを表現することはできない。だって、私達は小説の中の人間……。いや、ただの記号の集まりなのだから。
          ☆
 物語は、この作者にしては珍しく続いている。いつもなら、物語を途中で投げてしまうのに珍しいこともある物だ、と私は思う。
 さて、なぜだか主人公は生徒会長になっていた。私は、副会長。
 私の『役割』は、囮になることだ。
 化け物どもを釣る為の、囮……。魚釣りで言えば、ミミズのような存在。
 だが、主人公にベタ惚れな私はその役を甘んじて受ける。
 甘んじて、囮になる。
 私がもし、現実世界に居るのならば、こんな役は絶対に引き受けない。まして、こんな嫌な「記号」ばかりのコイツに惚れたりなんかしない。絶対に。
 結局、主人公の強さのみを見せ付けられて、盛り上がりの無いままに終わった。
          ☆
 そんなのが日常になったある日のこと、私の元に、一人の少年が現れた。無個性な顔に、無個性な表情。無個性な身体付きに、無個性な性格、……主人公の数少ない友人の、A君だ。
 名前くらい考えてあげろよ……、と心の中でツッコミを入れる。だが、それを表に出さないようにしてA君と会話を始めた。
 彼は、主人公の男と昔からの知り合いらしい。その知り合いが、なぜ私に話しかけてきたのかは分からないけれど、彼は主人公の秘密を語っていった。
 主人公がなぜ、あんなに強いのか。――ホニャララ族の呪いがどうたらこうたら。
 主人公がなぜ、周囲に冷たいのか。――昔あった、ホニャララが原因。
 主人公がなぜ、異世界から剣を取り出せるか。――契約がどうたらこうたら、と。
 何で話してくれたかは分からないけれど、そんなことを彼は喋る。
 そして、最後にA君は、無個性な表情を心配そうに変えて言ってきた。
「気をつけてね」
「――っ!」
 胸が、苦しくなった。
「ど、どうしたの?」
 A君は、少し驚いたような表情で聞いてきた。
「な、何でもないわ。気にしないで」
「だ、大丈夫?」
 A君は、本気で心配そうな顔でこちらを見てくる。
「大丈夫、……大丈夫だから」
 何とか、立ち上がる。
「本当に大丈夫? 辛そうだよ?」
「……お願い! 私に優しい言葉をかけないで!」
「え……っ?」
 A君が、少し戸惑ったような表情をする。
「……ごめんなさい」
 私は立ち上がり、A君を置き去りにするように、足早にそこを立ち去った。
 ……なぜだろう? 涙が出そうになった。なぜだかは分からない。
 ただ、『記号』を一切持たずに、心配そうな表情をしているA君はとても、とても魅力的に見えて。素晴らしくて、……嘘偽りの無い表情に見えて。
 ――羨ましかった。
 私も、こんな記号の少女になりたくなかった。出来れば、A君のように、不必要な記号を全て取り除いて生きたかった。
 でも、……でも、それはもう適わない。ヒロインである私には、既に決められたエンディングがある。
 もしかしたら、A君に対する憧れもあったのかもしれない。無個性と言う名の個性を、私も欲しかったのかもしれない。
 個性が売りの、キャラクター小説で、唯一無個性の人。名前が無い程に無個性な、A君。
 私のハートは、一瞬にしてA君に奪われていた。
 別に、何を話した訳じゃない。特に、惚れる為のエピソードがあった訳でも無い。でも、でも、……好きになってしまっていた。
 胸が、苦しくなってしまっていた。
 私は、この時初めて恋を知ったのだ。……淡い、淡い微かな恋心。
 きっと、この恋は叶わない。だって私は、小説のキャラクター。
 A君を一人残して置いてきて、私って何て嫌な奴なんだろう、と心の中で思う。
 周囲には見せないように、心の中で自分を呪い、その場を後にした。
          ☆
 物語は最終局面に入った。
 何でそうなったかは、よく分からない。ただ、街は、とてつもなく巨大な化け物によって攻撃を受けていた。500メートルはあるだろう、超巨大な化け物。
 街の至る所から、火の手が上がっている。そんな中、主人公は炎の剣を手に取って巨人の化け物に向かって走り出した。そして、跳んで攻撃を繰り出す。
 良い勝負だ。
 それを、私は遠くから『ガンバレ』と応援の言葉を送る。最後の最後で、私はその程度の役だった。
 きっと、主人公がこの化け物を倒して大団円。そして、私と主人公が結ばれるって所だろう。何か、少しずつ心を開いてきているみたいだったし。……主人公も。
 そして、ハッピーエンド。
 私にとって、絶対にハッピーエンドじゃないハッピーエンドになるだろう。
 この後、一回か二回くらいは主人公もピンチになるかもしれないが、最終的にはハッピーエンドになる。
 その未来は、既に見えている。
 そんなことより、私はA君の方が心配だった。私の想い人、名前の付けられていないA君。
 強い訳じゃない、頭が良い訳じゃない、顔が良い訳じゃない、……でも、でも、何でか知らないけれど、好きになった。好きになってしまった。
