『劇場の幻影 Vision of theater』 ... ジャンル:ファンタジー 未分類
作者:火乃神 冬果                

     あらすじ・作品紹介
初めまして、火乃神 冬果と申します。今回の小説は、一見ごく普通そうな少女エリス=チャペリエルと言う子がある依頼によって歌(オペラ)の国【ソーニング】で解決して行くという感じのお話にしました。登場人物は以下の通り『エリス=チャペリエル 主人公、隠された何かがあるらしい……?』 『レオール=シェルド 劇場の男性メインキャスト担当者、別名【公爵】』 『ジェラード=シェルド レオールの兄、すでに故人』 『シャルレット=エリシェール 劇場の女性メインキャスト担当者、別名【歌姫】』 『フィーア 剣の妖精』 『サーチャー 探求の妖精』 『フィリーネ 記憶の妖精』 『アニス=レシュフォード 【スレージレント】の二代目当主』『キルファ=リュナーシ 小道具作成係兼機械整備担当』 『ヴァンス=リーレイル 大道具作成係兼舞台調整担当』『レオン=イージェス 清掃員の老人』

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 注意
  本小説は、一部に英文があります。
  本作品はフィクションです。実際の人物、建築物、国家、団体などとは一切関係がありません。
  この作品は非常に台詞が多いです。「」の種類もそれぞれ違うのでご了承下さい。

第一章 物語の始まり〜Start of Story〜

 この世界には、妖精と人間そして魔物が住んでいる魔物は人を襲い、妖精などを食らって生きている者である。
 幾多の人と妖精が襲われた……。あるとき人は妖精にこういった。
【私たちは君達を守っていこう。代わりにこちらには魔物を倒す力と知恵を分けてくれ】
 妖精は、人の言葉に対して静かに頷いた。そうして、人は妖精からもらった力と知恵で新たな文明を見つけ、魔物を倒していった。妖精は、安全な暮らしを保証された。

そんな事があってから随分後の話である……。

 この世界には様々な国がある。農業が得意な者が集まる国、読み物を書くのが得意な者が集まる国……。
 中には、国の存在は知られているが、場所は知られていない国もある。その国は【秘密国】という称号がある。一般人は決してはいる事は出来ない。
 ある日、巨大な城壁に囲まれた一つの国から、一人の少女が出てきた。やや赤目の髪の毛、水色の瞳で、比較的一般的な服装をした少女……。そして、城壁を見守る青年が少女に言った。
「それでは……、くれぐれも気をつけて下さい」
 少女はニッコリと微笑むと青年に言った。
「わかってるわ、そんなに心配しないでよ……」
 少女はそういうとウィーニッド(乗り物、水陸空全機種対応の最新型)に乗って進んでいった。
 それをみていた青年が一言言った。
「それにしても、あの人は凄いなぁ……。あんな、操縦が難しい乗り物に乗りこなすなんて……」
 と、青年が言い残した後、城壁の中へと戻っていった。
 少女がしばらく乗り物で走っていくと、キラキラと光る何かが現れた。
「遅めのお目覚めだね、フィーア」
 少女はくすりと、笑って言う。
「仕方ないでしょ、昨日あんなにも遅くまで起きていたのはエリスで、あたしはその手伝いをやっていたんだから……」
 フィーアと呼ばれた光る存在……妖精は、頬をふくらませてそういった。
「あはは、まぁ仕方ないじゃん。お仕事なんだからね」
 エリスと呼ばれた少女はそういった。あくまでにこやかに……
「まぁ、いいや。これでつまらない仕事だったら暴れる予定だし」
 フィーアは腕まくりをしてそういった。
「あまり人に迷惑を掛けない暴れ方でお願いね? フィーア」
 エリスは少し苦笑いをしてそういった。乗り物をそのまま真っ直ぐと進んでいって……。「通り道に魔物は出ないわよね〜……」
 フィーアは少し周りをキョロキョロと見回してそういう。
「多分、大丈夫よ。最近では警戒が厳しくしているらしいから」
 エリスはクスクス笑いながらそういう。
「多分って、あんたはある意味警備とか警護には一番関係のある人物でしょ!!」
 フィーアはエリスに怒鳴るように言う、その声に驚いたのか、枯れ木に止まっていた鳥が慌てて飛び立つ。
「こらこら、そんなに怒鳴らないの。そんな声を出していると、魔物が出ちゃうかもしれないわよ」
 エリスは少し、困ったように言う。
 ――そんな、時だった。
 ピー! ピー! ピー!
 けたたましい警告音が鳴り響く。周りには、何かがあるようには見えないのに……。そう、砂とエリス、そしてフィーア以外は……
「魔物様、ご案内と言う所かしらね」
 ニッコリと微笑んでエリスは言う。
「出たわね……」
 少し、震えたような様子でフィーアは言う。そういったのとほぼ、同時の事だった。

 ザバァッ!!

 突如、砂の中から異形の腕が突き出てきた。腕の数は九本ぐらいであろう。その腕は、エリスとフィーアを囲むようにグルグル回っている。
「ひゅー」
 エリスはのんきに、口笛を吹くマネをしてそういった。
「な……なんだ、雑魚かぁ……」
 フィーアはほっと胸をなで下ろす。その次の瞬間
「じゃあ、行くよ? フィーア」
 エリスはフィーアにのんきに話しかけるように言う。
「行かなきゃねぇ〜」
 フィーアは普通に言う。
「じゃあ……」
 エリスはそういうと、一つの杖を取り出した。樫の木の枝を丁寧に磨いた杖……。
「妖精の刀(フェアリー・ブレイド)」
 エリスがそういった瞬間、フィーアは樫の木の杖に留まって青く輝き、杖は一つの剣に変わった。
「普通の武器では聞かないけど、妖精の武器なら聞くのよね〜。潜伏系の魔物は」
 エリスはにやりと笑うと、己の持つ剣で、腕を切っていった。
 魔物は、斬られていくと砂として砂漠の中へと入っていく。
「終了(フィニツシユ)!」
 エリスはそういって、剣を初めの状態に掲げると、フィーアが現れ、そして、剣は樫の木の杖と戻っていった……。
「対して、強くなかったわね〜。やっぱり」
 エリスは、ふぅとため息をついて言った。
「そりゃそうよ、潜伏系の魔物はあまり強くないんだもの……」
 フィーアはくすくすと笑って言う。
「とりあえず、さっさと向かいましょうか……。【ソーニング】に……」
 エリスはそういうと、ウィーニッドをより、加速させていく。土煙が舞い、煙が晴れた時には、そこにはエリスとフィーアの姿はなかった……。

