『Boy Can…(第十二章まで)』 ... ジャンル:リアル・現代 未分類
作者:Techthrone                

     あらすじ・作品紹介
第2作目です。此は僕が小学校の頃体験したものを多少オーバーに書いた感じです。というか、主人公と僕は別なんで、そこらへん意識しながら環境を微妙に変えたりとしてみました。リアル青春時代一歩手前!即ち小学生時代!みなさん是非楽しんでください!

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プロローグ
僕の受験……絶対に受かるっ!
今までの状況を全てひっくり返してやる!



第一章〜桜〜

 幾度目かの春が訪れ、校庭の真ん中の桜が咲き乱れる。
 堀内孝弘(ほりうちたかひろ)、今年で小学五年生だ。
「これにて、始業式を終了します」
 盛大なる拍手と共に、にこやかに笑う校長先生のお話がやっと終わった。
 大きな講堂からワイワイガヤガヤとクラスメートが出て行く。
 たぶん、自分もガヤガヤしていたのかも知れないがワイワイはしていなかっただろう。
 教室まで歩く途中、髪が風になびく。新たな季節の訪れをかんじさせるその感触はまさに始業式に相応しい。
 まぁ、教室まで歩くその間が僕の最高の幸せなのだが。
 教室に着くと
「うぉ〜! めちゃでけーな! 桜の木! 」
「ポケモンでいうとどれくらいかな? 」
 などと、いかにも小学生らしい(自分もそうだが)会話をしている連中もいれば、
 始業式が終わったばかりなのに、席に着くやいなや、算数のドリルを開き、一所懸命に勉強し始める連中もいる。
 こういう風にして、段々と格差が広がり、差が開き、実力や努力という言葉が産まれるのだろうか?
 何故こんな事を考えているかというと、この学校は、男子が全員中学受験をするのである。
 女子は上がエスカレーター式にあるので、しなくてもいい。
 もちろん僕も、中学受験という戦場の兵士の一人である。
 しかし、はぐれ兵士だ。机の上には(おそらく、カッターナイフで彫ったのだろう)「死ね!」と彫られており、
 相変わらず油断も隙もない。もう、こんなイジメからは解放されたいのだが、このイジメは未だ序章に過ぎない。
 とにかく、あの桜のように、大きくそして煌びやかに受験という名の扉を開いて、見返すしかなかった。
「はい、みんな席に着こう」
 担任の鳥部康隆(とりべやすたか)先生が大きな声でそう言った。
「さあ! 今日からみんなも五年生ですね。先生と共に、頑張っていきましょう! 」
 鳥部先生が言い終わるやいなや僕は立ち上がった。僕は奴隷ではない。勇敢な戦士であり、このクラスの一員なのだ。
「先生、この机を見てください! この状態で、一年間頑張れると想いますか? 」
 静寂に包まれたクラス。
 その静寂をいとも簡単に引き裂いたのは、山口だった。
「ばーか! お前が虐められていることなんて、ガッコ入ってからずーっとじゃねぇか! 今更、机もクソもあるか!? 」
 ザワザワと(主に女子が)ざわめく。
「ほら、山口! 口を慎め! この机かぁ…… まぁお前も慣れているだろう。我慢してくれ」
 とうとう無実の僕が担任からも見放された桜の季節。
 そして、ショックの余りその後、担任が何を話したかは全く記憶にない。
 ガラッ! 戸が閉まった。
 ホームルームが終わったらしい。
 机の上には、四年生の終わり頃に受けた模擬試験の結果が残されていた。
 僕の偏差値は75、学年順位は(学年と言っても一クラスしかないので)1/50。
 全国順位は、44/10000。好成績。
 すると背後から怒声が聞こえた。
「おい! 別にぶん殴ったりはしねぇから、こっちこいや」
 山口だった。後ろに、9人、総勢十名ほどのこのクラスの中の恐ろしい暴力グループだ。
 僕は堂々と山口の前に立った。
「てめぇは体は華奢で心臓病だっけ? 小さい頃あったんだよな? 生きてる価値もないお前にはお勉強がお似合いだろうに。殺(や)れ! 」
 体中ボコボコにされた。他の男子も、見るに見かねて応戦してくれたのだが、歯が立たなかった。
 そして終に、飛んでもない場面を見る。
 山口の胸に金属バットを振るった子分。
 手にはきちんと手袋がはめてあった。
「うわぁぁぁぁぁああああああああ! 」
 山口が泣いた。
 すると担任が、それを偶然目撃した。
 大勢の男子生徒に手足を掴まれている僕。
 金属バットの痛々しい跡が残る山口。
「どうした!? その痕は!? 」
「こいつが…… こいつが…… やったんだ」
 その人差し指はしっかりと僕の顔面を捉えていた。
「堀内!!!!!!!!! お前はなんてことするんだ! 」
「ちげーよ鳥部! コイツは、やられていた。俺達が助けたんだ!」
 クラスメートの鎌田(かまた)がかばってくれた。
 しかし
「嘘を吐くな! 山口のあざを見てみろ! 可哀相に…… 大体堀内、おま……」
「うるさい! 僕はやってないんだ! 」
 泣きながら走った。痛む傷よりも心の傷の方が大きかった。
 2歳8ヶ月の時発病した、ファローという心臓病の傷跡が未だ残っている。
 その傷を胸に抱いて、走り、僕は『理不尽』という言葉の意味を知った。