 寝ても覚めても、A君のことばかり考えていた。……この想いは伝わらないし、伝えてはいけない。
 それが、ハッピーエンドの条件であり、望まれた最後なのだ。
 でも、こうして炎に包まれた街を見て、A君が無事なことを切実に願う。
 心の底から、A君が心配で。……この物語のラストなんかよりもA君の安否が気になっていた。
 私がA君の安否を心配している間にも、主人公は空を飛びながら剣を振るい、巨人の化け物と互角の戦いを繰り広げていた。
 それを、私はどこか冷めた目で見る。こんな、最後には主人公が勝つと言う、結果の見えた勝負を熱心に見る程、私は酔狂じゃない。
 ――不意に、巨人の化け物がその巨大な手を振るった。それは、主人公には当たらずに、主人公の背後にあったビルに直撃する。
 ビルがいとも簡単に倒壊した。ビルの破片が街に居た人々に向かって、散弾のように降りそそいだ。
 一瞬の叫び声の後に、無音。それを遠目に見て、私は吐き気を催した。……今ので、何人死んだのだろう? 今ので、何人苦しんだのだろう? 
 そんなことを無視して、主人公は巨人とのバトルを繰り広げている。罪悪感なんか微塵も覚えている様子は無く、彼は彼の戦いに熱中している。……そうだ、彼にとって、民衆なんかゴミみたいな物なんだった。
 そして、それは、私が演じている、『私』にとっても同じ。そう、……同じ。
 無個性な人々の『群』がいくら死のうと、物語には関係無い。他人がいくら死のうと関係無いのだ。そんな、人々の『群』に気をかけるなんて、『私』はしない。だから、『私』は主人公の方に視線を戻す。
 唐突に、視線を戻している最中の『私』の視界に『信じられないモノ』が映った。
「――っ!?」
 一瞬、息が止まった。
「え……?」
 私は、ついそう呟き、無個性な人々の「群」に再び顔を向けた。
 そこに居たのは、
「A君…………?」
 A君だった。
 破片が当たったのだろう、腕から血を出して倒れていた。
 視界が揺らぐ、何だかクラクラする、頭がボーっとする。信じられない。いや、信じたくない。A君は、無個性な表情を苦痛に歪めて、倒れている。地面が、こんな遠くからでも分かるくらい赤い。
「……嘘。……嫌、何で、……どうしてそんな所で倒れているの……?」
 ――息が苦しい、私は胸をギュッと抑える。
 おそらく、巨人の攻撃がどれほど凄かったのかの描写を書いたのだろう。その中に、偶然A君が居た。多分、そういうことだろう。
 何でA君がそこに? の思いの後に、A君の元に駆けつけたい気持ちが沸いてきた。
 でも、……駆けつけることは出来ない。だって私はしょせんキャラクター、ただの、……記号の少女。
 無個性な「群」の中の、名前も無いキャラクターのA君。そんなA君の元にヒロインである私が駆けつけるだなんてそんな展開、誰も望んでいない。
 誰も、……望んでいない。
 だから、A君が倒れていても『私』は近寄らない。
 私が演じている『私』は、大勢の人が倒れていることなんかよりも、主人公の戦いの方が大事だから。主人公のことが好きなのだから。
 奥歯を力一杯噛み締めて、主人公の方を向き直る。血だらけになっている、好きな人に背を向けて、主人公と化け物の戦いを見守る。
 そして、「ガンバレ」と声をかける。
 ハッピーエンドの為だ、……そう、ハッピーエンドの為に、この犠牲は仕方のないこと……。そう、自分に言い聞かせる。
 不意に、頬を伝う暖かいモノ。
「……えっ?」
 私は、自分の頬に触れた。濡れていた。
 いつの間に、涙なんて流していたのだろう? 少しだけ驚く。
「……駄目、涙なんて流しちゃ駄目。……好きな人を救えない無力な自分を呪っちゃ駄目、……物語の進行を妨げちゃ、……駄目っ。 ……駄目なのっ」
 自分にそう言い利かせる。涙を、服の袖で拭く。でも、拭っても拭っても涙は止まらない。
「あれ……? おかしいな」
 何回も、涙を拭う。
「涙が、……止まらないよ」
 くやしくて、無力な自分が悔しくて。好きな人があんな大怪我をしているにも関わらず、何も出来ない自分が悔しくて。自分に力が無いことが、悔しい。自分を絞め殺したくなってくる。涙が止まらない。
「……う……くぅ、……う」
 嗚咽を漏らす。止まらない。
 ……バカ、主人公が戦っている傍らで、何の理由もなく泣くヒロインがあるか。ただの記号の集まりである私に、泣く権利はあるのか。いや、無い。泣くことなんて許される訳が無い。
 だから、涙を堪えろ! 私! と何回も自分に言い聞かせる。友人A君の犠牲は仕方の無いこと。物語全体のハッピーエンドの為の、仕方の無いこと。
 ……頭の中では分かっている。でも、止まらない。意思と相反する涙が溢れる。零れ落ちて仕方がない。
 助けたい。
 出来ることなら、今すぐA君の元へ駆け寄りたい。傍に居てあげたい。
