『生きた証 もう一つの物語』 ... ジャンル:リアル・現代 未分類
作者:木介                

     あらすじ・作品紹介
もし、この世に死神が存在したら…?

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「彼が次の私の仕事相手か、まだ若いのに可哀想だな。」
私の名前は…無い。
人間界で呼ばれるとしたら、『死神』かな。
死神といえば大体は想像できると思うけど、私たち死神の仕事は寿命が3年以内になった人に取り付きその人の最後を見届けること。
そして、今回私が付くことになった人は、まだ中学生の『坂本 辰也』君。
あんなに元気そうなのになんで死ななきゃならないんだろう。
寿命というのは誰もが持つもの、また誰が決めるものでもない。生まれたときにその人の寿命は決定する。
人間界では病気にかかったり、事故にあったりして命を落とす人もいるみたいだけど、それも寿命によって死んでいっている。だからこの世に『偶然』という言葉は存在しない。全て『必然』によっておきること。
もし、時間を自由に行き来できるようになれば『偶然』という言葉は生まれるんだろうけど、そんな事はありえない。
だから、みんなには、常に前向きに生きてほしいと私は願っている。
そして、今回の仕事相手は、それに答えてくれるのか。そう思いながら私は彼の前に現れた。
「坂本君」
彼は後ろに振り返る。私はもう一度名前を読んだ。
「坂本君、こっちだよ」
すると、彼は、こっちを見て
「ん? 何? お前誰だよ? 」と当然のように聞いてきた。
私はその質問に即答した。「すぐには信じてもらえないと思うけどあなたたちの言葉で言う死神かな」
「何言ってんだお前そんな嘘に騙されるわけがねーだろ」と鼻で笑った。
そこに、ソフト部の女子がやってきて、「坂本誰と話してんだ? 」当然彼女たちには私は見えていない。
私はしばらく、彼らの会話を聞いていた。
「あぁこいつが分けわかんねー事言ってきたんだよ」
「こいつって誰だよ?誰もいないじゃん」
「え? 」
「お前らまで何言ってんだよここに女子がいるだろ」
「どこにいるんだよ」
「………」
彼は少し考え込み、
「嘘だろ…」とつぶやいた。それと同時に走り出した。
家に帰ると真っ先に階段を駆け上がり、部屋に入って布団にもぐりこんで震えていた。


しばらくすると、妹らしき人物が入ってきて、勉強を教えての何度も言っていたが、すぐに追い出した。
そこで、私が再び話をし始める。「これで信じてもらえたかな? 」
「お…お前は何しにきたんだ? 俺に何の用がある? 」彼は冷静を装っていたが、声までは冷静になっていなかった。
「私はあなたに言いたいことがあるからここにきたんだよ。あなたに言いたいことは…」


言おうとした時今度は母親が入ってきて、少し話をして、ご飯を置いて出て行った。
ここで私は少し考えた、今から言う事は彼があと3年で死ぬということ、それは必ず言わなければならない、でも言ってはいけないような気がしてなかなか切り出せない。私は自分に言い聞かせながら言った。
「じゃあ言うね」
「死神の仕事はだいたいわかってると思うから直接言うね。坂本君、君はあと3年で…死ぬよ」
「え?」
「だからこれから死ぬまでの3年間君が死ぬまでずっと近くにいる。死神は一度付けばその人が死ぬまで離れることは出来ないから。これから3年間君がどう生きるかは自由だよ。」
「………」
少し黙り込んだあと彼は「そうか…あと、3年か、たった3年で俺は死ぬんだな。」
「だったら今から死ぬまでの間俺はやりたい事を全部やって、やり残したことが無いように頑張ってみるか…」
そういって、彼はかばんからノートを取り出し、そのノートにあることを書き始めた。


そのあることとは、それは彼がこれから3年間の間にすることだった。
普通の人ならそれに絶望して死ぬまでの間、何もしなくなっていたのに…。
どうやら彼は、普通の人とは違う何か違うものを持っている。彼なら私の期待にこたえてくれるかもしれない。そう思った
次の日彼は起きて、朝食を食べて、学校に向かった。
学校についたらついたで、同じぐらいに登校してきた同級生や部活の先輩、後輩に「おはよう! 」と大きな声で挨拶してまわった。同級生に「辰也、どうしたんだ? 今日は妙にテンションたかいな、なんかいいことあったのか? 」といわれると、「へへ、ちょっとな。」死の宣告をされた人間とは思えない明るさだった。むしろ死の宣告をかなりプラス思考に考えている。私はいままでこんな人は見たことが無かった、なんだかとてもうれしい気分になった。
教室に入っても、みんなに大きな声で挨拶してまわった。
一時間目の授業が始まった、担任の先生の授業だった。そこで「授業を始める前に前期執行部を決めることにする、だれか希望者はいないか〜? 」
「………」
教室が静まり返るその中で唯一手を挙げたのは彼だった「はい! 俺がやります。」
「おぉ、坂本、お前やるのか? いつもめんどくさがってたのにな。」
「気が変わったんです。」
「そうか、途中で投げ出さず最後までしっかりやり通せよ。」
「はい! 」
私はここで昨日のノートに書いたことは本気だったんだと気づいた。
ノートに書いたことは学年によって違っていた。
まず、1年のところに書いてあったのは、
・始めての行事を楽しむこと
・委員会等を進んでやること
・部活動を頑張ること
この3つだった。
たった3つだけでも死の宣告にも屈せず目標を持ってくれることが私はうれしかった。