歌声の響く国の章 〜Country where singing voice sounds〜

 【ソーニング】そこは、歌の芸術が最も素晴らしい国である。そこにある、一つの劇場の周りに大勢の人混みが出来ていた。
 そこから響く声は歓喜の声もあり、また嘆きの声もあった。
「やった! とうとう入団だ!!」
 男の喜びに満ちた声。そんな声もあったら……
「またよ……また、入団できなかった……」
 絶望にうちひしがれる女性の声もあった。
「ひゅー、これは結構入団が大変そうねぇ……」
 エリスはのんきにも口笛を一つ吹いてそういった。周りの雑音にかき消されそうな感じの声でもあった。
「多分、大丈夫じゃない?」
 フィーアはエリスの頭の上にさっさと避難をしてそういう。
「のんきにそういうなら、探してきてくれる? あたしじゃちょっと見えにくいのよ」
 エリスはフィーアをみるように言った。フィーアはため息を一つついた後、飛ぶ。
 しばらく経つとエリスの所に戻ってきていった。
「合格だって」
 フィーアがそういうと、エリスは『あぁ、そう』と一言言った後、劇場へと向かう。
 人混みから随分遠ざかった後、裏口から劇場へと入っていくエリス。そこにいたのは、一人の女性であった。
「ごめんなさいね、エリスさん……お忙しいのに、こんな所まで呼び出しちゃって……」
 女性はエリスにぺこりとお辞儀をした後、申し訳なさそうに言う。
「良いのよ、おかしい事があったらいつでも呼んでって言ったのはこっちなんだから」
 エリスはぱたぱたと手を振って言う。
「でも……あなたの本業って……」
 女性が言いかけたところで、エリスは女性の口元に人差し指をあてて言う。
「ここでは、内密にしておいてちょうだい。あまり外部の人間にばれると後々仕事を順調にこなせなくなっちゃうからね」
 エリスがにっこりと微笑んでから言うと、女性は黙って頷いた。
「で、お仕事って何なのよ。スレージレントの初代当主さん」
 エリスはニッコリと笑って言う。
「実はね、【スレージレント】は、あたしが当主をやっていた時はあそこまで、有名になってなかったの」
 女性は、すこし落ち込んだ様子でそういう。
「そうね、確かに……どこにでもあるような、弱小劇場だったわ……。誰でも入る事が出来ていたわね。そのときは……」
 エリスは頬を掻いて言った。
「なのにね、二代目になってから異常なほどに成長したの……。元当主としては喜ぶべき事なのに、素直に喜べないのよねぇ……」
 女性は頬に手を当ててそういった。どこか、不安そうにそして、怯えもあった……。彼女の言葉に、エリスは問う。
「なぜ?」
 女性は、声を潜めてエリスに言った。
「実は……、その日からなんだけど……スレージレントがトップになってから、他にもトップを狙う劇場にね、前トップ劇場が、次々と事故に遭う事がたびたびあるの……」
 エリスは、女性が言った言葉をメモしていく。
「ふぅん、しかし未だ外部に漏れていないというのは変な話ですね……」
 女性は、再び言う。
「そうでしょ? 各劇場が次々と被害に遭ってるのに……。私だって、気づいたのは新聞をスクラップにしているから気づいたもの……」
 エリスは、しばらく黙ってから女性に言った。
「確定が出来ていなくても、何もしない訳にはいきませんからねぇ……。頼まれた仕事は絶対にやる。それがあたしのポリシーですからね」
 エリスの言葉に、女性はどこか明るい表情になってエリスに言った。
「ありがとう、エリス」
 女性は、そのまま静かに去っていった。女性が去っていくと、エリスは裏口から劇場の内部へと入っていった。
 劇場に入ると、エリスは笑顔で言った。
「はじめまして! 本日から、この劇場で働く事になりました。エリス=チャペリエルと申します!!」
 向かえてくれたのは、スレージレントの二代目当主アニス=レシュフォードであった。
「ようこそ、我が劇団へ。私は、ここの当主アニス=レシュフォードだ。よろしく頼む」
 にこやかに、微笑むもエリスは、どこか怪しいと思った。どこか、異様でしか感じられない雰囲気があったのだ。
 エリスは、劇場を歩き回ってみる事にした。
 そして、次に挨拶をしたのはスレージレントの歌姫シャルレット=エリシェールだった。
「……新人ね? あたしの名前は、シャルレット=エリシェールよ。ここは、初めは脇役として腕が良いと上がっていく形なの。とにかく、新人の部屋は三階の隅から名前が書かれているわ。一階は物置になっているからね、下手にいじらないように。二階は大道具係の人や、舞台照明の裏方の人たちの部屋よ。勝手に入らないように、怪我するから。四階は、歌姫と公爵などのメインキャストの部屋よ。勝手に入って、他人に迷惑を掛けないように。メインキャストには各自そこで生活が出来る部屋があるわ、五階はオーナーの部屋となってるから、無断で入らないようにね」
 彼女は冷淡にそういうと、そのまま通り過ぎていった。
「なぁーんか、いやな奴……」
 フィーアは、不愉快な様子でそういった。
「そうかしら? あの人いい人よ」
 エリスはあっさりと言った。
「ほぅ、どんな理由から?」
 フィーアは皮肉気にそう言ってみると、エリスはさらりと言い出した。
「まず、本当にいやな奴なら、あたし達の部屋の場所も教えないし、あんなにも詳しく教えてくれないわ。それに、舞台照明担当の人達は、常に自室で調整が出来るように色々な小物が置いてあるから、下手に入っていじって、担当の人達を困らさないように、言ってるのよ。他にも、こけて怪我をしないようにとか……。一見、ぶっきらぼうに見えるかもしれないけれどね、遠回しの親切なのよ。なんにも知らないで聞くと、むっ、て思われる確率があるのが少し悲しいところね」
 エリスの言葉に、フィーアは驚いて言った。
「あんたって、バカなのか賢いのかよく解らなくなるわ」
 そう言うと、ため息を一つついた。
 そのとたん、パチパチパチと手を叩く音が聞こえた。音が聞こえた方へ振り向くと、そこには藍色の瞳と、淡い金色の髪をした青年が居た。
「凄いなあんた、一発でシャルレットの言っている意味が解るなんてさ。大抵は腹を立てて一階や二階などに言ってオーナーに叱られる奴ばっかりさ、ただ、久しぶりに賢い奴に会えたのにそんなそばかす娘とはなぁ……。天は二物を与えずとはよく言った物だな。ちなみに俺の名はレオール=シェルドだ。ここの『公爵』と呼ばれる地位を持っている」
 青年はどこか見下すような言い方をすると、そのまま去っていった。
「いっやなやつぅー!!」
 フィーアはしかめっ面になってそう言った。
「んー、そばかすは気にしているんだけどなぁ……」
 エリスは、頬をぽりぽりと掻いてそう言った。
「怒るところはそっちなの!?」
 フィーアはエリスの反応に驚く。エリスは、ただそう言っただけで、その後は怒った様子は無かった。
 そして、大道具を担当している。屈強な大男が、元気よく挨拶をしてくれた。
「おぉ! あんたが新しいキャストかぁ!! 俺はヴァンス=リーレイルだ! 嬢ちゃんよろしくな!!」
 ヴァンスは、エリスの背中を叩く。エリスは少し、背中を叩かれた場所を手でさすった。
 次に挨拶をした相手は、小道具を作る、華奢な女性だった。黙ったまま挨拶をした。フィーアをみて、興味深そうにしげしげと見つめていた。エリスが、小道具を見て言った。
「凄いわね!! もしかして、元メカニクトの人かしら?」
とほめる。純粋な気持ちで……。
 女性はどこか照れくさそうに、そして嬉しそうに言った。
「そ……そうかしら? 実は、メカニクトで働いてみたいなー。と思っていた時期があったのよ……。結局は劇場の小道具を作るのが面白くってそっちで就職を決めたけれどね……。そうそう、この小道具はねこんな使い方があるのよ。一見、ワインのコルクをひねる道具に見えるけど、取り外すと鍵として使用できるようにやってるのよ。それとね……」
 女性はとても嬉しそうに長々とあらゆる小道具の説明をしてくれた。あまりにも、時間が削られそうだったのでエリスはごめんねと一言言ってから、自室へと戻っていった。
 戻っていく途中に……