第二章〜孤立〜

 次の日が来た。幸せな朝も不幸せな朝も、神は選ばず残酷なまでに平等に朝を与える。
 陽が眩しすぎて仕方がない。母親は「はやくしなさーい! 何時まで寝てるの〜」
 そう言って、うるさい。僕は階段をゆっくりと降りて、朝食を食べる。
 父親はとっくに会社に向かった。一人だけの朝食だ。母親も今から仕事に行くのである。
 僕は、学校に行くしかなかった。
 足を組んで、机の上に座る山口を朝一に見てしまった。戸を開けにくい……
 別に僕は悪いことをしていないのに何故だろう……
 力が強いってそんなに凄いことなのだろうか?
 勇気を振り絞った。
 ガラッ! 戸を開けた。その音は僕の勇気とシンクロしていたはずだったのだが、クラス中無視。
「お、おはよー! 」空元気でそう言っては見たものの、誰一人反応しない。
 何故だろう。何故反応してくれないのだろう。挨拶くらいいつもしているじゃないか。
 そんな疑問を抱きつつ昼休みとなった。すると、「サッカーしよーぜー! 」山口が言う。
 普段なら誰も振り向きもしないはず。そう、普段なら。
「おう、俺やる! 」「私もやってみようかな」「じゃあおれも! 」
 ついに、教室には僕と加奈子(かなこ)だけになった。
「加奈子もサッカーしてくればいいじゃん」
「ホッちゃん違うんだ。あれ……グルなの」(ホッちゃんとは僕のアダナである。)
「グル? 」
「そう、山口が、今朝早くから、ホッちゃんを除け者にしないとぶっ殺すって脅したんだ」
「クラス全員を? 」
「そう」
 意外な事実が僕の胸に刺さる。相手には勿論敵うはずがない。また、敵も増えすぎている。
「俺……」
「ん? 」
 加奈子が近寄りこっちを見る。
「絶対に勉強で、成績で、クラス全員見返してやることにした! 」
「ホッちゃんなら出来るよ! 」
 加奈子はそう微笑んだ。
 その後の記憶は勉強以外ほとんど無く、気がつけば夕暮れだった。


第三章〜トラウマ〜
 トラウマというのは多かれ少なかれ誰しもが持っている重しのはずだ。
 そして、その重しを、僕も持っている。虐めだけじゃなくて。
 小学校三年生の時、当時「一対一の方が僕には向いている」という母親の考えで、稲問解(いなもんかい)という個人塾に通っていた。
 中学受験は二パターンあり、二教科型(算数・国語)と四教科型(算数・国語・理科・社会)がある。
 ほとんどの中学受験が、後者の四教科型を取っている。
 僕も四教科型で受ける。そして、稲問解に入って、早稲田大学教育学部を出た40過ぎの加藤宏明(かとうひろあき)先生に算数と社会と理科を。加藤先生の奥さんに当たる、東京大学文科二類を出た加藤晶子(かとうあきこ)先生に、国語を教わっていた。
 ほぼ毎日であった。そして日曜は朝から晩まで休みは一時間しかない。
 まぁ、此処までは問題がなかったのだが、加藤宏明先生の本性が剥き出しになったとき僕は全てが嫌になった。
 僕は、稲問解で2トップの位置にいた。同着一位が北山浩介(きたやまこうすけ)だった。
 僕は、完全に彼を意識した。彼の目指している、御三家と呼ばれる「麻布中学校」に合格しようと出逢った瞬間に決めたと想う。
 それからというものの、成績の優劣にかかわらず、算数の時間になると、解けないものは解けないのであって仕方がない。
 そのはずなのに、(たとえ1時間考えてわからない問題であろうとも)机を叩かれ、罵声を浴びた。
 物凄い怖くて逃げ出そうと思ったけど、逃げるのも怖かった。
 逃げたら、行き場所が無くなる。行き場所が無くなったら、麻布中学への進学なんて当然不可能。
 僕と北山は、お互いアイコンタクトで励まし合い、切磋琢磨していった。
 小規模の模擬試験では、常にトップ10 僕が7位で銀メダルを初めて貰ったときは嬉しかった。
 北山は悔しそうな顔をしていたが、「すげぇな。おめでとう」と、素直に喜んでくれた。
 しかし、北山と僕は同じ時期に「日曜恐怖症」になった。
 朝から学校に行き、帰りは親の車で稲問解に行き、罵声を浴びて震え上がり、帰宅したらまた勉強。
 入浴晩ご飯を済ませた後も、(汚い話ではあるが)トイレが大の時は、(夜は母親が居るので)「かあさん、頼むよ! 」
 と、歴史の参考書を渡し、トイレのドア越しで、一問一答していた。
 トイレの壁中、公式、暗記物、ことわざ、漢字、植物の名前、など、受験に必要な知識ばかりが張り巡らされていた。
 というか僕が頼んで、母親と共同作業で完成させたものなのだが。
 そして、話を戻すと、結局、そんな毎日を月曜から土曜(私立小学校は土曜も学校がある)までぶっ通しでやっていると、休みたくもなるし、例え勉強しようとしても、わからなければ怒鳴られるのでは、奮起するどころか、萎縮してしまってますます出来なくなる一方で、僕は小学五年になる直前、稲問解を辞めた。そして、今、小学五年の僕は、大手日能研に通うことを決意した。日能研で骨を埋める覚悟で。
 一方、母親たちの会話の中では、「堀内君なんて、7位っていうけど、所詮井の中の蛙よ」「そうそう。日能研とか大手に行ったら着いて来れないって。ハハハハハハハ! 」
 と、母親も相当バカにされていたらしく、僕に何か日能研での成果をあげて欲しいんだなと言うのは小学校五年でも直ぐにわかった。
 だから、僕は頑張るし、今から待ち受ける未来へ向かい、稲問解での残酷な過去を消し去る。
 『決意』という言葉の意味をはじめて知ったのだと想う。