 こんな好きでも無い主人公が、こんなクダらないファンタジーの世界を守る為に戦っているのを、ただ応援しているくらいならば。
 この世界が崩壊しても構わない。
 ハッピーエンドにならなくても良い。
 私が死んだって構わない。A君の元へ行きたい! ……でも、それは許されない。私は、無機物。ただの、記号の少女なのだから……。
 もう一度、倒れている人達の「群」を見る。その中の一人には、仰向けになって倒れているA君が居る。
 苦しい、何だか、妙に息苦しい。……心が痛がっているんだ。
 唇を噛んで視線を外す。「死なないで」と切実に願う。私にはそれしか出来なかった……。
          ☆
 そして、物語は終局を迎える。
 何かよく分からない、謎の能力に目覚めた主人公が、アッサリと巨人を倒したのだ。
 そして、『当然』というような顔をした主人公が、こちらへやってくる。
 抱かれる、抱きしめられる。
「……あ」
 私は、無抵抗のままに抱きしめられた。
「お前が居たから、俺は強くなれた。……礼を言う」
 そんなことを、主人公は言う。
 アァ、ソウカ。ハッピーエンドカ……。
 これで大団円のハッピーエンド。何万人死んだか分からないけれど、ハッピーエンド。
 物語っていつもそうだ。
 一人の死者が出ていなくても、最後に主人公が笑っていなければバッドエンド。何万人、何億人と死のうと、最後に主人公が笑っていればハッピーエンド。
 そして、今回は後者のハッピーエンドだ。
 笑っているのは、主人公と私。でも、私は心の中では笑っていない。そして、主人公もおそらく心の中では笑っていない。
 当然だ、何人死んだと思っている。
 そんな状況で、心の底から喜べる人なんて、頭のネジが2、3本吹っ飛んでいるんじゃないだろうか? 
 そんなことを、抱きしめられながら思う。 この、ハッピーエンドと言う名のバッドエンド。少し遠くを見渡すと、A君やその他の人々が大勢倒れている。
 ……名前すらない無個性な存在のA君。
 A君が死んだ所で、私以外に悲しむ人間なんて居ない。A君が死んだ所で、明日も何一つ変わらず世界は続くだろう。
 ……これで良いんだ、……これで。
 A君が、力なく横たわっているのを見ながら、自分にそう言い聞かせる。
 ――駄目だった。
 腕に、力を込める。
「……?」
 主人公が、怪訝そうな顔をした。
「駄目……」
「えっ?」
 主人公の男が、不思議そうな顔をする。
「駄目なの、これでハッピーエンドは駄目……」
 私には、ハッピーエンドと言う名の、バッドエンドを甘んじて受ける勇気は無かった。
「何を……」
「離して!」
 私を抱きしめる、主人公の身体を押しのけようとする。
「な、なぜだ?」
「離しなさいよ! ……お願いだから、お願いだから。……離せぇえええええ!」
 私は、主人公の腕を力一杯振り払った。主人公は、キョトンとした顔をしている。私の両の瞳からは、熱い物が溢れ出ていた。
「……さよなら」
 そう言って、主人公に背を向ける。最後に見た主人公の顔は、キョトンとしていた。当然だ、こんな台詞無いのだから。
 私が目指すのは、そう、A君の元。
 ハッピーエンドじゃなくて良い、バッドエンドだって良い。大団円なんて、要らない。
 私が欲しいのはただ一つ、『本当の私』だったのだ。
 そして、走る、走る、走る。
 A君の元へ、走る。血を流して倒れているA君の元へと走る。
 おそらく、この先に待っているのはバッドエンド。
 でも、それでも良い。偽りのハッピーエンドになるくらいならバッドエンドになってしまえ。そっちの方が、よっぽど気が楽だ。
 崩れているガレキの山を跳び越える。A君の元へと続くこの200Mがもどかしい。
 この道の先に未来は無いかもしれない、待っているのは絶望かもしれない。 
 ――それでも、A君の元へ向かう私の足取りは軽い。

 今の私には、一秒先の台詞も無い――。

END

2010/07/21(Wed)00:49:01 公開 / 赤釘春流
■この作品の著作権は赤釘春流さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 この作品で、楽しんで頂けた方が居たら幸いです>w<
 それと、以前ここに載せていた作品「パニック・ノート」が電撃文庫一次選考を突破しました!! 処女作だけに、嬉しかったです。感謝ですv>q<v
 それにしても高校は楽しいです。勉強が面白すぎてやばいです>w<

 それはともかく。

 読んで下さり、本当にありがとうございました! 
 感謝です! 大好きです!>w<
 では、また会いましょう(`・ω・´)

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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