『white room』 ... ジャンル:ショート*2 異世界
作者:トロサーモン                

     あらすじ・作品紹介
異世界に閉じこめられた男。

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宇宙ネズミが僕の前に現れたのは4月2日だった。
 真っ白な部屋に僕はいた。この部屋は僕の部屋じゃない。
 ベットと机、鉄格子のはまった窓があるだけの部屋。窮屈で、頭が可笑しくなりそうになる。
 その部屋に連れてかれたのは多分三月の終盤だった。多分ってのは全然時間感覚を思い出せないからだ。むしろその前後の記憶がはっきりしないのだ。いつの間にかここにいた。僕はここにいた。そして、よくわからない生物に囲まれていた。
 最初は抵抗したが、気が付けばこの部屋に閉じこめられていた。
 何故自分がそこにいるのかわからなかった。僕が何をした。
 3日ほど叫び続けたが、それも無駄だとわかったので、それもしなくなった。
 部屋はびっくりするほど真っ白。真っ白な世界。音が全くしない。
 一日に何回かドアが開く。
 そしてそこで僕はいろいろな話を聞いたり、よくわからない、生物の世話をする。
 よくわからない生物は大きな部屋にいっぱいいる。そいつらはうようよ動く。色も形も様々なその生物は僕の回りをうようよ動く。手が十本あったり、木の根っこのような足のやつ。粘膜でぬちゃぬちゃしているやつ。イカみたいなやつ。骸骨みたいなやつ。顔が二つある奴。そして時折奴らは僕に話しかける。よくわからない言葉で。
 また別の部屋にも連れて行かれる。僕の部屋と似たような白い部屋で。そこではビッグフットが座っている。そして、僕に喋りかける。
「ふごふごふごふごうぐふご」
 僕はあいにく、ビッグフット語を知らなかったが、世渡りを知っていた。だから僕は定期的に返事をする。
「はい」「はい」「はい」
 それからまた僕は部屋に戻される。
 退屈な日々。
 奴らはしっかりとご飯を出す。そのご飯はやっぱりよくわからない生物で作られていた。
 そして奴らは妙な薬を置いていく。
 最初の内はご飯を食べる事を拒否していたが、やっぱり人間だ。喰わなきゃ死んでしまう。4日目、僕はそれを食べた。味気はなかったけど、喰えないものでもなかった。少し懐かしい味もした。薬は部屋の隅に投げ捨てた。
 僕は気が狂いそうになっていた。よくわからない言葉、よくわからない生き物。よくわからない部屋。
 僕は夜中に(部屋に時計は無い。が窓からはいる日の光でわかった)叫んだ日もあった。
 出してくれ。
 こんな所もううんざりだ。
 僕は何度も叫んだ。
 そして4月2日。いつものようにドアが開いたが、その日立っていたのは宇宙ネズミだった。宇宙ネズミっていうのは人のサイズのネズミである。(ネズミっていってるが、姿はミッキーマウスの顔をもっとリアルにしたようなもの)
 宇宙ネズミは僕に近づいてくる。
「hmbんcんdyじょいぉさgねうかgんxjgdじうえがきcm」
 宇宙ネズミは一気にまくしたてた。心なしか口調は優しかった。しかし何を言っているのかは相変わらずわからなかった。僕は宇宙ネズミを顔を見た。目は洞窟の用に真っ暗だった。引き込まれそうになる。
宇宙ネズミの後ろにビッグフットがいた。全員で集まって何する気なんだ?もうなんでもしろよ。
どうにでもしたらいい。
「ghmzbんxひyhkんcあえうふゅにょいふ」
喋るのやめろよ。
もううんざりなんだよ。
こんな場所。お前らもうんざりなんだよ。
「もううんざりなんだよ!!」僕は叫んだ。
宇宙ネズミとビッグフットは僕を驚いた表情で見ている。
「もうこんな所うんざりなんだよ!!なんだよ!!お前ら何がしたいんだよ!!ふざけんなよ!!お前ら何が目的なんだよ!!殺すなら殺せよ、ほら!ほら!ほら!!ほらあああ!!」
 僕は叫び続けた。心なしか宇宙ネズミが悲しそうな顔をしていた。
「ういdfさdcjdsbkなしうjぢsjふsdんl」
 宇宙ネズミは僕の顔を心配そうにのぞき込みながらそう言った。そう言ったといっても音にしか聞こえなかった。
「あーーーーもーー何を言っているのかさっぱりわかんねえんだよおお!!」
 僕は宇宙ネズミをつきどばした。宇宙ネズミが白い廊下に倒れる。
「気持ち悪いんだよお前ら!!気持ち悪いんだよ!!もう返してくれよ!!帰らしてくれよ!!」
 宇宙ネズミが唖然とした顔で見ている。
 僕の大声に気持ち悪いよくわからない生物が集まってくる。
「うhふぁshどいおいjcおいfs」
「fはいうsでゅjふhす」
「fcsどいjふぉいsdjふい」
「plぴっjぃsじd」
「あszじうvひ」
「pぉこじjp」
 口々に気持ち悪いよくわからない生物が何かを言っている。
 気持ち悪い。
「うふぁpzhfyl」
「szkしfhぞ」
「あうfはいzんvhし」
「あkふぃ」
 気持ち悪い。もう嫌だ。もう嫌だもう嫌だもう嫌だ。
「ああああああああああ!!!」
 僕は叫んだ。最大限叫んだ。もううんざりだ!!
「もう殺せ!!殺せ!!殺せ!!殺せ!!殺せ!!殺せ!!殺せ!!殺せ!!」
 気持ち悪いよくわからない生物達が一斉に部屋に入り、俺の体を掴んだ。
 俺はふりほどこうと手足をじたばたした。が、圧倒的物量に俺は動けなかった。
 畜生。畜生。畜生。畜生!
 俺は叫んだ。喉が割れるくらいまで叫んだ。喉から血の臭いがした。
 やめろ。やめろ!もうこんなところいやなんだ!化け物の相手なんかもうしたくないんだ!
 奴らは俺の体を硬いベッドに押しつけた。そして、ベルトのようなもので俺の体を拘束した。
 奴らは俺を哀れんだ目で見ていた。見るな。そんな目で!俺を見るな!化け物が!
「おい!これをはずせよ!お前ら、ただじゃおかねえからな!ぶっ殺してやる!」
 奴らは、ゆっくりと部屋から出て行き始めた。
「くそう!ちくしょう!放せ!あああ!あああ!死ね!お前ら全員!死んでしまえ!」
 ドアがゆっくりとしまる。その閉まる、一瞬、宇宙ネズミが哀れんだ目で俺を見ていた。
 そんな哀れんだ目で俺を見るな。畜生めが。
 重々しい音がして、ドアが閉まった。そして俺はまた一人になった。へんぴな場所で変な奴らに拘束されてる。ははは。なんてことだ。
 俺は可笑しくなって、笑い出した。
 そしてそれは止まらなかった。