ファントムの登場と忠告 〜Appearance and advice of Phantom〜
 戻っていく途中の事だった。劇場のステージを見ると人影があった。エリスは思わず影がある場所を見る。
 そこにいたのは、一人の男だった。真っ黒な帽子と服、それと相反するように真っ白な仮面が映える。
 男はエリスを見ると、そのまま去っていった。エリスは走って追うがすぐに見失ってしまう。
 エリスが呆然としていると、いつの間にか彼女の後ろにレオールが居た。
「あれは、この劇場で突然現れて他者を怯えさせる謎の人物『ファントム』だ。男だと思われているからな、男性陣は困った物だぜ? 勝手な容疑を掛けられたらこっちが疲れちまう」
 レオールの言葉を聞いた後、ふとエリスが己の足元を見たら、そこには一本のねじが落ちていた。誰かに言う事はなかったが……。
 エリスは、そのまま己の自室へと戻る。
 自分の片手に一本のねじを握りしめたまま……。
 その日の夜の事だった。窓の外の景色は月の光に照らされて、どこか神秘的である。そんな中、エリスがベットの上で寝転んでいる時であった……。
 突然、エリスの部屋が闇に覆われる。他の部屋でも、同じような事が起きたのか、叫ぶ声が聞こえる。
 そんな中でもエリスは落ち着いていた。まるで、慣れているかのように……。
 エリスはフィーアを呼ぶ。
「明かりをお願い」
 エリスは短くそう告げると、虹色の明かりが灯った。その瞬間だった、彼女の目の前には、純白の仮面を付けた男のような者だった。
 男は、機械的な声でエリスに告げた。
「コノ ゲキジョウ カラ サレ ワザワイ ガ クル マエ ニ」
 男はただ、それだけを言うとその部屋から去っていく。男が去ったと同時に、部屋のあかりが戻る。
 エリスは先ほどあった出来事を、考える。何故、あの男は自分に忠告をしたのかを……。
「あれって、何なのよ……。エリスは何か解る?」
 フィーアは、やや驚きが残ったままエリスに問う。
「強いて言えばだけど、あれは私たちをこの劇場から追い出そうとしている事、そして荒れの犯人は……」
 エリスが言葉を言いかける途中に、フィーアがスッパリと言い出す。
「当然、男の人でしょ! 最近おもちゃとして発売されているヴォイス・チェンジャースト(音声を変える事の出来る道具)か、ヘリウムガスなどを使えば簡単な事よ!!」
 フィーアの言葉にエリスは単刀直入に言う。
「残念ね、その判断は零点よ。あれは、どう見ても機械よ……。機械を多少なりけりしっていればすぐに出来る事よ。メカニクト(機械関係の国、全世界の機械のほぼ全てがメカニクトで作られている。)のあいつなら朝飯前どころか10分あれば十分ね……」
 エリスはあくまで、冷静にそして、落ち着いた様子で言った。
「じゃあ、あの小道具の人なの!?」
 フィーアが驚いた様子で言う。エリスは、人差し指をぴっと立てていった。
「違うわ、彼女は己自身の作成した小道具なら例え、ねじ一本でも誇りとして扱うから、あんな雑に作る事はないわ。その証拠にほら……」
 エリスは、己の手のひらにある一つの歯車を出した。傍から見ると普通の歯車のようだが……。
「これがどうしたの……?」
 フィーアが首をかしげて言うと、エリスはさらりと述べた。
「確かに、よく見ない限りは解らないけれど若干ムラがあるわ……。彼女の作った小道具には、一切の無駄が無かったわ。メカニクトのあいつが言っていたもの。『ねじ一本でも丁寧に、ムラ無く作るのが一流の人だ。使える道具を作るのは誰にだって出来る事だ』ってね」
 その言葉に、フィーアは解ったような感じに頷く。
「とりあえず、今日は……」
 エリスの言葉にフィーアは問う。
「今日は?」
 そうすると、フィーアは布団の上にごろりと寝転んで
「寝る!!」
 ガクッ
 エリスの言葉に、フィーアはずり落ちる。呆れながらも、フィーアも寝る事にした。
 翌朝、エリスが目を覚ました時に、他の入って来た脇役の人達と話をする。
「そういえば昨日晩、急に部屋が真っ暗になった?」
 エリスは近くにいた三つ編みの女性に話しかける。
「えぇ、急に真っ暗になったからびっくりしちゃったわ……」
 ふぅ、とため息をついてその人は言った。どこか疲れた様子を見せて……。
「そう、私の所もよ……。どうしてなのかしらね? ところで……」
 エリスはそこで“あなたの部屋に何か来た?”と聞こうと思ったが、やめておく事にした。
 下手に、関係者を増やす訳にはいかない……。と思ったエリスは、このことは言わない事にした。
「劇場の練習、頑張らなくちゃね!」
 エリスは、笑顔でそう言う事にした。三つ編みの女性は笑顔で頷いた。フィーアは、小声でエリスに言った。
「関係者を増やす訳にはいかないから? だから、黙っておく事にしたの?」
 エリスは、何も言わなかった。何も言わない代わりに、頷いた。そして、フィーアにしか聞こえないくらい小さい声で、彼女に伝えた。
「誰がやったのかも、だいたい推測が出来たわ……。ただ、確定が出来ないから言う事が出来ないけどね……」
 エリスはどこか怪しい雰囲気を感じたフィーアであった。そんな二人に、オーナーのアニスが話しかけた。
「おや、おはようございます。よく眠れましたかな?」
 アニスは微笑んでそう言う。エリスは笑顔で答えた。
「えぇ、とっても」
 エリスは笑顔で嘘を言った。実際は、一晩中考え事をしてそれでようやく眠れたのだ。
 そんな嘘に気づく事もなく、アニスは『そうですか』と言ってそのまま去っていった。フィーアがエリスに言った。
「なんで嘘を言ったのよ?」
 エリスは笑顔のまま言った。
「嘘も方便って言うでしょ?」
 フィーアはしばらく黙る。それを、どういう意味で取ったかは知らないが、エリスは劇場の練習をしていた。
 そんな様子を見ていたフィーアが言った。
「あいつの本業はこれじゃないのにね……」
 その言葉は誰の耳にも届く事はなかった。否、届いたところで意味はなかった。妖精にしか出す事の出来ない言語だったから……。
 練習が終わった後、エリスは真っ直ぐシャルレット=エリシェールの所へと向かう。そして、一言言った。
「後で、あなたの部屋に行っても良いですか? 少し聞きたい事があるんです」
 シャルレットは一言言った。
「別に良いわ」
 至極冷淡に言った。まるで、氷の如く……。
 エリスはその後、フィーアを連れてシャルレットの部屋へと行った。部屋の中はホテルのスイートルーム並の豪華な部屋だった。
「話したい事は何?」
 シャルレットの言葉にエリスは言った。
「昨晩部屋の電気を消して、私に忠告をしたのはあなたですね? シャルレット=エリシェールさん?」
 エリスの言葉に、シャルレットはなんの反応もせずに言った。
「証拠は?」
 エリスはたくさんの書類を出していった。
「この劇場の建築構造及び、ここの電気回路の構造です。ブレーカーを落としたら後々めんどくさいし、ばれる可能性もある。それに、一般販売されているねじを使用。他にも鉄板などを使用しているから、メーカーに問い合わせたところ。こういう物を最近購入した人と、『ファントム』が現れた時期を検討した結果……。あなたしかいないんです。警察には言いません。ですから、どうしてこんな事をしたのかを教えてください。誰にも言いません」
 その声は、部屋の外には漏れなかったがどこか響いていた。凜とした声であった。エリスの目は真っ直ぐにシャルレットを見つめていた。
 シャルレットは、長いため息をついた。どこか何かをあきらめたため息だった。その間長い静寂があった。そして、シャルレットは口を開けて言う。
「そうよ、私がやったわ……。だけど、詳しい事は言えない……。ジェラ……いえ、あの人のようになって欲しく無いから……。ごめんなさい、これ以上は言えません。この部屋から出てください」
 シャルレットは、それ以上は何も言わなかった。なんにも言おうとしなかった……。その無言が部屋から出て欲しいと言う事を訴えていた。
 エリスは、黙ったままその部屋から出て行った。部屋から出ると、近くにレオールが走り去っていた……。
「あいつ……、盗み聞きをしていたの……!?」
 フィーアが怒りと驚きが混ざり合ったような声を出した。手がぎゅっと硬く握られ、そして怒りに震えている。
 エリスは冷静と言うより、冷淡に言った。
「明日、少し資料調べをやらなくちゃね。謎の失踪した初代公爵、謎の事故諸々を調べなくっちゃ今回の事件の内容が分からないだろうからね……」
 フィーアは驚愕した。エリスは普段は落ち着いているというか、マイペースな人間であるが、このときは冷淡に言った。その様子があまりにも冷たくて、あまりにも淡々と下様子が、フィーアは恐ろしくも思った。