第四章〜ざわめき〜

 次の日学校に行き、日能研に移ることを決意したことを表明。
 クラスメート中がざわめいた。
「まじかよ。あいつも日能研くるのかよ」
「フンっ! 何処のクラスになるかわかったもんじゃねぇ」
「僕の方が確実に上だね」
「怖いな……あとからガーーっと攻めてきそう……」
 意見はそれぞれなのだが、勉強に無縁の山口は、終始黙ったままであった。
 しかし、彼は黙したままでは事を終わらせない。話が始まってから放課後までずっと
 そう、ずっと目を細め、刃のように光った目で僕を睨んでいる。獲物を捕らえるその時を待つかのように。
 そして、事態は起きた。『最悪』という名の鐘が鳴ったのはこの日であった。
 今日は、体育で長距離マラソンとサッカーをやる日であった。幸か不幸かマラソン日和と言える気候である。
 僕は、完治したものの、経過観察中の心臓病のことから、マラソンをドクターストップされている。
 サッカーはかろうじてOKをもらっている。
 勿論これは正式な証明書があり、学校側も全て事情を知っている。はずだが、ここからが悲劇の幕開けであった。
「おい! いくぞ! 」
「わかったわかった〜 」
 相変わらず運動の時は元気なクラスである。
 僕は淡々と着替えを済ませ、校庭へ足を運んだ。運動が出来ないというだけでカナリの精神的ハンデである。
 周りの笑顔を見ていると、何故僕は運動になると笑顔になれないのだろうか
 と、疑問に想うことさえある。とりあえず、僕は校庭の隅に体育座りした。
「よーい……ドン! 」
 との合図と共に、マラソンが始まった。
 すると、担任が、タイマーを見ながら、僕の方に歩いてきた。
「なぁ、堀内」
「はい」
何を言い出すのだろう?
そう思った矢先
「俺、お前のこと嫌いなんだよね。運動は出来ないし、それを心臓病のせいにするし。勉強ばっかりジャン」
 なんと鳥部先生はこの毒を、清々しく言い放ち、青空を見上げていた。
 僕の心の傷が深まる音も聞かずに…… 
 タイム測定がそろそろ終わる(一位が回ってくる)
「じゃあな、せいぜいそこで大人しくしてな。どうせお前は出来ないんだから」
 胸に刺さるナイフは予想以上に鋭かった。
 僕は立ち上がり、傍にある鉄柱を蹴っ飛ばした。
 足が痛かった。けれど、いつも心の方が痛かった。そう、今も。
 僕は、校庭の隅に座りながら涙を流していた。
 何故産まれてきたのだろう?
 そんなある種の悟りの境地に入りかけていた。
 本来ならば、ここで親に事情を言い、教師を解雇させることは十分に可能なわけだが、僕はそんなPTAの力的な物を借りてまで生きていたくない。それに、耐えるしかない。例え鳥部を解雇させることが出来ても、山口が居るじゃないか。
「はい、じゃー、サッカーの時間にしまーす! 」
 僕は一応医者から許可を得ているのでサッカーだけは参加できる。
 ここで参加しなかったら何を言われるか解った物じゃない。
 僕は駆け足で列に並ぼうとした。山口だ。
「一緒に、頑張ろうな! 」
 同じチームになり、山口がそう声をかけてくれた。はじめて彼の笑顔を見た気がする。
「試合……開始っ! 」


第五章〜死角〜

 試合が始まった。山口チームVS負け組軍団である。
 え? なぜ負け組軍団かって?
 それは……山口が運動神経抜群の奴らばかり集めたからだよ。僕を除けばね。
 ボールはまず、負け組軍団の方に転がった。弱々しい足取りでそのボールを追いかける
 一回目のパス届くか!? 直ぐに山口に取られた。
 しかし、次の瞬間、山口は驚きの行動に出た。そう、運動音痴の僕にパスをしてきた。
 当然負け組軍団(男子のみ)は襲いかかってくる。日頃運動の欠片もしたことのない僕。どうして良いか戸惑う。
 すると、突然「パチンッ! 」山口の指が鳴った。それと同時に、山口チーム全員(男子のみ)が僕を襲う。
 ボールをくれという目ではない。何かの殺気を感じた。怖い。
 蹴られ、僕は倒れた。起きあがろうとしても、また次の蹴りが容赦なく襲いかかってくる。
 如何に、このクラスの男子がグルなのか今更わかった。
 そんななか、加奈子の顔が見えた。遠くのゴール前で、涙を浮かべているように、僕には見えた。
 目の前は砂埃。起きあがろうとしても、手を蹴られ、体中が痛めつけられ、死にたくなった。
 すると、薄日が差すかの如く、人と人の間ができて、逃げ道が出来た。しかし、立ちはだかるのは山口。
 突進してくる山口。僕は倒れた。重量級の山口のタックル。華奢な僕は直ぐさま倒れた。
 起きあがろうとしても踏みつぶされる。急がなければ、命が危ない。もうすぐ……もうすぐ……体育の時間は終わる。
 負け組軍団も山口チームも容赦しない。
「おーい! そこでなにをしているんだ? 」
 鳥部先生の助け船。と思いきや、
「堀内がボール渡さないから奪い合いになってるんだよ! 」
 と山口。
「お〜 そうかそうか、了解」
 鳥部先生もグルだった……
 もう少し早くに感づいていれば……
 顔面に落ちてくる砂埃。それを嘲笑うかのような複数の足。
 それが僕を襲う。いま、窮地に追いやられていた。
「試合終了ー! 」
 鳥部先生、グルなのだから怪我を負わせないように終わりにしたのか。
 体育終了まで、まだ10分もある。どう考えても怪しい。
 山口のあの鋭い目つきは、最終時限の体育でとどめを刺すという宣戦布告だったに違いない。
 僕はボロボロの体育気を脱ぎ、制服に着替えた。
 山口が歩み寄ってくる。部下の新井(あらい)もやってきた。
「今日は楽しい一日だったね」
 新井はともかく、山口のその歪な笑い方が妙に僕の胸を抉った。
 また、明日やられるのではないかと……
 僕はボロボロの体で帰宅した。父親は僕には無関心だし、母親は、一々親が出ていたら仕方がないとのことで相手にしてくれない。
 ならば、僕が頑張るしかない。
 明日は日能研クラス選抜テストである。


