『小説を書く男』 ... ジャンル:ショート*2 ショート*2
作者:勿桍筑ィ                

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142


 目の下にクマが出来ている。夜遅くまでゲームをして、そのまま朝を迎えてしまったのだ。不細工な顔であると自覚しているが、今はそれよりも増して不細工な顔である。笑顔を作るが、気味が悪い。こんな時間に鏡など見るものではない。時計は、朝の五時を指している。
 眠たいかと問われれば、確かに眠い。しかしながら、どう説明していいのか、眠気を通り越してどこか別の次元に逝ってしまったような感じで、勿論服用したことはないが、違法薬物を摂取したときに得られるという快感に似ているのかもしれない。とはいっても、これは快感というより、何か別のものである。――そう、テンションはハイ。想像力も増す。この状態なら、きっと小説も書けるだろう。そう思い、パソコンを急いで立ち上げる。
 パソコンの立ち上げには、時間が掛かる。こう眠気が度々訪れる時は、この時間がいやに長く感じるものだ。
 やっと、立ち上がったパソコンの画面を眺めて、ワードを起動させる。
 真っ白な画面が出てくる。ローマ字記入にし、書き始めようとキーボードに手を置く。
 小説のイメージがどんどん頭の中に沸き上がってくる。どれにしようか。頭の中でイメージを選ぶ。恋愛かホラーかSFか――。よし、今回はSFにしよう。SFは以前書いたことがある。ごく普通の青年が、山奥にある村で起こった事件を解決していく中で、犯行が人間業ではないことが判明していき、非科学的な事柄が次から次へと起こっていくという内容だ。ミステリーとSFを織り交ぜてしまったことにより、最終的には自分でもどうすればいいのか分からなくなり、完結することなく放棄してしまった。
 今回は、恋愛とSFを織り交ぜようと思う。まずは、設定を書くことにする。

 ――――どこにでも居る中学三年生の田中浩之(たなかひろゆき)は、ごく普通に毎日が過ぎていくことに飽き飽きしていた。どこかにこの平凡をうち破る何かが落ちていないものか。(――その平凡で平和的な生活を享受しようとはせず、好奇心溢れる生活を望むなんとも贅沢で、中学生らしい脳味噌の持ち主の少年が主人公だ)
 ――――そんな浩之の通う中学校に、ある日不思議な女の子が転校してくる。どう不思議かというと、容姿も性格も行動もすべて自分と、また周りの友人達とは全く違うものだった。どう違うか。(――それが問題だ。どういう行動が、一般の中学生とは違うと、違和感を覚えるだろうか。結論からいえば、女の子はロボットなのだ。しかし、見た感じは普通の女の子だ。しかし、行動には違和感がある。……ん? 矛盾していないか? そもそも見た感じ普通の女の子だったら、違和感を覚えないのでは? いやいや、考えるのは止めよう。今は、考えるとイライラしてくる。寝ていないというのは、想像力を沸き立てるが、同時に深く考えることが出来ない。俺はできない)
 ――――とにかく、その女の子は普通の女の子とは違っているのだ。それに、なんらかの感覚で、浩之は気付く。(そうだ! 「何らかの感覚」で気付くのだ。我ながらなかなかのアイデアじゃないか)
 浩之は、女の子を家に招き、襲うことにした。(――いやまてよ、過激になりそうな気もする。だが、これには訳があるのだ。襲って、この女の子はどのような反応を示すか。ロボットなら、強烈な攻撃をされるだろう。そういう単純な考えだ。レイプとかセックスとか知らないだろう、中学生が。否待てよ、じゃあ何で襲うんだよ。矛盾しているじゃないか。いやいや、今は考えるのは止そう。だめだな、どうしても考えてしまう。いや、考えて正解だ。なぜなら明らかな矛盾が生じているのだから。しかしながら、今は考えるのは止めておこう)
 ――――ロボットだと判明した女の子。そんな非日常的なことが本当に起こってしまった。普通なれば、この女の子の存在など忘れようとするか、ロボットなので解体してしまうかするだろう。しかし、浩之は非日常的な事を待ち望んでいたのだ。(――待て、さらさらと解体と書いたが、解体ってなんだ。ロボットとはいえ、女の子だぞ。それを解体するって。浩之が一番非日常的じゃないか。まあまあ、これも後で考えることにしよう)
 ――――ロボットだと分かったとしても、日常はそうは変わらなかった。想像していたものよりも、かなり普通の日常が流れる。周りの友人達は、女の子のことになんの異常も感じることなく接しているのだ。ロボットだと気付いているのは浩之だけであった。至って普通な日常を送っていくうちに、浩之もロボットの女の子のことを、普通の女の子として扱うようになり、あれほど非日常を望んでいたのが嘘のように毎日を楽しんでいた。(――ここで、なにかSF的なことを起こさないとな。このままだと、SF感が全くないものになってしまう。唯一、女の子がロボットということがSFだ。SFになっているのか?)
 ――――浩之の前に、ある日ピンク色のスーツを着た謎の男が姿を現す。男は「彼女を返してもらうぞ」というのだ。彼女? と聞くと「彼女の性能はまだ表に出してはいけない」といい、性能と言うところで、彼女とはあのロボットの女の子だということに気づく。彼女に何をするのだと聞けば「彼女は表に出してはいけない」とそればかり繰り返す男。彼女を守らなければ。浩之はそう心に決意する。彼女を守るために、ピンクのスーツを着た男と対決することになる――――。

