『鬼ごっこ(短編)』 ... ジャンル:ホラー 未分類
作者:赤釘春流                

     あらすじ・作品紹介
 何回も改稿すみません(汗) ご指摘頂いた、心理描写と、切り裂きジャックの部分を改善しました。 それと、最後のシーンは削除致しました。では、本編をどうぞ>w<

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鬼ごっこ

「いーち、にーい、さーん」
 その少女は、数を数えていた。
「十〜、十一〜、十二〜」
 枝葉が陰を落とす巨木の方を向いて、後ろを見ないようにして。
「九十八〜、九十九〜、百〜」
 数え続ける。
「……二百三十二〜、二百三十三〜。二百三十、四……」
 止めることなく、数え続ける。
「五百四十三〜、五百四十四〜、五百四十五〜」
 まるで、壊れたかのように。
「七百二十一〜、七百二十二〜、七百二十三〜」
 ずっと、ずっと、数え続ける。
「九百九十八〜、九百九十九〜、千!」
 千、数え終わると同時に、少女は振り返った。そこは、無音の空間。誰一人、居なかった。
 夕焼けが差し込む校庭の中、一人、少女は深く、深く溜息を吐いた。
 その溜息は、茜色に染まった校庭の中に消えていった。



 都会ではない、だが、田舎ではない。駅の方へ行けばショッピングモールもあるし、コンビニなどだってある。都会と地方の中間地点、それが、そこを現すのに最も適した言葉だった。
 そんな場所にある、とある小学校。
 小学校四年生になると、女子の間では、仲の良い子達の『グループ』が出来るようになる。そして、『グループ』の子達でいつも遊ぶ、……それが普通になる。
 田舎と都会の真ん中にある、とある小学校。そこの、四年一組にある、一つの『グループ』は、他のグループとは違い、少し特殊だった。特殊と言っても、何てことの無い、ただの4人の女の子の集まりだ。
 その4人の女の子グループは、いつもその4人で遊んでいた。いつも、いつも、いつもその4人でしか遊ばない。他の子と遊ぶことは決してしない。
 だが、特別に仲が良いと言う訳ではなかった。――残念ながら。
 その4人の関係は『友達』じゃなかった。例えて言うのならば、そう。奴隷と主人のような――主従関係。
「今日も『鬼ごっこ』するよ!」
 淡い亜麻色の髪を軽く揺らし、一人の少女がそう言った。6時間の授業が終わって、今は放課後だ。つまり、放課後にわざわざ鬼ごっこをしようと言い出したのだ。
 すぐに、残りの三人の内、二人の少女は
「賛成!」
 と言う。ただ、残りの一人の少女は戸惑っていた。その少女は、どこと無く気の弱そうな顔立ちをしている。
 その少女に対して、亜麻色髪の少女は眉をひそめて言った。
「……何、アンタ? やらないの? 鬼ごっこ」
 気の弱そうな少女は、遠慮がちに答える。
「あ、あの。……わ、私はね、その、……今日ね、塾がね……」
 亜麻色髪の少女は、不快感を顔に出した。
「うわっ、私達と遊びたくないんだ。最悪、んじゃ、もう二度と遊ばないから。バイバイ」
 そう言って、亜麻色の少女はそこを立ち去ろうとした。気の弱そうな少女は、明らかに慌て、亜麻色少女の服の端を軽く掴んだ。
「……何よ?」
 亜麻色少女は、冷たい視線を気の弱そうな少女に向けた。
「う、……うぅん。やるよ、……やる。だから……」
 気の弱そうな少女は、そう呟いた。
 三人の少女は、底意地の悪さを感じさせられる笑みを口元に浮かべ、お互いに目配せをした。
「んじゃ、アンタ鬼ね」
 3人の内の1人、長い黒髪を持つ、気の強そうな少女は、気の弱そうな少女に対して、そう言った。気の弱そうな少女は明らかに戸惑っている。
「えっ……? ま、また?」
「何? 不満?」
 黒髪の少女は顔色を変えずにそう聞いた。
「だって、……昨日も……」
「不満な訳?」
「不満、……じゃないよ」
 少女は目を伏せてそう答えた。黒髪の少女は当然と言った風に話を続ける。
「なら良いじゃない。やるわよ鬼ごっこ。アンタが鬼ね」
「うん、…………分かった」
 気の弱そうな少女は下を向いたまま、そう言った。
「じゃあ、千秒数えて」