第六章〜日能研クラス選抜直前〜

 僕はその来るべき放課後、日能研の戸を叩いた。
「失礼します」
 礼儀は大切だ。
「はい、こんにちは。私、この日能研の目黒校の室長井上(いのうえ)と申します。じゃあですね、さっそく、堀内君に日能研のことを説明しても良いかな?」
「はい! 」
「我が目黒校では、1組・2組・栄冠組というように、三段階にクラスが分けられて居るんだけど、堀内君の学力がね、まだわからないから、来週テストします。それで、組を決めたいと想うけれど良いかな? 」
 返事はYES以外有り得なかった。
 次の日、学校に行き直ぐに聞かれた。
「おいおい、お前何処のクラスになったんだ? 」
「まだ、入塾テスト受けていないから」
 僕は冷たく言い放った。冗談じゃない。昨日、山口とグルになって蹴りまくっていた奴らに何を求められようと答えない。
「受けたって受けなくたってお前なんか一番下のクラスだよ! ばーか! 」
 僕は唯黙っていた。結果出して、その言葉二度と言えないようにしてやると。
 その日から、稲問解で使っていた参考書を使い、必死に勉強した。
 例え、山口の部下にバカにされようが、物を盗まれようが、帰りがけに殴られようが。
 かまわない。とうとう、明日に控えた日能研クラス選抜試験の結果を掴み取るためだけに生きているのだから。
 そう、結局人間という動物は弱い物で、何かしらの『力』で相手を潰さないと結局は生きていけない。
 僕は明らかに腕力では周りに勝てない。
 暴力なんてもってのほかだ。議論の対象にもならない。
 なら、『知力』で人をねじ伏せるしかない。
 いま、僕の目の前の選択肢は唯一つだった。
 何を言われようが、どんなにバカにされようが、とにかく勉強した。
 休み時間も全て勉強に費やした。
「ガリベン死ね〜」
 と罵る奴が大半だったが、女子は状況を把握してくれて、理解してくれたらしい。
 というより、加奈子が周りの女子に伝えたという方が正確か……?
 僕は、ボロボロになった手を見ながら泣いた。
 ノートに落ちる涙は、音を立てず、静かに紙面に染み込んでいった。
 泣きながら必死に問題を解いた。
 自分の置かれている状況が如何に不利で、如何に崖っぷちかよくわかった。
 運良く(?)母親が役員の委員長なのだが、役員の委員長くらいで、息子の虐めを止められるほど世の中甘くなかった。
 すると、スッと参考書が目の前から無くなった。
 また……また山口か……?
 そう思い顔を上げると、山口の部下であった馬場(ばば)がいた。
 馬場は、元々、稲問解に一緒にいて、馬場は未だ残っているのだが、結局成績はどん底。
 そんな馬場は結局山口側に回ってしまった。ふと気がつくと、背後には新井。
 山口が出る幕はなく、僕など消せると言うことか……
 吊し上げられるかのように馬場の手元でぶら下がっている僕の参考書を指さし、
「返せ! 」
 そう言った。馬場はニヤっと笑った。と、同時に、後ろから新井が首を絞める。
 苦しい……
「か……え…………」
 最後の一文字が遠のく。心臓は激しく鼓動を打ち、何かがキレた。
 左腕はふさがっている。
「ドンッ! 」 
鈍い音がした。僕の右肘が新井の肋(あばら)を突いた。
「ふざけるなあ! 」
 渾身の力を込め、僕は叫んだが、馬場に殴られた。
 椅子から転がり落ちる寸前、加奈子が現場をたまたま目撃した。
「ホッちゃん!!!!! みんな助けよう! 」
 女子五人が来た。この五人は、クノイチという集団だ。
 早い話、喧嘩の強い女子五人というわけだ。
 馬場たちと、どうなったかわからず、クノイチの一人が担任を呼んだ。
 翔てくる鳥部先生、だが、信じられない言葉を聞くことになる。
「おまえは、勉強して、新井たちに因縁つけたんだろう!? 」
「ちが……う……」
「そうだよ! 違うよ! 一方的にやられていたもん! 」
 クノイチは口も達者なわけである。
「何が違うんだ? 」
「じゃあ、馬場の持っている参考書は何? 鳥部、答えなよ! なんか知らないけど、堀内のことひいきしてない? それって虐めっていうんじゃないの? え? 」
 クノイチの一人高林(たかばやし)が鋭い目つきで、鳥部先生を睨む。もう先生とも想っていないらしい。
「その物の言い方はなんだ! 」
「うるさ……」
そう高林が言いかけたとき、
「待て! 」
鎌田の声が響く。気がつくと、馬場と新井が両手でつるされている。
「堀内、俺は去年(小学四年の春頃をさす)酷いことをした。山口に脅され、無理矢理組に入れられ、暴力が全てだと想って、お前を殴ったりしていた。けど違う。この間の金属バットの一件の時も、俺はお前の見方だった。感謝しろとは言わない。誤解を解いて欲しいんだ」
「わ……かったよ」
「そんなボロボロになるまでやられたんなら、俺も、お前を殴ったとき、そうやって痛めつけていたんだな。今度は、こいつら痛めつける番だ」
 鎌田の腕がミシミシと鳴る。長身、そして怪力の鎌田は、その身体的特徴を生かし、吊し上げられた馬場と新井を床にたたきつけた。
 …………!
 クノイチが驚愕した。
 さすがのクノイチもこの怪力は持ち合わせていないらしい。
「鎌田! お前は退学だ!!!! 」
 鳥部の退学の脅しに、僕が最後歯向かう。
 もう先生なんて呼べない。
「おい、こんなに僕が成るまで放っておいた担任はアンタだろ? 鎌田はアンタの代役をしてくれたんじゃねぇか! 勉強して何が悪いんだよ! お前はな、スポーツが出来て、体のデカイ生徒が大好きだ。だから僕なんて、クズみたいに扱っているじゃねぇか! この現実を打破するには、まず、日能研のトップクラスに立って、中学受験で第一志望に合格するしかないんだよ! 」
「…………なんだと!? 第一志望言ってみろよ! そこまでぬかすなら、言ってみろよ!!!!!!!! 」
「麻布中学校だよ」
 …………!!!!!!!!!
「あ……ざ……ぶ? ハハハハハハハ! 何を言うかと思ったらバカかお前は。お前の脳みそと体で、うかるわけねーだろ! 」
 鳥部の奴此処まで言いやがった。
「うるせー! 絶対に合格してやるよ! 」
「そうだそうだ! できるよ! 」
 クノイチの応援も入る 
「俺はバカだから俺の分まで頑張れ! 」
 鎌田の応援も加わり、鳥部は退散となった。