 まあざっとこの程度かな。よし、書くとしよう。
 なかなか面白い作品になりそうだぞ。うまくいけば、どこかの賞に応募してみるのも面白いかもしれない。
 再び、パソコンに向かい、キーボードに置いた手を動かす。
『俺の名前は田中浩之、ごく平凡な中学三年生だ。みんなからはヒロ君と呼ばれている。おっと、自己紹介はこの辺にしておこうか。ん? どういうところが平凡だって? ジョニーズジュニアに居そうな容姿で、背は低い方だ。好きな食べ物はカレーで、嫌いな食べ物は雀の丸焼きだ』
 ああ、眠い。――一度寝てから、書き出そうかな。このまま起きていても、行き詰まってしまう。それに、矛盾も訂正しないと。
 一度、パソコンの電源を切り、勢いよく布団に潜り込む。そのまま目を瞑れば、すぐに寝入ることができる。起きたら、俺の世界が動き出すぞ! ピンクのスーツの男って一体何だ? ピンクっておかし……いだ……ろ――――。
 
 なかなか良い小説が書けたのではないだろうか。文学賞には応募できないが、何人かの人かを楽しませることは出来るだろう。こんな稚拙な作品を書いて、文学賞に応募しようと考えている人物のある数時間の物語。主人公の年齢を書くのを忘れていた。それは――まあいいだろう。

 そう最後に書き記し、パソコンの電源を落とした。
 
 


     了

2010/01/11(Mon)11:01:22 公開 / 勿桍筑ィ
■この作品の著作権は勿桍筑ィさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お久しぶりの方は、お久しぶりです。はじめましての方は、はじめまして。勿桍筑ィと書いて、ぶろんでぃと申します。
久々に投稿しました。最後に投稿してから二年くらいかな?(笑)
知っている方、覚えてくれている方はすくないでしょうね。
久々なのに、おそらく一読では理解できないだろうなあっていう作品を投稿してしまいました。しかしながら、感想がほしい、指摘がほしい、そいうわけで投稿した次第です。

作品を読まれたこと前提で話しますが、これは一応、三重で騙しているつもりであります。
簡単に言いますと、SF恋愛小説を書く男を書く男を書く男の物語です。
ややこしいですが、そういうことをしたかった訳です。(おそらく騙し切れていないだろうと思います)そこで、アドバイスをいただきたいのです。どのようにしたら、三重の騙しを利かせることができるのか。

騙された〜という方は、騙されたとでも書いてください。作者は喜びます。
まったく騙されなかった方は、どうかアドバイスください。
また、普通の感想(感想のみ)もお待ちしています。
それでは、また。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。