「千秒……。うん、……分かった」
 少女は、テンション低くそう言った。三人の内の、金髪ショートカットの少女は、気の弱そうな少女に対して言う。
「じゃあ、あたし達を全員捕まえられたら、アンタの勝ちだからね」
「うん、……分かったよ」
 気の弱そうな少女は、か細い声でそう呟いた。そして、ラクガキのある机に顔を伏せて、数字を数え始めた。
「いーち、にーぃ、さーん、よーん」
 気の強そうな少女達三人は、気の弱そうな少女を一人残し、少女をバカにするかのような笑みを浮かべながら、教室を出て行った。
「ごー、ろーく、なーな」
 少女は、数えながら嫌だなぁ、と思った。
 そう、少女はガッツリと『イジメ』を受けていた。何でこうなったのか、何でイジメられているのか、詳しい理由は分からない。少女自身にだって、自分に、何の落ち度があったのか分からない。おそらく、少女が内気で反抗しないから、『何となく』イジメを受けているのだろう。
 小学校なんかでは、よくあること。何てことの無い日常の風景。
 そして、少女は真面目に数字を数えていく。千と言う、通常なら有り得ない数字をひたすら真面目に数え続けていく。なぜなら、もし、キチンと数えていないことがバレたら仲間外れにされてしまうから。
「七百五十二〜、七百五十三〜、七百五十四〜」
 そんな嫌な奴らになら、仲間外れにされても良いじゃないか、と思う人は多いかもしれない。だが、その少女にとって、イジメられることなんかよりも無視をされることの方が、『居ないモノ』として扱われることの方が、よほど怖かったのだ。だから、少女はこんな下らない茶番すらもキチンとやる。
「九百九十八〜、九百九十九〜、……千」
 少女は、千と言う長い数字を数え終えた。顔を上げて周囲を見渡すと、当然のごとく教室には誰も居ない。少女は昨日と同じように溜息を深く深く、一つ吐き出した。その溜息は小学4年生の女の子が出すものとは思えない程に、濃い負の感情に満ちている。
 だが、少女の負の感情を受け止めてくれる人は、この場には居ない。
 ……そして、少女は『いつものように』帰り支度を始めた。なぜかって? だって、イジメっ子の少女達はもう、学校には居ないから。
 気の弱そうな少女を一人残したままに学校を出て、家へ帰っちゃっているから。
 毎日、毎日、同じことを繰り返し。いつも、少女に鬼ごっこを持ちかけて『鬼』をやらせて、千数えさせて自分達はサッサと帰ってしまう。何が面白いんだろう? と少女は疑問に思う。
 そんなことを考えながら、下駄箱で靴を履きかえ、トボトボ独りで歩き、学校を出て、いつものように曲がり角を曲がる。
 いつものこと、そう。いつものことだったのだ。
 少女に何の落ち度があった訳でも無い、少女が悪かった訳でも無い。ただ、不運なだけだったのだ。現実は物語のように分かり易い伏線がある訳でもなく、唐突に不幸なんてモノはやってくる。
 その不幸に、少女は偶然遭遇してしまっただけなのだ。
 だから――、少女は歩道に乗り上げてきた、トラックに轢かれた。不幸としか言いようが無かった。飲酒運転だった。歩道を歩いていた少女の身体は、運悪くトラックの車輪に巻きつけられ、そのまま何百メートルも引きずられていった。
 即死だった。道には、おびただしい量の血と、引きずられた痕が生々しく残っていた。
 その様子を偶々見ていた人は、『少女だったモノ』のあまりの様子に、吐いた。
 少女は、人間の原型を留めていなかった。少女のことを、あえて言うのならば、『グシャグシャに潰れた、目玉の無い化け物』。
 翌日、全校朝会で少女の死が発表された。皆が皆、驚いていた。だが、その驚きと言うのは、少女が死んだことに対してではない、自分達の近くで、そんなトンでもない事故が起こったことにだ。
 内気で、友達が居なかったからだろう、少女が死んだことを悲しむ人間は一人も居なかった。
 ――ただの、一人も。
 4年1組の、内気だった少女の机の上には、菊の花が入った花瓶が添えられた。そして、授業は再開された。休み時間、花瓶の添えられた少女の机の所まで行って、少女をイジメていた三人の少女は口々に言った。