 そして、僕は放課後、ボロボロの体で(何時もボロボロだが)日能研に向かった。
 受付の女性スタッフが
「選抜テストはあちらの階段で3階に上がってください」
 と、丁寧な説明。
 会場にはいると、普段とは全く違う別世界が待っていた、皆、目つきが違う。
 馬場や、山口のような訳のわからない奴は一人もいない。皆、目標を持ち、それを見据えて行動しようとしている気がする。
「ただいまより、クラス選抜テストを実施します。あと5分で、試験が開始しますのでしばらくお待ちください」
 このテストの結果次第では、トップクラス、最下位クラス。そう、まるで天国と地獄のように別れるのだ。
 絶対にクリアする――
「国語の試験を始めてください」


第七章〜闘い←→出逢い〜 

 闘いの火蓋が切られた。
 まずは、苦手な国語。とりあえず、漢字の穴埋めからやってみる。
 良い感じ。問題の長文……
 内容は、古代遺跡が関係しているらしいが、論説文が途中までしか読めない。
 とりあえず、埋められるところは埋める。
 時計を見る。あと30分だ。読み直せる。
 僕は賢明に読み直した。すると、点と点が線になった。
 最後の記述も完成させることができ、一安心。
 次は算数、典型問題がずらりと並ぶ。ここら辺は手際よく処理をしていった。
 解いていて一番気持ちが良いのが算数だ。そして、難問にさしかかった。
 グラフを書いてみる。ダメだ。線分図で図式してみる。
 いや、もはや二つ見比べてみよう。
 法則性は…… 見つけた! ベン図が役だった。
 残り時間40分、見直しも終わりやることがない。
 ボロボロの体はさすがに疲れ寝てしまった。
「やめっ! 」
 合図と共に起きた。
 算数の後は弁当だ。唐揚げを母親が作ってくれた。
 ウマイ! エネルギーを蓄えるため、アクエリアスを飲む。
 午後は、社会・理科と続いた。
 試験が終わった。
「今から遊びに行く? 」
「おー! いいよいいよ! 」
 友達同士受けに来たらしく、そんな会話が目立った。
「あの……」
 知らない女の子に声をかけられた。
「はい? 」
「日能研に入塾して居るんですか? 」
「いや、してないけど……クラス決めるために受けたんだ。でも、なんで? 」
「いや、休み時間余裕顔だったから、私ビックリしちゃって……いま、真ん中の2組ってとこに居るんだけど、私より算数出来そうだね? 」
「え? いやいや、そんなことないよ。っていうかなんて言う名前? 」
「宇田川千春(うだがわちはる)」
「宇田川さんか。僕も日能研はいるから、同じ組になったらよろしく! 」
「こちらこそよろしく! 名前は?? 」
「堀内孝弘だよ」
「一緒に受験頑張ろうね! 」
 そう言って、彼女は手を振り、人の波に消えていった。
 帰宅し、自分が何処のクラスか真剣に考えた。
 やったことはもう変えられないから今更仕方がないが、確実に言えることは、宇田川さんは2組。そして、自分の算数のテストの計算処理の速さなどに驚いたと言うこと。つまり、他の3科目がよほど酷くない限り、推測として、1組は有り得ないわけで、2組か栄冠組に絞られる。
 どっちだ……?
 気になる……
 そんな想いを抱きつつ、次の朝を迎えた。