意外な事実と怒鳴り声 〜Unexpected fact and snarl〜

 その翌日の事だった。エリスは、オーナーに何か話した後、真っ直ぐ図書館へと向かった。
 エリスは、図書館に着くとそこにいた史書であろう女性に言った。
「新聞をちょっと確認してみたいんですが良いでしょうか?」
 史書の女性はニッコリと微笑んで言った。
「えぇ、良いわよ。ゆっくりとどうぞ」
 エリスは、新聞をじっくりと見る……。しかし、事故などはあまりにも激しい事故でも誰も目を通そうとはしない場所にひっそりとあった……。
「おかしいわね……」
 エリスは、眉間にしわを寄せてそう言った。フィーアも静かに頷く。フィーアは、新聞を元の場所に戻した後言った。
「どうやら、ここの警察署へ向かう必要性があるわね……」
 エリスは警察署についた後、そこにいた警官に言った。
「今まで起きた事件についての資料を見せる許可をちょうだい」
 警官は、エリスをジロジロ見た後、エリスに対して鼻で笑った。そして、警官はエリスに一言。
「ガキに見せる資料はない」
 エリスはふぅとため息をついて漆黒の革製の手帳を出した。そして、一ページをめくった身分証明のページの中に隠された極秘身分証所を見せた。
「秘密国家『ポリフェスト』の第一級所長チャペリエル・エリスの所長権限を使用して言います。この国で5年前から最近の事件のファイルを閲覧する権利を差し出しなさい」
 その声は、はっきりとそして、その警官以外に聞こえない声で言った。その警官は目を見開いて足をガタガタと震わせて無言で頷いた。
「ど・う・も♪」
 エリスはニッコリと笑った後、警官に耳打ちをした。
「そうそう君、半年減俸ね☆ 他人を見た目で決めつけるのはよくないって最初にお母さんに教わらなかったのかなー? と言うより、ポリフェストの第一級所長の存在の名は絶対暗記だってき・い・た・だ・ろ?」
 黙って落涙する減俸された警官を無視してそのまま資料室へと入る。エリスは、別の警官と共に資料室の中にある資料を一通り確認をしていく。
 資料を確認していくと、やはり不可解な点があった。まず一番に、明らかに警察国に報告されるはずの事故が報告されていない。
 次に、事故の状態が火を見るよりも明らかにおかしかった。調査がいい加減である。エリスは近くにいた、良く言えばふくよか悪く言えばデブの警官に言った。
「おかしいんじゃないの……?」
 その目は怒りに満ちた瞳であった。ふくよかな腹をした警官はエリスに言った。
「どういう所を貴方はおかしいと思われるのでしょうか……?」

 ブツンッ

 エリスの堪忍袋の緒が切れる音が爽快に響いた後、エリスは警官の胸ぐらをつかみ怒鳴る様に言った。
「いいかっ! でぶっ! あんたの目は節穴以下の穴ぼこか!! この程度の量の道具でこんなにも死人が出るか!」
 警官は慌てて言う。
「いえいえっ! それは誤解です!! 調査の結果とか、建物の倒壊とかでそうなったんですよ!!」
 あまりと言えばあまりな白々さにエリスは警官の懐に手を突っ込む。探ると、紙のような触感を感じてエリスはそれをつかんで取り出したのは……。
 現金100万ドール(1ドール=100円)の札束であった……。
 警官の『あぁっ』と驚く声、フィーアの怒りと驚きが混じった声。
 エリスはその100万ドールを見て、そして警官を睨む。
「……。」
 しばらくの静寂の後……。

 ブッツン!!!

 とうとう本気でキレたエリスはすうぅぅっと大きく息を吸った後警官に言った。
「金で釣られたお前なんぞクビだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!この警官の恥さらしが!!! 一般市民を守るのが義務だっつだだろうが! 警察学校で教わっただろデブ!! それなのに、貴様は金欲しさに事実をねじ曲げたんだ!! 国民の信頼を傷つけたんだ!! 解るか!? 警察一人がモラルに欠ける事をやるとモラルあふれる他の警官に迷惑などがかかるんだ!! お前には詐称罪諸々の罪で国外永久追放だ!! この現金は証拠として押収する!! 解ったか! なんか文句あるならいってみろデブ!」
 その声は警察署全体に響き渡るどころではなく、警察署の外にも響いた……。声に驚いた人や鳥が慌てて逃げる。その様子を見ていたフィーアは、肩をすくめて言う。
「バカだね、このデブ。エリスは元暴走族のリーダーだったのに……」
 警官は、エリスの怒りのオーラと、ドスのきいた声に震えて居た。エリスは再び怒鳴る。
「今更ごたごた震えるなら最初っからやるんじゃねぇ!! デブ!」
 警官はがちがちと歯を鳴らしながら小声で言った。
「お……横暴だ……暴行罪で逮捕してやる……」
 エリスは、ギロリと睨んだ後に拳を振り下ろす。高らかに、殴った音が爽快に響いた。しかし、殴られた警官はひとたまりもなかったであろうが……。
 その拳一発で、警官の頬は殴られて真っ赤に染まる。涙目になる警官をよそに、エリスはまたもや怒鳴る。
「お前こそ、権力の横暴だ! ついでに、クビと言ったから貴様に逮捕をする権利はない!! それこそ常識だ!! 解れデブ!!」 
「デブという言葉さ、今日四回も使ったよ……。」
 フィーアは、どこか呆れた様子で言った。しかし、エリスの言う言葉にはもっともであるし、エリスが怒る理由ももっともである。
 エリス自身も警官であり、たくさんの警官を見た。モラルあふれる警官がたくさん居た。そんな、希望あふれる彼等がこんな奴が原因で悪く言われたらと思うとエリスは悲しいからだ、そして、彼女だけではなく言われる彼等が一番悲しいであろう……。そう考えているからこそこんなにも怒鳴るのだとフィーアは思った。否、そうであって欲しいと願っていた。違っていたらあらゆる意味でフィーアが悲しくなる。
 エリスはその後さんざんその警官に説教をした後、近くにいた警官に言った。
「誰かこのデブを、牢屋に入れておいてください。食事は一日三回、栄養だけは整っている携帯食料で十分です」
 その警官は足をガタガタ震わせて敬礼の形を取って言う。
「かしこまりましたぁぁぁ!!」
 震える警官は、怒鳴られた警官を引きずって右手右足を同時にだしながら歩いていった。
 エリスは警察署を去っていった一言はこうだった。
「今度、人事課に通告してソーニングの警察メンバーを一気変えね……。近いうちに警察学校の生徒が卒業するから彼等を基礎にして、教師達を上の階級にさせておきましょ……」
 そう言った後、エリスはふと周りを見回して言った一言は
「なんか人が少なくない?」
 フィーアは一言
「あんたが原因だよ」
 フィーアの呆れの声に対して、エリスが首をかしげていると、一人の青年がエリスに近づいてきていった。
「あんただろ! 警察署で思いっきり怒鳴ったの!! 痛快だったぜ!! あいつ一般市民の見方をしてくれないんだからよ! 常に金持ちの見方をしてるからいらいらしていたんだ!! ありがとうな!」
 青年が近づいたのが合図の如く、次々と人が集まってくる。皆、エリスに『ありがとう』とか『凄い』とかのほめ言葉であった。
 そして、人々が去っていくと、エリスの手元には色んなプレゼントがあった。そして、エリスは一言言った。
「よっぽど嫌われていたのね、あのデブ……」
 フィーアは、一言言った。
「凄く感謝されたね……、エリス……」

過去と驚くべき真実 〜The past and surprising the truth〜

 エリスは、全ての資料と己の状況分析によって色々解った。そう、あの事故は事故に見せかけた殺人であったのだ。
 爆破事故も、初代公爵の死も……。全て何者かによって……。
「何故、レオールが盗み聞きをしていたのかが解ったわ……。初めは偶然聞こえていたのよ。自分の兄の事が……。自分の兄が謎の死扱いされたら誰だって知りたくなるわ……」
 そう言うエリスの目元は涙で濡れていた。フィーアは黙って聞いた、口出しするべき事ではないと言う事を彼女なりに理解していたからだ。
「とりあえず、フィーア。あなたの仲間に協力をお願いしたいのだけど良いかしら? とりあえず、記憶探知の妖精の力を貸して欲しいの……」
 エリスはそう言うとフィーアは
「わかったわ」
 そう言うと、フィーアは飛んでいった。エリスはそれを見届けた後、劇場に戻ってシャルレットに言った。
「少しお願いがあるけれど良いかしら?」
 シャルレットはエリスに向かって言った。
「えぇ」
 そして、部屋にたどり着くとエリスは言った。
「今回の事で協力してくれる? あなたの言った『あの人』を殺した人が解るのよ! お願い!!」
 エリスは頭を下げていった。その言葉を聞いてシャルレットは言った。
「本当に、あの人を殺した人が解るの……?」
 その言葉に、エリスは力強く頷いた。
「良いわ、あの人の事が少しでも解るなら……私は出来る限りをしてみる……」
 シャルレットは静かに言った後、頷いた。その対応に素直に喜ぶエリス。
「……ありがとう!! 本当にありがとう!!」
 エリスはぱぁっと顔を輝かせてそう言った。シャルレットは素直に言った。
「だけど、根拠づけた証拠を出さない限り。あまり協力は出来ないからね」
 シャルレットはあくまで冷静にそう言った。エリスはそれに対して頷くと、そのまま部屋を出る。
 その時、フィーアが戻ってくる。もう一人別の妖精を連れて居た。その妖精は、右手に水晶を持っていた。
「あんたのお願いしていた記憶の妖精【フィリーネ】も連れてきたよ〜」
 フィーアはエリスに対して手を振っていた。
「どうも……」
 記憶の妖精フィリーネはエリスに対して軽く会釈をした。エリスは、フィリーネに対して言った。
「この劇場自体の記憶を見せてくれるかしら? もしかしたら他にも用事をお願いするかもしれないから、しばらく滞在してくれる?」
 フィリーネは一礼をした後エリスに告げる。
「かしこまりました、私の役割は私に用事を言った人が満足のいく結果が出るまで努力するまでです」
 どこか事務的な雰囲気でそう言った。エリスはその話を聞いた後、この劇場の色んな人から話を聞いてみる事にした。
 聞き出す話は、【昔何をしていたか】とか過去を問うような話である。フィーアは、疲れているらしく自室で寝る事にしたらしかった。