 ――悪いことをしちゃった、ごめんなさい、私達は何て酷いことをしたんだろう、謝りたい、償いたい、出来ることならもう一度会いたい、もう一度やり直したい。私達が愚かだった、ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。
 と言う謝罪の言葉。――ではなかった。
「きゃははっ、アイツ死んだってよ。マジかよ」
「ありえねー、ウケル」
「しかも、飲酒運転に巻き込まれて死ぬとか、本当にダサいし」
「キャハハハっ!」
 死んだ少女を侮辱する発言だった。
「まぁ、でも。別にアイツが死んで困ることは無いし、良いんじゃない?」
「あはは、そうだよねー」
「逆に、死んでセイセイしたって感じ?」
「あはは、ひど〜い」
「あは、由美だってそう思ってるクセに」
「あれ? バレた〜?」
「「「キャハハハッ!」」」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 その夜、3人の内の1人、金髪の少女は一人家の中に居た。広い、広い家の中で独りきり。最先端の設備が整った、今、流行りのエコな家。地球には優しいようだが、少女にとって別にどうでも良かった。
 音一つしない家の中で、少女は何回読んだか分からない漫画を読んでいた。この広い広い家の中で、今日も独りぼっち。……少女にとって、いつものことなのだ。
 少女の父は仕事で忙しく、何日間も家を空ける。母親は、今日も少女を独り残して男のもとへ行った。
 父は、金を運んでくるだけの虫で、母は未だに盛りの付いた犬のよう。
 金髪の少女は、父親も母親も嫌いだったし、構われることが無くて逆にセイセイしていた。だが、どこかでやはりストレスが溜まっていたのかもしれない。だから、気の弱そうな少女をターゲットとしてイジメをしていたのだ。
 漫画を読み終える。そして、ソファの上にゴロンと横たわり、目を閉じた。
 ――1、2、3、4………………156、157、158…………512、513、514…………927、928、929……。
「ん……」
 少女は、奇妙な声によって目を覚ました。小さな声だったけれど、周囲が静かだったせいもあって聞こえたのだ。誰が数を数えているんだろう? と少女は疑問に思いながら、目を開けた。
 目の前には、何かが居た――。
「……えっ?」
 少女は、思考が固まった。その何かは「ニタァ」と気持ち悪い笑みを浮かべて言った。
「千」
 「何か」は、持っていた鉈を振り上げた。
「……い、……嫌ぁあああぁああ!」
 少女は、叫んだ。
 翌日、家に帰ってきた母親によって、少女が殺害されているのが発見された。
 全身に、ナイフと言うナイフが何十本も刺さっていて、首が、何者かによって切り取られていた。そして、現場には血文字が残されていた。
『ツカマエタ』
 この血文字が何の意味なのか、警察はよく分かっていない。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 翌日、家で親友の死を知った黒髪の少女は泣いた。号泣し、自分の部屋に閉じこもった。少女の部屋は、今どき珍しく和室だ。畳みが6畳ある。本棚と机があるから、実質少女が使えるスペースは4畳ほどだったが、少女はこの部屋が気にいっていた。
「う……う、……うぅ」
 少女は、枕に顔を突っ伏して泣いた。
 ――989。
 不意に、少女はそんな声を聞いた。今の今まで、荒れ狂い泣き喚いていた自分の声で気づかなかったのだろうか? 少女は、怪訝そうに周囲を見渡した。しかし、誰も居ない。少女は、再び泣き出した。
 ――997、998、999。 
 やっぱり誰か居るのだろうか? 少女は再び顔を上げた。
「千」
「……えっ?」
 黒髪の少女が、人生の最後に言ったセリフは、疑問系だった。
 泣き喚く少女を落ち着かせようと、母親はホットミルクを作り、階段を上がってきて部屋のドアを開けた。
 ――部屋は、血に染まっていた。
 自分が腹を痛めて産んだ娘が、頭部の無い状態で死んでいた。
 母親は事件後に突然錯乱し、ビルから飛び降りて自殺をすることになる、がそれはまた別の話。
 現場には、また『ツカマエタ』と言う血文字が残されていた。