第八章〜挑戦〜

 なにかに縛られている自分が居た。クラスという名の扉や暴力という名の精神に縛られている。
 どれだけ、歩いても学校は未だ遠くに。いや、それは、ただの言い訳だった。
 唯単に寝坊しただけだったのだ……
 僕はもう 学校などどうでも良くなっていた。遅刻上等。怠惰上等。
 そして、本鈴30秒まえに到着。着席した。
 1時間目は鳥部担当の算数の時間。
 そして、暗闇に落とされた僕は幾度目かの罵声を聞いた。
「堀内!! 」
 鳥部の奴、起こしやがった。
「なんだよ? 」
 学校ではどうせ一人っきり。反抗した方が得だとおもった。
「教科書27ページ、問い3を解いてみろ! 」
「教科書? 」
 机の中を見る。
 足下が水浸しなのは、これが原因か。机の中がビショビショに濡れている。
「こんなんで、授業受けられっかよ! 」
「てめーじゃ解けないものだから、業と水かけたんだな? 」
 喧嘩上等。
「鳥部、じゃあ問題出してみろよ! 」
 鳥部が睨みながら問題を早口で言う。それを理解することなど、容易かった。
「答えは、20km/sだろ? 」
 正解だった。鳥部の顔が引きつる。それと共に、周りからは、
「ホッちゃんって頼りになりそうだね。勉強教えて貰わない? 」
「でも虐められてるよ? そんなの私たちが潰せばいいでしょ? 」
「たしかに。頭良さそうだもんね〜 」
 クノイチやその他女子数名の声が聞こえるさなか、男子たちは、
「あいつなんで解けるんだよ!? 」
「あいつが日能研はいったら、ボロボロだって。絶対に」
「でも、教科書無しで解けるか? 」
 などなど、意見は様々だったが、1つ変わった。
 山口がこちらを睨まない。もう、手を出しても無駄だと察したのだろうか?
 しかし、普段、寝てばかりの山口が今日ばかりは目の前をじっと見つめ何かを考えている。
 そして、休み時間になった。加奈子が寄ってくる。
「この間は有り難う」
「ううん。別に良いんだ。アイツ等が悪いんだから」
 その時、火花が飛び散った。そう、山口とクノイチとの間に。
「まぁまぁ、で、加奈子、用事とかある? 」
「うん、ホッちゃん危ないじゃない? 山口たち絶対に懲りていないから。で、クノイチで考えたんだけど、休み時間勉強教えてくれないかな?? 」
「だめかな? 」
 高林まで寄ってくる。怖くはないのだが、何処か大人びている高林にはたまに参る。
「別に良いよ。何でも教えるよ」
 交渉成立というわけだ。その時、浜崎あゆみの「kanariya」が鳴った。
 ヤバイ、僕の携帯だ。クノイチは円形になり、僕を隠す。
「今の内電話でなさいよ! 」
「もしもし」
 その電話は、井上室長からだった。
「はい、結果ですか? 」
「2組でも栄冠組でも良いとは? 」
「2組にとっては、十分な学力でも、栄冠組だと微妙だけど入りたいなら入れる? 」
「僕が、選んでも良いんですか? 」
「2組でお願いします。え? 理由? 」
「室長、最初からトップクラスに入っていたら面白く無いじゃないですか」
「では、2組で決定お願いいたします」

「ツーツーツー」
電話を切った。
僕は2組からスタートした。
「やったじゃん」
「でもなんでトップクラスに入らなかったの? 入れたんでしょ? 」
「いや〜 だってさ、最初からトップクラスだったら詰まらないジャン。スリルがないっていうの? だから挑戦する。それで一番上に行けないようだったら室長の言葉もリップサービスだったって言うことでしょ」
 クノイチも納得したらしい。
「バカいってんじゃねーよ。お前が栄冠組に入れるわけ無いだろ? 精々、2組で必死こいてろ! 」
 相手は、日能研栄冠組の石川(いしかわ)だった。
「絶対に、入る。栄冠組にね」
「俺も麻布志望なんだよ」
「上等だ。勝負しようじゃないか」
「お前が栄冠組に上がってからな? 」
「上等」
 このやり取りに誰も口出しは出来なかった。
 そして後日、日能研本入塾、初授業となる。



第九章〜日能研初授業〜

 ハジマリの朝、僕は夢から脱出するように起きた。なんの夢かはもう憶えていない。
 今は、とりあえず学校に行き、放課後の初授業を頑張るだけだ。
 学校では特に何もなかった。
 皆、新学期の授業と言うことで僕を構う暇はないらしい。
 まぁありがたいことなのだが。
 家に着くと、日能研のバックを取り出す。
 うん、心地よい。そして新鮮。届いたばかりの教科書を詰める。
 今日は理科と算数だ。

 学校でのことを詳しく思い出すと、日能研初授業と言うことで、クラスの皆が緊張していて、張りつめた空気だけが教室を支配した。
 だから、虐めも珍しくなく、ほっとした。
 「はい! 今日の授業は此処で終わり! 明日は、問五からやりましょう! 」
 その元気の良い声の主は、清水敏文(しみずとしふみ)先生だった。
 一年生の時に担任だった先生だ。カナリ色々助けて貰った記憶がある。
 一年生の頃プールで溺れたときに助けてくれたのもこの先生だ。僕は、学校で清水先生だけを信じている。
 そして、放課後、真っ直ぐ日能研に向かう。
 教室に入ろうとするとざわめきが。新参者だから一番後ろの席に座ろうとしたとき、
 「ねぇ……」
 背後から宇田川さんが声をかけてくれた。
 「ああ、久しぶり。結局2組だったよ〜どうしたの? 」
 「本当に知らないんだね。掲示板見てご覧。案内してあげる。もう有名人だよ? 」
 全くなんのことか見当もつかない。てくてくと宇田川さんの後をついていくと、
 【日能研クラス順位表(2組)】とデカデカ書かれたものと、
 【科目別成績優秀者】とまぁ偉そうに書かれているものが掲示されていた。
 「これがどうしたのさ? 」
 「順位表見てご覧よ! 」
 一位…宇田川千春
 二位…堀内孝弘
 ……!!
 なんとあのテストが2組で二位に輝いていた。
 ちょっと嬉しい。
 「ああ、やったー! でも、宇田川さんには負けちゃったね(笑)」
 「違うの、これくらいはざらにいるの。入ってきて即トップスリー入りっていうのは」
 「うん」
 「今問題となっているのは、科目別成績優秀者。ほら、あそこで暴れている広瀬慶太(ひろせけいた)っていうのがいるんだけど、いわゆる天才型で、栄冠組でもいつも算数がずば抜けて出来て、一位以外無いんだよね。で、堀内くんは、広瀬と並んだって事……ほら……私だって見たときびっくりしたよ。何が起きたか解らなかったし、事務の人だって、混乱していたよ? 本当に2組で良いのだろうかとか……」
 信じて見てみる。
 【科目別成績優秀者(算数)】その表には、「96点…広瀬 96点…堀内」
 確かに書かれていた。
 これで確信した。自分の力が本物であると言うことを。
 「ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ! 」
 予鈴。
 直ぐさま教室に入った。
 今から起きる、飛んでもない歴史の1ページを捲るために………………


