『魔法陣と魔導師と』 ... ジャンル:ファンタジー アクション
作者:イヴ                

     あらすじ・作品紹介
結城誠悟は普通の高校生。普通とはいっても、科学と対を成す、魔法都市に住んでいる。魔法を使えない彼には、生まれつき、ある能力が宿っているらしいが……。

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〜序章〜

「はぁ……最悪だ」
 そう呟いたのは、俺、結城誠悟(ゆうきせいご)。
 この名前の由来は、まあ清く正しくみたいな意味らしい。いや、実際清く正しくでもなんでもない。
 ところで今、なぜ俺がうなだれているのか……。
 まあ、経験はあると思う。『テスト』だ。テストと言ってもただのテストではないんだがな。
 まず一つ言うと、俺が住んでいる『魔法都市』。まあ科学の世界から見れば夢物語なんだろうな。こっちから見れば科学のが夢物語だが。
 人間というのは自分にないものに憧れるらしい。俺もそうだ。むしろ、科学の方が便利だと俺は思う。
 実際、こう言ってるのは俺には魔法は使えないからだ。と言っても、下級レベルならなんとか使える。
 下級レベルの魔法は、火をおこしたり、指から水を噴射させたり、静電気をおこしたり、かぶれる程度の毒を発生させたりと、まるで使えない。
 火をおこすなら、マッチを使えばいい(ここにはライターはない)。水を噴射すると言っても、水鉄砲の方が勢いが強いほどだし、静電気なんぞ下敷きでいくらでも作れる。毒でかぶれさせるのは嫌がらせだろうか?
 下級レベルの魔法はこう言った具合に『まるで使えない』のだ。

 とまあ色々述べてきたが、今俺が手にしているのは『テスト』。全て赤点なのはご愛嬌。
(物理魔法の出来が予想以上に悪いな……絶句)
 心の中で一つため息。
 専門用語だな、うん。物理魔法というのは『魔法』の種類のことで、『魔法』は基本的に三種類+一種類に分けられる。
 物理魔法、精神魔法、医療魔法に特殊魔法だ。
 なぜ四種類と言えばいいものを三種類+一種類で表現したのかというと、簡単に言えば特殊魔法は『例外』だからだ。
 特殊魔法というのは、肉体的にダメージを与える、精神的にダメージを与える、肉体、精神の再生という決まった種類の魔法の集まりではない。
 基本的に特殊魔法はそういった決まった種類の魔法から漏れたものだ。
 で、次。魔法のレベルについてだ。
 魔法のレベルと言っても、どれがどれより強い、などということはない。難易度を指し示す値といったところか。
 魔法のレベルは数字ではなく、魔法名そのものでレベルの違いが分かる。
 普通に学校で勉強してれば出来るような基本的なものをあげていくと、『下級魔法』、『上級魔法』、『大魔法』などだ。他にも、錬金術や賢術などもあるが、あまりメジャーではない。

 ということで、今俺は高校生。んで、小学生にも出来る下級魔法が出来ない。全くではないが。
 だが、神様というのはそこまで残酷ではないらしい。
 強力な魔法を使うときには魔法陣が必要なのだ。魔法陣と一言で言ってもたくさんあるが、どれも地面や壁に刻まなければならない。
 魔法陣というのは、実戦で使うには予め刻んでおく必要がある。まあ当たり前か。
 しかし、もしも空気中に魔法陣を刻むことが出来たら……、分かるよな? そう、隙が少ないため実戦でも使えます。
 んで、なぜ俺がそんな話をしたのかと、俺はその能力を持ってるっぽい。
 俺は空に魔法陣が書けます、はい。よく分からないが生まれつきらしい。
 まあ、そんなこと言ったって、下級魔法もろくに使えない俺が持ってたって、宝の持ち腐れだろうな、絶句。