1番目の質問者 ヴァンス=リーレイル  担当:大道具作成、舞台セット の場合
「ねぇねぇ、ヴァンスさんは昔どんな仕事をしていたの?」
 エリスはいつも通りの愛想良く言った。ヴァンスはしばし思い出すようなそぶりを見せていった。
「鉄鋼国【アイアンデッド】で鉄などを掘り起こす仕事をやっていたぞ」
 にっと笑ってヴァンスはエリスに告げた。
「どうして今の仕事をやろうと思ったの?」
 エリスがそうやって質問をすると、ヴァンスは素直に答えてくれた。
「簡単さ、給料が良いからだよ。俺のお袋は重い病気にかかっていてな、そのために金を稼がないといけないんだ……。ほら、解ったらさっさと自分の仕事へ向かいな」
 ヴァンスは、ニッコリと言った。エリスは真っ直ぐとそこから去っていった。
「次はあの人ね……」
 エリスは小さい声でそう言うと、そのまま歩いていった。
2番目の質問者 キルファ=リュナーシ  担当:小道具作成、機械設備 の場合
 次にエリスが質問をしたのは、小道具を作成するのが上手なあの女性であった。この間聞いた話では、名はキルファ=リュナーシというらしい。
「ねぇねぇ、キルファは昔何をしていたの?」
 始めに話した時から、すっかり打ち解けたので呼び捨てで呼ぶ事にした。キルファは笑顔で言った。
「昔は機械整備の仕事をやっていたわ、【メカニクト】で働きたかったから一生懸命頑張ってたわね……」
 エリスはふと、という感じにキルファに訪ねる。
「じゃあ、どうして此処で働く事にしたの? あなたの腕なら何とかなりそうなのに……」
 エリスがそう言うと、キルファは少し悲しそうに言った。
「ある人がね、あたしに対して言ったの。【お前には才能はない】って……そう言われたのが凄く悲しくって……。やる気もなくなって来ちゃってね」
 その言葉に対して、エリスは静かに言った。
「他人の言葉は他人の言葉、まぁ次の時ではこっちが協力出来る限りの事をするよ」
 エリスがニッコリと笑って言うとキルファは素直に喜んでくれた。エリスはそれを確認すると、小さい声で言った。
「次はあいつか……、まともな情報を手に入れられるかは不安だけど……」
 そう言うと、少しため息をついたエリスであった。
3番目の質問者 レオール=シェルド   担当:男性メインキャスト役 の場合
 次の質問相手、それはレオール=シェルドであった。正直言ってエリスは若干不安を覚えても居た。
 レオール自身が情報を渡すかどうかなどを考えて言う気がでなかったのだ。しかし、言わない限りどうにかなるべき者ではないと言う事をまた知っているので、エリスはレオールに問うしか方法がなかったのだ。
「レオールさんは昔何をしていたのよ?」
 エリスがおとなしく問うが、答えは予想に相反する物であった。
「しがない役者をしていたさ、いつもいつも兄さんに比較されて【あの立派な兄に比べれば】【兄と比べて】とかいつもいつも比べられていた。虚しさしか出なかったぜ? あの時はよ……」
 レオールは答えるだけ答えるとその後一切何も喋らなかった。口を開こうとしなかった。エリスは、黙って去っていく事にした。
 そんな時、後ろから声を掛けられた。
「お嬢ちゃん、この劇場の昔の話を聞きたいのかね? 儂で良かったら教えてあげるよ」
 エリスがはっと振り向くとそこには一人の老人が居た。見た感じでは清掃員の様だった。エリスは始めに、名を聞いた。
「あの……あなたは?」
 老人は朗らかな笑顔を浮かべていった。
「儂はレオン=イージェスというものさ、今はしがない清掃員をしているよ」
 エリスは、その老人から話を聞いてみる事にした……。
4番目の質問者 レオン=イージェス   担当:清掃員 の場合
 老人は優しく、そして丁寧に教えていく。
「まず、ここは昔は何処にでもあるような劇場だったよ。弱小とか言う人間もいたけれどな、儂は【昔の】此処が好きだった。役者はみんな笑顔で演じていた。けれど、今はどこか暗い……。昔は入りたい人みんなが入る事が出来た劇場だったんだよ……。お嬢ちゃん、【今の】此処が嫌いでも【全部の】此処を嫌わないでくれ……。今は不吉だとか言われているがなぁ、儂がこの中で一番恐ろしいのはアニス=レシュフォードじゃ……。あやつはどこか人間では無いような気がするんじゃ……。儂はあいつが恐ろしい……」
 老人は、それ以上は何も話そうとはしなかった。エリスは礼をした後、老人が恐ろしいと言った人物……。アニス=レシュフォードに話を聞いてみる事にした。
5番目の質問者 アニス=レシュフォード 担当:劇場オーナー の場合
 エリスが一番怪しいと思っていたのも、老人と同じようにアニスであった。しかし、確証がない事からそして、下手な危険性を呼び出す訳にも行かない事からその事を誰にも言う事はしなかった。
 エリスは、当主に聞いた。
「アニスさんは昔どんなお仕事をしていたの?」
 アニスは一言こういった。
「よく覚えていません」
 少し苦笑いをして、アニスは答えた。エリスはそうですかと言った後、自室へと戻った。

 エリスが自室へと戻ると、フィリーネが居た。
「劇場の過去を調べてきました」
 フィリーネはそう言うと、水晶から映像を流す。映像からは昔の劇場の姿があった。老人の言っていた通り、誰もが明るい笑顔をしていた。多少の喧嘩があっても、すぐにまた笑顔に戻るような素敵な劇場だった。
「あのおじいさんの言っていた通りだったわね……。フィリーネ次のお願いがあるのだけど、あなた他人の記憶を調べる事って出来るかしら?」
 エリスの言葉にフィリーネは静かに首を横に振る。
「申し訳ありません。禁忌とされています」
 フィリーネの言葉に、エリスはそうだと思った。他者の記憶を調べると言う事は世界禁忌の一つに入っていた。世界禁忌は妖精、魔物、人間の中でも絶対の禁忌とされている。オーソドックスな例は【不老不死の探求】である。他にも色々ある【時間操作】(一部例外有り)【空間操作】(しかし、独立空間{制作者以外入る事の出来ない空間}は除外される)【記憶操作】【融合】(他の種族と別の種族を科学的な方法で融合させる事)etc.etc.あらゆる種類があったりするのだ。
「そうね……、じゃああいつの本性を探る事は出来るの?」
 エリスの問いに、フィリーネが言った。
「それなら、【探求の妖精】サーチャーに頼むのが良いでしょう。呼び出してみます」
 フィリーネはしばらく姿を消すが、数十分かかるとすぐにやってきた。本を抱えた妖精であった。
「君がオイラに用事がある人間なのか?」
 サーチャーは脳天気な様子でそう聞いた。エリスは丁寧に答える。
「うん、アニス=レシュフォードの本性を調べて欲しいの。できるかしら?」
 エリスの問いにサーチャーはにかっと笑って答えてくれた。
「任せなよ、その程度出したらオイラにとっては朝飯前さ!」
 サーチャーはそう言うと真っ直ぐ、飛んでいった。エリスはそれを見届けると、あらゆる事を資料としていく。事件を引き起こした人物はだいたい想像が出来た。
 ジェラードをこの世から抹消させた人物も……。
 しばらく、資料を作成していると慌ててサーチャーは戻ってきた。
「た……大変だ!! あいつの正体は……!!」
 サーチャーの慌てた様子、そしてアニス=レシュフォードの本性を知った瞬間、エリスは驚きのあまり目を見開いたのだった……。
「とりあえず、この事実が分かった以上真実を告げて、終幕の準備をしなくちゃね……」
 エリスは、真実を知って立ち上がった後そう言った。そしてフィーアを呼び出し、劇場の人達全員を呼び出したのだった。サーチャーとフィリーネを元いる場所に返して……