第十章〜深い思い〜

 日能研初授業が終了した。
 先生もカナリ丁寧に教えてくれるが、算数に関しては僕だけ応用問題を解かされた。
 家に帰ると、母親が心配そうに声をかけてくれた。
 「疲れているでしょ? 早めに寝なさい」
 しかし、僕は親心を踏みつぶした。
 「嫌だ。まだ、解いていない問題があるんだ」
 「何言っているの? 二位だったんでしょ? いいじゃない」
 「二位? 2組ではね。栄冠組のトップにはほど遠いよ。悪いけど一人にしてくれない? 」
 母親はその後終始無言で僕を見つめた。
 哀れむ眼差しでもなく、怒りの眼差しでもなく、<無>という感情のみが瞳を支配していた。
 カチカチと秒針が鳴り響く。現在の時刻は10時ジャスト。普通だったら今頃寝ている。
 パラッととりあえず、ノートを捲ってみた。
 日能研の算数の教科書をひたすら解いた。
 まず、復習。正直、復習をするだけで、相当体力を使った。
 というより、この時間帯が体を痛めつけた。10時30分。
 今から、予習をしようと思った。寝るまえは暗記物。
 これは受験の鉄則だ。社会の歴史のページを開いた。その瞬間ベッドに倒れ込んだ。
 どんなに長い夜でも、どんなに短い夜でも、必ず陽は昇る。
 朝が来た。僕は窓からさす光を感じ、嫌々起きる。
 意識朦朧、そして目が痛い。なるべく両親に悟られないよう、「学校でラジオ体操がある」と、幼稚な嘘を吐き、早めに家を出た。
 バス停でボーっと立っていると、後ろから声をかけられた。
 「おはよ! こんな時間に珍しいね?」
 其の声の主は加奈子だった。
 「ああ……おはよ」
 「なんか目にクマができてるよ? 大丈夫?」
 「いや、昨日勉強張り切りすぎてさ……」
 「ヤバイよ。大丈夫? 先生に言おうか?」
 「ダメだ。言うな!」
 「なんで? 放っておけない!」
 「加奈子、気持ちは受け取る。けれど、鳥部や周りの連中見返すために今、必死に頑張って居るんだ。がむしゃらにやって居るんだ。悟られたくない! 気付いたら僕が成績一番になっていた。それくらいのサプライズ、あってもいいじゃないか」
 「そう…… まぁ、気持ちはわからないでもないからさ。先生とかに言わないよ。その代わり、何かあったらあたしに言いなよ? ほっちゃんって、その……結構体のこととかで虐められているし」
 「慣れているから」
 「バカじゃないの!」
 この一言には驚いた。眠気が一気に吹っ飛ぶような声で怒られた。
 「勉強で勝ちたいんでしょ? それだけの気持ちがあったら、虐められっぱなしで良いわけ? 本当は強がっているだけでしょ? あたしはね、知っているんだよ? ほっちゃん、小四の時高尾山登ったよね? その時、すいとうは盗まれるし、心臓のことバカにされるし、頂上に着いたら着いたで、山口に蹴られていて、その後声を上げて泣いていたじゃない! あの時の気持ちが今、大きくなって、復讐するためにも勉強して居るんでしょ? 虐めに慣れた? そんなの強がりだって、私は解るよ」
 この加奈子の言葉は完璧すぎて何も言い返せず、コクンと頭を下に下げた。
 「だからあたしが守るから大丈夫。その代わり、勉強頑張って!」
 何故か、その時、朝陽を滲ませる涙が加奈子の瞳から見えた気がした。


第十一章〜深い思い〜
 
 バスが発車した。加奈子と一緒の時は、きまって、左側の前から3番目の席に二人で座ることにしている。ちなみに、僕は窓側だ。
 自分一人の時は、一番後ろのど真ん中に座るのだが、今日は仕方ない。
 網膜にうつる景色はいつも変わらないが、何処か自分の心とシンクロしていた。
 有名な某スーパーと某デパートに挟まれた、個人経営のこじんまりとしたお弁当屋さん。
 これが見えたらアナウンスは決まって言う。「つぎはー、高田の馬場〜高田の馬場〜」
 何故か僕には「高田の馬場」という響きが歪に聞こえる。以前からそうだ。この瞬間だけ聴覚が無くなればいいと思う。
 あの満開の桜も、徐々に葉を落とし始める。そう、葉なんて、一枚落ちても二枚落ちても、桜以外には問題ではないのだ。
 僕の心の崩れる音も同じなのではないのだろうか? ふとそんなことを思うとうっすら涙が出てきた。
「どうしたの?」
 加奈子だった。
「え? 何が?」
 声まで泣いているせいか変になる。
「悲しいことあったの?」
 そんな聞き方をされても、加奈子はもう解っているのだろう。
 だから敢えて言う必要性もない。
「いや、目にゴミが入っちゃってさ」
 笑いながら言ってみたが、クスッと笑われてしまった。
 嘘を吐くのが下手すぎるのだ。
 学校に着いた。加奈子が無言で渡してくれたハンカチで涙を拭き、そっと返した。
 しかし、今日という日が教室を戦場と化してしまうとは、未だ知らなかった……
 着席。机や椅子には問題はない。いつも確かめている。
 一限の理科が終わり、休み時間。僕は自習に励んでいた。
 すると背後から高林が声をかけてきた。
 「昼休み、算数教えてくれない?」
 「ああ、いいよ。算数なら任せて!」
 「ありがとう」
 そして、算数(鳥部担当)4限が終了し、昼ご飯になる。
 今日のおかずは大好きなポテトサラダだ。ハンバーグも入っている。
 そんな弁当を素早く食べ終え、高林の所に向かった。黒い影が背後にいるとも知らず。
 「高林、ここは線分図だよ」
 「線分図って何?」
 「じゃぁ、手本で書いてみるから、真似してみて」
 「ああ、解りやすい! じゃあ、問二も同じかな?」
 「うん。線分図が理解できればこの十問は全部出来るよ」
 「ホッちゃん、問四わからない」
 「これは貯金の問題でしょ? 弟の方が30円貯金が少ないわけだから、合計金額にワザと30円足して2で割ると、兄の分がでるんだよ」
 「え? じゃぁ、その答えから30円引けば弟の貯金?」
 「そうそう! バッチリじゃん!」