それから1ヶ月ほどたち、夏休みが近づいてきた。部活動の内容はそれほど厳しいものでは無いのに、みんなはとても汗をかいていて今にも倒れそうな感じになっていた、休息の時間に彼が私に聞いてきた。
「なぁ、お前暑くないのか? 」
「私は君たちみたいに温度や痛みを感じることは出来ないの、死神だから。」
「それと、なんで『君』っていうんだよ? 出来るだけ名前で呼んでくれよ。なんか変な感じがするから」
「別にいいけど、出来るだけ名前で呼ばないほうがいいんだ。名前で呼ぶと無意識のうちに情が移っちゃうから。情が移ると、寿命が来たときに仕事が出来なくなった死神が昔にいたんだ。そのときから死神は極力名前で呼ばないようになった。」
「へぇ〜、そんなことがあったんだ、じゃあ極力でいいから名前で呼んでくれ。」
「分かった」
「お〜い、坂本。何一人でぶつぶつ言ってんだ?」
「いや、なんでもない。」
「じゃあ早く集まれよ。」
「おぅ、今行く。」
「………」
彼のあの明るさはいったいどこから沸いてくるんだろ? 『死ぬ』っていうのはそんなに軽いことじゃないはずなのに。
彼だってきっと心のどこかで『死』という恐怖におびえているはず。よし、今日帰ったら聞いてみよう。
「ただいま〜」
「坂本君」
「ん? 何? 」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」
「なんだ? 」
「君は怖くないの? 」
「え? 」
「死ぬのが怖くないの? あと3年で死ぬんだよ? 」
「怖いさ…」
「じゃあ、なんであんなに明るく出来るの? 」
「死ぬのが怖いからって何もしないまま死にたくないだろ? 」
「………」
「前にも言っただろ? 俺は死ぬまでの間にやり残した事を全部やって『生きた証』を残してから死ぬんだって」
「…分かったよ。これですっきりした。」
「そりゃよかった」
それから、数ヶ月がたち、体育祭、合唱コンクール、文化祭とたくさんの行事を見た。
この1年の最後の行事、それはマラソン大会、彼が一番楽しみにしていた行事だそうだ。
大会の前日、野球部の顧問が「明日のマラソン大会で全員50位以内に入るように。もし入らない奴が一人でもいたら連帯責任でうさぎ跳びでグラウンド5周だからな」
「えぇ〜〜〜」
それはほぼ不可能に近いことだった。なぜなら野球部には一人走るのが苦手な子がいるからだ。私はその子を毎日かわいそうに見ていた。
かわいそうに見ていたのは足が遅いからではない。
その子にも別の死神がついていたからである。
その子の寿命はあと、1週間だった。
その夜、私は彼にそのことを伝えた。
「坂本君、言いたいことがあるんだけど。」
「今度は何? 」
「あの一人足の遅い子がいたよね? 」
「あぁ、あいつか、もう明日はうさぎ跳び確定だな。」
「あの子のことで言いたい事があるんだ」
「何? 」
「あの子にも死神がついてた…」
「え? それマジかよ? 」
「うん、寿命はあと1週間だった。あの子も明日は一生懸命走ると思うよ。君みたいに前向きな子みたいだったから。」
「………」
次の日、ついにスタートの時がやってきた
「位置について、よーい」
「パン!!! 」
一斉に3百人の男子が走り始めた。その中に『あの子』もいた。
走る距離は5q、その折り返し地点で『あの子』はバテバテで全員50位以内は無理に思えた。
すると、彼が隣に走って行き、「がんばれ! あと半分だ! 死ぬまで皆に迷惑をかけたくないだろう!? 」
「え? なんで僕が死ぬこと知ってるの? 」
「俺もあと3年で死ぬんだ… だから俺は死ぬまでに『生きた証』を残すって決めたんだ。お前もここで50位以内に入れば絶対それが『生きた証』になるって! だから、がんばれ! 」
「…分かった、絶対50位以内に入ってみせる。ありがとう」
「礼はいいよ、どうしてもって言うなら3年後に行くからそのときにしてくれ。今はおもいっきりはしれ。」
「うん」
そこから2人は、一気にペースを上げ、どんどん追い抜かしていく。
そしてゴールが目の前に迫ったときの順位は…38位!
二人は最後まで走りきった。そしてゴールした。
それまでにゴールしていた部員が二人の周りに来て「すげーじゃねーか50位以内入ったぞ!やったな。」
「な!気持ちいいだろ」
「うん」
その後も次々と野球部員がどんどんゴールしていく。
そして、見事全員50位以内に入り、うさぎ跳びは免れることが出来た。
その1週間後あの子は死んだ。
皆、涙を流していた。でもきっとあの子も満足しているだろう。誰が考えても『生きた証』を残せたのだから。
帰ってきて、彼は「なんか人が死ぬのってあっという間だな。俺もこんな風に死んでいくのかな。」
「分かってると思うけど死ぬのは決まっているからそこからどう這い上がるかだよ。」
「分かってるよ。」
その後は特に変わったことはなく3年生の卒業式だけとなった。
卒業式は全校生徒が出席する最後の行事だ。
一つだけ誰も座っていない椅子。
その椅子にはあの子の写真が飾られていた。
3年生も卒業し、終業式も終わった。それと同時に彼の1年生も終わり残りの寿命は2年となった。

2010/02/13(Sat)21:52:12 公開 / 木介
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