 少女達の突然死により、学校は大パニックになった。
 謎の手口、謎の犯人、首を切ると言う狂気じみた犯行に、『ツカマエタ』と言う謎のメッセージ。現代に出現した「鬼」として、マスコミは、犯人を追った。
 世間は謎だらけの犯行に興奮を覚え、少女達の通っていた学校の周りにはヤジウマが大勢やって来た。
 警察には、『自分が犯人だ』と名乗る人物が、十数人も自首をする。勿論、警察は一人一人丁寧に調べたが、全員に犯行は不可能だった。
 そして、そんなヤジウマに紛れて一人の男が女生徒を襲った。小学生の女子生徒を、トイレに連れ込もうとしたのだ。それは運よく未遂に終わったが、それが最終的な原因となり、学校は閉鎖された。校門は固く閉ざされて、誰も入ることが出来なくなった。
 だが、しょせんは学校。柵をよじ登って越えてしまえば、簡単に入ることが出来る。
 4人の特殊な『グループ』の中で、最後に生き残った亜麻色髪の少女は柵をよじ登って、誰も居ない校舎の中に入った。理由は、少女にもよく分からない、――ただ、家の中に居ても死んだ親友の少女達を思い浮かべるだけで辛かったのだ。
 だからって、なぜ学校に行くかと聞かれたら、少女は答えることが出来ない。真っ当な理由なんてないのだ。ただ、何となく来たかった。それだけのこと。
 茜色に染まる夕焼けが校舎を照らす中、元イジメっ子の少女は誰も居ない静かな廊下を歩き、自らのクラス、4年1組へ向かう。物音一つ聞こえない中、少女の足音のみ響く。
 そして、4年1組に着いた。扉を開けて、入り、閉める。黄色く鮮やかに染まる夕焼けは教室を照らし、どこと無く非現実的な、幻想的な雰囲気を出している。そして、『それ』を目にした。
「う、……うわぁああぁああああ!」
 亜麻色髪の少女は、泣き崩れた。自分と仲の良かった、二人の少女の机に置かれてある花瓶を見て。
 イジメられっ子の少女が死んだ時には鼻で笑ったくせに、自分の仲の良い友達が死ぬと、大声で泣いた。
「うわぁああぁあ! ……あぁああああぁあ!」
 目から溢れる涙、止まらない、心の器から、感情と言う名の水が溢れ出るかのように、涙はボロボロと零れ落ちる。
<コツン……>
 ――不意に、教室のドアの向こう側で足音。
「……!? 誰っ!?」
 少女は、涙を拭って、その扉の方向を見た。
 ――だが、扉は開かない。
「…………誰か居るの?」
 少女は問いかけた。
「……」
 答えは、帰ってこない。ただ、ドアの向こうに何かが居ると言う気配はある。そして、少女の問いかけの代わりに奇妙な声が返ってきた。まるで声帯が潰れているかのような、しわがれた声。
「九百九十五……」
 995……? 何のこと? と元いじめっ子の少女は思った。
「……」
 少女はゴクリと息を飲み、ドアの外に居る人物に恐る恐る、聞く。
「誰?」
「九百九十六……」
 996、……数えている? と少女は察した。
「九百九十七……」
 扉の向こうに居る『何か』は、そのまま数を数えている。
「誰なの?」
 少女は問いかける。
「九百九十八……」
 『何か』は答えない。
「ねぇってば!」
 少女は声を荒げた。
「九百九十九……」
 『何か』は、そう呟いた。その時ふと、少女は思い出す。『アンタが鬼だからね、千数えなさいよ』と、よくイジメられっ子の少女に言った言葉を。
「……」
 ドアの外に居る何かは、そして黙り込む。――音は静まり返り、何も聞こえない。
「千」
 ドアの向こうで、そんな声が聞こえた。
「……」
 無音、物音一つ聞こえない。少女は、固い唾を飲み込んだ。少女は死んでいるはず……、だから、有り得ない。死んだ人間は、生きている人間に復讐しに来ることなんて出来るはずがない。それが常識、それが現実。だから、元イジメっ子の少女は、ドアの向こう側に居る『誰か』に声をかけた。
「……アンタ、誰よ!?」
 少女は強がってそう叫んだ。返事は無い。
「す、……姿を見せなさいよ!」
 ポンッ。
 返事の代わりに返ってきたのは、そんな音だった。
 そして、肩に感触。冷たい手の、感触。
 少女は振り返ることが出来なかった。
 なぜかって? だって、そこには何もなかったはずだから。誰も、居なかったはずだから。