明かされる真実と散りゆくあの人 
〜The revealed truth and female professional singer who scatters and goes〜

 劇場の舞台には全員が集まっていた。ついこの間来たという脇役の人達も、公爵も歌姫も、清掃員の老人も、大道具係の男も、小道具作成係の女性も、二代目当主も……。
「で、なんで私たちが呼び出されたのかな? 【脇役】のエリス=チャペリエルさん?」
 そう言うアニス=レシュフォードにエリスははっきりとした声で言った。
「まず、今回私がここに来たのは決してこの劇場に入団しようと思った訳ではありません。私は【ある】依頼をされてやってきました。私はこの劇場の初代当主から頼まれてやってきました。ここが有名になってからたびたび起こる謎の怪事件を解決するために……。そして首謀者を逮捕するために……」
 エリスの声に、レオールが反発する。
「馬鹿を言うなよ、今までの事件はきっかりと【事故】だと警察が言っていたじゃねぇか!!」
 レオールの声に、エリスが言う。
「そう? あれはどう見たって【事故】とは言い難いし、爆薬の量に建築物の破損状態から見ても報道されているのは偽りの事実にしかあたしは見えないわ」
 エリスの言葉にシャルレットが言う。
「けれどあなたはあくまで一般人でしょ? どうしてそんな事が断言できるのかしら?」
 シャルレットの言葉にエリスが言った。
「誰が【一般人】って言ったかしら? あたしはこれでも立派な警察よ? とりあえず、今は大人しくあたしの話を聞いてちょうだい」
 エリスの言葉に沈黙する全員。エリスは言葉を続けていく。
「始めに、おかしいと思ったのは此処がいきなり有名になり始めたところだったのよ。初代当主の言葉では【初めはこの国なら何処にでもあるような劇場であった】とね……。この国で何処にでもあるような劇場と言ったら、弱小でしかないわ。それが急にある時期から有名になった。そう、この国で不可解な事故と称された事件が起きてから!!」
 その声は、舞台の上になによりもはっきりと響き、その言葉にほとんどの者が驚く。エリスはそんな人の驚きを無視して言葉を紡いでいく。
「そして、次に不可解なのは初代公爵ジェラード=シェルド氏の事故死……。その犯人に事故の犯人も分かったわ……。まず始めに疑われてしまうのは、後の地位からの推測で考えると、レオール=シェルド氏になるけれど……」
 エリスの言葉の途中にレオールは反発の声を上げた。
「ふざけるな! なんで俺が兄さんの殺害者と疑われなければならない!!」
 レオールの言葉にエリスが言った。
「話は最後まで聞いて、まず疑われやすいのはレオール=シェルド氏だから、彼は容疑者から真っ先に外されるわ。そして現在の脇役の人達も……。まず、レオール氏が容疑者から外されるのは、周りから比較されていたからこそ容疑者から外されるのよ。もし、あたしがレオール氏だとしたら自分とはばれないように他者から依頼してみるわ。次に脇役の人達はすでにジェラード氏が亡くなっている時期にこの国に永住することを決定していたのだから……」
 エリスの言葉に、脇役の一人である女性が言った。
「どうしてそれが解るの?」
 その女性の言葉にエリスはにこやかに笑って言った。
「それについては後で話すわ。とりあえず、この状態で疑われるのは五名に絞られるわ。現在の所、疑われているのは【歌姫】シャルレット=エリシェール氏、【大道具作成 舞台セット担当】ヴァンス=リーレイル氏に、【小道具作成 機械整備担当】キルファ=リュナーシ氏と、【清掃員】レオン=イージェス氏と【劇場二代目当主】アニス=レシュフォード氏の五名です。そして、全ての事件の黒幕も私には解っています……」
 エリスの言葉にキルファが驚いたような様子で言う。
「どういう理由でそう思うのよ! 結局はあなたの【妄想劇】でしかないじゃない!!」
 キルファの声に対して、エリスははっきりとした声で答えた。そう、真実を……。
「妄想劇? そんな考えをするのもこれが最後よ!!」
 エリスがそう言うと、指をパチンと鳴らした。その瞬間……。

 バシュンッ!!

 奇妙な音と共に純白の霧が現れ、エリスとフィーア以外、全員が驚愕した。エリスは声高々という。
「安心してください! これは普通の人間なら無害の霧です! そう、普通の人間ならね……」
 エリスの声に、驚愕の声は治まる。しかし、一人だけ霧を浴びる前の状態とは明らかに違う状態になっている者が居た……。
 左腕を異形の姿へと成した二代目当主の姿があった。左腕はまるで、鋭利な刃のような腕へと成していた。
「本性を現したようねぇ、二代目当主アニス=レシュフォード!! あんたの目的はすでに見切った! 観念して正体を現しなさい!!」
 その言葉を聞いた瞬間、冷静な様子を見せていたアニス=レシュフォードの姿はなくその男は、口元を奇妙にゆがめて言った。
『キヒヒヒ……なめてもらっちゃ困るんだよなぁ……ガキごときによ……』
 その声は、すでにアニス=レシュフォードという名の男の声ではなく地の底から響くような声であった。
 そして、左腕以外にも異形へと化していく。足は怪鳥の如く鋭利な爪を持ち、口は裂け深紅の牙が並ぶ。瞳は鈍い金色へと化して、額が割れ新たな目が現れる。右腕は左腕のように異形へとなる。皮膚は鱗のような者で覆われ、背丈は4〜5mぐらいへと巨大化する。
「これは……厄介ね……」
 エリスの言葉に異形へと化したモノは言った。
『キヒャヒャヒャ、そうさぁ、ぜぇんぶ俺様がやった! あの軟弱な男もなぁ! あれはあの男の方が悪いんだ!! 無闇に調べるからよ! 探求心の暴走は死を招くんだよ!』
 化け物はなお、奇妙な笑い声を上げて吠える。
「あんたが、兄さんを殺したのか! 化け物!!」
 レオールの声に異形はニヤァッと不気味な笑みを浮かべてなお吠える。
『ばぁぁぁぁか!! ありゃ自業自得だ!! 素直に信じておけば良かったんだよ! 金ごときでつられるような豚共の情報になぁ! 第一俺様は魔物だ。化け物化け物と連呼するんじゃねぇよ! ギャヒャヒャヒャヒャ!!!』
 魔物は甲高く、そして不愉快な笑い声を上げた。シャルレットの目に涙がこぼれる。
「とりあえず、そのはた迷惑な声を上げるのをやめてもらいましょうか? 魔物さん? 妖精の弾丸(フェアリー・キヤノンバレツト)!」
 エリスは、己が持っていた銃を使い妖精の力を銃弾へと圧縮させた。そして発射させると虹色の弾丸が発射された。

 バオォォンッッッ!!

 しかし一瞬早く気づいた魔物は、鈎爪を利用して振り落とす。弾丸は虚しくも斬られてしまう。
『キヒヒヒヒ、お前は邪魔だなぁ……。そうだなぁ……とりあえずガキは永遠に眠っておけ!!』
 魔物はそう言うと、鈎爪を刀のように貫こうとした。

 ザグシュッッッ!!