〜第一章 可能性〜

「……不幸だ、なんて不幸なんだ、俺は」
 結城がふと呟いた言葉はある人物を刺激したらしい。結城の隣の席にいる、和泉真保(いずみまほ)がこちらを向き、訴えかけるように、机を叩いた。
「アンタねぇ……可能性って知ってる?」
 和泉は顔をひきつらせている。雰囲気からして切れてるっぽい、と結城は察した。
「可能性? ……ああ、知ってる。俺には一番無意味な言葉だけどな」
 結城がそう言うと、和泉はますます顔をひきつらせる。
 いや、怖えよ。
「無意味? ……ああ、そんな言葉あったわね。けど、アンタの場合は特別よねぇ……」
 和泉は意味あり気に目を閉じると、首をやれやれというように振った。
 なんなんだコイツ、とは思わない。これが和泉だ。俺は別に和泉とは親しくないがな。
「特別?」
「そう、特別」
 和泉は即座に返答すると、結城に指を指した。
「アンタはバカだから」
 んだとコノヤローッ! 言わせておけばなんなんだ! あ、冷静に考えれば日常的なことだ。
 にしてもコイツ、人を侮辱するのが好きだなぁ……絶対モテない、と心の中で呟く。声に出すとコイツが得意な異空間魔法でびしょ濡れにされる(バケツ的な意味で)。
 ちなみに空間魔法は特殊魔法の部類だ。
「バカ? 世の中には才能がない人もいるんですよ、和泉『さん』」
 わざと『さん』を強調したのが悪かったらしい。途端に和泉の反論が返ってくる。
「いい?アンタはね、努力してるようでしてないのよ! アンタのしてるのは無駄な努力ッ! いくらアンタが空気中に魔法陣を描き出すことが出来たとしても、宝の持ち腐れなのッ!!」
 なんなんだコイツ。あ、冷静に考えれば日常的なことだ。
「無駄な努力? 俺はちゃんと……まあ気まぐれだけども……魔法の練習を週二ぐらいでやってる! ……たまに週一」
 これは事実だ。結城はちゃんと気まぐれで復習している。
 ……まあ、最後の言葉は省いてくれ、心から。
「復習するのは結構だけど、頭で分からない奴がどれだけ練習したって無理だと思いますけど? 結城『くん』」
 反撃なのか、『くん』をいちいち強調してきた。
 まあ? 心が大人な俺は? 右から左へ? 紳士の如く受け流すがな?
 あ、フェミニストじゃないぜ。後、ツッコミどころがおかしい、とかも言わないでくれ、俺のガラスのハートは砂のお城並みに脆いから。
「『地の極みを目指すもの、礎に帰り、天を極めるべし』、って言葉知ってます? 結城くん?」
「知るか、んなもん。後『くん付け』するな、気持ち悪い」
 和泉真保という奴はいちいち感情的になりやすい。
 こちらは適当にあしらってるのに対して、あちらは真剣そのものだ。
「要するに、『目標を達成したいなら、基礎に戻り、頭を鍛えなさい』ってこと。まあ、アンタの場合は、基礎も出来ないような救いようのないバカなんだけど?」
 いちいちムカつくな、コイツ。でも無闇に暴言は吐けない。
「……結局侮辱したいだけなのか?」
 少し控えめに聞いてみた。
「そんな救いようのないバカでも、私の元で1日勉強すれば、基本くらいちょちょいのちょいよ」
 無視された。完全に無視された。
 そして、なんか魔法陣を描き始めた。
 ん? ……これって空間魔法? 
 魔法陣を描くところからみて、相当重いものを飛ばすのか。魔法陣で強化しないと無理ってことか。 
 俺は自分でいうのもなんだが、空に魔法陣を描けるという能力を持ってるだけあって、魔法陣には詳しい。
 まあ、魔法陣を知ってたって、下級魔法には全く影響はないが。
「強化魔法陣なんて描いて、何を出すつもりだ。手品ですか? ハトですか?」
 和泉は魔法陣を描く手を止めると、立ち上がってこちらを睨み付けた。どうやら魔法陣が完成したらしい。
 一つため息を漏らす。
「スペル。アトラクト=スペース(空間引力) Level3」
 和泉がそう呟くと、魔法陣の上から参考書やら何やら、いろいろ降ってきた。
 ……これは……マズいな。
 和泉が言いたいのは、この何十冊もある参考書で頭を鍛えろと。
 工夫はないのかよ、と聞き取れないくらい小さな声で呟いた。
 それを察した結城はもちろん逃げだそうとした。そして、もちろん捕まった。
 今日は半日だったはずなのに、夕方まで学校で過ごすことになった、絶句。


〜第二章 ランクA〜

「……疲れた」
 地獄の居残りを受けた結城の顔からは疲れがはっきりと見て取れる。結城は文字通り疲労困憊だ。
 そして、肝心の内容はムチャクチャで、結局はびしょ濡れにされる始末。和泉には教師という職業は向いてないのだろう。
 そんな、結城をあざけ笑うかのように小雨が降り出した。もちろん傘はない。
「……なんだって、俺はこんなに運が悪いんだ……」
 というのも、遅刻したからといって急いでいたら、ずっこけて傘の骨組みをバキバキにへし折ってしまったである。
 結城の住む、学生寮は結城の通う『邂逅高等魔法学校』から四キロ先とちょっとした遠出である。

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2010/03/09(Tue)23:02:05 公開 / イヴ
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