「……ヒッ」
 心の中を覆い尽くす恐怖に耐え切れず、少女は短く悲鳴を上げる。そして、そんなことあるはずがない、と思い込む。まさか、イジメられっ子の少女が復讐しに来るなんて、現実的に考えて有り得ないと、思い込む。この冷たい手だって、誰かがイタズラしているに決まっていると思い込む。
 じゃあ、誰が? ――誰も居なかったはずだ。
 恐怖で、身体が動かない。肩に手の感覚がある。誰かが、肩を触っているのは明らかだった。じゃあ、この肩の感触は何……? と、少女は回らない頭で考えた。何も答えは出なかった。明らかな、手の感触。後ろに誰か居る。でも、誰か居るにしても、何で声をかけずに肩を置くだけ? それに、何でここに居るの? 何で、こんなに手が冷たいの? こんな、まるで死人みたいに……。そんなことを、少女は考えた。
 全身の神経が叫んでいる、動けと。その場から逃げろと。でも、動かなかった。血液は一気に冷たくなり、底冷えする。
 恐怖により、全身の産毛は逆立ち、歯がガチガチと音を立てて震える。止まらない、止めることが出来ないこの恐怖。
 有り得ないと思い込む。思い込もうとする。
「嘘よ、……嘘よ、嘘よ、嘘よ、嘘よ」
 少女は、顔面蒼白のまま、ブツブツとそう呟き始めた。
「ツ……カマ……エ……タ」
 後ろで、そんな声が聞こえる。
「有り得ない、有り得ない、有り得ない、有り得ない、有り得ない」
 少女は、何回もそう言う。首をフルフルと振り続ける。
「有り得ない、ありえな――、…………嫌ぁああぁああああぁああ!」


 翌日、警備員の人が教室の中で一人の少女の変死体を発見した。死体には、首がなく、世間を騒がしている事件と同じで、血で『ツカマエタ』と描かれていた。
 そしてそれ以来、パタリと殺人事件は収まったのだった。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 その一週間後。事故で死んだ少女は、無事に火葬された。
 焼きあがった骨を拾う為に親族が呼ばれ、焼却炉から大きな台が運ばれてくる。近づくとまるで、ストーブのように熱い台の上には、白い骨が灰に埋もれていた。
 それを、鉄の箸で拾うと、係員が骨の位置を教えてくれる。
「頭蓋骨は、後でフタに使うので、置いておいて下さい」
「はぁ……、分かりました」
 父親は、頭蓋骨を鉄の箸で掴んで、隅に移動させた。母親がさめざめと泣いている中、父親は係員の人に聞いた。
「のど仏はどれですか?」
「これです」
 父親は、拾った骨を次々と骨壺に入れていく、だが、骨壺は中々一杯にならない。
「もっと拾って下さい」
 係員はそう言う。
「はぁ……、でも、あまり残っていないんですね」
「ここの炉は新しいですからね……。骨の殆どは焼けてしまうのですよ。この方の骨は多い方です」
「そうなんですか……。これは?」
「骨盤ですね、その横が太股の骨です」
「これは?」
「尾てい骨ですね」
「これは?」
「頭蓋骨ですね」
 部屋に居た全員が、怪訝な顔をした。
「……これが頭蓋骨じゃないのか?」
 父親は、先ほど隅に寄せた骨を係員に見せた。すると、係員は不思議そうな顔をして、別の人を呼び、骨を調べ始めた。そして、係員は奇妙なことを言った。
「これは――、骨が多いですね」
「……!?」
「頭蓋骨が、4つ……。3人分、多いです」
 少女の父親は、訳が分からなかった。なぜ、娘の柩の中に他人の頭部が入っているのか。そして、なぜその頭部を抱きかかえる形で、死んでいたか。
 その理由は今でも解明されていない。
 いや、違う。
 解明されるべきではない。



THE END


2010/07/17(Sat)21:51:35 公開 / 赤釘春流
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■作者からのメッセージ
 この作品で、誰かが楽しめたと言うのならばこれに優る幸せは無いです^w^
 では、ここまでお付き合い頂き、ありがとうございましたM(。。)M
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