 刀は真っ直ぐ人の躯を貫いた……。そして、貫かれた人物はそのまま、床へと倒れ込んだ……。
 床が血によって濡れた……。誰かの叫び声が響いた。そして、化け物の笑い声が響いたのだった……。

ある人の魂によって魔物は散った
〜The demon has scattered by female professional singer's soul. 〜

 鈎爪によって貫かれた人物……そう、それは……、【歌姫】シャルレット=エリシェールであった……。
「シャルレットさん!!」
 エリスは驚愕の声を上げた。全員が驚く……。シャルレットはゆっくりと崩れ落ちる。魔物もこれは予想外だったのか目を見開いていた。
「私はね……あの人が居るから……この劇場にいたの。もしかしたら、ふいと戻ってきて【少しでかけていた】って笑いながら言うかなと思ってたの……。お願い、絶対に……絶対に……」
 シャルレットはそれを言いかけると血反吐を吐いた。
「喋っちゃ駄目よ!!」
 エリスは涙をこぼしてシャルレットに言うが、なおも彼女は言葉を紡いでいくのだ。躯はすでに限界へと近い……。これ以上無理をしたらどうなるかはすでに予測は出来ている。そんな状態でもシャルレットは言う。
「あいつを……」
 彼女は言葉の途中で力をなくす。腕に力はなくなり、体温が引いてくのが解った。胸の辺りから純白の光球が現れる。エリスは何となく理解した。
 彼女は静かに目を閉じた。そして、その目は二度と開かなかった。絶望を感じるエリスに対して魔物は再び笑い出す。
『馬鹿が!! 大人しく見捨てておけばいいモノを!! 下手に他人何ぞをかばうから死ぬんだよ、ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁか!!! ギャーヒャヒャヒャヒャヒャ!!』
 魔物の不気味な笑い声が果てしなく響く。エリスは目から涙を流して魔物に対して告げた。
「絶対にお前をぶっ倒す……」
 エリスの怒りの声に対して魔物はいかにも面白そうな声を上げる。
『ケッ! 人間ごときに倒される俺様じゃねーよ! アホ!!』
 いかにも愉快そうに、まるで軽い悪戯をするような子供である。それに対して怒りを覚えながらも、フィーアは言った。
「ねぇ……あの光球って……」
 フィーアの言葉にエリスは頷いていった。
「願いの魂(ディーシュ・ソウル)よ……強い願いを果たせず死んだ人の魂と呼ばれているけども、詳細は不明とされているわ」
 エリスの指先にその光球が触れる。そのとたん、光球から声が聞こえた。一種のテレパシーの様な感じに……。
“あいつを倒すのに私を使って……”
 エリスはそれを聞いて呆然とした。そう、古の人間が使った魔物対策の魔術【魂の銃弾(ソウル・キヤノンバレツト)】を己の魂を銃弾として使って欲しいと、シャルレットは死の間際にそう願ったのだ。
 それを使用したら、まだ魔物を倒せる技術を持っていなかった魔物を倒せるという利点はあるが代償としてその人は、もしかしたら息を吹き返す確率をどぶに捨てるようになるのだ。
 古の人はそれを最終手段として苦々しい思いでそれを使用したと記述されている……。そんな禁術にも等しい事を行って欲しいと言う思いで、彼女は【願いの魂(ディーシュ・ソウル)】になったのだ……。
「エリス……、どうするの?」
 フィーアが問うとエリスは首を横に振る。
「無理よ……、彼女がそう望んだとしても……。そんな勇気、私には出ないわ……」
 エリスがそう言うと男の声が響いた。
「ざっけんじゃねぇ、腰抜け! シャルレットはあんたを信じてそう願ったんだ!! あいつは言ってた!!【あの人の敵が討てるなら私は死んでも構わない】って! お前まであいつを裏切る気なのかよ!! ざっけんじゃねぇよ!!」
 その言葉を言ったのは、レオールであった。涙をこぼして、叫んだ。怒鳴っているかのように叫んだ。
「馬鹿を言わないでよ! あれは両刃の剣なのよ!! 下手に外したら、彼女は永遠に苦しむ事になるのよ!!」
 エリスがそう言い返すが
『お喋りはそこまでだよ。馬鹿共が!! いい加減にフィナーレだ!』
 魔物が鈎爪をエリスに向かって振り下ろした瞬間……。

ギィンッッッ!!

 鈍い音が響いて、エリスの前にはレオン=イージェスが居た。鈎爪はその老人の目の前で止まっている。
 否、全てが止まっている。エリスとフィーア、そしてレオン以外全てが……。
「じ、爺さん何者ってなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 フィーアは驚きの声を上げる。
「へっ!? 何々? なにがそんなに驚く事なの?」
 エリスの問いに、老人が言った。よく見ると、老人の服装はどこか変わっていた。時計をモチーフにしたような服装であった。
「儂だって【只の人】と言う訳じゃないよ? わしを人はこう呼ぶんじゃ【時空間の妖精王】チックトックとなぁ……。妖精はわしの気配で分かってしまうんじゃよ……だからその妖精のお嬢ちゃんもびっくりしたんだろうねぇ……」
 老人の言葉に、エリスは驚愕した。そして老人は言った。
「嬢ちゃん、安心しなさい……。あの子は嬢ちゃんがもし外してもなぁんにも恨みはしないよ。あの子は良い子じゃ……、誰も恨みはしなかった……いや、あれは別としてなぁ」
 老人は後ろの魔物をちらりと見ていった。老人はなお言葉を紡ぐ。
「安心しなさい、永遠に苦しむのは外した相手を恨んだ場合だけじゃ……。あの子は嬢ちゃんをちっとも恨んでは居ない……。むしろ望んでいるんじゃよ? 嬢ちゃんがあれに向かって撃ってくれる事をなぁ……。おや、そろそろ時間が来たようじゃな、早めに逃げるんじゃ」
 老人の言葉を聞いてエリスはその場所から移動する。その瞬間、鈎爪は地面へと振り下ろされたのだった。

 ザガァァアン!!

 鈎爪は振り下ろされると、大地に傷を作る。魔物は首をかしげる。何故だ? 何故外れた? と言うような雰囲気だ。
『キヒヒヒヒ、まぁいいや。外れたとしても町を破壊するのが早いかお前が破壊されるかが早いかの俺にとっては単なる殺し(おあそび)だからなぁ……』
 その言葉を聞いてエリスは決意した。

 絶対あいつをぶちのめす!!

 エリスは、光球を手にして思った。
――行こう! シャルレットさん!! あいつを絶対に倒そう!!
 光球を銃に装填した。ガチャンとはめる音が聞こえた。エリスは、確実にあいつを射貫く場所に気づき動き回る。
『逃げる気か……? 逃げるなら……』
 魔物はニタァッと笑って言った。
『クッテヤル!!』
 ガバァッと口を大きく開けて、エリスに向かって飛んだ。エリスはその瞬間を逃しはしなかった。エリスは魔物の口に向けて発動させた。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! 魂の銃弾(ソウル・キャノンバレット)!!」

 バオォォォンッッッッッッ!!!