憔悴しきった初老の男は静かに言葉を発した。
「先生…、息子には私たちの顔が認識できていないんでしょうか…?」
 先生と呼ばれた男は苦虫を噛むような顔をし、重々しく口を開いた。
「―正確に言いますと…顔だけでなく言葉も認識できていません…。先程の見舞いも息子さんには怪物が迎えにきたように見えたでしょう…」
「そんな…」
 ”父”の顔がみるみる青くなっていった。
「多分、息子さんはこの世界が比喩でも何でもなく、どこか別の惑星のように感じてるのだと思います。そして、その帰還には、ゆっくり時間をかけるその他ありません」
「なにか、わたしにできることは…っ!」
 ただ”先生”は首を横に振った。
"父"は手のひらで目を覆った。
 手のひらの隙間から、涙の筋が幾つも流れた。
 遠くの病室から、息子の笑い声が聞こえる。ずっと、ずっと、ずっと。

2010/03/15(Mon)05:45:55 公開 / トロサーモン
■この作品の著作権はトロサーモンさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして、そしてお久し振りです。
リハビリもかねて、約4年ぶりくらいに書き上げました。
本当、頭の中では書きたい事が沢山あるのに、まったく文章にできないもどかしさに苦しめられ続けた4年間だったと思います。
拙い文章で本当に申し訳ありません。
読んで頂いて本当にありがとうございます。
もし、良ければ、感想やアドバイスを書いて頂けたら嬉しいです。
でわ。

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