 予鈴が鳴った。
 「又解らないところあったら言ってね」
 「うん。ありがとう」
 椅子に座った。その瞬間、天地がひっくり返り、僕は床に叩きのめされ、山口達に左胸を蹴られた。
 もう、無理だ。どうにでもなれ。心が痛い。普通じゃない心の叫び。
 高林が飛んできた。
 「カシャ!」
 カメラのシャッター音。加奈子だった。
 「先生に言ってくる!」
 「先生ならここに居るぞ。加奈子。どうした?」
 「鳥部……どうしたもこうしたもないでしょ!?なんでアンタとめないの!」
 「お前は学校で携帯電話を使ったんだ。没収だ。」
 僕は高林とその他クノイチに救助された。
 まだ、腕と足を殺られていなかっただけいい。
 「加奈子の携帯は取らないでくれ」
 僕は鳥部に頼んだ。
 「駄目なものはダメだ」
 「あいつは悪くないんだよ。虐めの証拠を取ってくれたんだよ。」
 「ホッちゃんの言うとおりだよ!」
 「は? 虐め? 何のこと? お前、山口とじゃれ合っていたんじゃないのか? 先生にはそうみえたなー」
 キレた。ガマンの限界だ。僕は知らず知らずのうちに、殴りかかった。
 「やめろっ!」
 拳が止まる。そこにいたのは、国語担当の、清水先生だった。
 「事情は分からないけれど、堀内、絶対に手だけは出しちゃダメだ!」
 「じゃあ、俺はどうしたら良いんですか? 勉強すれば虐められるし、体育の時間、頑張ってサッカーやろうとしたら、みんなよってたかって、僕を蹴った。勉強を高林に教えている隙に、椅子は破壊される。先生がとめなくて、拳がこの鳥部に当たっていたとしても、なんともないだろうに。こいつは、散々僕をいたぶってきたんだ。清水先生! どうしたらいいんですか!? 僕は清水先生しか信じられないんだ!」
 「高林、加奈子、今の堀内の話は本当なのか?」
 「本当だよ」
 「責めた先生が悪かったな。鳥部先生、高林・加奈子・山口・堀内と一緒に職員室まで来てください。」


第十二章〜犠牲〜

 職員室に足を運ぶと、職員一同ざわめきの声が上がる。
 清水先生の目は、妙に冷静だった。そう、鳥部さえも。
 「どういう事か説明してください。鳥部先生、堀内を虐めたのは事実なんですか?」
 「失敬な。私は虐めてなんかないよ。」
 「何言っているのよ!」
 「高林、黙っていなさい。」
 「鳥部先生、本人のアザなどもあり、高林などの証人も居るんですよ?」
 数秒間、重い静寂が流れた。
 「だから何なんですか?」
 「証人がいると言っているんです。」
 「それが何か? 高林が嘘を吐いているかも知れない。堀内のアザだって、自分でつけたものかも知れない。生徒ばかり信用しているようでは、貴方は半人前の教師ですね。」
 「貴方に言われたくありませんよ。生徒信じてこその教師なんじゃないんですか?」
 「じゃあ、全てを信じろと?」
 「それは暴論です。」
 「山口、正直に言いなさい。堀内に何かしたのか?」
 「清水先生の言うことなんか聞くんじゃない。こいつは堀内と同じで何かコンプレックスがあるから傷舐めあっているだけなんだよ!」
 一瞬だった。その一瞬で、鳥部の体は壁に叩きつけられた。
 眼を紅く染め、眉間にしわを寄せ睨み付ける清水先生。そう、清水先生が、鳥部を殴ったのであった。
 「先生……殴っちゃいけないんじゃないの?」
 僕は唇を震わせ、そう言った。
 「俺が殴らなければ、君はずっと犠牲者になる。生徒のためならクビになってもいい。それくらいの気持ちで教師をやっているんだ。だから、悪かったとか想わないでくれよな。」
 うっすら、清水先生の瞳に、涙が浮かんでいた……
 僕は、じっと、ただただ鳥部を睨んだまま佇んでいた。高林などは罵詈雑言を鳥部に向かって放っていたが、雑音にしか聞こえなかった。だって、僕は、証人もいるのに、ただ……ただ……なにもできない。いや、むしろ清水先生までをも巻き込んでしまった最悪の少年なのだ、そう、生きる価値もない最悪の立ち位置なのだ。
 教頭・校長・周りの職員が駆けつける中、被害者が加害者へ。加害者が被害者へ変貌していくのであった。

2010/07/01(Thu)14:00:14 公開 / Techthrone
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■作者からのメッセージ
第12章追加しました!是非、些細なことでも良いのでコメントくれると嬉しいです!

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