 激しい轟音と共に、純白の光りに包まれた光球は直線を描くかのように、魔物を真っ直ぐ貫いた。
 魔物は、断末魔の悲鳴を上げた後躯を塵へとなって消えていったのだった。

  決着は付いた
        悲しい犠牲を残して……。

戦いの終わりと依頼の終わり 〜End of request ending of fight〜

 あの戦いから、三日経った時だった、エリスとフィーアは墓地に立っていた。彼女の目の前には、一つの墓があった。
 墓石には、【シャルレット=エリシェール】と記されていた。それをじっと見ていたエリスに対して後ろから声が聞こえた。
「それにしても、あの爺さんが時空間の妖精王だとはなぁ……。人は見かけによらないとは良く言うモンだぜ? って、爺さんは人じゃ無くって妖精であったか」
 声の主は、レオール=シェルドであった。少しでも、己自身の悲しさを誤魔化すために多少ふざけた事を言ってみたが、逆に悲しくなるだけであった。エリスは一言言った。
「彼女……、最後に笑っていたわね……」
 エリスの声はどこか沈んだ様子で居た。それに対してレオールは一回だけ頭を殴る。ゴンッという音が響いた。
「いったぁ……」
 エリスは、殴られた場所をさするとレオールが怒鳴る。
「いつまでもウジウジしてるんじゃねぇ! お前はあいつが最後に望んだ事をやったんだ! それであいつは十分だよ!! いつまでもうだうだしてると次は十回殴る!!」
 エリスは少し起こった様子を見せたが、すぐに普段の表情へと戻る。
「あはは、そりゃそうね……。さてと、職場に戻らなくちゃねぇ……。色々大変だろうし」
 エリスの言葉を聞いた後、レオールははっとしたような表情を浮かべて、エリスに一言言った。
「そう言えば、お前って案外権力を持っていたんだな……。一昨日の新聞に出てたぜ? 【一人の少女、警官逮捕! 逮捕理由は情報無断操作】って、その少女ってお前の事だろ? 普通の少女が警察という権力者相手には出来ねぇからな。どのくらいの権力を持ってるんだよ?」
 レオールの言葉に、エリスはクスッと笑った後言った。
「秘密国の一つ【ポリフェスト】の別名【全てを見抜く者】と呼ばれる存在と言えば警察全員が知る只のそばかす娘よ」
 エリスの言葉に、レオールは苦笑していった。
「お前、地味に気にしていたんだな。そばかす娘って言った事……」
 レオールの苦笑とエリスの笑い声が墓場に響いた。そんな中、フィーアは少し驚いていた。墓場の上に、真っ白な人物が居て二人を見てクスッと笑った後そのまま消えていったのを、フィーアは見ていたのだから……。

エピローグ 去りゆく者と歩む者 〜Person who leaves and walking person〜

 エリスは【ソーニング】から去る事にした。今回の騒動の報告、【ソーニング】の警官の全面移動や元【ソーニング】の警官、所長諸々の処分などを【ポリフェスト】で行わなければ行けないから……。
 【スレージレント】は結局は潰れるような結果になった。色んな人が去っていった。大道具を作っていた男は、故郷に帰った。ヴァンスはエリスにこういった。
「ありがとうな」
 小道具を作ったり、機械整備をしていた女性は、何故か【メカニクト】で働く事になった。【メカニクト】曰く『優秀な人材が居ると聞いたので調べたところ、我が国でもあまりいないような優秀な人材なので』であった。誰が言ったのかは……あくまで内緒である。
 キルファはエリスに言った。
「長年の夢が叶ったわ、ありがとう」
 清掃員の老人は……気がつくと居なくなっていた。街から出た様子もないが、街の何処にも見あたらない。エリスは独り言のように言った。
「あの人はきっと己のいるべき場所へ行ったのよ」
 しかし、フィーアが言った。
「いや、チックトック様は劇や音楽などの美術が好きだから多分、別の国で美術鑑賞を楽しんでると思う……。チックトック様は、姿を自由自在に変える事が出来るのよねぇ……。次に会える機会は歩どんどナイト思った方が良いと思う」
 その言葉に対して、エリスは苦笑いを少しした。

 その頃絵の国【ペイントレイン】にてある美術館で清掃員をやっている青年一人がくしゃみをしていたと言う事は……、エリス達は知らない。
 そして、男性メインキャストをやっていた青年は一人旅をする事にした。妖精を一人旅の友として……。
 レオールは旅に出る前に、エリスに一言告げていった。
「色々迷惑掛けて悪かったな。俺はこれからしばらく旅に出てみる」
 エリスは笑顔で見送った。一時的にとはいえ、仲間だった人物に見送った。
 エリス自身は、【ポリフェスト】へ戻る事にした。今回の騒動、魔物の報告に元警官の処分などもするのだから……。
 エリスはウィーニッドに乗って、【ソーニング】から去っていった……。一陣の風を残して行った。
 【ポリフェスト】に到着すると、城壁を見守る役割の青年が笑顔で向かえてくれた。
「お疲れ様でした、エリス所長」
 青年の言葉に、エリスはこう言った。
「この後、大会議を始めるからそれの連絡をお願いね」
 エリスが言うと青年は『解りました』と言ったのだった。

 大会議にて

 エリスは今回の事を説明していく。
「まず基本的な事は資料に纏められていますが、今回【ソーニング】で一気に人員変動を行います。これに対して何か質問がある方は挙手をお願いします」
 そしたら、誰かが手を挙げてエリスは『なんでしょうか』と問う。
「何故いきなりそのような人員変動を行うのでしょうか?」
 その声にエリスは大人しく言った。
「まず、所長が国外永久追放となった理由は賄賂をもらって情報操作を行い市民の安全を阻害し、なおかつ事件であるべき事が事故と称した等々を考え、彼にこれ以上警察をまかせるのはどうかと思い、なおかつ彼は賄賂を渡した者が人ではない事を知っておいて誰にも言わなかった事を考えて行った結果です。他の警官に関しても同じような事情です。他に質問等がありましたら挙手をお願いします」
 そしたら別の人物が意見を言った。
「それでは【ソーニング】の主な警官はどうするのですか?」
 警官の言葉にエリスが応えた。
「基本は此処で訓練を終えた警官を基礎として、上の階級では他の国の優秀な人材が彼等を支えてもらいます」
 エリスの言葉にほとんどの者が納得した。
「皆さん、今回下す結果に異論はありませんね?」
 エリスの言葉には誰も言わなかった。エリスはそれを確認すると、会議を終わらせて、別の部屋へと向かった。
 次に向かった部屋は、研究室のような部屋であった。そこには、白衣を着た研究者が集まっていた。
 調べていたのは一袋の塵であった。
「所で、やっぱりあの魔物は新種の魔物だったの?」
 エリスの言葉に、頷く一人の研究者。そして、研究者がエリスに言った。
「はい、それに特徴を聞いたところでも今までに類を見ないタイプの魔物です。人間に姿を変える事の出来る魔物なんて今まで見た事も聞いた事もありません。こう言う時に【時空間の妖精王】チックトック殿か、【歴史の妖精王】モノローグ殿が居れば、この種類は本当にいたのかを知る事が出来たんですがねぇ……」
 研究者はため息を一つついて、そう言った。エリスとフィーアは少し苦笑いをしていった。
「とりあえず、新種の魔物だと言う事なのね?」
 エリスは一言そう言うと、真っ直ぐ所長室へと行く。エリスは所長室で色々調べていった……。
「なるほど……そう言う事だったのねぇ……」

 エリスは書類を改めてみて、そしてデータを見てそう呟いたのだった。


 〜fin〜

2010/02/09(Tue)20:20:02 公開 / 火乃神 冬果
■この作品の著作権は火乃神 冬果さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
後書き この物語を書き終わって 〜It finishes writing this story.〜

 今回の小説の話

 本作品を思い付いたのはほんの偶然でした。何となく聞いてみた音楽を聞いてみてふと思い付いたんです。本当に偶然でしかありませんね(苦笑)
 初めの主人公はシャルレットの予定だったんですが、それじゃ何となく面白くない。主人公が美人とかではなく、そこそこの見た目そして特徴はそばかすの一見普通の女の子、と見られるような主人公も良いんじゃないかなと思って主人公をエリスにしました。

 キャラクターこぼれ話

 まず、初めの時点ですでに決めて居たのはシャルレット、ジェラード(名前だけの登場でしたが……)、レオール、アニスの四人だったんですよ。
 ネタを書いている時に思い付いたエリス。主人公の相棒として登場したフィーア。ちなみに、一番唐突に思い付いたのが清掃員のおじいさんレオン=イージェスこと時空間の妖精チックトックさんです。
 いやぁ、劇場の過去を良く知る者がほしいなぁと思ってそうだこの爺さんにも意外性を出してやる! と言う勢いで大それた立場を爺さんに与えました。(爆笑)
 ついでに初めはシャルレットは死なないでジェラードとラブラブになると言う設定もあったんですが、そんな環境を書く事が出来るほど私の小説の腕は良くないので……。
 あくまで死んでもらいました。二人そろって(鬼である)ついでに、アニスは初めは途中で魔物に食われてそうなったという設定があったんですが、それまでの経緯を書くのがめんどくさいし他にも設定としてはアニスという人間は助かり、魔物は死んだ。という設定があったんですが……。なんとなく書いていくのにめんどくさいしこんな悪役は死んでしまえ! と言う勢いで
 最初から魔物という設定へ、そして完璧に死亡として(こいつ鬼畜)

 とりあえず、皆様に一言言わせてもらいます。
 此処まで呼んでくださりありがとうございました。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。